世界は美しくなんかない ◆o.lVkW7N.A
赤い血が雨のように、少年の全身へ降り注いだ。
生温かく、塩辛く、ぬるりとした感触を持ったそれが、彼の視界を塗りつぶす。
赤く赤く、染め上げられた世界の中、――――絶叫が高く木霊した。
生温かく、塩辛く、ぬるりとした感触を持ったそれが、彼の視界を塗りつぶす。
赤く赤く、染め上げられた世界の中、――――絶叫が高く木霊した。
* * *
「あちゃー、きりちゃんとしんべヱまで」
乱太郎は、支給された名簿を開くと、開口一番そう言って額に手をやった。
親友二人がこの場にいるのは、頼もしいと思う反面、非常に心配でもある。
何せ自分たち三人は、忍者の卵とはいえ揃って落ちこぼれなのである。
オリエンテーリングや縦断訓練といった学園内の実践授業ですら苦戦する身だ。
そんな自分たちが率先して生き抜く事など、容易にできるとは到底思えなかった。
「またいつもの学園長の気まぐれ……、じゃないだろうしねぇ」
乱太郎の通う忍術学園学園長は、己の気の向くままにイベントを起こしたがる気がある。
もしこれが普段のように学園長が開催した物ならば、多少の危険はあれど命の心配はないだろう。
しかし、乱太郎は既に理解していた。いや、強制的に理解させられていた。
網膜に焼き付けさせられた『死』によって、嫌でもこれが本物であることを教え込まれていた。
弾ける爆音、飛び散った鮮やかな赤。ぷんと香る生臭い鉄錆の臭いと、響く叫声。
あれは決して、紛い物ではなかった。
嘘でも冗談でも、妄想でも夢でも幻覚でもない。
乱太郎は、支給された名簿を開くと、開口一番そう言って額に手をやった。
親友二人がこの場にいるのは、頼もしいと思う反面、非常に心配でもある。
何せ自分たち三人は、忍者の卵とはいえ揃って落ちこぼれなのである。
オリエンテーリングや縦断訓練といった学園内の実践授業ですら苦戦する身だ。
そんな自分たちが率先して生き抜く事など、容易にできるとは到底思えなかった。
「またいつもの学園長の気まぐれ……、じゃないだろうしねぇ」
乱太郎の通う忍術学園学園長は、己の気の向くままにイベントを起こしたがる気がある。
もしこれが普段のように学園長が開催した物ならば、多少の危険はあれど命の心配はないだろう。
しかし、乱太郎は既に理解していた。いや、強制的に理解させられていた。
網膜に焼き付けさせられた『死』によって、嫌でもこれが本物であることを教え込まれていた。
弾ける爆音、飛び散った鮮やかな赤。ぷんと香る生臭い鉄錆の臭いと、響く叫声。
あれは決して、紛い物ではなかった。
嘘でも冗談でも、妄想でも夢でも幻覚でもない。
そう。これは、本当の殺し合いなのだ。
乱太郎は、眺めていた名簿を畳み直して草の間に置くと、ふぅと浅く一息をついた。
とにかく、これが殺し合いであるというのなら、自分の戦力を確認しなければならない。
『ケーキを知りオコボレを知ればキャプテン危うからず』、だ。
……何だか違うような気がしないでもなかったが、とにかく乱太郎は奇妙な形の背負い鞄を開いた。
自分に配給された道具を取り出して一つ一つ確認するが、どれも見たことのないような品ばかりだ。
水筒や耆著は随分と妙な形をしているし、全く見知らぬ物もある。
水、食料、灯り、地図、鉛筆に紙。磁石に時計と、さっきまで見ていた名簿。
それらを全部出した後、入っているはずの武器を掴もうと、勢いよく拳を突っ込んだ。
しかし彼の予想に反し、そこから出てきたのは武器ではなかった。
乱太郎の握り拳が掴んだのは、簡単な救急道具一式に替えのめがねがひとつ。
それからなぜか、箱に入った数枚の酢昆布だった。
忍者道具どころか、刃物や火器など戦いに使えそうなものは何一つ見当たらない。
『神楽の大好物!』と書かれた紙が貼ってある酢昆布の箱を、じーっと見つめてみた。
乱太郎は、眺めていた名簿を畳み直して草の間に置くと、ふぅと浅く一息をついた。
とにかく、これが殺し合いであるというのなら、自分の戦力を確認しなければならない。
『ケーキを知りオコボレを知ればキャプテン危うからず』、だ。
……何だか違うような気がしないでもなかったが、とにかく乱太郎は奇妙な形の背負い鞄を開いた。
自分に配給された道具を取り出して一つ一つ確認するが、どれも見たことのないような品ばかりだ。
水筒や耆著は随分と妙な形をしているし、全く見知らぬ物もある。
水、食料、灯り、地図、鉛筆に紙。磁石に時計と、さっきまで見ていた名簿。
それらを全部出した後、入っているはずの武器を掴もうと、勢いよく拳を突っ込んだ。
しかし彼の予想に反し、そこから出てきたのは武器ではなかった。
乱太郎の握り拳が掴んだのは、簡単な救急道具一式に替えのめがねがひとつ。
それからなぜか、箱に入った数枚の酢昆布だった。
忍者道具どころか、刃物や火器など戦いに使えそうなものは何一つ見当たらない。
『神楽の大好物!』と書かれた紙が貼ってある酢昆布の箱を、じーっと見つめてみた。
……じーっ 。
しかしどれだけ眺めて見ても、酢昆布は酢昆布のままだった。
試しに一枚舌先で舐めてみるものの、単に非常に酸っぱいだけで、毒などが塗られているわけでもない。
乱太郎は大きく溜息をつくと、自分の運のなさを呆れるように嘆いた。
「無理だよこんなの。これで、私にどうやって戦えっていうのさ」
上級生や先生達のなかには、素手でも十分戦えるほど武道や格闘が得意な者もいる。
或いは、在り合せの物を組み合わせてうまく道具を作ってしまう者もいるだろう。
しかし、一年生の自分では、こんなものだけではどうにもならない。
殺し合いをしろと言うなら言うで、もっとまともな物を配ってほしいものだ。
呑気な、しかしある意味ではかなり物騒な不平を心中で吐きながら、乱太郎は首を横に振った。
土の上に並べて出した品々を丁寧に鞄へと戻すと、森でのサバイバルに必要な知識を思い返す。
「えーっと、こういうときは足元に何か作るんだったような……」
以前、オリエンテーリングの実習中に雷蔵先輩や滝夜叉丸先輩が説明してくれた憶えがある。
このような森の中では、自分の姿を隠せる利点があるが、同時に敵の姿も発見しづらい。
だから、相手を見つけやすいように何か仕掛けておくべきだった筈なのだが……。
「……うーん、なんだったっけ」
ご多分に漏れず、落ちこぼれの一年は組生がそんな昔にやった授業の内容を覚えているわけがない。
「けったい線、妖怪線……、いやいや変態線……?」
普段ならこういうときは、山田先生や土井先生が「そんなことも忘れたのかぁっ!!」
と怒りながら教えてくれるところなのだが、あいにくとここに二人はいない。
先生達お得意の枠線めくりも、どうやら今回ばかりは不可能なようだ。
仕方なく、乱太郎は眉間にしわを寄せて古い記憶を手繰り寄せた。
「……ああっと、そうだ、警戒線だ!」
何と、大当たり。土井先生がいたら、きっと泣いて喜んでくれたことだろう。
ぽん、と手を鳴らすと、乱太郎は先ほど見つけた救急道具入りの小袋を取り出した。
袋を開け、中に入っていた道具の中から木綿糸の束を掴む。
歯で噛み切って丁度いい長さに整えると、手馴れた手つきで辺りの木の一本にそれを結わえつける。
見えにくくするよう下草に紛れさせながら、ピンと張った糸のもう一端を別の木に結んだ。
本来なら鈴か何かをつけると最良なのだが、あいにくとそこまでの道具はない。
仕方なく、地面に落ちていた木の実をいくつか括り付け、即席の鳴子代わりにした。
「よーし、出来た!」
乱太郎はその出来に満足すると、警戒線に背を向けて腰を下ろした。
無駄な体力を浪費するつもりはなかった。
何かあったときに備え、休めるときは最大限に休んでおいたほうがいいのだ。
木陰に座って身体を休めた乱太郎の休息は、しかし長くは続かなかった
突如、圧倒的な質量を伴った爆音が辺りに鳴り響いた。
鼓膜を襲ったその爆発音は大きく、乱太郎のいる叢からそう離れていないように思えた。
誰かが、焙烙火矢でも近くでぶん投げたのかもしれない。
突然の爆発音に驚いた乱太郎は、急いでその場を離れようとした。
森の奥に向かって走り出そうとしたそのとき、しかし乱太郎は自分の足が何かに蹴躓いたのに気づいた。
「ひゃっ!?」
しかし、気づいたからといってどうなるものでもない。
乱太郎は両足を縺れさせながら、下半身のバランスを崩して顔面から派手にずっこけた。
「いたたた……、一体何さ、こんなところに」
転んだ拍子に木の根で打った頭頂部を擦りながら、乱太郎がよろよろと立ち上がる。
不平を呟きながら足元に視線を向けた彼が見たものは、今しがた自分が張ったばかりの警戒線だった。
哀れ、乱太郎は自分の仕掛けた警戒線に自分で引っかかってしまったのだ。
「あ、あはははは……、って、あぁっ、私のめがねが!?」
流石の乱太郎も、これは少しばかり恥ずかしい。
乾いた笑いでごまかそうとした彼は、しかし途中で大変なことに気が付いた。
めがねが、壊れてしまっている。
乱太郎のめがねは、今の衝撃で弦が斜めに折れ、おまけに右目のレンズが割れてしまっていた。
ひどい乱視の彼にとって、これは死活問題である。
なにせ、めがねなしではろくに足元も判別できやしないのだ。
これでは、うっかり危険な人間の側に近寄ってしまったり、罠のある場所に迷い込んでしまう。
「どうしよう………」
手のひらに乗せた破損しためがねをぼんやりと見つめながら、乱太郎は独りごちた。
いくらなんでも、裸眼のままでは歩き回れない。
だが、そこで乱太郎はあることに気が付いた。
「あ、そうだ。さっきのめがねがあったじゃないか」
それに思い当たった乱太郎は、鞄に手を突っ込んでめがねを取り出した。
何だか都合がよすぎるような気も少ししたが、深く疑わないのがは組流である。
手にしためがねを耳にかけ、ぼやける視界を振り切るようにぱちぱちと瞳を瞬かせた。
だが、視界はさほどよくはならない。何だか、少し度が合わないようだ。
と、そこで、乱太郎はめがねの弦に付いているぜんまいの様なものに気づいた。
もしかしたら、これを回せばピントが合うように作られているのかもしれない。
そう思いついた乱太郎は、めがねをかけたまま、指先で適当に目盛りを動かしてみる。
しかしどれだけ眺めて見ても、酢昆布は酢昆布のままだった。
試しに一枚舌先で舐めてみるものの、単に非常に酸っぱいだけで、毒などが塗られているわけでもない。
乱太郎は大きく溜息をつくと、自分の運のなさを呆れるように嘆いた。
「無理だよこんなの。これで、私にどうやって戦えっていうのさ」
上級生や先生達のなかには、素手でも十分戦えるほど武道や格闘が得意な者もいる。
或いは、在り合せの物を組み合わせてうまく道具を作ってしまう者もいるだろう。
しかし、一年生の自分では、こんなものだけではどうにもならない。
殺し合いをしろと言うなら言うで、もっとまともな物を配ってほしいものだ。
呑気な、しかしある意味ではかなり物騒な不平を心中で吐きながら、乱太郎は首を横に振った。
土の上に並べて出した品々を丁寧に鞄へと戻すと、森でのサバイバルに必要な知識を思い返す。
「えーっと、こういうときは足元に何か作るんだったような……」
以前、オリエンテーリングの実習中に雷蔵先輩や滝夜叉丸先輩が説明してくれた憶えがある。
このような森の中では、自分の姿を隠せる利点があるが、同時に敵の姿も発見しづらい。
だから、相手を見つけやすいように何か仕掛けておくべきだった筈なのだが……。
「……うーん、なんだったっけ」
ご多分に漏れず、落ちこぼれの一年は組生がそんな昔にやった授業の内容を覚えているわけがない。
「けったい線、妖怪線……、いやいや変態線……?」
普段ならこういうときは、山田先生や土井先生が「そんなことも忘れたのかぁっ!!」
と怒りながら教えてくれるところなのだが、あいにくとここに二人はいない。
先生達お得意の枠線めくりも、どうやら今回ばかりは不可能なようだ。
仕方なく、乱太郎は眉間にしわを寄せて古い記憶を手繰り寄せた。
「……ああっと、そうだ、警戒線だ!」
何と、大当たり。土井先生がいたら、きっと泣いて喜んでくれたことだろう。
ぽん、と手を鳴らすと、乱太郎は先ほど見つけた救急道具入りの小袋を取り出した。
袋を開け、中に入っていた道具の中から木綿糸の束を掴む。
歯で噛み切って丁度いい長さに整えると、手馴れた手つきで辺りの木の一本にそれを結わえつける。
見えにくくするよう下草に紛れさせながら、ピンと張った糸のもう一端を別の木に結んだ。
本来なら鈴か何かをつけると最良なのだが、あいにくとそこまでの道具はない。
仕方なく、地面に落ちていた木の実をいくつか括り付け、即席の鳴子代わりにした。
「よーし、出来た!」
乱太郎はその出来に満足すると、警戒線に背を向けて腰を下ろした。
無駄な体力を浪費するつもりはなかった。
何かあったときに備え、休めるときは最大限に休んでおいたほうがいいのだ。
木陰に座って身体を休めた乱太郎の休息は、しかし長くは続かなかった
突如、圧倒的な質量を伴った爆音が辺りに鳴り響いた。
鼓膜を襲ったその爆発音は大きく、乱太郎のいる叢からそう離れていないように思えた。
誰かが、焙烙火矢でも近くでぶん投げたのかもしれない。
突然の爆発音に驚いた乱太郎は、急いでその場を離れようとした。
森の奥に向かって走り出そうとしたそのとき、しかし乱太郎は自分の足が何かに蹴躓いたのに気づいた。
「ひゃっ!?」
しかし、気づいたからといってどうなるものでもない。
乱太郎は両足を縺れさせながら、下半身のバランスを崩して顔面から派手にずっこけた。
「いたたた……、一体何さ、こんなところに」
転んだ拍子に木の根で打った頭頂部を擦りながら、乱太郎がよろよろと立ち上がる。
不平を呟きながら足元に視線を向けた彼が見たものは、今しがた自分が張ったばかりの警戒線だった。
哀れ、乱太郎は自分の仕掛けた警戒線に自分で引っかかってしまったのだ。
「あ、あはははは……、って、あぁっ、私のめがねが!?」
流石の乱太郎も、これは少しばかり恥ずかしい。
乾いた笑いでごまかそうとした彼は、しかし途中で大変なことに気が付いた。
めがねが、壊れてしまっている。
乱太郎のめがねは、今の衝撃で弦が斜めに折れ、おまけに右目のレンズが割れてしまっていた。
ひどい乱視の彼にとって、これは死活問題である。
なにせ、めがねなしではろくに足元も判別できやしないのだ。
これでは、うっかり危険な人間の側に近寄ってしまったり、罠のある場所に迷い込んでしまう。
「どうしよう………」
手のひらに乗せた破損しためがねをぼんやりと見つめながら、乱太郎は独りごちた。
いくらなんでも、裸眼のままでは歩き回れない。
だが、そこで乱太郎はあることに気が付いた。
「あ、そうだ。さっきのめがねがあったじゃないか」
それに思い当たった乱太郎は、鞄に手を突っ込んでめがねを取り出した。
何だか都合がよすぎるような気も少ししたが、深く疑わないのがは組流である。
手にしためがねを耳にかけ、ぼやける視界を振り切るようにぱちぱちと瞳を瞬かせた。
だが、視界はさほどよくはならない。何だか、少し度が合わないようだ。
と、そこで、乱太郎はめがねの弦に付いているぜんまいの様なものに気づいた。
もしかしたら、これを回せばピントが合うように作られているのかもしれない。
そう思いついた乱太郎は、めがねをかけたまま、指先で適当に目盛りを動かしてみる。
――瞬間、世界が一変した。
乱太郎の前にあったのは、先刻までの鬱蒼とした森林ではなかった。
木陰が、草花が、茂みが、彼の視界の中から煙のように消え去っていた。
木陰が、草花が、茂みが、彼の視界の中から煙のように消え去っていた。
「え? ……えぇっ?」
突然の、全く思いがけなかった光景を目にし、思わず辺りをきょろきょろと見渡す。
しかし確かに、今まであった目の前の木や草が無くなっていた。
乱太郎は慌てて、今かけためがねを外す。
するとそこにあったのは、さっきと変わらぬ葉の生い茂る森だった。
乱太郎は、何が何だか分からなかった。
だが彼はそこで、先ほどの支給品の中に、自分の読んでいない紙があったことを思い出した。
大急ぎで鞄を逆さまにし、一番奥に挟まっていた紙を開いて中身を読む。
そこには、『スケルトンメガネ:物が透けて見えるメガネ。目盛りで強弱の加減が出来る』とあった。
「すけるとんめがね……? ……なるほど、物が透けるから、透けるぞんめがね!」
乱太郎は、自分なりの言語センスで勝手に納得した。
どうやら、このめがねの効果で視界を覆っていた一面の木々が透けて見えたらしい。
乱太郎は手にしていたそれをもう一度かけ直した。
再び現れた風景に、今度は仰天することなく、落ち着いて周囲を見る。
ぎょろぎょろと忙しなく目の玉を動かしていた乱太郎は、しかしある一点を見た途端凍り付いた。
しかし確かに、今まであった目の前の木や草が無くなっていた。
乱太郎は慌てて、今かけためがねを外す。
するとそこにあったのは、さっきと変わらぬ葉の生い茂る森だった。
乱太郎は、何が何だか分からなかった。
だが彼はそこで、先ほどの支給品の中に、自分の読んでいない紙があったことを思い出した。
大急ぎで鞄を逆さまにし、一番奥に挟まっていた紙を開いて中身を読む。
そこには、『スケルトンメガネ:物が透けて見えるメガネ。目盛りで強弱の加減が出来る』とあった。
「すけるとんめがね……? ……なるほど、物が透けるから、透けるぞんめがね!」
乱太郎は、自分なりの言語センスで勝手に納得した。
どうやら、このめがねの効果で視界を覆っていた一面の木々が透けて見えたらしい。
乱太郎は手にしていたそれをもう一度かけ直した。
再び現れた風景に、今度は仰天することなく、落ち着いて周囲を見る。
ぎょろぎょろと忙しなく目の玉を動かしていた乱太郎は、しかしある一点を見た途端凍り付いた。
そこには、今しも命を奪い合わんとする二人の少年が居た。
片一方の少年は、蹲りぼそぼそと何かを独りごちていた
もう一方の少年は、地に倒れ伏し既に事切れているように見えた。
乱太郎は、二人をもっとよく見ようとめがねの弦に付属した目盛りを回してみた。
この不思議なめがねなら、遠くの小さなものを大きく映すことも出きるのではないかと思ったからだ。
結果から言えば、残念なことに二人の大きさは変わらなかった。
しかし乱太郎の瞳に映る少年たちの姿には、確かな変化があった。
なんと透け方がさらに強烈になり、少年たちの着ていた服が消えてしまったのだ。
男の股間にぶらんぶらんしている物など、見てもちっとも嬉しくない。
目盛りを戻そうとした乱太郎は、瞬間、ふと片方の少年が隠し持っているものに気付いた。
――それは、とてもよく切れそうな大振りの包丁だった。
少年は腰に巻いた太い革紐の間に括り付けたそれを、上着で見えないようにしていたのだ。
もう一方の少年は、地に倒れ伏し既に事切れているように見えた。
乱太郎は、二人をもっとよく見ようとめがねの弦に付属した目盛りを回してみた。
この不思議なめがねなら、遠くの小さなものを大きく映すことも出きるのではないかと思ったからだ。
結果から言えば、残念なことに二人の大きさは変わらなかった。
しかし乱太郎の瞳に映る少年たちの姿には、確かな変化があった。
なんと透け方がさらに強烈になり、少年たちの着ていた服が消えてしまったのだ。
男の股間にぶらんぶらんしている物など、見てもちっとも嬉しくない。
目盛りを戻そうとした乱太郎は、瞬間、ふと片方の少年が隠し持っているものに気付いた。
――それは、とてもよく切れそうな大振りの包丁だった。
少年は腰に巻いた太い革紐の間に括り付けたそれを、上着で見えないようにしていたのだ。
乱太郎は、それに気付いた。
乱太郎だけが、それに気付いた。
倒れていた少年の指先が、小さく動くのが見えた。
彼は、腰に括り付けている包丁をそっとその手に握り締める。
ゆっくりとした慎重にして緩慢な、だからこそ気付かれ難い動作。
少年は既に狙いを定め、包丁を握った手を獲物へと向けている。
一方の相手はそれに気づいていないのか、未だ一人で何かぶつぶつと口にしている。
乱太郎だけが、それに気付いた。
倒れていた少年の指先が、小さく動くのが見えた。
彼は、腰に括り付けている包丁をそっとその手に握り締める。
ゆっくりとした慎重にして緩慢な、だからこそ気付かれ難い動作。
少年は既に狙いを定め、包丁を握った手を獲物へと向けている。
一方の相手はそれに気づいていないのか、未だ一人で何かぶつぶつと口にしている。
『危ない、逃げて! 逃げなきゃ駄目だよ!』
そう、叫ぶべきだった。いや、乱太郎は確かに叫ぼうとした。
けれど、本能的な恐怖感に縛り付けられた喉は、脳からの命令を拒否した。
「に…、逃、げっ……」
声を、発した。発しようとした。
それでも、気道から放たれるのは、呻く様なくぐもった声だけだ。
意味を成さない音の羅列では、当然、茂みの向こうにいる相手には届かない。
そもそも、これだけの木々で隔たれた相手には、よほど大きな声でも出さねば聞こえる筈がない。
……だめだ。早く教えなきゃ。あの人が死んでしまう
乱太郎はそう自身へ言い聞かせ、一度、二度と深く息を肺の腑へ取り込んだ。
しかし、それでも声は出なかった。
けれど、本能的な恐怖感に縛り付けられた喉は、脳からの命令を拒否した。
「に…、逃、げっ……」
声を、発した。発しようとした。
それでも、気道から放たれるのは、呻く様なくぐもった声だけだ。
意味を成さない音の羅列では、当然、茂みの向こうにいる相手には届かない。
そもそも、これだけの木々で隔たれた相手には、よほど大きな声でも出さねば聞こえる筈がない。
……だめだ。早く教えなきゃ。あの人が死んでしまう
乱太郎はそう自身へ言い聞かせ、一度、二度と深く息を肺の腑へ取り込んだ。
しかし、それでも声は出なかった。
早く。 早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く!
早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く!
そう急いる心の声が、乱太郎をさらに追い詰めていく。
焦りは更なるパニックの温床であり、同時に引き金でもある。
乱太郎の焦燥が頂点にまで達する。けれど依然、叫びは出ない。
焦りは更なるパニックの温床であり、同時に引き金でもある。
乱太郎の焦燥が頂点にまで達する。けれど依然、叫びは出ない。
「あ……っ」
そうして乱太郎の眼前で、ついに包丁は振り被られた。
* * *
殺人者が立ち去った後、乱太郎は急いで倒れている少年へと駆け寄った。
手当てをしなければ、と思った。
自分にできるかどうかは分からないが、とりあえずは消毒薬もある。
それに、一応これでも保健委員なのだ。
乱太郎は、寝転がった大柄な少年の脇にしゃがみこんで様子を見た。
包丁は、柄までみっしりと少年の身体に埋め込まれている。
しかし、見たところ出血は少なく、傷口もそう大きくないように思えた。
「よし、とにかく、これを抜かなきゃ」
手当てをしなければ、と思った。
自分にできるかどうかは分からないが、とりあえずは消毒薬もある。
それに、一応これでも保健委員なのだ。
乱太郎は、寝転がった大柄な少年の脇にしゃがみこんで様子を見た。
包丁は、柄までみっしりと少年の身体に埋め込まれている。
しかし、見たところ出血は少なく、傷口もそう大きくないように思えた。
「よし、とにかく、これを抜かなきゃ」
――乱太郎は、メロとは違い医療の知識などほとんど持っていなかった。
十歳の子供にそんな知識を持てというほうが無理な話だったし、そもそも時代が時代だった。
だから乱太郎は、両腕に力を込め、勢いをつけてそれをえいと引き抜いた。
嗚呼、そうしてその結果、
十歳の子供にそんな知識を持てというほうが無理な話だったし、そもそも時代が時代だった。
だから乱太郎は、両腕に力を込め、勢いをつけてそれをえいと引き抜いた。
嗚呼、そうしてその結果、
赤い血が雨のように、少年の全身へ降り注いだ。
生温かく、塩辛く、ぬるりとした感触を持ったそれが、彼の視界を塗りつぶす。
赤く赤く、染め上げられた世界の中、――――絶叫が高く木霊した。
生温かく、塩辛く、ぬるりとした感触を持ったそれが、彼の視界を塗りつぶす。
赤く赤く、染め上げられた世界の中、――――絶叫が高く木霊した。
【E-5/森の中央付近/1日目/朝】
【メロ@DEATH NOTE】
[状態]:健康。『天罰の杖』のダメージはほんのかすり傷程度。
[装備]:天罰の杖@ドラゴンクエストⅤ、賢者のローブ@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:基本支給品(ランドセルは青)、チャチャゼロ@魔法先生ネギま!
[思考]
1) ニアよりも先にジェダを倒す。あるいはジェダを出し抜く。
2) そのために『3人抜き』を達成し、『ご褒美』を貰う過程で主催側の情報を手に入れる。
(ただし自分の非力さを考慮し、策略を尽くして安全確実な殺害を心掛ける)
3) 拡声器で呼びかけている人物(城戸丈@デジモン)への対処、
および湖畔に脱ぎ捨ててある服の主(イエロー@ポケモン)への対処を考え中。
4) どうでもいいが、ドラ焼きでなく板チョコが食べたい。どこかで手に入れたい。
参戦時期:終盤、高田を誘拐する直前。顔には大きな傷痕がある。
[備考] この後、「『悪』の誇り、『悪』の覚悟」の途中へと行動が続きます。
【メロ@DEATH NOTE】
[状態]:健康。『天罰の杖』のダメージはほんのかすり傷程度。
[装備]:天罰の杖@ドラゴンクエストⅤ、賢者のローブ@ドラゴンクエストⅤ
[道具]:基本支給品(ランドセルは青)、チャチャゼロ@魔法先生ネギま!
[思考]
1) ニアよりも先にジェダを倒す。あるいはジェダを出し抜く。
2) そのために『3人抜き』を達成し、『ご褒美』を貰う過程で主催側の情報を手に入れる。
(ただし自分の非力さを考慮し、策略を尽くして安全確実な殺害を心掛ける)
3) 拡声器で呼びかけている人物(城戸丈@デジモン)への対処、
および湖畔に脱ぎ捨ててある服の主(イエロー@ポケモン)への対処を考え中。
4) どうでもいいが、ドラ焼きでなく板チョコが食べたい。どこかで手に入れたい。
参戦時期:終盤、高田を誘拐する直前。顔には大きな傷痕がある。
[備考] この後、「『悪』の誇り、『悪』の覚悟」の途中へと行動が続きます。
【猪名寺乱太郎@落第忍者乱太郎】
[状態]:健康。全身血まみれ。精神的に激しい動揺
[装備]:スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER、包丁
[道具]:基本支給品、旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
酢昆布@銀魂
[思考]
1)自分のせいでジャイアンが死んでしまった、という自己嫌悪感。
2)メロに激しい恐怖心。
[状態]:健康。全身血まみれ。精神的に激しい動揺
[装備]:スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER、包丁
[道具]:基本支給品、旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
酢昆布@銀魂
[思考]
1)自分のせいでジャイアンが死んでしまった、という自己嫌悪感。
2)メロに激しい恐怖心。
【旅行用救急セット@デジモンアドベンチャー】
武之内空が人間世界からデジモンワールドへと持ち込んだ品。
中身は絆創膏と消毒薬と針と糸。
あくまで最低限の応急処置用の品であり、それ以上の処置は不可能と思われる。
武之内空が人間世界からデジモンワールドへと持ち込んだ品。
中身は絆創膏と消毒薬と針と糸。
あくまで最低限の応急処置用の品であり、それ以上の処置は不可能と思われる。
【スケルトンメガネ@HUNTER×HUNTER】
かけると物が透けて見えるメガネ。メモリで強弱の加減が出来る。
かけると物が透けて見えるメガネ。メモリで強弱の加減が出来る。
【酢昆布@銀魂】
神楽の大好物。そよ姫曰く「じいやの脇よりすっぱい!」。
神楽の大好物。そよ姫曰く「じいやの脇よりすっぱい!」。
≪033:天使が来たりて娘ツッコむ | 時系列順に読む | 036:父の力を手に≫ |
≪034:希望ってやつは | 投下順に読む | 036:父の力を手に≫ |
GAME START | メロの登場SSを読む | 058:地獄巡り≫ |
乱太郎の登場SSを読む |