MOTHER/2発の銃弾/金糸雀の逆襲 ◆3k3x1UI5IA
「これで……許すよ」
イエローの裸身に覆い被さったまま、名も知らぬ少年は絞り出すように呟く。
その表情は複雑な感情に歪み、決して少年が綺麗に割り切れたわけではないのだと容易に窺える。
それでも、少年はイエローのことを「許す」ことにしたようだった。
彼はイエローの上で身を起こし、視線を逸らしながら呟く。
その表情は複雑な感情に歪み、決して少年が綺麗に割り切れたわけではないのだと容易に窺える。
それでも、少年はイエローのことを「許す」ことにしたようだった。
彼はイエローの上で身を起こし、視線を逸らしながら呟く。
「あの子も……自分の仇を討って、とは言わなかったしね。
あの子の『大事なヒト』の仇を討って、とは頼まれたけど」
「大事な……ヒト?」
「ボクもよく分からない。どうも『レッド』って名前らしい。それ以上のことは、聞けなかった」
「!?」
あの子の『大事なヒト』の仇を討って、とは頼まれたけど」
「大事な……ヒト?」
「ボクもよく分からない。どうも『レッド』って名前らしい。それ以上のことは、聞けなかった」
「!?」
イエローの目が驚きに見開かれる。
「それ以上は聞けなかった」――おそらくそれは、そこまで聞いた所で事切れたということなのだろう。
けれど、問題はそんなことではない。
そんな、だって。レッドを殺したのは、あの子じゃなかったの?!
それなのに、レッドがあの子にとって「大切なヒト」で、あの子とは別に「討ちたい仇」がいるなんて……!
「それ以上は聞けなかった」――おそらくそれは、そこまで聞いた所で事切れたということなのだろう。
けれど、問題はそんなことではない。
そんな、だって。レッドを殺したのは、あの子じゃなかったの?!
それなのに、レッドがあの子にとって「大切なヒト」で、あの子とは別に「討ちたい仇」がいるなんて……!
そこまで一瞬で考えて、イエローはすぐに気付く。
イエローたちが看取った丈だって、トドメを刺したのは銀髪の少年でも獣耳の少女でもなく、ベルカナだ。
けれども、ベルカナの行為はむしろ丈のことを思ってのこと。
丈の仇と呼ぶならば、致命傷を負わせ、介錯せざるを得ない状況に追い込んだあの2人こそ相応しいだろう。
イエローたちが看取った丈だって、トドメを刺したのは銀髪の少年でも獣耳の少女でもなく、ベルカナだ。
けれども、ベルカナの行為はむしろ丈のことを思ってのこと。
丈の仇と呼ぶならば、致命傷を負わせ、介錯せざるを得ない状況に追い込んだあの2人こそ相応しいだろう。
イエローの場合、ベルカナと哀しみを分け合うことができた。丈が仇討ちを望んでいないことも確認できた。
けれど似たような状況の中に、遺言を聞く暇もなく、支えあう仲間も無しに放り込まれたら……。
思い出すのは、緑の髪の少女の切羽詰った表情。錯乱した言葉。
そして、大事な宝物のように握り締めていた帽子。
……イエローの推理は真相からは少しズレていたものの、自分の致命的な過ちに気付くには十分なものだった。
けれど似たような状況の中に、遺言を聞く暇もなく、支えあう仲間も無しに放り込まれたら……。
思い出すのは、緑の髪の少女の切羽詰った表情。錯乱した言葉。
そして、大事な宝物のように握り締めていた帽子。
……イエローの推理は真相からは少しズレていたものの、自分の致命的な過ちに気付くには十分なものだった。
「そ、そんな……! れ、レッドさんの『仇』って一体!?」
「あの子はただ、『白い女の子』とだけ――」
「あの子はただ、『白い女の子』とだけ――」
銃声。
少年を押しのけるのも忘れ、勢い込んで尋ねるイエローのすぐ真上で。
何の脈絡もなく、赤い色が、爆ぜた。
少年を押しのけるのも忘れ、勢い込んで尋ねるイエローのすぐ真上で。
何の脈絡もなく、赤い色が、爆ぜた。
* * *
ネスは普通の少年ではない。PSIという特殊な力が使える。平たく言えば超能力者という奴だ。
けれど、超能力は大きく2つに分類される。
念動力やテレポートといった超常的物理現象を引き起こすPKと、予知や千里眼など超常的知覚のESP。
ネスのPSIは、この二大分類で分けるなら、大きくPKの方に偏っている。イエローに気を取られてもいた。
だから――少なくともこの銃弾は、放たれるまで気付くこともできなかった。
けれど、超能力は大きく2つに分類される。
念動力やテレポートといった超常的物理現象を引き起こすPKと、予知や千里眼など超常的知覚のESP。
ネスのPSIは、この二大分類で分けるなら、大きくPKの方に偏っている。イエローに気を取られてもいた。
だから――少なくともこの銃弾は、放たれるまで気付くこともできなかった。
ライフルほどではないとはいえ、拳銃でもその弾は亜音速といっていい速度を誇る。
拳銃での狙撃にはかなり厳しい距離ではあったが、それでも十分に有効射程内、せいぜい数十メートル。
到達までに要する時間はコンマ数秒ほど。そして、その間に「反応」できる人間などこの世に存在しない。
予め敵を視認していれば、銃口の動きや相手の雰囲気から先読みもできよう。
第六感や勘で敵の殺気を察知すれば、引き金を引く瞬間に動き出すこともできよう。
けれど、「銃声を聞いてから」動き出したのでは、「絶対に」間に合わない。
そのコンマ数秒の時間では、脳から発せられた信号が筋肉にまで届かない。身体が動き出さない。
PSIを放つための精神集中も、間に合わない。
少年には振り返ることすら、許されない。
拳銃での狙撃にはかなり厳しい距離ではあったが、それでも十分に有効射程内、せいぜい数十メートル。
到達までに要する時間はコンマ数秒ほど。そして、その間に「反応」できる人間などこの世に存在しない。
予め敵を視認していれば、銃口の動きや相手の雰囲気から先読みもできよう。
第六感や勘で敵の殺気を察知すれば、引き金を引く瞬間に動き出すこともできよう。
けれど、「銃声を聞いてから」動き出したのでは、「絶対に」間に合わない。
そのコンマ数秒の時間では、脳から発せられた信号が筋肉にまで届かない。身体が動き出さない。
PSIを放つための精神集中も、間に合わない。
少年には振り返ることすら、許されない。
突起物の少ない滑らかなデザインの拳銃、 SIG SAUER P230 から9mmショート弾が放たれる。
滑るように飛び出した銃弾は、木々の隙間を掻い潜り、空気の壁を突破しながら、無防備な標的に着弾。
少年の左脇より少し下、腕にも肩甲骨にもランドセルの肩紐にも守られていない狭いエリアに突き刺さる。
防具と呼ぶには貧弱な服を貫き、皮膚を破り、皮下脂肪を抉り、筋肉を引き裂き。
そのまま真っ直ぐ心臓を目指す銃弾は、薄っぺらな肋骨をも打ち砕かんと猛進する。
だが相手は肺や心臓といった重要臓器を守る胸腔の防壁。進化の過程で生み出された「身体の中の鎧」。
9mm弾の直撃に砕かれながらも、左第4肋骨はなんとか銃弾の進路を逸らすことに成功する!
目標を見失った銃弾は、スポンジのように柔かな左肺の中を背中の方に逸れながら暴走。
背中側の肋骨の隙間を抜けようとしたところで、引っ掛かるようにして停止した。
奇跡的にも大血管は1本も傷つけていない。重傷なのは確かだが、即死には至らぬような傷。
すぐに肺の中で出血が始まるが、肺に溜まり気管を逆流し吐血するまでにはまだ僅かに時間がある。
滑るように飛び出した銃弾は、木々の隙間を掻い潜り、空気の壁を突破しながら、無防備な標的に着弾。
少年の左脇より少し下、腕にも肩甲骨にもランドセルの肩紐にも守られていない狭いエリアに突き刺さる。
防具と呼ぶには貧弱な服を貫き、皮膚を破り、皮下脂肪を抉り、筋肉を引き裂き。
そのまま真っ直ぐ心臓を目指す銃弾は、薄っぺらな肋骨をも打ち砕かんと猛進する。
だが相手は肺や心臓といった重要臓器を守る胸腔の防壁。進化の過程で生み出された「身体の中の鎧」。
9mm弾の直撃に砕かれながらも、左第4肋骨はなんとか銃弾の進路を逸らすことに成功する!
目標を見失った銃弾は、スポンジのように柔かな左肺の中を背中の方に逸れながら暴走。
背中側の肋骨の隙間を抜けようとしたところで、引っ掛かるようにして停止した。
奇跡的にも大血管は1本も傷つけていない。重傷なのは確かだが、即死には至らぬような傷。
すぐに肺の中で出血が始まるが、肺に溜まり気管を逆流し吐血するまでにはまだ僅かに時間がある。
これで少年は助かったのか? ――否。
外見こそまだ年若く見えるが、狙撃手は訓練を受け経験を積んだプロ中のプロ。
専門家は知っている。人間の意外なまでの強さを。胸郭の強固さを。そして、拳銃弾の破壊力の低さを。
ゆえに、拳銃で人間の命を奪おうとする際には、胸部を複数回撃つのが基本中の基本。
残弾が少ない中、それでも狙撃手は叩き込まれた訓練に忠実に、敵の損害の確認よりも早く次の引き金を引く。
外見こそまだ年若く見えるが、狙撃手は訓練を受け経験を積んだプロ中のプロ。
専門家は知っている。人間の意外なまでの強さを。胸郭の強固さを。そして、拳銃弾の破壊力の低さを。
ゆえに、拳銃で人間の命を奪おうとする際には、胸部を複数回撃つのが基本中の基本。
残弾が少ない中、それでも狙撃手は叩き込まれた訓練に忠実に、敵の損害の確認よりも早く次の引き金を引く。
熱の残る焼けた銃身を駆け抜け、再び姿を現す9mm弾。先の銃弾の残響を蹴散らしながら、空中を走る。
狙撃手の腕前は超一級だ。なぞるように初弾の軌道を忠実に再現し、2発目の銃弾もほぼ同じ所に命中。
銃創が重なりそうなほど正確な狙いで、再び少年の身体を穿っていく。
狙撃手の腕前は超一級だ。なぞるように初弾の軌道を忠実に再現し、2発目の銃弾もほぼ同じ所に命中。
銃創が重なりそうなほど正確な狙いで、再び少年の身体を穿っていく。
服。表皮。真皮。皮下組織。前鋸筋を貫けば、そこには胸腔の守護者・肋骨が――今度は無い。
既に打ち砕かれていた肋骨はもはや防壁としての役目を果たせず、銃弾に直進を許してしまう。
非情な銃弾は左肺を蹂躙しながら横断し、生命の本丸とでも呼ぶべき縦隔に侵攻を開始する。
心嚢を破り、左冠状動脈を傷つけ、ぶ厚い心筋を噛み千切り、左心室に侵入し、心室中隔を刺し貫き、
右心室にまで乱入し、三尖弁を吹き飛ばし、抉るように右心房を掠め、好き放題暴れた末に心臓から脱出――
しようとしたところで、流石に勢いを失い、右肺に顔を出す寸前で動きを止めた。
既に打ち砕かれていた肋骨はもはや防壁としての役目を果たせず、銃弾に直進を許してしまう。
非情な銃弾は左肺を蹂躙しながら横断し、生命の本丸とでも呼ぶべき縦隔に侵攻を開始する。
心嚢を破り、左冠状動脈を傷つけ、ぶ厚い心筋を噛み千切り、左心室に侵入し、心室中隔を刺し貫き、
右心室にまで乱入し、三尖弁を吹き飛ばし、抉るように右心房を掠め、好き放題暴れた末に心臓から脱出――
しようとしたところで、流石に勢いを失い、右肺に顔を出す寸前で動きを止めた。
心臓は命の象徴ともされる重要な臓器。全身に血を巡らせる大事なポンプ。子供でも知ってる事実だ。
そこにこんな大穴を開けられて生きていられる人間など、いるはずもない。
そしてネスはPSIこそ使えるが、その身体は人間。ロボットの身体に魂を移植した状態でもない。
心臓から送り出される血流の勢いが落ちる。血圧が急激に低下する。即座に重度のショック症状に陥る。
少年は速やかに、避けられぬ死に引きずり込まれる。
そこにこんな大穴を開けられて生きていられる人間など、いるはずもない。
そしてネスはPSIこそ使えるが、その身体は人間。ロボットの身体に魂を移植した状態でもない。
心臓から送り出される血流の勢いが落ちる。血圧が急激に低下する。即座に重度のショック症状に陥る。
少年は速やかに、避けられぬ死に引きずり込まれる。
――全ては、刹那の出来事。人間には認識しきれない、一瞬の間の出来事。
最初の銃声が響いてから、ほんの数秒足らず。
彼の口から気道を逆流した血が溢れ出すよりも先に、彼の死は、不可逆的に決定付けられていた。
最初の銃声が響いてから、ほんの数秒足らず。
彼の口から気道を逆流した血が溢れ出すよりも先に、彼の死は、不可逆的に決定付けられていた。
* * *
銃声が耳に届き、熱い飛沫が自分の顔にかかっても、まだイエローは事態を理解することができなかった。
目の前の少年との因縁の清算。自分が殺してしまった少女の遺言。レッドの死の真相。
課題はあまりに多すぎて、イエロー自身あまりに余裕が無くて、だから彼女の理解は追いつかなかった。
少年の口から血が溢れる。ゆっくりと足音を立てて、狙撃者が姿を現す。
浅黒い肌に、ツインテールの金髪。手の中には硝煙を上げる拳銃。
その時点になってもなお、イエローの脳は事態を把握しきれない。
聞き覚えのない声で呼びかけられても、再び間抜けな声が漏れるだけだった。
目の前の少年との因縁の清算。自分が殺してしまった少女の遺言。レッドの死の真相。
課題はあまりに多すぎて、イエロー自身あまりに余裕が無くて、だから彼女の理解は追いつかなかった。
少年の口から血が溢れる。ゆっくりと足音を立てて、狙撃者が姿を現す。
浅黒い肌に、ツインテールの金髪。手の中には硝煙を上げる拳銃。
その時点になってもなお、イエローの脳は事態を把握しきれない。
聞き覚えのない声で呼びかけられても、再び間抜けな声が漏れるだけだった。
「あなた、大丈夫――!?」
「え? これって……え?」
「え? これって……え?」
* * *
2発の銃弾の命中を確認すると、トリエラは茂みから姿を現した。
拳法使いの少年の時と違い、銃弾はちゃんと標的の胸部を貫いた。これで生きていられる人間などまずいまい。
実は襲われていた少女を救うことなど二の次だったのだが、それでも助かったのならそれに越したことはない。
なるべく平穏に、相手を安心させるべく声をかけようとしたトリエラは、次の瞬間凍りつく。
拳法使いの少年の時と違い、銃弾はちゃんと標的の胸部を貫いた。これで生きていられる人間などまずいまい。
実は襲われていた少女を救うことなど二の次だったのだが、それでも助かったのならそれに越したことはない。
なるべく平穏に、相手を安心させるべく声をかけようとしたトリエラは、次の瞬間凍りつく。
「あなた、大丈ぶ――!?」
襲われていた少女は「え? これって……」と、混乱した声を上げるが、トリエラの視線はそちらには向かない。
彼女が不意に気付いたのは、その傍ら、微妙に離れた所に立ち尽くす桃色の髪の少女。
血に濡れたサムライソードを右手に提げ、その服にも血痕とおぼしきシミをつけ。
事態に介入できる距離に居たのに何もせず、ただ「そこに立っていた」だけの存在。
狙撃ポイントからはたまたま死角に入っていて――だから、今になって初めてその存在に気付かされたのだ。
彼女が不意に気付いたのは、その傍ら、微妙に離れた所に立ち尽くす桃色の髪の少女。
血に濡れたサムライソードを右手に提げ、その服にも血痕とおぼしきシミをつけ。
事態に介入できる距離に居たのに何もせず、ただ「そこに立っていた」だけの存在。
狙撃ポイントからはたまたま死角に入っていて――だから、今になって初めてその存在に気付かされたのだ。
人間らしさの欠如した無表情。綺麗だが生気の感じられない肌。
シーツに隠された左腕は明らかに欠損しているのに、血の一滴たりとも滲んでいない。苦痛の色も見えない。
その上、この事態に対する不介入――トリエラは混乱する。
シーツに隠された左腕は明らかに欠損しているのに、血の一滴たりとも滲んでいない。苦痛の色も見えない。
その上、この事態に対する不介入――トリエラは混乱する。
何者なのだろう? あの怪我であの態度、本当に生身の人間なのだろうか? まさか、自分と同じような義体?
何故行動を起こさなかった? 襲われた少女と襲っていた少年、どちらの味方? それとも、中立の第三者?
桃色の髪の少女に真っ直ぐに見つめられ、トリエラは彼女らしくもなく混乱する。
何故行動を起こさなかった? 襲われた少女と襲っていた少年、どちらの味方? それとも、中立の第三者?
桃色の髪の少女に真っ直ぐに見つめられ、トリエラは彼女らしくもなく混乱する。
――だからであろうか。鉄壁のようなトリエラに、ほんの一瞬、隙が出来た。
* * *
2発の弾丸が自分の胸を貫く感触を、ネスはスローモーションのようにしっかり認識していた。
人は死ぬ時に走馬灯のように己の人生の全てを思い出すという。
けれど今の彼には過去の思い出よりも今この場所のことが大事で、そのせいか全ての意識が「今」に向かう。
周囲の色彩が失われる。主観時間が引き延ばされる。思考が高速回転を始める。
それはPSIとは全く関係のない、人間が本来持つ能力の1つだった。
人は死ぬ時に走馬灯のように己の人生の全てを思い出すという。
けれど今の彼には過去の思い出よりも今この場所のことが大事で、そのせいか全ての意識が「今」に向かう。
周囲の色彩が失われる。主観時間が引き延ばされる。思考が高速回転を始める。
それはPSIとは全く関係のない、人間が本来持つ能力の1つだった。
ドラムロールが回るように、死へのカウントダウンが進む。
過去に経験したどんな傷よりも早く、命が零れていく。
おそらくは一瞬にも満たないであろう時間の中、ネスは自分でも奇妙に思うくらい冷静に、状況を判断する。
問答無用で撃ってきたからには、狙撃手は全ての参加者を殺す腹積もりなのだろう。
このままでは自分は死ぬだろうが、何もせずに終わりたくはない。
少なくともこの、目の前にいる「やらなきゃいけないことがある」という少女だけでも、守らなければ。
過去に経験したどんな傷よりも早く、命が零れていく。
おそらくは一瞬にも満たないであろう時間の中、ネスは自分でも奇妙に思うくらい冷静に、状況を判断する。
問答無用で撃ってきたからには、狙撃手は全ての参加者を殺す腹積もりなのだろう。
このままでは自分は死ぬだろうが、何もせずに終わりたくはない。
少なくともこの、目の前にいる「やらなきゃいけないことがある」という少女だけでも、守らなければ。
身体を動かして何かするのは、きっと間に合わない。おそらくその前に絶命する。
となると、使えるのは思い通りのパワーが出ず、自信を失いかけていたPSIだけだ。
それも使えるのはおそらく1度きり。
ライフアップで回復し、死を回避する? いや回復系のPSIは特に威力が低下している。きっと治しきれない。
それに少しくらい傷を治したところで、3発目の銃弾が放たれれば今度こそ終わりだ。
じゃあ、狙撃手を倒す? ――無理だ。届くであろう直接攻撃技もあるが、どうしたってPPの残量が少ない。
大技を放つには足りない。ロボットの少女に『PKキアイ』を放った時にも、一撃では倒しきれなかったわけだし。
となると、残る手は――
自分は助からないことを認めた上で、目の前の女の子を救うための手段は――!
となると、使えるのは思い通りのパワーが出ず、自信を失いかけていたPSIだけだ。
それも使えるのはおそらく1度きり。
ライフアップで回復し、死を回避する? いや回復系のPSIは特に威力が低下している。きっと治しきれない。
それに少しくらい傷を治したところで、3発目の銃弾が放たれれば今度こそ終わりだ。
じゃあ、狙撃手を倒す? ――無理だ。届くであろう直接攻撃技もあるが、どうしたってPPの残量が少ない。
大技を放つには足りない。ロボットの少女に『PKキアイ』を放った時にも、一撃では倒しきれなかったわけだし。
となると、残る手は――
自分は助からないことを認めた上で、目の前の女の子を救うための手段は――!
それはほんの一瞬の間の思考だった。外から見れば1秒にも満たぬ逡巡。
ネスの口から血が溢れる。急激な血圧低下に視界が暗くなる。
意識が遠のきそうになる中、それでも彼は、襲撃者の方に向かって、彼の人生最後のPSIを放った――
ネスの口から血が溢れる。急激な血圧低下に視界が暗くなる。
意識が遠のきそうになる中、それでも彼は、襲撃者の方に向かって、彼の人生最後のPSIを放った――
「――PKフラッシュ!」
敵に状態異常を引き起こしてやれば、女の子たちだけでも対処できるだろう。
「しびれ」まで行かずとも、なんとか「なみだ」になれば、女の子たちが撃たれることもあるまい。
もし万が一効果が無かったとしても、目晦ましくらいにはなる。その隙に逃げ出せるかもしれない。
この子を「許す」と決めたからには、ここで死なせるわけにはいかない――その光は、ネスの最期の意地だった。
「しびれ」まで行かずとも、なんとか「なみだ」になれば、女の子たちが撃たれることもあるまい。
もし万が一効果が無かったとしても、目晦ましくらいにはなる。その隙に逃げ出せるかもしれない。
この子を「許す」と決めたからには、ここで死なせるわけにはいかない――その光は、ネスの最期の意地だった。
――閃光の中、ふと、ネスは自分の家のことを想った。最期の刹那に自分の家族のことを思った。
家が恋しい。あの家に帰りたい。電話越しにでもいいから、母の声が聞きたい。完全にホームシックだ。
もう何も見えない目で宙を見上げ、力を失ったネスの唇が音もなく小さく動く。
家が恋しい。あの家に帰りたい。電話越しにでもいいから、母の声が聞きたい。完全にホームシックだ。
もう何も見えない目で宙を見上げ、力を失ったネスの唇が音もなく小さく動く。
「マ、m……」
* * *
――目も眩む閃光が収まった時には、全てが終わっていた。
身体の上にどしりと崩れ落ちた、少年の身体。
体格差はさほど無いのに、力の抜けた死体はやけに重く感じる。
彼を押しのけるようにして、イエローはのろのろと自分の身を起こす。
身体の上にどしりと崩れ落ちた、少年の身体。
体格差はさほど無いのに、力の抜けた死体はやけに重く感じる。
彼を押しのけるようにして、イエローはのろのろと自分の身を起こす。
「な……なんで、こんなことに……」
周囲を見回しても、襲撃してきたあの少女はもう居ない。閃光に怯えて逃げ出したのだろうか。
目の前の少年は、もう息をしていない。
相次ぐ事態の急転に、イエローの思考はなかなか現実に追いつかない。
目の前の少年は、もう息をしていない。
相次ぐ事態の急転に、イエローの思考はなかなか現実に追いつかない。
たぶんこの少年は、イエローを庇うつもりで、最期の力を振り絞って閃光を放ったのだろう。
一度はイエローを殺そうとした彼。殺されるわけにはいかない、と答えたイエロー。
そして「許す」と言って貰って1分も経たぬうちに、この惨状……。
イエローは動かぬ彼の頭を膝に乗せたまま、しばし虚脱状態に陥る。
一度はイエローを殺そうとした彼。殺されるわけにはいかない、と答えたイエロー。
そして「許す」と言って貰って1分も経たぬうちに、この惨状……。
イエローは動かぬ彼の頭を膝に乗せたまま、しばし虚脱状態に陥る。
そんな彼女が「はっ」と正気に戻ったのは、しかし自分のことを考えてのことではなかった。
ふと思い出したのだ。もう1人この場所にいるはずの人物のことを。
ことここに至っても、「絶対に手を出さないで」との頼みに応えたのか、手出しも発言もしない人物のことを。
イエローは彼女が居るはずの方向に振り返る。
ふと思い出したのだ。もう1人この場所にいるはずの人物のことを。
ことここに至っても、「絶対に手を出さないで」との頼みに応えたのか、手出しも発言もしない人物のことを。
イエローは彼女が居るはずの方向に振り返る。
「ねえ、リルル…………?」
……誰も居なかった。
彼女が立っていたはずの場所には、ぽかんと空虚な空間が広がっているだけ。彼女の痕跡は全く残っていない。
どこに行ったのか、慌てて周囲を見回すイエローは、そして森の中、全く別のものを発見する。
木の陰からこちらを窺っていたらしいその人物と、目が合ってしまう。
彼女が立っていたはずの場所には、ぽかんと空虚な空間が広がっているだけ。彼女の痕跡は全く残っていない。
どこに行ったのか、慌てて周囲を見回すイエローは、そして森の中、全く別のものを発見する。
木の陰からこちらを窺っていたらしいその人物と、目が合ってしまう。
その人物には、右腕が無かった。
その人物は、子供と呼ぶにもなお小柄な体格しか持っていなかった。
その、タイミングを見計ったかのような登場を不審に思う余裕は、とてもではないが今のイエローにはなかった。
その人物は、子供と呼ぶにもなお小柄な体格しか持っていなかった。
その、タイミングを見計ったかのような登場を不審に思う余裕は、とてもではないが今のイエローにはなかった。
* * *
――トリエラは逃げていた。
涙を流しながらも、森の中を逃げていた。異常に溢れて止まらない涙は、視界をぼやけさせる。
涙を流しながらも、森の中を逃げていた。異常に溢れて止まらない涙は、視界をぼやけさせる。
(閃光手榴弾……? いや違うか、それならこんな催涙効果は無いはず。催涙弾でもない。
トマの言ってた「魔法」のようなもの? 何にしても、この状態はマズいわね。視界が得られない)
トマの言ってた「魔法」のようなもの? 何にしても、この状態はマズいわね。視界が得られない)
この状態で本格的な戦闘を強いられれば、流石のトリエラも苦戦を免れ得ない。
トリエラの目的は「襲われていた少女を助ける」ことではなく、「襲っていた少年を倒す」こと。
そして、それよりも優先されるのは、トリエラ自身の安全。
少年には致命傷を負わせた、とは思う。あれではすぐに動けなくなるだろう。
けれど、最期の力でもう1発くらい何かしてくるかもしれないし、桃色の髪の少女の出方も分からない。
今のトリエラに必要なのは、距離と時間だった。
トリエラの目的は「襲われていた少女を助ける」ことではなく、「襲っていた少年を倒す」こと。
そして、それよりも優先されるのは、トリエラ自身の安全。
少年には致命傷を負わせた、とは思う。あれではすぐに動けなくなるだろう。
けれど、最期の力でもう1発くらい何かしてくるかもしれないし、桃色の髪の少女の出方も分からない。
今のトリエラに必要なのは、距離と時間だった。
「……っと、この辺まで来れば……」
森の木々が途切れ、ちょっとした広場になっている所まで来て、ようやくトリエラは足を止める。
まだ周囲はよく見えないが、音だけで追っ手の有無を判断する。……それらしい足音は聞こえてこない。
とりあえずは安全なようだ、と判断した彼女は、自分のランドセルを地面に置き、手探りで中身を探る。
その手が掴み出したのは――支給品・回復アイテムセットの1つ、『目薬』。
まだ周囲はよく見えないが、音だけで追っ手の有無を判断する。……それらしい足音は聞こえてこない。
とりあえずは安全なようだ、と判断した彼女は、自分のランドセルを地面に置き、手探りで中身を探る。
その手が掴み出したのは――支給品・回復アイテムセットの1つ、『目薬』。
「普通、義体の私には市販の薬は使えないのだけど……駄目で元々だものね」
この『目薬』があの万能毒消し薬と同じようなものなら、きっと義体でも効くのだろう。そう判断する。
小さな容器から押し出された雫が眼球に触れた途端、涙が止まる。目がすっきりする。
特に副作用もないらしい。しばらく目をパチパチさせて確認した後、もう片方の目にも点眼。
たった2滴で見事に涙は止まり、トリエラの視界は綺麗に晴れる。
文字通り「魔法」のようなその効き目に、彼女はちょっとだけ呆れた。
小さな容器から押し出された雫が眼球に触れた途端、涙が止まる。目がすっきりする。
特に副作用もないらしい。しばらく目をパチパチさせて確認した後、もう片方の目にも点眼。
たった2滴で見事に涙は止まり、トリエラの視界は綺麗に晴れる。
文字通り「魔法」のようなその効き目に、彼女はちょっとだけ呆れた。
「こんなに泣いたのは久しぶりだな。さて、これからどうす――」
涙を拭いながら周囲を見回したトリエラは、そしてすぐに凍りつく。
よくよく見れば、足元には大きな銃。US M1918 ブローニング自動小銃、通称“BAR”。
周囲には空き薬莢が散らばり、周囲の木々には流れ弾でついたらしい傷痕がいくつも。
ここでかつて激しい戦闘があったことは明らかだが、しかしそれ以上にトリエラの目を引いたのは――
よくよく見れば、足元には大きな銃。US M1918 ブローニング自動小銃、通称“BAR”。
周囲には空き薬莢が散らばり、周囲の木々には流れ弾でついたらしい傷痕がいくつも。
ここでかつて激しい戦闘があったことは明らかだが、しかしそれ以上にトリエラの目を引いたのは――
木々の合間からこちらを見つめる、血に濡れた刀を片手に提げた、桃色の髪の少女。
その足元は地面から僅かに浮き、何の支えも無しに空中に浮かんでいる。
道理で足音がしなかったわけだ、と妙に納得すると同時に、彼女の意図が読めずトリエラは眉をしかめる。
もしもこの少女があの少年の仇討ちに来たのだとしたら、目薬を差していた時に襲ってこないのはおかしい。
拳銃を片手に相手の出方を窺うトリエラに対し、桃色の髪の少女は自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。
道理で足音がしなかったわけだ、と妙に納得すると同時に、彼女の意図が読めずトリエラは眉をしかめる。
もしもこの少女があの少年の仇討ちに来たのだとしたら、目薬を差していた時に襲ってこないのはおかしい。
拳銃を片手に相手の出方を窺うトリエラに対し、桃色の髪の少女は自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。
「――人間って、わからないわ。ますますもって、わからないの」
* * *
「――その女は、カナを襲った奴と同一人物なのかしら」
「じゃあ、金糸雀のその腕も……?」
「その通りなのかしら。アイツにやられたのかしら」
「じゃあ、金糸雀のその腕も……?」
「その通りなのかしら。アイツにやられたのかしら」
森がすぐ近くまで迫る、戦いの跡。
イエローの呟きに、その人形は大きく頷く。
リルルと入れ違うように姿を現したこの少女人形は、「金糸雀」と名乗った。
彼女は問われるよりも先に、銃声を聞いてこの場に駆けつけたこと、金糸雀には戦う意思が無いことを告げ。
そしてこうして、2人並んで腰を下ろしている――名前も分からない、ウサ耳頭巾を被った少年の遺体の側で。
どちらからともなく、これまでの経緯を語り合う。
イエローの呟きに、その人形は大きく頷く。
リルルと入れ違うように姿を現したこの少女人形は、「金糸雀」と名乗った。
彼女は問われるよりも先に、銃声を聞いてこの場に駆けつけたこと、金糸雀には戦う意思が無いことを告げ。
そしてこうして、2人並んで腰を下ろしている――名前も分からない、ウサ耳頭巾を被った少年の遺体の側で。
どちらからともなく、これまでの経緯を語り合う。
「イエローは、殺し合いをする気は無いのかしら?」
「うん……ボクはもう、誰も傷つけたくない……」
「うん……ボクはもう、誰も傷つけたくない……」
チラチラと、怯えたようにダイレクの方を窺う金糸雀に、イエローは頑張って微笑みかける。
ちょっと表情が引き攣っていたかもしれないが、それでも、この子を安心させてあげなくちゃ。
ちょっと表情が引き攣っていたかもしれないが、それでも、この子を安心させてあげなくちゃ。
問題は山積みで、何からどうしていけばいいのか、まるで見当がつかない。
とりあえず、緑の髪の女の子と、今死んだばかりの男の子の死体をこのままにはできない。
一言も告げずに姿を消したリルルのことも気になる。
レッドの仇だという、『白い女の子』に対してどうするのかも、考えなければならない。
丈の遺言。丈の仲間探し。丈の首輪の活用。別れたベルカナのこと。
金糸雀の腕を奪い少年の命を奪ったあの殺し屋風の少女も、そう遠くない所にいるはず。
いったいどこからどう手をつけていいのやら。イエローは泣きたくなる。
とりあえず、緑の髪の女の子と、今死んだばかりの男の子の死体をこのままにはできない。
一言も告げずに姿を消したリルルのことも気になる。
レッドの仇だという、『白い女の子』に対してどうするのかも、考えなければならない。
丈の遺言。丈の仲間探し。丈の首輪の活用。別れたベルカナのこと。
金糸雀の腕を奪い少年の命を奪ったあの殺し屋風の少女も、そう遠くない所にいるはず。
いったいどこからどう手をつけていいのやら。イエローは泣きたくなる。
でも……そんな時でもなお、他人のことを想ってしまうのがイエローという少女なのだった。
金糸雀という、自分より小さく、自分より弱っている相手を、放置はできない。
彼女は手を伸ばす。一瞬ビクン! と逃げかけた金糸雀に、微笑みかけて害意の無いことをし示す。
金糸雀の腕の断端に手をかざし、トキワの森の少女が持つ特異な力を、そこに込める。
金糸雀という、自分より小さく、自分より弱っている相手を、放置はできない。
彼女は手を伸ばす。一瞬ビクン! と逃げかけた金糸雀に、微笑みかけて害意の無いことをし示す。
金糸雀の腕の断端に手をかざし、トキワの森の少女が持つ特異な力を、そこに込める。
「ボクにはちょっとした力があって、相手がポケモンなら傷を治せるんだけど……やっぱり効かないかな」
「……少なくとも、腕が生えてくることは無いようなのかしら。でも……」
「でも?」
「……ちょっとだけ、楽になった気がするかしら。気のせいかもしれないけど、痛みが和らいだのかしら」
「……少なくとも、腕が生えてくることは無いようなのかしら。でも……」
「でも?」
「……ちょっとだけ、楽になった気がするかしら。気のせいかもしれないけど、痛みが和らいだのかしら」
そして視線を合わせず、あさっての方向を向いたまま、ほとんど聞き取れないくらい小さな声で金糸雀は呟く。
「ありがと」、と。
効果があったかどうかは分からない。リルルの時と同様、何の効き目も無かったのかもしれない。
ただきっと、金糸雀はその好意だけでも嬉しくて、でも面と向かって礼を言うのが恥ずかしいのだろう。
その、素直ではないが可愛らしい態度に、イエローは少しだけ安堵する。
何を考えているか分からないリルルと違い、金糸雀は一緒にいると何故か安らぐ。
きっと彼女は天性のムードメーカーなのだろう。本人の意図や狙いとは無関係に、周囲を和ませる。
「ありがと」、と。
効果があったかどうかは分からない。リルルの時と同様、何の効き目も無かったのかもしれない。
ただきっと、金糸雀はその好意だけでも嬉しくて、でも面と向かって礼を言うのが恥ずかしいのだろう。
その、素直ではないが可愛らしい態度に、イエローは少しだけ安堵する。
何を考えているか分からないリルルと違い、金糸雀は一緒にいると何故か安らぐ。
きっと彼女は天性のムードメーカーなのだろう。本人の意図や狙いとは無関係に、周囲を和ませる。
(うふふ。私のいない間、悪い子に騙されちゃ駄目よ。あなたは素直すぎですからね)
――イエローの脳裏で、不意にベルカナの言葉がフラッシュバックする。
唐突に湧き上がってきた過去の記憶。
何故このタイミングで思い出すのだろう? 何で今、そんなことが気になるのだろう?
金糸雀は、別に「悪い子」でもないというのに。
唐突に湧き上がってきた過去の記憶。
何故このタイミングで思い出すのだろう? 何で今、そんなことが気になるのだろう?
金糸雀は、別に「悪い子」でもないというのに。
イエローはチラリと傍らの金糸雀の顔色を窺う。
未だ視線を逸らしたままの彼女は、角度のせいか気のせいなのか、一瞬だけニヤリ、と笑ったような気がした。
未だ視線を逸らしたままの彼女は、角度のせいか気のせいなのか、一瞬だけニヤリ、と笑ったような気がした。
* * *
(うふふ……このままズルして楽して頂きなのかしら~?!)
金糸雀はほくそえむ。
あの色黒銃使いの犠牲者?と遭遇できたのは幸いだった。自分の怪我をタネに、取り入ることができる。
実際、金糸雀が語った話も、疑うことなく信じてくれたようだ。
あちこち誇張し、金糸雀には不利な部分は全部伏せていたが、その嘘に気付いた様子もない。
あの色黒銃使いの犠牲者?と遭遇できたのは幸いだった。自分の怪我をタネに、取り入ることができる。
実際、金糸雀が語った話も、疑うことなく信じてくれたようだ。
あちこち誇張し、金糸雀には不利な部分は全部伏せていたが、その嘘に気付いた様子もない。
近くにはランドセルを背負ったままの死体が1つ。きっと支給品もまだ改めていないに違いない。
ひょっとしたら、金糸雀に使える「武器」を持っているかも……? 期待に思わず顔が歪む。
今すぐにでも死体漁りを始めたい気持ちを抑えて、イエローはチラリと剣の方を見る。
ひょっとしたら、金糸雀に使える「武器」を持っているかも……? 期待に思わず顔が歪む。
今すぐにでも死体漁りを始めたい気持ちを抑えて、イエローはチラリと剣の方を見る。
(それに、あの剣……この子のこの様子じゃ、交渉次第で奪えるかもしれないのかしら)
もう誰も傷つけたくない、というイエロー。しかしその意に反し、単純な暴力にしかならない凶悪な剣。
魔剣ダイレクのコントロールを譲渡させることができれば、隻腕になったカナリアでも、まだまだ戦える。
あの色黒で性悪な銃使いにも、復讐できる力が得られる。
本気で金糸雀の腕の心配をしてくれるこの少女、騙すことに一抹の罪悪感が無いわけではなかったが……
魔剣ダイレクのコントロールを譲渡させることができれば、隻腕になったカナリアでも、まだまだ戦える。
あの色黒で性悪な銃使いにも、復讐できる力が得られる。
本気で金糸雀の腕の心配をしてくれるこの少女、騙すことに一抹の罪悪感が無いわけではなかったが……
宝の山を目の前にして、それでも自称・薔薇乙女一の頭脳派は、策を巡らせる。
手に入れたいのは剣だけではない。イエローという少女自体にも価値がある。使い方次第で盾にもできるはず。
既に金糸雀の魅力にメロメロ(?)のようだし、彼女を敵に回すような展開は避けたい。
何かを取り上げるにも、まず何かをこちらから差し出し、交換という形に持っていくべきか。
金糸雀にとっては価値が低く、しかし今のイエローにとっては必要であろうもの……答えは、すぐに出た。
無邪気な表情を素早く装い、金糸雀はイエローに問い掛ける。
手に入れたいのは剣だけではない。イエローという少女自体にも価値がある。使い方次第で盾にもできるはず。
既に金糸雀の魅力にメロメロ(?)のようだし、彼女を敵に回すような展開は避けたい。
何かを取り上げるにも、まず何かをこちらから差し出し、交換という形に持っていくべきか。
金糸雀にとっては価値が低く、しかし今のイエローにとっては必要であろうもの……答えは、すぐに出た。
無邪気な表情を素早く装い、金糸雀はイエローに問い掛ける。
「そういえば……イエローのその格好は、傍から見ててもかなり痛々しいのかしら。
『たまたま』カナの手元に服が余っているのだけど……必要かしら~?」
『たまたま』カナの手元に服が余っているのだけど……必要かしら~?」
――金糸雀は知らない。
今まさに金糸雀が取り出そうとしている服の正当な持ち主が、目の前の少女だということを。
イエローにそれを差し出したところで、どれほどの効果があるものやら。
一歩間違えれば泥棒扱いされてしまうかもしれない。そうなれば全て水の泡。
そんな危険に気付くことなく、金糸雀は残った左手で例の服を取り出して――
今まさに金糸雀が取り出そうとしている服の正当な持ち主が、目の前の少女だということを。
イエローにそれを差し出したところで、どれほどの効果があるものやら。
一歩間違えれば泥棒扱いされてしまうかもしれない。そうなれば全て水の泡。
そんな危険に気付くことなく、金糸雀は残った左手で例の服を取り出して――
* * *
【E-3/城の外堀を臨む平地/1日目/午後】
【イエロー・デ・トキワグローブ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:全身に擦り傷と打撲(行動にやや支障)、左目蓋に大きく切り傷、
シーツ一枚きりを纏ったほとんど全裸姿、深い悲しみ、精神不安定
[装備]:魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、レッドのグローブ、おみやげのコイン@MOTHER2
[道具]:シルフェのフード@ベルセルク、スケッチブック、基本支給品、城戸丈の首輪
[思考]:ボクは……どうすれば……
第一行動方針:金糸雀と行動を共にする。金糸雀を放ってはおけない。
第ニ行動方針:リディア、ネスの埋葬をする。
第三行動方針:消えたリルルのことが心配。探すべきか、それとも放置すべきか思案中。
第四行動方針:グリーンやブルーと合流し、このゲームを破る方法を考える
第五行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ
第六行動方針:丈の首輪を調べる。または調べる事の出来る人間を探す。
基本行動方針:絶対にゲームに乗らない。生きてマサラに帰る。
参戦時期:2章終了時点(四天王との最終決戦後。まだレッドに自分の正体を明かしていない)
[備考]:魔剣ダイレクのソードエレメンタル系は魔力を必要とするため使用不可
シルフェのフードを引き裂かれました。フードがまだ使えるかどうかは不明です。
[備考]:トリエラのことを「積極的なマーダー」だと認識しました。
ネスからレッドの仇が「白い女の子」だと聞かされました。
レッドの仇に対し、どういう態度を取るべきなのか、まだ考えが定まってません。
[状態]:全身に擦り傷と打撲(行動にやや支障)、左目蓋に大きく切り傷、
シーツ一枚きりを纏ったほとんど全裸姿、深い悲しみ、精神不安定
[装備]:魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、レッドのグローブ、おみやげのコイン@MOTHER2
[道具]:シルフェのフード@ベルセルク、スケッチブック、基本支給品、城戸丈の首輪
[思考]:ボクは……どうすれば……
第一行動方針:金糸雀と行動を共にする。金糸雀を放ってはおけない。
第ニ行動方針:リディア、ネスの埋葬をする。
第三行動方針:消えたリルルのことが心配。探すべきか、それとも放置すべきか思案中。
第四行動方針:グリーンやブルーと合流し、このゲームを破る方法を考える
第五行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ
第六行動方針:丈の首輪を調べる。または調べる事の出来る人間を探す。
基本行動方針:絶対にゲームに乗らない。生きてマサラに帰る。
参戦時期:2章終了時点(四天王との最終決戦後。まだレッドに自分の正体を明かしていない)
[備考]:魔剣ダイレクのソードエレメンタル系は魔力を必要とするため使用不可
シルフェのフードを引き裂かれました。フードがまだ使えるかどうかは不明です。
[備考]:トリエラのことを「積極的なマーダー」だと認識しました。
ネスからレッドの仇が「白い女の子」だと聞かされました。
レッドの仇に対し、どういう態度を取るべきなのか、まだ考えが定まってません。
【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:中度の疲労、全身打撲及び擦過傷(行動にやや支障あり)、右腕欠損、心が壊れかけている
[装備]:コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:支給品一式、イエローの衣類一式(少し湿っている)、 酢昆布@銀魂
旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:このイエローって子、この金糸雀が利用し尽してやるのかしら~!?
第一行動方針:イエローに取り入って利用する。
第二行動方針:「武器」を確保する。手段は問わない。
当面、ネスの死体漁り、及び、イエローの魔剣ダイレクを交渉や取引で奪えないか思案中。
第三行動方針:腕を失った原因(ネギとトリエラ)に復讐する。
基本行動方針:(基本方針は未だに定まっていない)
[状態]:中度の疲労、全身打撲及び擦過傷(行動にやや支障あり)、右腕欠損、心が壊れかけている
[装備]:コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:支給品一式、イエローの衣類一式(少し湿っている)、 酢昆布@銀魂
旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:このイエローって子、この金糸雀が利用し尽してやるのかしら~!?
第一行動方針:イエローに取り入って利用する。
第二行動方針:「武器」を確保する。手段は問わない。
当面、ネスの死体漁り、及び、イエローの魔剣ダイレクを交渉や取引で奪えないか思案中。
第三行動方針:腕を失った原因(ネギとトリエラ)に復讐する。
基本行動方針:(基本方針は未だに定まっていない)
【ネス@MOTHER2 死亡】;
[備考]:ネスの死体はウサギずきん@ゼルダの伝説 とランドセルを装備したままです。
近くに立て札(こ ろす)@一休さん が転がっています。
ネスのランドセルの中には、ひろしの靴&靴下(各一足)@クレヨンしんちゃん、基本支給品 が入っています。
近くに立て札(こ ろす)@一休さん が転がっています。
ネスのランドセルの中には、ひろしの靴&靴下(各一足)@クレヨンしんちゃん、基本支給品 が入っています。
* * *
「――情報を整理するわ。あなたの最優先事項は、『最後まで生き延び、元の居場所に帰ること』。
そのために、当面は生存の障害になるであろう『殺し合いに積極的な参加者』を選択的に排除する。
『殺し合いに積極的でない参加者』は、ジェダへの反抗が成功する可能性を考慮し、しばらく放置。
彼らが元の場所に帰る方法を見つければよし、見つけられないようなら優勝狙いに方針変更。
――これで、間違いないわね?」
「そう並べられちゃうと、身も蓋もなくなっちゃうわね」
「恥じることはないわ。極めて論理的で、合理的な思考よ。ここに来て出会った『人間』の中でも、一番だわ」
「それは、どうも……」
そのために、当面は生存の障害になるであろう『殺し合いに積極的な参加者』を選択的に排除する。
『殺し合いに積極的でない参加者』は、ジェダへの反抗が成功する可能性を考慮し、しばらく放置。
彼らが元の場所に帰る方法を見つければよし、見つけられないようなら優勝狙いに方針変更。
――これで、間違いないわね?」
「そう並べられちゃうと、身も蓋もなくなっちゃうわね」
「恥じることはないわ。極めて論理的で、合理的な思考よ。ここに来て出会った『人間』の中でも、一番だわ」
「それは、どうも……」
ブローニング自動小銃が落ちていた森の中の小空間で、トリエラは彼女には珍しい曖昧な表情で頭を掻く。
リルル、と名乗った目の前の少女は終始真顔で、こちらをからかっている様子もない。
戦う意思が無いのは(銃の残弾を考えても)幸いだったが、畳みかけるような質問攻めには少し閉口する。
本来常識人であるトリエラだが、あまりに常識から大きくズレた相手の態度に、毒気を抜かれた格好だった。
リルル、と名乗った目の前の少女は終始真顔で、こちらをからかっている様子もない。
戦う意思が無いのは(銃の残弾を考えても)幸いだったが、畳みかけるような質問攻めには少し閉口する。
本来常識人であるトリエラだが、あまりに常識から大きくズレた相手の態度に、毒気を抜かれた格好だった。
なんでもこのリルル、あの襲われていた女の子(イエローという名だそうだ)と行動を共にしていたそうだが。
別に仲間でも同志でも何でもなく、リルルの言葉によれば「彼女を観察していただけ」だという。
全くもって理解不能。だがどうやらリルルにとって「人間の観察」というのは何よりも重要な意味を持つらしい。
別に仲間でも同志でも何でもなく、リルルの言葉によれば「彼女を観察していただけ」だという。
全くもって理解不能。だがどうやらリルルにとって「人間の観察」というのは何よりも重要な意味を持つらしい。
人間の観察。
そう、『人間』を意識して『観察』の対象とするリルル自身は、『人間』ではないという。
異星から調査に来たロボット、との説明には唖然としたが、壊れた左腕を見せられれば納得するしかない。
魔法使いが平気で飛びまわり、拳法使いの少年が香港映画もかくやというアクションを見せているのだ。
今さらSF小説の世界の住人が出現しても、いちいち驚いてはいられない。
トリエラも『人間』ではあるが、『普通の人間』ではないのだし……あえて自分から言うべきことでもないけれど。
そう、『人間』を意識して『観察』の対象とするリルル自身は、『人間』ではないという。
異星から調査に来たロボット、との説明には唖然としたが、壊れた左腕を見せられれば納得するしかない。
魔法使いが平気で飛びまわり、拳法使いの少年が香港映画もかくやというアクションを見せているのだ。
今さらSF小説の世界の住人が出現しても、いちいち驚いてはいられない。
トリエラも『人間』ではあるが、『普通の人間』ではないのだし……あえて自分から言うべきことでもないけれど。
「……ひとつ、質問があるのだけど」
「何?」
「何?」
トリエラは適当にリルルの質問を聞き流しながら、足元の大きな銃を拾い上げる。
残弾は……無し。まあ、弾が残っていれば、元の持ち主も捨てていったりはしないか。
地面にめり込むようにして落ちていたのが気になったが、肉眼で確認した限りでは歪みなどは見当たらない。
BARの長所は、その頑丈さと信頼性。欠点は箱型弾倉の装弾数の少なさ。
どこかで.30-06スプリングフィールド弾を手に入れることができれば、まだまだ使えるはず――
銃身に揺れる場違いなぬいぐるみを見つめながら、トリエラはそんなことを考える。
残弾は……無し。まあ、弾が残っていれば、元の持ち主も捨てていったりはしないか。
地面にめり込むようにして落ちていたのが気になったが、肉眼で確認した限りでは歪みなどは見当たらない。
BARの長所は、その頑丈さと信頼性。欠点は箱型弾倉の装弾数の少なさ。
どこかで.30-06スプリングフィールド弾を手に入れることができれば、まだまだ使えるはず――
銃身に揺れる場違いなぬいぐるみを見つめながら、トリエラはそんなことを考える。
「トリエラさんは、こころが痛くならないの?」
「こころ……?」
「イエローさんは言ってたわ。人を傷つけるのは、何があってもしちゃいけないことだ、って。
誰かを殺すのはいけないことで、それをしてしまうと人間はこころが痛くなるんだ、って。
でも……あなたは違うの? 同じ『人間』なのに?」
「こころ……?」
「イエローさんは言ってたわ。人を傷つけるのは、何があってもしちゃいけないことだ、って。
誰かを殺すのはいけないことで、それをしてしまうと人間はこころが痛くなるんだ、って。
でも……あなたは違うの? 同じ『人間』なのに?」
BARを調べていたトリエラは、だからそのリルルの真剣な問いにも、適当に答えた。
あまり深く考えての答えではない――だからこそ、それは真実に近い答えだったのかもしれないが。
あまり深く考えての答えではない――だからこそ、それは真実に近い答えだったのかもしれないが。
「そうね……私もまだ、全く何も感じなくなるほどには擦り切れてはいないわ。
殺人行為を誇るつもりもない。本当にやらなくて済むなら、それに越したことはないでしょうね。
でも――感じるのが『痛み』だけなら、我慢できる。それが『必要なこと』なら、我慢してでもやり遂げないと。
幸い、私は普通の人より『痛み』には強いし、ね」
殺人行為を誇るつもりもない。本当にやらなくて済むなら、それに越したことはないでしょうね。
でも――感じるのが『痛み』だけなら、我慢できる。それが『必要なこと』なら、我慢してでもやり遂げないと。
幸い、私は普通の人より『痛み』には強いし、ね」
トリエラは義体だ。
身体の8割以上が炭素フレームや人工筋に置き換えられ、生身なのは脳や脊髄、それに一部の臓器だけ。
怪我すれば赤い血は出るが、よほどの損傷でも無い限り痛みはすぐに消えうせる。
何より、彼女の精神には『条件付け』が施されている。
名も知らぬ者を殺す程度の『こころの痛み』で、動きが鈍る道理は無い――
身体の8割以上が炭素フレームや人工筋に置き換えられ、生身なのは脳や脊髄、それに一部の臓器だけ。
怪我すれば赤い血は出るが、よほどの損傷でも無い限り痛みはすぐに消えうせる。
何より、彼女の精神には『条件付け』が施されている。
名も知らぬ者を殺す程度の『こころの痛み』で、動きが鈍る道理は無い――
* * *
トリエラが調べているBARは以前リルルが持っていたものだが、別にそのことはあまりリルルの興味を引かない。
トリエラの回答に、リルルは黙って考え込む。
確かに論理的で、筋は通っている。サトシやククリ、ネスやイエローと比べても、その思考は分かりやすい。
けれど、今のリルルには何かがひっかかる。トリエラのどこかが間違っているような気がして仕方が無い。
トリエラの回答に、リルルは黙って考え込む。
確かに論理的で、筋は通っている。サトシやククリ、ネスやイエローと比べても、その思考は分かりやすい。
けれど、今のリルルには何かがひっかかる。トリエラのどこかが間違っているような気がして仕方が無い。
『他人を思いやるこころ』。それはイエローが口にした、人間理解のためのキーワード。
トリエラは「こころが痛まないわけではない」と言った。なら、彼女にも『他人を思いやるこころ』があるのだろうか。
分からない。答えが出ない。正答を出すための障害が何なのかも、明確に掴めない。
トリエラは「こころが痛まないわけではない」と言った。なら、彼女にも『他人を思いやるこころ』があるのだろうか。
分からない。答えが出ない。正答を出すための障害が何なのかも、明確に掴めない。
――リルルは、トリエラが義体であることをまだ知らない。
『条件付け』で洗脳されていることを知らない。身も心も『普通の人間』から掛け離れていることを知らない。
リルルが抱いた違和感の正体は、まさにその『条件付け』。『人間』の自然な感性の中に挿入された不純物。
過去の記憶を消し、『公社』の戦闘マシーンとして最適化し、任務の邪魔になる感情を抑制する洗脳処置。
それを知らないリルルは、明確な答えの出ない現状を、単純に「データ量不足によるもの」と判断する。
『条件付け』で洗脳されていることを知らない。身も心も『普通の人間』から掛け離れていることを知らない。
リルルが抱いた違和感の正体は、まさにその『条件付け』。『人間』の自然な感性の中に挿入された不純物。
過去の記憶を消し、『公社』の戦闘マシーンとして最適化し、任務の邪魔になる感情を抑制する洗脳処置。
それを知らないリルルは、明確な答えの出ない現状を、単純に「データ量不足によるもの」と判断する。
黙って置いて来たイエローのことも気にはなったが、リルルはどちらを優先すべきか改めて計算。
新たな観察対象・トリエラの方が優先順位としては上だ、との暫定的結論を出す。
新たな観察対象・トリエラの方が優先順位としては上だ、との暫定的結論を出す。
「トリエラさん、しばらくあなたについていってもいいかしら?
私の最優先事項もあなたと同じ、『最後まで生き延び、元の居場所に帰ること』。
当面の間は協力できるはずだし……それに何より、私、もう少しあなたのことが知りたいの」
「……その様子だと、断ってもついてくるつもりみたいね。
ま、いいか。邪魔をしたり足手まといになったりしたら、すぐさま『排除』するけど――
それでいいなら、好きになさい」
私の最優先事項もあなたと同じ、『最後まで生き延び、元の居場所に帰ること』。
当面の間は協力できるはずだし……それに何より、私、もう少しあなたのことが知りたいの」
「……その様子だと、断ってもついてくるつもりみたいね。
ま、いいか。邪魔をしたり足手まといになったりしたら、すぐさま『排除』するけど――
それでいいなら、好きになさい」
根負けした、とでも言わんばかりの態度で、トリエラはあっさりとリルルの同行を認めてくれた。
おそらくその判断には、残り少ない銃弾のことも計算に入っているのだろう。
損傷があるとはいえ、リルルはロボットだ。並みの人間よりよほど強い。切れ味は悪いが日本刀も持っている。
多少の戦力にはなるはずだ、と判断されたのだろう。
……「こころ」の存在を知ったリルルが果たして今まで通りに戦えるのか、はなはだ疑問ではあるのだが。
おそらくその判断には、残り少ない銃弾のことも計算に入っているのだろう。
損傷があるとはいえ、リルルはロボットだ。並みの人間よりよほど強い。切れ味は悪いが日本刀も持っている。
多少の戦力にはなるはずだ、と判断されたのだろう。
……「こころ」の存在を知ったリルルが果たして今まで通りに戦えるのか、はなはだ疑問ではあるのだが。
「で、これからどうするの?」
「そうね――本音を言えば休息を取りたいところだけど、銃弾や武器の補充もしないとね。
街の方に行けば、銃器店や警察署があるかもしれない。
他の銃や規格の合う弾丸があれば……いや、銃はないか。ジェダもそこまで甘くないだろうし。
せめて弾薬だけでもあればいいんだけど……パラベラムならともかく、9mmクルツあるかな……」
「そうね――本音を言えば休息を取りたいところだけど、銃弾や武器の補充もしないとね。
街の方に行けば、銃器店や警察署があるかもしれない。
他の銃や規格の合う弾丸があれば……いや、銃はないか。ジェダもそこまで甘くないだろうし。
せめて弾薬だけでもあればいいんだけど……パラベラムならともかく、9mmクルツあるかな……」
やはり彼女は合理的だ。そして、それゆえ、違和感が拭いきれない。
トリエラはBARを自分のランドセルに仕舞うと、立ち上がる。リルルもそれに従う。
2人はそれ以上交わす言葉もなく、森の中を歩き始める。
トリエラはBARを自分のランドセルに仕舞うと、立ち上がる。リルルもそれに従う。
2人はそれ以上交わす言葉もなく、森の中を歩き始める。
……ふと、リルルは先ほど言い損ねた、ある事実を思い出した。
それは、トリエラが撃ったその時には、ネスが既にイエローに対する殺意を失っていたという事実。
話の流れの中でトリエラへの質問を優先するあまり、口にするタイミングを逸していたのだが……
このことを知ったら、トリエラはどういう態度を取るのだろう?
それでもなお、『やらねばならないこと』『我慢できる痛み』だと言うのだろうか?
気にはなった。でも、今話すべきことでもないような気もした。だから、リルルは黙っていた。
それは、トリエラが撃ったその時には、ネスが既にイエローに対する殺意を失っていたという事実。
話の流れの中でトリエラへの質問を優先するあまり、口にするタイミングを逸していたのだが……
このことを知ったら、トリエラはどういう態度を取るのだろう?
それでもなお、『やらねばならないこと』『我慢できる痛み』だと言うのだろうか?
気にはなった。でも、今話すべきことでもないような気もした。だから、リルルは黙っていた。
2人は歩く。ロボットと義体の少女は、沈黙のまま、森の中を歩いていく――
* * *
【D-2/森の中(リルルとネスの交戦した場所)/1日目/午後】
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:胴体に重度の打撲傷、中程度の疲労。(『なみだ』は『目薬』によって治療済み)
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残段数1)、US M1918 “BAR”@ブラックラグーン(残弾数0/20)
ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、 トマ手作りのナイフホルダー
[道具]:基本支給品、回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、
十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
ネギの首輪、金糸雀の右腕(コチョコチョ手袋が片方だけついている)、血塗れの拡声器
[思考]:変なのに捕まっちゃったかなぁ……
第一行動方針:リルルに警戒しつつも、一時的な同盟を了承。足を引っ張ったり敵対するようなら始末も考える。
第二行動方針:安全な場所まで移動して休息。
第三行動方針:好戦的な参加者は倒す。
第四行動方針:南西or北東の街に行き、銃器店or警察署を探して武器弾薬の補給を図る。
第五行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう。
基本行動方針:最後まで生き延びる(当面、マーダーキラー路線。具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:
US M1918 “BAR”@ブラックラグーンは、地面に叩きつけられた際、歪みを生じている可能性があります。
少なくとも肉眼的には異常は見られません。
[状態]:胴体に重度の打撲傷、中程度の疲労。(『なみだ』は『目薬』によって治療済み)
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残段数1)、US M1918 “BAR”@ブラックラグーン(残弾数0/20)
ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、 トマ手作りのナイフホルダー
[道具]:基本支給品、回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、
十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
ネギの首輪、金糸雀の右腕(コチョコチョ手袋が片方だけついている)、血塗れの拡声器
[思考]:変なのに捕まっちゃったかなぁ……
第一行動方針:リルルに警戒しつつも、一時的な同盟を了承。足を引っ張ったり敵対するようなら始末も考える。
第二行動方針:安全な場所まで移動して休息。
第三行動方針:好戦的な参加者は倒す。
第四行動方針:南西or北東の街に行き、銃器店or警察署を探して武器弾薬の補給を図る。
第五行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう。
基本行動方針:最後まで生き延びる(当面、マーダーキラー路線。具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:
US M1918 “BAR”@ブラックラグーンは、地面に叩きつけられた際、歪みを生じている可能性があります。
少なくとも肉眼的には異常は見られません。
【リルル@ドラえもん】
[状態]:左手溶解、故障有(一応動くが、やや支障あり)、人間への強い興味
[装備]:長曾禰虎徹@るろうに剣心
(※レッドの体液でべっとりと汚れ、切れ味がほとんどなくなっている)
[道具]:基本支給品×2、命の水(アクア・ウイタエ)一人分@からくりサーカス
さくらの杖@カードキャプターさくら、クロウカード(花、灯、跳)@カードキャプターさくら
[服装]:機械部分の露出している要所や左手を巻いたシーツで隠した上から、服を着ている
[思考]:トリエラは合理的……だけどこの違和感は何かしら……?
第一行動方針:とりあえずトリエラに同行。邪魔をしないよう注意しながら、観察を続ける
第二行動方針:人間に興味。「友達」になれそうな人間を探す
第三行動方針:強い参加者のいる可能性を考え、より慎重に行動する。
第四行動方針:兵団との連絡手段を探す。
第五行動方針:のび太を見つけたら、一緒に行動する(利用する)
基本行動方針:このゲームを脱出し(手段は問わない)、人間についてのデータを集めて帰還する
参戦時期:映画「のび太と鉄人兵団」:中盤
(しずかに匿われ、手当てを受ける前。次元震に巻き込まれた直後からの参戦)
[状態]:左手溶解、故障有(一応動くが、やや支障あり)、人間への強い興味
[装備]:長曾禰虎徹@るろうに剣心
(※レッドの体液でべっとりと汚れ、切れ味がほとんどなくなっている)
[道具]:基本支給品×2、命の水(アクア・ウイタエ)一人分@からくりサーカス
さくらの杖@カードキャプターさくら、クロウカード(花、灯、跳)@カードキャプターさくら
[服装]:機械部分の露出している要所や左手を巻いたシーツで隠した上から、服を着ている
[思考]:トリエラは合理的……だけどこの違和感は何かしら……?
第一行動方針:とりあえずトリエラに同行。邪魔をしないよう注意しながら、観察を続ける
第二行動方針:人間に興味。「友達」になれそうな人間を探す
第三行動方針:強い参加者のいる可能性を考え、より慎重に行動する。
第四行動方針:兵団との連絡手段を探す。
第五行動方針:のび太を見つけたら、一緒に行動する(利用する)
基本行動方針:このゲームを脱出し(手段は問わない)、人間についてのデータを集めて帰還する
参戦時期:映画「のび太と鉄人兵団」:中盤
(しずかに匿われ、手当てを受ける前。次元震に巻き込まれた直後からの参戦)
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