Swan Song at Dusk (後編) ◆sUD0pkyYlo
「…………チッ。仕方ないか」
キルアは何度目になるか分からぬ舌打ちをする。
死体を担いで、タワーから死角になる位置を通って街の外に出る――これが、案外大変なのだった。
ビルが密集して建っているため、タワーからの死角は多い。
けれど、道路があれば建物も途切れる。建物の高さも一定ではない。
所々に「展望室から丸見えになってしまう」場所が点在し、キルアの行く手を阻む。
建物の中を通り抜けたり、匍匐前進のように身を縮めて進んだり、時に引き返して方向転換したり。
ここまでは展望室から見えない範囲を移動できているとは思うが、しかし予想以上に時間が掛っている。
地図の上では、既にB-6エリアに入っているようだが、街の切れ目はまだ遠い。
死体を担いで、タワーから死角になる位置を通って街の外に出る――これが、案外大変なのだった。
ビルが密集して建っているため、タワーからの死角は多い。
けれど、道路があれば建物も途切れる。建物の高さも一定ではない。
所々に「展望室から丸見えになってしまう」場所が点在し、キルアの行く手を阻む。
建物の中を通り抜けたり、匍匐前進のように身を縮めて進んだり、時に引き返して方向転換したり。
ここまでは展望室から見えない範囲を移動できているとは思うが、しかし予想以上に時間が掛っている。
地図の上では、既にB-6エリアに入っているようだが、街の切れ目はまだ遠い。
「……仕方ないな」
改めて吐き捨てるように呟くと、肩の上の死体を担ぎなおして、キルアはビルの1つに踏み込む。
解体する寸前だったのか、テナントも何も全て出払った、廃ビル同然のビル。
迷いのない足取りでビルの1階ホールに踏み込んだ彼は、そして静かに振り返って言った。
解体する寸前だったのか、テナントも何も全て出払った、廃ビル同然のビル。
迷いのない足取りでビルの1階ホールに踏み込んだ彼は、そして静かに振り返って言った。
「……出て来いよ。つけて来てるのは分かってるぜ。
こっちも色々とストレス溜まってるんでね。気晴らしがてら、相手してやるよ」
こっちも色々とストレス溜まってるんでね。気晴らしがてら、相手してやるよ」
* * *
「……うふふっ。気付いてたのね」
少年に呼びかけられて一瞬目を丸くしたグレーテルだったが、すぐにいつもの微笑みを取り戻す。
声だけで応えながら、物陰を移動する。
何を思ってなのか、銀髪の少年が自ら入り込んだこのホール、グレーテルが奇襲をかけるには最適の環境だ。
廃ビルらしく、あちこちに搬出を待つ机や椅子が積み上げられている。隠れる障害物は沢山ある。
その上、カーペットも剥がされたこの広間は、声もやたらと反響する。喋り声からは正確な位置を掴み難い。
埃を被ったガラクタの間を音もなく移動しながら、彼女は挑発する。
声だけで応えながら、物陰を移動する。
何を思ってなのか、銀髪の少年が自ら入り込んだこのホール、グレーテルが奇襲をかけるには最適の環境だ。
廃ビルらしく、あちこちに搬出を待つ机や椅子が積み上げられている。隠れる障害物は沢山ある。
その上、カーペットも剥がされたこの広間は、声もやたらと反響する。喋り声からは正確な位置を掴み難い。
埃を被ったガラクタの間を音もなく移動しながら、彼女は挑発する。
「素敵ね、お兄さん。ずっと隙を窺ってたんだけど、とうとう撃てなかったわ。でも、もうこれで終わり」
「いいから出て来いよ。無駄なんだから。かくれんぼを楽しむつもりなら、殺気と血の臭いが強すぎるぜ」
「!!」
「いいから出て来いよ。無駄なんだから。かくれんぼを楽しむつもりなら、殺気と血の臭いが強すぎるぜ」
「!!」
死体を肩に担いだまま、ホールの中央に立ったまま、銀髪の少年は淡々と呟く。
ガラクタの間を抜けて背後に回り込もうとしていたグレーテルは、その指摘に足を止めるが。
ガラクタの間を抜けて背後に回り込もうとしていたグレーテルは、その指摘に足を止めるが。
「……ふふふ。やっぱりあなたは私と同じ臭いがするわ。血と臓物の臭い。光より闇に馴染む魂。
その子もあなたが殺したのでしょう? 私とあなたは、同じものよ」
「フン。そういうお前からは、ドブの臭いがするな。腐った裏路地の臭いだ。一緒にされちゃ、困るぜ」
「ふふふ。私、お兄さんのそういう所、嫌いじゃないわ。
こんな出会いでなかったら、色々楽しいことも『試して』みたかったのだけど……残念、ね」
その子もあなたが殺したのでしょう? 私とあなたは、同じものよ」
「フン。そういうお前からは、ドブの臭いがするな。腐った裏路地の臭いだ。一緒にされちゃ、困るぜ」
「ふふふ。私、お兄さんのそういう所、嫌いじゃないわ。
こんな出会いでなかったら、色々楽しいことも『試して』みたかったのだけど……残念、ね」
ひゅんっ。
楽しそうな言葉と共に、グレーテルは手にしたものを投擲する。
銀髪の少年は咄嗟に純銀のナイフを投げて迎撃するが――それは、グレーテルの狙い通り。
空中で刃物に貫かれたお手製の催涙弾は、泡と悪臭と共に毒ガスを撒き散らす。少年の頭上に降り注ぐ。
ホールは広いし空気の逃げ道がいくつもあるから、せっかくのガスもすぐに拡散してしまうだろう。
それでも咳き込ませ、涙で視界を奪うことくらい出来るはず。不意打ちを喰らわすことができるはず。
そう考え、銃を手に飛び出したグレーテルは……
楽しそうな言葉と共に、グレーテルは手にしたものを投擲する。
銀髪の少年は咄嗟に純銀のナイフを投げて迎撃するが――それは、グレーテルの狙い通り。
空中で刃物に貫かれたお手製の催涙弾は、泡と悪臭と共に毒ガスを撒き散らす。少年の頭上に降り注ぐ。
ホールは広いし空気の逃げ道がいくつもあるから、せっかくのガスもすぐに拡散してしまうだろう。
それでも咳き込ませ、涙で視界を奪うことくらい出来るはず。不意打ちを喰らわすことができるはず。
そう考え、銃を手に飛び出したグレーテルは……
「――残り1発、ってとこか? 1発なら死体を盾にかわせるから、撃ったらそれで最後だな」
「!?」
「ビンゴか。ホントは、そっちの気配や、見た感じの銃の重さからカマかけただけなんだけどね」
「!?」
「ビンゴか。ホントは、そっちの気配や、見た感じの銃の重さからカマかけただけなんだけどね」
平然と、涙1つ流さずこちらを見据える少年の視線に、動けなくなってしまった。
モロに毒ガスを浴びたはずなのに。少しくらいは隙が出来るはずなのに。
自然体でいながらつけいる隙の見えない少年の構えに、グレーテルは呆然と呟くことしかできない。
モロに毒ガスを浴びたはずなのに。少しくらいは隙が出来るはずなのに。
自然体でいながらつけいる隙の見えない少年の構えに、グレーテルは呆然と呟くことしかできない。
「な、なんで……?」
「ん? ああ、さっきのボトルか? なに、物心つく前から『訓練』を受けて来た身だからさ。
あんな、素人があり合わせのモノで調合したような『弱いガス』じゃあ、オレには効かないよ」
「ん? ああ、さっきのボトルか? なに、物心つく前から『訓練』を受けて来た身だからさ。
あんな、素人があり合わせのモノで調合したような『弱いガス』じゃあ、オレには効かないよ」
さらっと言う銀髪の少年。半ば金縛りのようになりながらも、グレーテルは必死に考える。
常人相手なら十分効果があるはずの毒ガスのボトルも、通用しない。塩酸のビンも、どれほどの使えるやら。
構えた銃は、見抜かれてしまった通りの残弾数1。
連射できれば勝機も無いでもなかったが、不意打ちに失敗した今、たった1発ではどうしようもない。
となると、残された武器は……。
グレーテルはゆっくりと、自分の右腕に左手を伸ばす。
左肩を前に、銀髪の少年の視線を遮りながら、手当てのために巻きつけられていた金属片を手に取る。
常人相手なら十分効果があるはずの毒ガスのボトルも、通用しない。塩酸のビンも、どれほどの使えるやら。
構えた銃は、見抜かれてしまった通りの残弾数1。
連射できれば勝機も無いでもなかったが、不意打ちに失敗した今、たった1発ではどうしようもない。
となると、残された武器は……。
グレーテルはゆっくりと、自分の右腕に左手を伸ばす。
左肩を前に、銀髪の少年の視線を遮りながら、手当てのために巻きつけられていた金属片を手に取る。
「にしても……素人だな。遊び過ぎだぜ。殺気の感じじゃ、もうちょっと『できる』奴かと思ったんだけどさ」
「あら、私たち、アマチュアじゃないわよ? いっぱい殺して、いっぱいお金も貰っていたんだから」
「じゃあ訂正。オマエのは、そうだな……曲芸犬の芸みたいなもんか。無駄が多すぎる。本物の『プロ』じゃない」
「まあ、酷い人ね。レディを捕まえて『雌犬』だなんて。そんな風に罵られたら、思わず濡れてしまうじゃない」
「あら、私たち、アマチュアじゃないわよ? いっぱい殺して、いっぱいお金も貰っていたんだから」
「じゃあ訂正。オマエのは、そうだな……曲芸犬の芸みたいなもんか。無駄が多すぎる。本物の『プロ』じゃない」
「まあ、酷い人ね。レディを捕まえて『雌犬』だなんて。そんな風に罵られたら、思わず濡れてしまうじゃない」
核鉄を手の中に隠しながら、淫靡な笑みで軽口を叩きながら、グレーテルは機を窺う。
相手の少年は死体を肩に担いだまま、相変わらず動きを見せない。
先ほどと同様、グレーテルが動いたらそれを迎撃する構え。武器は手にしていない。
ゆっくりと相手の周囲を回りながら、グレーテルは言葉を紡ぎ続ける。
相手の少年は死体を肩に担いだまま、相変わらず動きを見せない。
先ほどと同様、グレーテルが動いたらそれを迎撃する構え。武器は手にしていない。
ゆっくりと相手の周囲を回りながら、グレーテルは言葉を紡ぎ続ける。
「『私たち』は、いっぱいいっぱい殺してきているの。『僕ら』はこんなにも沢山の人を殺してきてる。
だから、『私たち』はそれだけ命を増やせるの。『僕ら』は永遠さ。そう、永遠に死なない( Never Die )……」
「へぇ――」
だから、『私たち』はそれだけ命を増やせるの。『僕ら』は永遠さ。そう、永遠に死なない( Never Die )……」
「へぇ――」
命を増やせる。そう言った途端、それまで不機嫌そうだった少年の表情に、変化が生まれた。
嘲るような、馬鹿にしたような、いびつに歪んだ笑み。
同時に、少年の雰囲気が微かに「揺らぐ」。隙のない構えが、ほんの少しだけ崩れる。
その僅かな「揺らぎ」に勝機を見たグレーテルは、そして唐突に、これ見よがしに銃を放り捨てる。
廃病院でシャナと戦った時と同様、パッと見に分かる唯一の武器、それを捨てると同時に、武装錬金を――
嘲るような、馬鹿にしたような、いびつに歪んだ笑み。
同時に、少年の雰囲気が微かに「揺らぐ」。隙のない構えが、ほんの少しだけ崩れる。
その僅かな「揺らぎ」に勝機を見たグレーテルは、そして唐突に、これ見よがしに銃を放り捨てる。
廃病院でシャナと戦った時と同様、パッと見に分かる唯一の武器、それを捨てると同時に、武装錬金を――
「『武装れ』――?!」
「――じゃあさ」
「――じゃあさ」
不意を打つべく、サンライトハートを発動させようとして――グレーテルは、息を飲む。
すぐ目の前に、銀髪の少年の顔が迫っていた。恐ろしいほど素早い踏み込みで、距離を詰めていた。
グレーテル自身が言った通り、2人は「似た者同士」なのだ。彼女の作戦も発想も、全て見透かされていたのだ。
先ほど見せた「揺らぎ」が、実はグレーテルの行動を釣るための餌だった――そう気付いた時には、もう遅い。
武装錬金を実体化させるよりも早く、少年の手が。
サディスティックな笑みを浮かべた、少年の手が突き出されて。
すぐ目の前に、銀髪の少年の顔が迫っていた。恐ろしいほど素早い踏み込みで、距離を詰めていた。
グレーテル自身が言った通り、2人は「似た者同士」なのだ。彼女の作戦も発想も、全て見透かされていたのだ。
先ほど見せた「揺らぎ」が、実はグレーテルの行動を釣るための餌だった――そう気付いた時には、もう遅い。
武装錬金を実体化させるよりも早く、少年の手が。
サディスティックな笑みを浮かべた、少年の手が突き出されて。
「そんだけ『命』があるなら、1つくらい無くなったって大丈夫だよな?」
シュバッ。
目にも止まらぬスピードで引き抜かれた少年の手に、何かが握られている。
ビク、ビクと脈打つ、赤黒い肉の塊。
痛みよりも先に、空虚な喪失感を感じた彼女は、己の胸に手を当てて――
そこに、「何も無い」ことに気付く。服の胸の中央が破けて、空虚な空洞が開いていることに気付く。
目にも止まらぬスピードで引き抜かれた少年の手に、何かが握られている。
ビク、ビクと脈打つ、赤黒い肉の塊。
痛みよりも先に、空虚な喪失感を感じた彼女は、己の胸に手を当てて――
そこに、「何も無い」ことに気付く。服の胸の中央が破けて、空虚な空洞が開いていることに気付く。
握られていた肉塊は、グレーテルの『命』そのもの。
今まさに抜き取られた、彼女の、心臓だった。
今まさに抜き取られた、彼女の、心臓だった。
「……!! か、返し、」
グシャッ。
片手で胸を押さえたまま、もう1方の手を伸ばした彼女の目の前で。
小さな心臓は、無情にも握りつぶされて――彼女はそのまま、倒れ伏した。
片手で胸を押さえたまま、もう1方の手を伸ばした彼女の目の前で。
小さな心臓は、無情にも握りつぶされて――彼女はそのまま、倒れ伏した。
* * *
それは結局のところ、「格の違い」、だったのだろう。
伝説の暗殺者一族・ゾルディック一家に生を受け、幼い頃より「エリート教育」を受けてきた天才児キルアと。
不幸の坂を転げ落ち、変態たちに弄ばれ、暗黒の闇を受け入れるしかなかったグレーテルの差。
闇のエリートであるキルアに、所詮は見世物でしかなかったグレーテルが、かなうわけも無かったのだ。
伝説の暗殺者一族・ゾルディック一家に生を受け、幼い頃より「エリート教育」を受けてきた天才児キルアと。
不幸の坂を転げ落ち、変態たちに弄ばれ、暗黒の闇を受け入れるしかなかったグレーテルの差。
闇のエリートであるキルアに、所詮は見世物でしかなかったグレーテルが、かなうわけも無かったのだ。
これが、もしも相手が「似たタイプ」でなかったなら、グレーテルにも勝機はあっただろう。
相手が普通の「正義の味方」やそれに類する種類の人間なら、足元を掬うことも出来たかもしれない。
この完敗は、単純な彼我の戦力差に拠るものではなかった。
グレーテルにとって、キルアはある意味、最悪の相性の相手だったのだ。
せめて、もう少し状況なり装備なりが整っていれば、また違っていたのかもしれないが。
相手が普通の「正義の味方」やそれに類する種類の人間なら、足元を掬うことも出来たかもしれない。
この完敗は、単純な彼我の戦力差に拠るものではなかった。
グレーテルにとって、キルアはある意味、最悪の相性の相手だったのだ。
せめて、もう少し状況なり装備なりが整っていれば、また違っていたのかもしれないが。
「なんだ、やっぱり1つしかないんじゃん。もうちょっと楽しめるかと思ったのにさ」
少女の「心臓を盗む」ために変形させていた手を元に戻しながら、キルアは倒れた少女を鼻先で哂う。
素手で、生きている人間の心臓を盗む――念能力を身につける前から既に覚えていた技だ。
相手との「格の違い」を見抜いて、さてどうやって殺してやろうか、と悩んでいた所に、「命を増やせる」という話。
ひょっとしたらそういう『能力』の持ち主なのかもしれない、と思ってこんな酔狂な殺し方をしてみたが……。
素手で、生きている人間の心臓を盗む――念能力を身につける前から既に覚えていた技だ。
相手との「格の違い」を見抜いて、さてどうやって殺してやろうか、と悩んでいた所に、「命を増やせる」という話。
ひょっとしたらそういう『能力』の持ち主なのかもしれない、と思ってこんな酔狂な殺し方をしてみたが……。
「こいつの死体は……放置しといてもいいか。持ち物も……いらないな」
簡単に少女の死体をあらためたキルアは、カツオの死体だけを担いで再び立ち上がる。
心臓盗み、などという技、死体の状況を見たところで誰にも想像つくまい。
そもそも、こんな廃ビルに好き好んで入ってくる者もいないだろう。
残されていた持ち物も、大して魅力のあるものは無い。弾のほとんど無い銃にも用はない。
キルアが持ったところでナイフを投げた方が速いし、太一に持たせるのは暴発や誤射の方が心配だ。
お手製らしい毒ガスのボトルや塩酸のビンなども、別に必要ない。
そのまま、廃ビルから立ち去ろうとしたキルアは、ふと思い出して首を捻る。
心臓盗み、などという技、死体の状況を見たところで誰にも想像つくまい。
そもそも、こんな廃ビルに好き好んで入ってくる者もいないだろう。
残されていた持ち物も、大して魅力のあるものは無い。弾のほとんど無い銃にも用はない。
キルアが持ったところでナイフを投げた方が速いし、太一に持たせるのは暴発や誤射の方が心配だ。
お手製らしい毒ガスのボトルや塩酸のビンなども、別に必要ない。
そのまま、廃ビルから立ち去ろうとしたキルアは、ふと思い出して首を捻る。
「そういや……最後に使おうとしてた『アレ』は、どこ行ったんだろうな?」
何をやろうとしていたかは分からないが、キルアが心臓を盗む寸前、少女は「何か」をしようとしていた。
その時、手には金属の板のようなものを持っていたようだが……?
その時、手には金属の板のようなものを持っていたようだが……?
「『具現化系能力者』の具現化物、みたいなものかな。……あ、やべ。名前聞いておくの忘れてた。まぁいっか」
勝手に納得したキルアは、そしてそのままビルを出て行く。
少年の足音が遠くに消えても、少女の死体は、ピクリとも動かなかった。
動けるわけが、なかった。
少年の足音が遠くに消えても、少女の死体は、ピクリとも動かなかった。
動けるわけが、なかった。
* * *
――白い砂浜を、1人で歩いていた。
純白のスリップ1枚の姿で、白い砂浜を静かに歩く。小さな素足がつけた足跡を、波が洗う。
血の臭いもドブの臭いも、もうしない。清潔な服から、爽やかな洗剤の香りがほのかに立つ。
銀髪の少女は、そして青空の下、砂浜に刻まれた別の足跡を見つける。
自分と同じ歩幅。誰よりもよく知る存在。彼女は顔を上げる。
彼が、待っていた。
自分と同じ、純白の下着姿の少年。自分の半身。最愛の存在。
直感的に状況を把握した彼女は、溜息混じりに、何かを諦めたような口調で呟いた。
「……兄様も『こっち』に来ていたのね」
「ボクは失敗しちゃったよ、姉様。もっとうまくやらなきゃね」
爽やかな風が、2人の間を吹きぬける。青空は遥かに高く。海はどこまでも蒼く。太陽は白く輝いて。
こんなお天気なら、空を仰いで、海を眺めて眠るのも悪くはない。
暗黒の闇に生きてきた彼女は、晴天の青の美しさに目を細める。素直に美しいと思える。心から安らぐ。
「でも――これからはずっと一緒なのね。2人でずっと、この光の中で――」
「――何を言ってるの、姉様?」
諦観と、安堵と、歓喜の混じった彼女の言葉を、彼は突然遮る。
唐突に、空が曇る。恐ろしい速度で真っ黒な雲が湧き上がり、青い空を覆っていく。
辺りを満たしていた光が消えていく。生まれ故郷のカルパチアの山中を思わせる、分厚く憂鬱な雲。
急転していく空の下、慌てて周囲を見回す彼女に、彼は微笑みを浮かべたまま、断言する。
「僕たちは決して死なない。永遠に死なない。 Never Die なんだ。こんな所で終わるわけがない」
「兄様、何を――」
彼女は問い質そうとするが、その言葉が最後まで紡がれることはなく。
これも唐突に、大地が割れる。愛する彼を残し、砂浜に走った大きな地割れが、彼女1人を飲み込む。
そして堕ちていく先は闇よりなお深い、真の闇の中。血とドブの臭いに満ちた、酷く慣れ親しんだ地獄。
「殺して殺されてまた殺す、僕らの紡ぐ円環は決して終わらない。終わることができないんだよ――」
嘲るような、哂うような彼の言葉を浴びながら、少女はそして1人、安らぎの楽園から追放された。
* * *
「…………」
目を覚ました時――世界は血の色に染まっていた。
寝ぼけているかのように、状況が把握できない。
その紅い色が夕日によるものだと理解するのに、数分ほども要した。
自分は気絶していたらしい。そのことに思い至った彼女は、ゆっくりと身を起こす。
寝ぼけているかのように、状況が把握できない。
その紅い色が夕日によるものだと理解するのに、数分ほども要した。
自分は気絶していたらしい。そのことに思い至った彼女は、ゆっくりと身を起こす。
「わた、し……なんで……生きて……?」
ゆっくりと自分の胸元を撫でる。
服は破けている。胸の中央部分、肉塊を掴み出された時そのままに、破けている。
けれども――確かに触れて確認したはずの空洞は、もうそこには無い。
肉が塞がっている。傷が癒えている。痕すら残っていない、綺麗な素肌がそこにあった。
服は破けている。胸の中央部分、肉塊を掴み出された時そのままに、破けている。
けれども――確かに触れて確認したはずの空洞は、もうそこには無い。
肉が塞がっている。傷が癒えている。痕すら残っていない、綺麗な素肌がそこにあった。
「これは……?」
(姉様、だから言ったでしょう? 僕らは決して死なない、 Never Die なんだ、って)
「ああ、そういうこと……。ふふ……ふふふ……!」
(姉様、だから言ったでしょう? 僕らは決して死なない、 Never Die なんだ、って)
「ああ、そういうこと……。ふふ……ふふふ……!」
耳元で最愛の「兄様」の幻影に囁かれ、グレーテルは微笑みを取り戻す。
自分たちの「信仰」は間違ってなかったのだ――先ほどの敗北の痛みも忘れ、彼女はゆらりと立ち上がる。
彼女の身を包む闇と、血の臭いが、前よりも一層濃いものになる。
自分たちの「信仰」は間違ってなかったのだ――先ほどの敗北の痛みも忘れ、彼女はゆらりと立ち上がる。
彼女の身を包む闇と、血の臭いが、前よりも一層濃いものになる。
それはまさに、闇の与えた奇跡だった。
起きてはいけない奇跡。冥王ジェダの想像すら超えていたであろう、悪夢のような奇跡だった。
起きてはいけない奇跡。冥王ジェダの想像すら超えていたであろう、悪夢のような奇跡だった。
心臓を盗まれたグレーテルは、反射的に己の胸の空洞に手を当てて――
そしてたまたまその時その手には、核鉄が握られていて――
その核鉄は『アリス・イン・ワンダーランド』と同じ『LXX』、存在しないはずの同一番号が刻まれた核鉄で――
押し当てられた核鉄は、倒れた拍子に空洞に突き込まれる格好になって――!
それはかつて、津村斗貴子が武藤カズキに行った「ある施術」と同じ効果をもたらしたのだった。
すなわち、喪われた心臓の代理。核鉄と肉体の融合。
人間を辞めるための、第一歩。
そしてたまたまその時その手には、核鉄が握られていて――
その核鉄は『アリス・イン・ワンダーランド』と同じ『LXX』、存在しないはずの同一番号が刻まれた核鉄で――
押し当てられた核鉄は、倒れた拍子に空洞に突き込まれる格好になって――!
それはかつて、津村斗貴子が武藤カズキに行った「ある施術」と同じ効果をもたらしたのだった。
すなわち、喪われた心臓の代理。核鉄と肉体の融合。
人間を辞めるための、第一歩。
「武装、錬金……! うん、やっぱり槍は出てくるわ。今までのように、消すこともできる。
ということは、あの板は傷の中に入ってしまったのね。傷を塞ぐ不思議な力があったみたいだから……。
でも、これはかえって好都合かしら。わざわざ手に持たなくても、不意打ちで使えるということだから」
ということは、あの板は傷の中に入ってしまったのね。傷を塞ぐ不思議な力があったみたいだから……。
でも、これはかえって好都合かしら。わざわざ手に持たなくても、不意打ちで使えるということだから」
グレーテル自身は、まだ知らない。
己の身に起きたこと、その真の意味を。
自らが心臓の代わりとした核鉄の、真の姿を。真の力を。
果たして、それを彼女が知る時は来てしまうのだろうか?
もしも来てしまえば……それは同時に、大惨事の発生を意味するはずであったが。
未だそれらの可能性を知らぬグレーテルは、それでも哂う。
己の身に起きたこと、その真の意味を。
自らが心臓の代わりとした核鉄の、真の姿を。真の力を。
果たして、それを彼女が知る時は来てしまうのだろうか?
もしも来てしまえば……それは同時に、大惨事の発生を意味するはずであったが。
未だそれらの可能性を知らぬグレーテルは、それでも哂う。
「うふふ……。なら、もっと殺しましょう。たくさんたくさん、殺しましょう。
殺して、殺されて、また殺して。永遠に続く円環(リング)を紡ぎましょう。……ねっ、兄様?」
殺して、殺されて、また殺して。永遠に続く円環(リング)を紡ぎましょう。……ねっ、兄様?」
赤く染まった光が、廃ビルに斜めに差し込んでくる。もうしばらくすれば、日が暮れる。
突撃槍の武装錬金、『サンライトハート』。直訳すれば、『陽光の心臓』。
血のように赤い、今日最後の太陽の光に浸かりながら、グレーテルはそして、邪悪に淫靡に、微笑んだ。
突撃槍の武装錬金、『サンライトハート』。直訳すれば、『陽光の心臓』。
血のように赤い、今日最後の太陽の光に浸かりながら、グレーテルはそして、邪悪に淫靡に、微笑んだ。
【B-7/タワー内1F管理室/1日目/午後】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:健康
[装備]:フライパン
[道具]:基本支給品 首輪探知機、包丁、殺虫剤スプレー、着火用ライター、調理用白衣
水中バギー@ドラえもん、コンチュー丹(10粒)@ドラえもん、調味料各種(胡椒等)
[思考]:キルア、遅いなぁ
第一行動方針:キルアの帰りを待つ
第二行動方針:丈、光四郎、ミミを探す
第三行動方針:キルアに協力し、ゴンを探す。
第四行動方針:キルアを裏切らない範囲でNに協力する。
基本行動方針:丈、光四郎、ミミを探した後、この場からの脱出方法を考える
[備考]:
ニアの本名を把握していません(Nという名しか知りません)。
Nのことを「本当はいい奴だったんだ」と考え信じていますが、Nの仮説の一部を理解できていません。
カツオのことを「のび太」という名前で認識しました。「のび太」がゲームに乗っていると考えています。
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:健康
[装備]:フライパン
[道具]:基本支給品 首輪探知機、包丁、殺虫剤スプレー、着火用ライター、調理用白衣
水中バギー@ドラえもん、コンチュー丹(10粒)@ドラえもん、調味料各種(胡椒等)
[思考]:キルア、遅いなぁ
第一行動方針:キルアの帰りを待つ
第二行動方針:丈、光四郎、ミミを探す
第三行動方針:キルアに協力し、ゴンを探す。
第四行動方針:キルアを裏切らない範囲でNに協力する。
基本行動方針:丈、光四郎、ミミを探した後、この場からの脱出方法を考える
[備考]:
ニアの本名を把握していません(Nという名しか知りません)。
Nのことを「本当はいい奴だったんだ」と考え信じていますが、Nの仮説の一部を理解できていません。
カツオのことを「のび太」という名前で認識しました。「のび太」がゲームに乗っていると考えています。
【B-7/タワー内展望室/1日目/午後】
【ニア@DEATH NOTE】
[状態]:健康、冷静
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、
眠り火×9@落第忍者乱太郎、タワー内放送用マイク
[思考]:さて、いつまで待ち続けましょうか
第一行動方針:太一には当面、タワー1階に待機させておく。
第二行動方針:キルアの帰りを待つ。
第三行動方針:弥彦、またはキルアたちが首輪を持ってくるのを待って、解析作業
第四行動方針:メロまたは、ジェダの能力を探る上で有用な人物と接触したい
基本行動方針:自分では動かず、タワーを訪れる参加者と接触して情報や協力者を集める
最終行動方針:殺人ゲームを阻止する
[備考]:
盗聴器、監視カメラ等、何らかの監視措置がとられていると考えています。
そのため、対ジェダの戦略や首輪の解析に関する会話は、筆談で交わすよう心掛けています。
ジェダを時間移動能力者でないかと推測しました。
キルアと太一の声・性格を大方理解しました。彼らが首輪探知機を持っていることを知りました。
カツオのことを「のび太」ではないかと誤って推測しています。
【ニア@DEATH NOTE】
[状態]:健康、冷静
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL、
眠り火×9@落第忍者乱太郎、タワー内放送用マイク
[思考]:さて、いつまで待ち続けましょうか
第一行動方針:太一には当面、タワー1階に待機させておく。
第二行動方針:キルアの帰りを待つ。
第三行動方針:弥彦、またはキルアたちが首輪を持ってくるのを待って、解析作業
第四行動方針:メロまたは、ジェダの能力を探る上で有用な人物と接触したい
基本行動方針:自分では動かず、タワーを訪れる参加者と接触して情報や協力者を集める
最終行動方針:殺人ゲームを阻止する
[備考]:
盗聴器、監視カメラ等、何らかの監視措置がとられていると考えています。
そのため、対ジェダの戦略や首輪の解析に関する会話は、筆談で交わすよう心掛けています。
ジェダを時間移動能力者でないかと推測しました。
キルアと太一の声・性格を大方理解しました。彼らが首輪探知機を持っていることを知りました。
カツオのことを「のび太」ではないかと誤って推測しています。
[備考]:
タワーのエレベーターは、2機とも緊急停止状態で動きません。
タワーのエレベーターは、2機とも緊急停止状態で動きません。
【C-6/街の外/1日目/午後】
【キルア@HUNTER×HUNTER】
[状態]:やや疲労。カツオの死体を担いでいる。
[装備]:ブーメラン@ゼルダの伝説、純銀製のナイフ(9本)、
[道具]:基本支給品、調理用白衣、テーブルクロス、包丁、食用油、 茶髪のカツラ
支給品一式(カツオのもの)、天体望遠鏡@ネギま!、首輪(しんのすけ)
[思考]:早く戻らないとな……。
第一行動方針:背負っている「のび太(実はカツオ)」の死体を街の外に人知れず埋めて隠す。
第二行動方針:死体の始末が終わったら、タワーまで戻る。
第三行動方針:展望室にいるNに警戒。手放しで信頼できる相手だとは考えていない。
第四行動方針:ゴンを探す
第五行動方針:太一に協力し、丈、光四郎、ミミを探す
基本行動方針:ゲームには乗らないが、襲ってくる馬鹿は容赦なく殺す
[備考]:
ニアの本名を把握していません(Nという名しか知りません)。
Nの仮説をおおかた信じていますが、Nの人間性を信じきっていません。
死んだカツオのことを「のび太」という名前で認識しました。
グレーテル(名前は聞いていません)を殺したと思い込んでいます。
【キルア@HUNTER×HUNTER】
[状態]:やや疲労。カツオの死体を担いでいる。
[装備]:ブーメラン@ゼルダの伝説、純銀製のナイフ(9本)、
[道具]:基本支給品、調理用白衣、テーブルクロス、包丁、食用油、 茶髪のカツラ
支給品一式(カツオのもの)、天体望遠鏡@ネギま!、首輪(しんのすけ)
[思考]:早く戻らないとな……。
第一行動方針:背負っている「のび太(実はカツオ)」の死体を街の外に人知れず埋めて隠す。
第二行動方針:死体の始末が終わったら、タワーまで戻る。
第三行動方針:展望室にいるNに警戒。手放しで信頼できる相手だとは考えていない。
第四行動方針:ゴンを探す
第五行動方針:太一に協力し、丈、光四郎、ミミを探す
基本行動方針:ゲームには乗らないが、襲ってくる馬鹿は容赦なく殺す
[備考]:
ニアの本名を把握していません(Nという名しか知りません)。
Nの仮説をおおかた信じていますが、Nの人間性を信じきっていません。
死んだカツオのことを「のび太」という名前で認識しました。
グレーテル(名前は聞いていません)を殺したと思い込んでいます。
【B-6/とあるビルの中(タワーから死角になる位置)/1日目/夕方】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身に中度のダメージ。右腕にダメージ。
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(核鉄状態・胸の中)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶×1本、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル×2個
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。
[思考]:私たちは永遠に死なない。ずっと続く円環の中にいるんだもの……!
第一行動方針:放送まで休む
第二行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」 (兄様はもう探さない)
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身に中度のダメージ。右腕にダメージ。
喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている
[装備]:ウィンチェスターM1897(1/5)@Gunslinger Girl)、サンライトハート(核鉄状態・胸の中)@武装錬金
[道具]:支給品一式、塩酸の瓶×1本、神楽とミミの眼球 、毒ガスボトル×2個
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。
[思考]:私たちは永遠に死なない。ずっと続く円環の中にいるんだもの……!
第一行動方針:放送まで休む
第二行動方針:誰か新しい相手を見つけて遊ぶ。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」 (兄様はもう探さない)
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
【磯野カツオ@サザエさん 死亡確認】
[備考]:
カツオの支給品・禁止エリア指定装置は、B-7の街中の側溝に落ちています。
装置は既に使用され、タワーを含むB-7が「次の指定禁止エリア」に指定されています。
キルアを含め、その事実に気付いている者はいません。
カツオの死体は、現在キルアに担がれて移動中です。
カツオの支給品・禁止エリア指定装置は、B-7の街中の側溝に落ちています。
装置は既に使用され、タワーを含むB-7が「次の指定禁止エリア」に指定されています。
キルアを含め、その事実に気付いている者はいません。
カツオの死体は、現在キルアに担がれて移動中です。
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カツオの登場SSを読む | GAME OVER | |
ニアの登場SSを読む | 167:少し遅い(前編)≫ | |
太一の登場SSを読む | ||
≪133:海の見える街 | グレーテルの登場SSを読む | 175:第一回定時放送≫ 195:刀銀十字路(前編)≫ |