Frozen war/冷戦 ◆CFbj666Xrw
「あたし? あたしは明石薫」
ベルフラウの目の前に現れた少女はそう名乗った。
すぐに目を引いたのはその服装だ。
その衣服はベルフラウが着ているものと殆ど同じだった。
違いは微妙なサイズの違いと一部の色だけだ。
「で、おまえ誰だよ。ていうかなんで葵の制服を着てんだ?」
「こ、この服は支給されただけですわ。それ以上でも以下でもありません」
質問には答えながら、自分の名前についてはさりげなく答えない。
助けてもらったのはありがたいが、信用が置けるかよく判らなかったからだ。
「へー、服なんて支給されたのか。
なんだ、おまえも外れ引いたんだ。ま、元気出せよ」
薫は急に気安げな口調に豹変した。
なにせ薫の支給品は完全に外れであり、それを笑われた怒りで一暴れしたほどだ。
同じ外れを引いたと知ってなんだか親しみが湧いてきたのである。
(……他にも魔法のカードや操り人形を引いた事は言わない方が良さそうですわね)
ベルフラウはそれを直感し、スルーする。
というより状況の変化が激しくてそれより気になることばかりなのだ。
「……ところで、そこの人は誰ですの?」
「へ? …………あーっ、テメーさっきの!!」
ベルフラウが指差した先に居るジーニアスを見て明石薫が沸騰する。
ジーニアスの表情にも焦りが浮かんだ。
「うわ、ヤバッ」
雛苺が吹き飛ばされた時点でさっさと隠れておけば良かったのだが、
一度飛び出した手前か隠れる事もせずに戸惑った事が失敗だった。
いつでも背後にある森に飛び込めるようにと身構える。
「この野郎、さっきはよくもやりやがったな!」
「なに言ってるんだよ、やったのはそっちが先のくせに!」
「なんだよ、あたしはちょっと笑っただけだろ。そのくらいで怒るなよ」
ちなみに薫の記憶には開始直後に笑われて大激怒した自分の事は覚えていない。
ついでに湖を割って相手を力で捕まえて持ち上げる行為がどういう印象を与えたかも気づいていない。
ジーニアスがその点を指摘すれば、もしかすると穏便な関係を作り上げる事が出来たかもしれない。
薫には敵意が有るわけではないのだから。
「そういえばなんか話してたけど、おまえあの呪い人形とどういう関係なんだ?
彗星がなんとかさ。あんな人形が他にも居るのか?」
「な……翠星石はあんなのじゃない!!」
だがより気になる話に移り、ジーニアスは指摘を忘れた。
即座に言い返したジーニアスに、木陰に隠れていたレベッカが少し慌てる。
「お、おい、言い返すのは良いけどあんまりヤバイ事になったら……」
「判ってるよ。だけど……翠星石はよくやったんだ。翠星石は勝ったんだ!
あの深い湖の底で……たった一人っきりであいつと戦って、勝ったんだ。
誰にも翠星石をバカになんてさせるもんか!」
「ジーニアス……」
その想いはレベッカだって知っている――そもそもジーニアスに翠星石の“勝利”を教えたのは
レベッカなのだ――だから、レベッカも何も言えずに押し黙る。
そんな二人に薫とベルフラウは事情が判らずに戸惑うばかりだ。
なにか強い想いを感じさせる懸命な言葉は、如何せん要領を得なかった。
ベルフラウに至っては状況がさっぱり理解できない。
あの不気味な少女人形、薫という少女、謎の少年、隠れているらしいその仲間、それに翠星石なる誰か……
「一体なんの話ですの? というより少しは状況を説明なさい。
何が何だかさっぱりわかりませんわ!」
「それは……」
ジーニアスが言葉を交わそうとしたその時。
「教えてあげる。そいつは殺人鬼よ」
「……え?」
少女の声がどこからか聞こえた。
「まさか……!」
ジーニアスが慌てて振り返った視線の先には、3人の少女が現れていた。
木之本桜。梨々=ハミルトン。
そして……ただ一人ジーニアスが名を知る、仇敵である少女!
「イリヤスフィール! そんな、死んでなかったの!?」
体操服姿の白い少女が杖を片手に、立っていた。
手も足も付いたまま、命を失う事も無く。
ベルフラウの目の前に現れた少女はそう名乗った。
すぐに目を引いたのはその服装だ。
その衣服はベルフラウが着ているものと殆ど同じだった。
違いは微妙なサイズの違いと一部の色だけだ。
「で、おまえ誰だよ。ていうかなんで葵の制服を着てんだ?」
「こ、この服は支給されただけですわ。それ以上でも以下でもありません」
質問には答えながら、自分の名前についてはさりげなく答えない。
助けてもらったのはありがたいが、信用が置けるかよく判らなかったからだ。
「へー、服なんて支給されたのか。
なんだ、おまえも外れ引いたんだ。ま、元気出せよ」
薫は急に気安げな口調に豹変した。
なにせ薫の支給品は完全に外れであり、それを笑われた怒りで一暴れしたほどだ。
同じ外れを引いたと知ってなんだか親しみが湧いてきたのである。
(……他にも魔法のカードや操り人形を引いた事は言わない方が良さそうですわね)
ベルフラウはそれを直感し、スルーする。
というより状況の変化が激しくてそれより気になることばかりなのだ。
「……ところで、そこの人は誰ですの?」
「へ? …………あーっ、テメーさっきの!!」
ベルフラウが指差した先に居るジーニアスを見て明石薫が沸騰する。
ジーニアスの表情にも焦りが浮かんだ。
「うわ、ヤバッ」
雛苺が吹き飛ばされた時点でさっさと隠れておけば良かったのだが、
一度飛び出した手前か隠れる事もせずに戸惑った事が失敗だった。
いつでも背後にある森に飛び込めるようにと身構える。
「この野郎、さっきはよくもやりやがったな!」
「なに言ってるんだよ、やったのはそっちが先のくせに!」
「なんだよ、あたしはちょっと笑っただけだろ。そのくらいで怒るなよ」
ちなみに薫の記憶には開始直後に笑われて大激怒した自分の事は覚えていない。
ついでに湖を割って相手を力で捕まえて持ち上げる行為がどういう印象を与えたかも気づいていない。
ジーニアスがその点を指摘すれば、もしかすると穏便な関係を作り上げる事が出来たかもしれない。
薫には敵意が有るわけではないのだから。
「そういえばなんか話してたけど、おまえあの呪い人形とどういう関係なんだ?
彗星がなんとかさ。あんな人形が他にも居るのか?」
「な……翠星石はあんなのじゃない!!」
だがより気になる話に移り、ジーニアスは指摘を忘れた。
即座に言い返したジーニアスに、木陰に隠れていたレベッカが少し慌てる。
「お、おい、言い返すのは良いけどあんまりヤバイ事になったら……」
「判ってるよ。だけど……翠星石はよくやったんだ。翠星石は勝ったんだ!
あの深い湖の底で……たった一人っきりであいつと戦って、勝ったんだ。
誰にも翠星石をバカになんてさせるもんか!」
「ジーニアス……」
その想いはレベッカだって知っている――そもそもジーニアスに翠星石の“勝利”を教えたのは
レベッカなのだ――だから、レベッカも何も言えずに押し黙る。
そんな二人に薫とベルフラウは事情が判らずに戸惑うばかりだ。
なにか強い想いを感じさせる懸命な言葉は、如何せん要領を得なかった。
ベルフラウに至っては状況がさっぱり理解できない。
あの不気味な少女人形、薫という少女、謎の少年、隠れているらしいその仲間、それに翠星石なる誰か……
「一体なんの話ですの? というより少しは状況を説明なさい。
何が何だかさっぱりわかりませんわ!」
「それは……」
ジーニアスが言葉を交わそうとしたその時。
「教えてあげる。そいつは殺人鬼よ」
「……え?」
少女の声がどこからか聞こえた。
「まさか……!」
ジーニアスが慌てて振り返った視線の先には、3人の少女が現れていた。
木之本桜。梨々=ハミルトン。
そして……ただ一人ジーニアスが名を知る、仇敵である少女!
「イリヤスフィール! そんな、死んでなかったの!?」
体操服姿の白い少女が杖を片手に、立っていた。
手も足も付いたまま、命を失う事も無く。
――そしてそれは、わずか十数秒のやり取りだった。
「よくも……おまえは翠星石のっ」
「そう、あんな死に方をしたくはないわね。誰だって」
ジーニアスの言葉を継ぐように言葉の流れを惑わせて。
「だから提案が有るの。話し合いましょう」
「え……?」
予想だにしない提案で揺さぶって。
「誰かを失った事はとても悲しい事だけれど、それに囚われず力を合わせましょう。
だってそうしないと、また殺し合いになってしまうじゃない」
「な、なにを!」
白々しい一言を叩きつけ。
「どう? お互いに精一杯歩み寄りましょう。今後の為に、悲しみを乗り越えて!」
「このっ、ふざけるなぁっ!」
鮮やかな挑発で相手を飛び込ませた。
「そう、あんな死に方をしたくはないわね。誰だって」
ジーニアスの言葉を継ぐように言葉の流れを惑わせて。
「だから提案が有るの。話し合いましょう」
「え……?」
予想だにしない提案で揺さぶって。
「誰かを失った事はとても悲しい事だけれど、それに囚われず力を合わせましょう。
だってそうしないと、また殺し合いになってしまうじゃない」
「な、なにを!」
白々しい一言を叩きつけ。
「どう? お互いに精一杯歩み寄りましょう。今後の為に、悲しみを乗り越えて!」
「このっ、ふざけるなぁっ!」
鮮やかな挑発で相手を飛び込ませた。
「ファイア・ボール!!」
ジーニアスは雛苺に対して密かにスペルチャージしていた術式を発動する。
即座に生み出された無数の火球は一直線にイリヤへと直進した。
『Round Shield』
対するは魔力の盾。だが――
(薄い……? これなら)
一発目で震え、二発目で歪み、三発目で砕け、四発目で壊れ、五発目がイリヤに撃ち込まれる!
「きゃあぁっ!!」
派手な悲鳴をあげてイリヤが倒れこむ。その姿はあまりに無防備で。
(これなら、行ける!!)
何かがおかしい事に気づかずジーニアスは追撃を掛けようとする。
「ダメだ、ジーニアス!!」
だけどその時にレベッカの声が聞こえて。
「この野郎!!」
気づいたそこには暴力的なエネルギーの奔流が迫っていた!
ジーニアスは雛苺に対して密かにスペルチャージしていた術式を発動する。
即座に生み出された無数の火球は一直線にイリヤへと直進した。
『Round Shield』
対するは魔力の盾。だが――
(薄い……? これなら)
一発目で震え、二発目で歪み、三発目で砕け、四発目で壊れ、五発目がイリヤに撃ち込まれる!
「きゃあぁっ!!」
派手な悲鳴をあげてイリヤが倒れこむ。その姿はあまりに無防備で。
(これなら、行ける!!)
何かがおかしい事に気づかずジーニアスは追撃を掛けようとする。
「ダメだ、ジーニアス!!」
だけどその時にレベッカの声が聞こえて。
「この野郎!!」
気づいたそこには暴力的なエネルギーの奔流が迫っていた!
「くそっ。何するんだよ!?」
ジーニアスの姿はうっすらと半透明の球壁に包まれていた。
イリヤとの戦いでも使ったフォース・フィールドだ。
幸いにも緩衝はしたが攻撃の威力は破壊的だった。
もし直撃していたらと思うと寒気が走る。
「こっちのセリフだ! 何してんだよてめえ!」
「何ってあいつは危険な奴じゃないか! ……あ」
言い返して気づく。
当然だが彼女はイリヤが殺し合いに乗っている事を知らないのだ。
厳密に言うなら明石薫には気づくチャンスが有った。
その前にジーニアスは翠星石を庇うような言動を漏らしていたのだから。
だけど巧みに作り上げた光景は明石薫にジーニアスを悪人だと誤認させた。
そして真相を知らないのは明石薫だけではない。
「イリヤちゃんだいじょうぶ!?」
さくらは心配そうにイリヤに駆け寄る。
「心配ないわ、このくらいなら」
「大丈夫、バリアジャケットは破れてないです!」
リインの言うとおりイリヤは大した傷を受けず、自らの足で立ち上がって見せた。
一発だけの火球は体操服状のバリアジャケットを貫くには至らなかったのだ。
全てイリヤの計算通りに。
(あの少年が使おうとした魔術は三種。
小規模な結界と、恐らく一度撃つと続けざまには撃てない火炎魔術。
それからとてつもない力を感じた、だけどすぐには発動しなかった謎の魔術。
この三つが咄嗟に使う得意魔術だと考えていいはず。
火炎魔術は私の魔術でも一塊を相殺できた程度、一部ならバリアジャケットで止まるわ)
読みは当たった。
イリヤはジーニアスの攻撃を防ぎ、そして自らの攻撃を成功させた。
ジーニアスの姿はうっすらと半透明の球壁に包まれていた。
イリヤとの戦いでも使ったフォース・フィールドだ。
幸いにも緩衝はしたが攻撃の威力は破壊的だった。
もし直撃していたらと思うと寒気が走る。
「こっちのセリフだ! 何してんだよてめえ!」
「何ってあいつは危険な奴じゃないか! ……あ」
言い返して気づく。
当然だが彼女はイリヤが殺し合いに乗っている事を知らないのだ。
厳密に言うなら明石薫には気づくチャンスが有った。
その前にジーニアスは翠星石を庇うような言動を漏らしていたのだから。
だけど巧みに作り上げた光景は明石薫にジーニアスを悪人だと誤認させた。
そして真相を知らないのは明石薫だけではない。
「イリヤちゃんだいじょうぶ!?」
さくらは心配そうにイリヤに駆け寄る。
「心配ないわ、このくらいなら」
「大丈夫、バリアジャケットは破れてないです!」
リインの言うとおりイリヤは大した傷を受けず、自らの足で立ち上がって見せた。
一発だけの火球は体操服状のバリアジャケットを貫くには至らなかったのだ。
全てイリヤの計算通りに。
(あの少年が使おうとした魔術は三種。
小規模な結界と、恐らく一度撃つと続けざまには撃てない火炎魔術。
それからとてつもない力を感じた、だけどすぐには発動しなかった謎の魔術。
この三つが咄嗟に使う得意魔術だと考えていいはず。
火炎魔術は私の魔術でも一塊を相殺できた程度、一部ならバリアジャケットで止まるわ)
読みは当たった。
イリヤはジーニアスの攻撃を防ぎ、そして自らの攻撃を成功させた。
「……どうして?」
さくらがジーニアスに問い掛ける。
「イリヤちゃんは話し合おうって言ったのに。
大切な友達を……殺されたのに……話し合おうって。それなのにどうして!?」
「え!? ち、違うよ! そいつが翠星石を殺したんだ! イリヤは翠星石の仇なんだ!!」
ジーニアスはようやくイリヤが仕掛けた罠に気づいた。
だがもう遅い。
「なんて奴。翠星石を殺しておいて、私が殺したって噂をばらまくつもりよ」
「そんな、ひどい!」
話し合おうというスタンスを見せた者に先制攻撃をしたという事実。
更に本当に失ったのがどちらなのかというミスリードが事態を決定的な物にする。
「違う、ボクじゃない! ボクじゃないんだ!」
悲痛に叫ぶジーニアスの姿が……木陰に引きずり込まれた。
さくらがジーニアスに問い掛ける。
「イリヤちゃんは話し合おうって言ったのに。
大切な友達を……殺されたのに……話し合おうって。それなのにどうして!?」
「え!? ち、違うよ! そいつが翠星石を殺したんだ! イリヤは翠星石の仇なんだ!!」
ジーニアスはようやくイリヤが仕掛けた罠に気づいた。
だがもう遅い。
「なんて奴。翠星石を殺しておいて、私が殺したって噂をばらまくつもりよ」
「そんな、ひどい!」
話し合おうというスタンスを見せた者に先制攻撃をしたという事実。
更に本当に失ったのがどちらなのかというミスリードが事態を決定的な物にする。
「違う、ボクじゃない! ボクじゃないんだ!」
悲痛に叫ぶジーニアスの姿が……木陰に引きずり込まれた。
「ベッキー!?」
「逃げるぞ! 早く!」
レベッカがジーニアスの手を引いて森の中を駆けていく。
森の奥へ、敵の居ないところを目指して。
「で、でも誤解を解かなきゃ! あんなにヒドイ事を言われてるのに」
「誤解解く前に殺されちゃどうしよーもないだろ!」
二人の背後から叫び声が響く。
「待ちやがれこの野郎!!」
最初に追ってきたのはけしかけた張本人のイリヤでもイリヤと居た二人でも無かった。
丁度その場にいた、怒りやすくて単純な、そして強大な力を持った少女。
明石薫が二人を追撃する。
「そうだね……逃げないと。ベッキー、茂みを逃げよう!」
「わかった!」
ジーニアスとレベッカはやや歩きやすい道筋から外れ、茂みへと飛び込んだ。
茂みから木陰へ、木陰から岩影へ、岩影から窪地へ、そしてまた茂みへと陰へ影へと走りいく。
「くそ、どこ行きやがった! …………そこかあ!?」
それに対して薫は、再び障害を破壊する事で捜索を再開した。
木々がへし折れ岩が砕ける暴威が森の中を進み彷徨う。
「逃げるぞ! 早く!」
レベッカがジーニアスの手を引いて森の中を駆けていく。
森の奥へ、敵の居ないところを目指して。
「で、でも誤解を解かなきゃ! あんなにヒドイ事を言われてるのに」
「誤解解く前に殺されちゃどうしよーもないだろ!」
二人の背後から叫び声が響く。
「待ちやがれこの野郎!!」
最初に追ってきたのはけしかけた張本人のイリヤでもイリヤと居た二人でも無かった。
丁度その場にいた、怒りやすくて単純な、そして強大な力を持った少女。
明石薫が二人を追撃する。
「そうだね……逃げないと。ベッキー、茂みを逃げよう!」
「わかった!」
ジーニアスとレベッカはやや歩きやすい道筋から外れ、茂みへと飛び込んだ。
茂みから木陰へ、木陰から岩影へ、岩影から窪地へ、そしてまた茂みへと陰へ影へと走りいく。
「くそ、どこ行きやがった! …………そこかあ!?」
それに対して薫は、再び障害を破壊する事で捜索を再開した。
木々がへし折れ岩が砕ける暴威が森の中を進み彷徨う。
* * *
水が流れる。
無数の気泡が周囲で渦巻く。
水の流れに逆らって川底を進む人形は、誰の目にも止まらない。
誰も知る事なく、少女と南瓜の人形は川底を上流へと遡る。
(ヒナは聞いていたの)
声にならない呟きは、水流に紛れ水面にすら届かない。
だけど雛苺は水面で彼女達の会話を聞いていた。
あの少年と少女の言葉を聞いていた。
『あの深い湖の底で……たった一人っきりであいつと戦って、勝ったんだ』
『そう、あんな死に方をしたくはないわね。誰だって』
それを聞いて雛苺は川底へと潜り、湖へと向かい始めた。
翠星石は殺されたのだ。湖の底で、あの少女と戦って。
つまり翠星石はそこに在る。おそらくは翠星石のローザミスティカも。
(翠星石、今行くの)
川底を少女人形と南瓜のお化けが遡る。
ゆらり、ゆらり、ゆらゆらり。
まるで幽鬼のように、怖ろしく。
無数の気泡が周囲で渦巻く。
水の流れに逆らって川底を進む人形は、誰の目にも止まらない。
誰も知る事なく、少女と南瓜の人形は川底を上流へと遡る。
(ヒナは聞いていたの)
声にならない呟きは、水流に紛れ水面にすら届かない。
だけど雛苺は水面で彼女達の会話を聞いていた。
あの少年と少女の言葉を聞いていた。
『あの深い湖の底で……たった一人っきりであいつと戦って、勝ったんだ』
『そう、あんな死に方をしたくはないわね。誰だって』
それを聞いて雛苺は川底へと潜り、湖へと向かい始めた。
翠星石は殺されたのだ。湖の底で、あの少女と戦って。
つまり翠星石はそこに在る。おそらくは翠星石のローザミスティカも。
(翠星石、今行くの)
川底を少女人形と南瓜のお化けが遡る。
ゆらり、ゆらり、ゆらゆらり。
まるで幽鬼のように、怖ろしく。
* * *
「あ、待って! 一人じゃ危ないよ!」
さくらの制止を聞きもせず薫は森へと突撃した。
やがて木々がへし折れるベキベキとした音、岩が砕ける音が響き始める。
それは力の音であり、争いを感じさせる不吉な音だ。
「ど、どうしよう」
「追って、倒さないといけないわ」
さくらの迷いにイリヤは素早く答えを与えた。
「倒すって……殺すの?」
「そうするしかないでしょ。あいつは悪い奴、なんだもの」
あの少年を悪と偽証する事に一抹だけの迷いを感じた。
少年は敵でしか無いけれど、少年の正義は……本当なら、守りたい側のものなのだから。
「でも生かしておいたらまたどこかで誰かを殺すわ。
さっき追いかけたあの女の子だって危ないかもしれない
もしかして話し合えるかもしれないって思ったけど、やっぱり甘かったみたいだし。
あの魔術だってサクラやリリに当たっていたら危なかったのよ」
「で、でも……」
桜はそれでもそれを認められない。
「それでもやっぱり、殺すなんてダメだよ。捕まえよう。
リインちゃんの力もあれば、きっと傷つけないで捕まえられるよ。それで良いでしょ」
「は、はいです、リインがんばります!」
さくらの期待にリインが元気良く返事する。
リインフォース2の本来の使用法は術者との融合だが、魔力さえ貰えれば自力で魔法を使う事も可能だ。
その中には相手を捕縛するような魔法も含まれている。
イリヤは少し考え、頷いた。
「良いけど危なくなったら無理しないで。私を助けてくれたサクラやリリが死ぬのは嫌だもの」
別にジーニアス達を殺すのを諦めたわけではない。
だって例え捕まえようとして戦うにしても。
(ストラグルバインドで『加減を間違えて』絞め殺しても良いし、
捕まえた後でわざと隙を見せて襲わせて『正当防衛で』殺しても良い。
なんとでもなるじゃない)
捕まえようとした相手が死ぬ可能性なんて幾らでもあるのだから。
焦る理由は何も無い。
さくらの制止を聞きもせず薫は森へと突撃した。
やがて木々がへし折れるベキベキとした音、岩が砕ける音が響き始める。
それは力の音であり、争いを感じさせる不吉な音だ。
「ど、どうしよう」
「追って、倒さないといけないわ」
さくらの迷いにイリヤは素早く答えを与えた。
「倒すって……殺すの?」
「そうするしかないでしょ。あいつは悪い奴、なんだもの」
あの少年を悪と偽証する事に一抹だけの迷いを感じた。
少年は敵でしか無いけれど、少年の正義は……本当なら、守りたい側のものなのだから。
「でも生かしておいたらまたどこかで誰かを殺すわ。
さっき追いかけたあの女の子だって危ないかもしれない
もしかして話し合えるかもしれないって思ったけど、やっぱり甘かったみたいだし。
あの魔術だってサクラやリリに当たっていたら危なかったのよ」
「で、でも……」
桜はそれでもそれを認められない。
「それでもやっぱり、殺すなんてダメだよ。捕まえよう。
リインちゃんの力もあれば、きっと傷つけないで捕まえられるよ。それで良いでしょ」
「は、はいです、リインがんばります!」
さくらの期待にリインが元気良く返事する。
リインフォース2の本来の使用法は術者との融合だが、魔力さえ貰えれば自力で魔法を使う事も可能だ。
その中には相手を捕縛するような魔法も含まれている。
イリヤは少し考え、頷いた。
「良いけど危なくなったら無理しないで。私を助けてくれたサクラやリリが死ぬのは嫌だもの」
別にジーニアス達を殺すのを諦めたわけではない。
だって例え捕まえようとして戦うにしても。
(ストラグルバインドで『加減を間違えて』絞め殺しても良いし、
捕まえた後でわざと隙を見せて襲わせて『正当防衛で』殺しても良い。
なんとでもなるじゃない)
捕まえようとした相手が死ぬ可能性なんて幾らでもあるのだから。
焦る理由は何も無い。
「さっきから何も言ってないけど、リリはどうするの?」
「私は……」
梨々はずっと様子を見て、考えていた。
確かにジーニアスを放っておくのは危険かもしれないと思えた。
(他の誰かが殺されるかもしれない……そう、双葉ちゃんもこの島の何処かに居る。
さくらちゃんの友達だって、リインのマスターさん達だって居る。
悪い人を放っておいたら、双葉ちゃん達が襲われるかもしれない)
それは無いとは言い切れない可能性だ。
それでも梨々は、その可能性を無くす為にジーニアスと戦おうとは思えなかった。
とにかく慎重に行動して危険を避けたいと思っていた。
殺されるのは絶対にイヤだし、そうなってしまえば全て終わりなのだ。
それにジーニアスと戦わなくても別の誰かが彼を殺すかもしれない。
そもそもジーニアスが仲間と遭遇してしかも殺す可能性なんて殆ど無い。
あと、捕まえるだけでも一つ間違えれば殺してしまう危険はあるはずだ。
梨々はさくらよりもそれを許容できたけれど、悪人でも人殺しなんてしたくなかった。
さくらを説き伏せてみんなで安全な場所に隠れながらひっそりと動きたかった。
さくらだって何度も怖い目に遭っているのだ、説得したらきっとそうできるだろう。
――だけど梨々は、そうすれば安全だなんてとても思えなかった。
「私は……」
梨々はずっと様子を見て、考えていた。
確かにジーニアスを放っておくのは危険かもしれないと思えた。
(他の誰かが殺されるかもしれない……そう、双葉ちゃんもこの島の何処かに居る。
さくらちゃんの友達だって、リインのマスターさん達だって居る。
悪い人を放っておいたら、双葉ちゃん達が襲われるかもしれない)
それは無いとは言い切れない可能性だ。
それでも梨々は、その可能性を無くす為にジーニアスと戦おうとは思えなかった。
とにかく慎重に行動して危険を避けたいと思っていた。
殺されるのは絶対にイヤだし、そうなってしまえば全て終わりなのだ。
それにジーニアスと戦わなくても別の誰かが彼を殺すかもしれない。
そもそもジーニアスが仲間と遭遇してしかも殺す可能性なんて殆ど無い。
あと、捕まえるだけでも一つ間違えれば殺してしまう危険はあるはずだ。
梨々はさくらよりもそれを許容できたけれど、悪人でも人殺しなんてしたくなかった。
さくらを説き伏せてみんなで安全な場所に隠れながらひっそりと動きたかった。
さくらだって何度も怖い目に遭っているのだ、説得したらきっとそうできるだろう。
――だけど梨々は、そうすれば安全だなんてとても思えなかった。
(イリヤちゃんは本当に信用できるの?)
ジーニアスの叫びが甦る。
『そいつが翠星石を殺したんだ! イリヤは翠星石の仇なんだ!!』
彼は確かにそう叫んだ。
イリヤの言うとおり、それはイリヤに罪を被せる醜い行為にしか見えないだろう。
だけど梨々には彼が嘘を言っているようには見えなかったのだ。
それからイリヤの言葉も。
『そうするしかないでしょ。あいつは悪い奴、なんだもの』
そう言った時のイリヤの言葉には迷いが混じっていた。
それは人が嘘を吐く時の揺らぎだ。
(もしかしたらあのジーニアスって子の言うとおりなのかもしれない。
本当に悪い人はイリヤちゃんなのかも……)
人を疑う事はとても気持ちが悪かったけれど、それでも状況は信じる事を許してくれない。
梨々は迷った末に、決めた。
「私も、一緒にあいつを追う。放ってなんておけないもの」
同行し、その先で見極めようと。
どちらが悪いのか、それとも両方が悪いのか。
何も知らないでいるのは一番危険なのだから。
ジーニアスの叫びが甦る。
『そいつが翠星石を殺したんだ! イリヤは翠星石の仇なんだ!!』
彼は確かにそう叫んだ。
イリヤの言うとおり、それはイリヤに罪を被せる醜い行為にしか見えないだろう。
だけど梨々には彼が嘘を言っているようには見えなかったのだ。
それからイリヤの言葉も。
『そうするしかないでしょ。あいつは悪い奴、なんだもの』
そう言った時のイリヤの言葉には迷いが混じっていた。
それは人が嘘を吐く時の揺らぎだ。
(もしかしたらあのジーニアスって子の言うとおりなのかもしれない。
本当に悪い人はイリヤちゃんなのかも……)
人を疑う事はとても気持ちが悪かったけれど、それでも状況は信じる事を許してくれない。
梨々は迷った末に、決めた。
「私も、一緒にあいつを追う。放ってなんておけないもの」
同行し、その先で見極めようと。
どちらが悪いのか、それとも両方が悪いのか。
何も知らないでいるのは一番危険なのだから。
「待って。貴方達の中に召喚魔法を使える者は居るかしら」
そしていざ出発、という所でもう一つだけ声が掛かった。
ベルフラウだ。
より優先する目の前の事柄に気を取られ誰も話しかけなかったが、彼女はずっとそこに居た。
ベルフラウもまた、彼女達の騒動に首を突っこもうとはしないでいた。
必要性がなければ、だが。
果たして皆が皆、首を振る。ベルフラウがそれなら良いと言おうとした所で。
「リインの中には召喚魔法の術式も有りますよ。リインにはちょっと難しいですけど」
放っておけない理由が生まれた。
「それ、本当?」
「本当です。でも難しいですから、リインを本来の使い方で使わないと使えないと思います。
マイスターはやてと協力すれば、得意分野では無いですが使おうと思えば色々出来ますです。
それで召喚魔法がどうしたんですか?」
「……私も協力しますわ」
「え?」
首を傾げる少女達にベルフラウは重ねて言った。
「私も協力してあげると言ったのですわ。私は召喚魔法の術師を捜しているの。
だから貴方達に協力してあげます」
「あ、ありがとう。え、えっと、それで……」
「何か?」
喜びながらも少し困った顔をするさくらにベルフラウが問う。
「あなたのお名前、なあに? あ、わたしは木之本桜だよ」
「そういえば名乗っていませんでしたわ。私はベル……で、良いですわ、今は」
言われて気づき、ベルフラウは名乗ろうとして、止めた。
協力するとは言ったが、まだお互いに信用できる段階では無い。
本当はこのベルという愛称は“先生”にだけ許した大切な呼び名だが、今は仕方ないだろう。
悪評をばらまかれる可能性も有るし、少しでも安全に行動すべきだ。
(下手をすればみか先生にまで害が挑んでしまうのだから当然ですわ。
しばらく様子を見るとしましょう)
そんな様子見路線でベルフラウは協力を決めて、状況を推し進める。
「貴方達の名前は聞いて居ましたから自己紹介は後で結構です。
随分遅れてしまいましたわ、早くあの方達を追いかけましょう」
「え、あ、うん!」
さくらがわたわたとする内に場は仕切られ、一同はジーニアスと薫を追って森へと踏み込んだ。
イリヤと梨々はベルフラウに心を許してはいなかったが、一応の集団が生まれていた。
そしていざ出発、という所でもう一つだけ声が掛かった。
ベルフラウだ。
より優先する目の前の事柄に気を取られ誰も話しかけなかったが、彼女はずっとそこに居た。
ベルフラウもまた、彼女達の騒動に首を突っこもうとはしないでいた。
必要性がなければ、だが。
果たして皆が皆、首を振る。ベルフラウがそれなら良いと言おうとした所で。
「リインの中には召喚魔法の術式も有りますよ。リインにはちょっと難しいですけど」
放っておけない理由が生まれた。
「それ、本当?」
「本当です。でも難しいですから、リインを本来の使い方で使わないと使えないと思います。
マイスターはやてと協力すれば、得意分野では無いですが使おうと思えば色々出来ますです。
それで召喚魔法がどうしたんですか?」
「……私も協力しますわ」
「え?」
首を傾げる少女達にベルフラウは重ねて言った。
「私も協力してあげると言ったのですわ。私は召喚魔法の術師を捜しているの。
だから貴方達に協力してあげます」
「あ、ありがとう。え、えっと、それで……」
「何か?」
喜びながらも少し困った顔をするさくらにベルフラウが問う。
「あなたのお名前、なあに? あ、わたしは木之本桜だよ」
「そういえば名乗っていませんでしたわ。私はベル……で、良いですわ、今は」
言われて気づき、ベルフラウは名乗ろうとして、止めた。
協力するとは言ったが、まだお互いに信用できる段階では無い。
本当はこのベルという愛称は“先生”にだけ許した大切な呼び名だが、今は仕方ないだろう。
悪評をばらまかれる可能性も有るし、少しでも安全に行動すべきだ。
(下手をすればみか先生にまで害が挑んでしまうのだから当然ですわ。
しばらく様子を見るとしましょう)
そんな様子見路線でベルフラウは協力を決めて、状況を推し進める。
「貴方達の名前は聞いて居ましたから自己紹介は後で結構です。
随分遅れてしまいましたわ、早くあの方達を追いかけましょう」
「え、あ、うん!」
さくらがわたわたとする内に場は仕切られ、一同はジーニアスと薫を追って森へと踏み込んだ。
イリヤと梨々はベルフラウに心を許してはいなかったが、一応の集団が生まれていた。
* * *
その暴威は相も変わらず出鱈目で、底が無かった。
木々がへし折れ岩が砕け散る力の奔流が荒れ狂い、片っ端から障害物を叩き潰す。
「くそっ、どこ行きやがった!?」
さすがにその息は、荒い。
超能力は特別な使い方をしない限り、体を動かすのと同程度の疲労で使う事が出来る。
薫の場合の力の総量は、本人が未だ有効に使いきれない桁違いの代物だ。
制限下でも尚、使い続けられるエネルギー量は相当な物だった。
それでもこんな使い方をしていれば、いずれ限界も訪れるだろう。
だがそれはもう少しだけ先の話。
振るった腕の先にある木がへし折れ、その先のずっと遠くに二人の姿を発見して。
「待ちやがれ! サイキック森林破壊いぃぃぃぃ!!」
薫は木々をへし折りながら突撃した。
木々がへし折れ岩が砕け散る力の奔流が荒れ狂い、片っ端から障害物を叩き潰す。
「くそっ、どこ行きやがった!?」
さすがにその息は、荒い。
超能力は特別な使い方をしない限り、体を動かすのと同程度の疲労で使う事が出来る。
薫の場合の力の総量は、本人が未だ有効に使いきれない桁違いの代物だ。
制限下でも尚、使い続けられるエネルギー量は相当な物だった。
それでもこんな使い方をしていれば、いずれ限界も訪れるだろう。
だがそれはもう少しだけ先の話。
振るった腕の先にある木がへし折れ、その先のずっと遠くに二人の姿を発見して。
「待ちやがれ! サイキック森林破壊いぃぃぃぃ!!」
薫は木々をへし折りながら突撃した。
* * *
「ダメね、また音が移動したわ」
「リインちゃん、お願い」
「はいです。えーっと……はい、向こうに行ったみたいです」
森に踏み込んでからかなりの時間が経った。
だがさくら達は未だに明石薫やジーニアス達に追いつけずにいた。
彼女達がどこかに居るのは間違いない。時折音は響き続けている。
しかしジーニアス達を捜して四方八方に飛び回る薫に追いつくのはそう簡単な事では無かった。
「……でも少しずつ近づいているわね」
イリヤは言う。
確かに音源は徐々に近づいていたし、リインの探知魔法にはジーニアスも映り始めていた。
追いつめているのだ。
「あ、居た! あそこ、えーっと……」
「明石薫、だそうよ」
「待って、薫ちゃん!!」
さくらが呼びかけ、それに答え振り返る彼女にさくらと、少し遅れてイリヤが駆けていく。
更に遅れて梨々とベルフラウが駆けながら……言葉を、交わした。
「リインちゃん、お願い」
「はいです。えーっと……はい、向こうに行ったみたいです」
森に踏み込んでからかなりの時間が経った。
だがさくら達は未だに明石薫やジーニアス達に追いつけずにいた。
彼女達がどこかに居るのは間違いない。時折音は響き続けている。
しかしジーニアス達を捜して四方八方に飛び回る薫に追いつくのはそう簡単な事では無かった。
「……でも少しずつ近づいているわね」
イリヤは言う。
確かに音源は徐々に近づいていたし、リインの探知魔法にはジーニアスも映り始めていた。
追いつめているのだ。
「あ、居た! あそこ、えーっと……」
「明石薫、だそうよ」
「待って、薫ちゃん!!」
さくらが呼びかけ、それに答え振り返る彼女にさくらと、少し遅れてイリヤが駆けていく。
更に遅れて梨々とベルフラウが駆けながら……言葉を、交わした。
「……ベルちゃんは、召喚魔法というので何をするつもりなの? 本当にそれが目的なの?」
「疑ってるのかしら。私はただ、この島から脱出したいだけですわ。当然でしょう」
ベルフラウはそう答え、逆に言い返す。
「それよりあなたも、あのイリヤという少女をもっと警戒した方が良いんじゃなくて?」
「ベルちゃんに言われるまでも無いわよ」
肯定の言葉が返る。やはり梨々はイリヤを警戒していたらしかった。
それを見てとったベルフラウは梨々に情報を提供する。
「あのジーニアスという少年、翠星石という誰かの事を庇っていましたわよ」
「え……それほんと!?」
「静かに。声を荒げないで。本当ですわ。それもそれにより敵とみなされかねない時に。
嘘だと思うならあの明石薫という奴に聞いてみれば良いでしょう。
ジーニアスが殺人鬼というのは信じていても、翠星石はその仲間だと思っている筈だもの」
それは彼女達に付き合って移動しながらベルフラウが推測した現在の状況だった。
明石薫にとって、翠星石という誰かはジーニアスの仲間であるはずだ。
だが同時に、ジーニアスをイリヤの仲間を殺した殺人鬼だと思いこんだ、らしい。
おそらくポイントは、明石薫はジーニアスが誰を殺したのか理解していない事だ。
つまりジーニアスと翠星石、イリヤと別の誰かのコンビが有って、ジーニアスはその誰かを殺した。
そう勘違いしたのではないかとベルフラウは朧気ながら推測し、事実それは間違っていなかった。
「そんな……それじゃ……」
ベルフラウの言葉を信じるならば、やはり嘘を吐いているのはイリヤなのだろうか。
梨々の中でイリヤへの疑惑が固まっていく。
「疑ってるのかしら。私はただ、この島から脱出したいだけですわ。当然でしょう」
ベルフラウはそう答え、逆に言い返す。
「それよりあなたも、あのイリヤという少女をもっと警戒した方が良いんじゃなくて?」
「ベルちゃんに言われるまでも無いわよ」
肯定の言葉が返る。やはり梨々はイリヤを警戒していたらしかった。
それを見てとったベルフラウは梨々に情報を提供する。
「あのジーニアスという少年、翠星石という誰かの事を庇っていましたわよ」
「え……それほんと!?」
「静かに。声を荒げないで。本当ですわ。それもそれにより敵とみなされかねない時に。
嘘だと思うならあの明石薫という奴に聞いてみれば良いでしょう。
ジーニアスが殺人鬼というのは信じていても、翠星石はその仲間だと思っている筈だもの」
それは彼女達に付き合って移動しながらベルフラウが推測した現在の状況だった。
明石薫にとって、翠星石という誰かはジーニアスの仲間であるはずだ。
だが同時に、ジーニアスをイリヤの仲間を殺した殺人鬼だと思いこんだ、らしい。
おそらくポイントは、明石薫はジーニアスが誰を殺したのか理解していない事だ。
つまりジーニアスと翠星石、イリヤと別の誰かのコンビが有って、ジーニアスはその誰かを殺した。
そう勘違いしたのではないかとベルフラウは朧気ながら推測し、事実それは間違っていなかった。
「そんな……それじゃ……」
ベルフラウの言葉を信じるならば、やはり嘘を吐いているのはイリヤなのだろうか。
梨々の中でイリヤへの疑惑が固まっていく。
「私はこの島を脱出する為に、送還の魔法が使えるような高位の召喚術師を捜しているだけ。
今は、無用な詮索はしないで下さりません事?」
「……うん、判った」
ベルフラウの言葉に梨々は頷く。送還云々は判らないがその目的は理解できた。
だから梨々はベルフラウを信じかけたけれど。
「先生が見つかれば一番なんですけど……本当に居るのでしょうかねえ」
「先生……って、誰?」
「先生は先生です。そういえばあなた、出会ってはいませんか? 私の先生はレックスと言いますの」
「え…………!?」
更なる混乱へと叩き込まれた。
「知っているのかしら?」
「う、ううん、知らない。あ、早く行かなきゃ!」
梨々は慌てて前を駆けるさくらとイリヤ、そして薫に追いつくべくペースを上げた。
その内では新たな疑惑が生まれつつあった。
今は、無用な詮索はしないで下さりません事?」
「……うん、判った」
ベルフラウの言葉に梨々は頷く。送還云々は判らないがその目的は理解できた。
だから梨々はベルフラウを信じかけたけれど。
「先生が見つかれば一番なんですけど……本当に居るのでしょうかねえ」
「先生……って、誰?」
「先生は先生です。そういえばあなた、出会ってはいませんか? 私の先生はレックスと言いますの」
「え…………!?」
更なる混乱へと叩き込まれた。
「知っているのかしら?」
「う、ううん、知らない。あ、早く行かなきゃ!」
梨々は慌てて前を駆けるさくらとイリヤ、そして薫に追いつくべくペースを上げた。
その内では新たな疑惑が生まれつつあった。
(どういう事? ベルちゃんとあの男の子はどういう関係なの? まさか……)
疑惑の種は二つ。
(そういえばあのレックスって子はタバサという女の子を捜していた。
金髪をしているって……ベルちゃんも金髪じゃない。
ベルちゃんが名前を名乗る時もおかしかった。名乗る名前を途中で切っちゃったみたい。
タバサって子は様子からして妹だと思ったけど、教え子でもおかしくないかも……
……そう、なの?)
一つ目はベルフラウがレックスの捜したタバサではないかという事。
(それにこっちに来た理由はあの凄い雷の落ちた場所の様子を見るためじゃない。
もしかしてレックスはこの周辺に居たのかも。ううん、この子とも会ったのかも。
でもそうだとしたら、この子は何が目的で……)
二つ目はベルフラウが既に一度レックスと会っているという事。
絡み合う疑惑は見る見るうちに梨々の心を絡め取る。
そして疑惑は枝葉を伸ばす。
(そうだ、あの明石薫って女の子もちょっと……変。
真っ先に怒って不思議な力で飛んで言っちゃったし、それに……この子と同じ服を着てる。
私みたいに服を支給されたのかもしれないし、考えすぎかもしれないけど……本当に?)
梨々はベルフラウと薫の話を聞いてはいない。
彼女達がその場に現れたのはそれよりほんの少しだけ後なのだ。
(ダメ……さくらちゃん以外がみんな怪しく見えてきちゃう……)
梨々の心中にはイリヤ達への疑惑が根付いていた。
疑惑の種は二つ。
(そういえばあのレックスって子はタバサという女の子を捜していた。
金髪をしているって……ベルちゃんも金髪じゃない。
ベルちゃんが名前を名乗る時もおかしかった。名乗る名前を途中で切っちゃったみたい。
タバサって子は様子からして妹だと思ったけど、教え子でもおかしくないかも……
……そう、なの?)
一つ目はベルフラウがレックスの捜したタバサではないかという事。
(それにこっちに来た理由はあの凄い雷の落ちた場所の様子を見るためじゃない。
もしかしてレックスはこの周辺に居たのかも。ううん、この子とも会ったのかも。
でもそうだとしたら、この子は何が目的で……)
二つ目はベルフラウが既に一度レックスと会っているという事。
絡み合う疑惑は見る見るうちに梨々の心を絡め取る。
そして疑惑は枝葉を伸ばす。
(そうだ、あの明石薫って女の子もちょっと……変。
真っ先に怒って不思議な力で飛んで言っちゃったし、それに……この子と同じ服を着てる。
私みたいに服を支給されたのかもしれないし、考えすぎかもしれないけど……本当に?)
梨々はベルフラウと薫の話を聞いてはいない。
彼女達がその場に現れたのはそれよりほんの少しだけ後なのだ。
(ダメ……さくらちゃん以外がみんな怪しく見えてきちゃう……)
梨々の心中にはイリヤ達への疑惑が根付いていた。
* * *
「なんだよ、こんな方法有るなら最初から言ってくれればいーじゃん」
薫はそれを見て開口一番そう言った。
「だって薫ちゃんが何も聞かずに行っちゃうんだもん。それでリインちゃん、見つかった?」
「はい、探査魔法に反応有りましたですよ」
さくらに提供された魔力でリインが使った探査魔法はジーニアス達の位置を捉えていた。
こちらがどの方向から近づいてきてるのか判らないせいか、その反応の移動方向は回り込む余地がある。
「まだ少し遠いですが、このまましっかり距離を詰めれば追いつけるですよ」
「よし、それじゃあたしが……」
「バカね、あなたが行ったら気づいてまた逃げ出してしまうじゃない。ゆっくり行きましょう」
「ちぇっ。まあいっか、ちょっと疲れてたし」
イリヤにたしなめられ薫は素直に同行を続ける。
その薫に、梨々が横から問い掛けた。
「ねえ薫ちゃん。……翠星石って子の事、知ってる?」
「ん? あのジーニアスって野郎の仲間なんだろ?」
答えはベルフラウの推測した通り。
そしてイリヤがすぐさまそれを訂正に掛かる。
「違うわ。翠星石は私の仲間で、あいつに殺されたのよ」
「え? そうなのか? だけど……」
「あいつが私に罪を着せようとしてるのよ」
しばらく話は続いたが、イリヤが二枚舌で薫を丸め込むのはそれほど難しい事ではなかった。
しかしその様子は梨々に更なる確信と深まる疑惑を与える。
(……多分、イリヤちゃんが悪いのは本当だ。
だけどこの話をしたベルちゃんも、本当に信じられるの?
薫ちゃんと示し合わせているのかも……)
疑心は芽吹き育ち始める。
……イリヤもそれを感じつつあった。
(このリリって子……まさか、気づいてる? ううん、気づきつつあるの?)
二人の少女は互いに警戒しながら、集団としては更なる追跡を続行する。
「距離、詰まってきましたです」
リインの言葉は、到着が近い事を報せた。
薫はそれを見て開口一番そう言った。
「だって薫ちゃんが何も聞かずに行っちゃうんだもん。それでリインちゃん、見つかった?」
「はい、探査魔法に反応有りましたですよ」
さくらに提供された魔力でリインが使った探査魔法はジーニアス達の位置を捉えていた。
こちらがどの方向から近づいてきてるのか判らないせいか、その反応の移動方向は回り込む余地がある。
「まだ少し遠いですが、このまましっかり距離を詰めれば追いつけるですよ」
「よし、それじゃあたしが……」
「バカね、あなたが行ったら気づいてまた逃げ出してしまうじゃない。ゆっくり行きましょう」
「ちぇっ。まあいっか、ちょっと疲れてたし」
イリヤにたしなめられ薫は素直に同行を続ける。
その薫に、梨々が横から問い掛けた。
「ねえ薫ちゃん。……翠星石って子の事、知ってる?」
「ん? あのジーニアスって野郎の仲間なんだろ?」
答えはベルフラウの推測した通り。
そしてイリヤがすぐさまそれを訂正に掛かる。
「違うわ。翠星石は私の仲間で、あいつに殺されたのよ」
「え? そうなのか? だけど……」
「あいつが私に罪を着せようとしてるのよ」
しばらく話は続いたが、イリヤが二枚舌で薫を丸め込むのはそれほど難しい事ではなかった。
しかしその様子は梨々に更なる確信と深まる疑惑を与える。
(……多分、イリヤちゃんが悪いのは本当だ。
だけどこの話をしたベルちゃんも、本当に信じられるの?
薫ちゃんと示し合わせているのかも……)
疑心は芽吹き育ち始める。
……イリヤもそれを感じつつあった。
(このリリって子……まさか、気づいてる? ううん、気づきつつあるの?)
二人の少女は互いに警戒しながら、集団としては更なる追跡を続行する。
「距離、詰まってきましたです」
リインの言葉は、到着が近い事を報せた。
* * *
「……なあ、おまえはどう思う?」
「うん。あいつら、追いついてきてる」
レベッカの言葉にジーニアスが答える。
あの出鱈目な捜索の轟音が止み、追跡も終わると思った。
しかし追跡はむしろ正確さを増しつつあった。
理由は判らないが、どうにかして二人の居場所を把握しているとしか思えない。
「はぁ……はぁ……やべーな…………」
「ベッキー、そろそろ交替しよう。ボクはもう大丈夫だからさ」
「何言ってんだ……まださっきの後、5分くらいしか歩いてないだろ」
レベッカと話すジーニアスの位置は少し高かった。
二人は交替で魔導ボードに乗って逃走しているのだ。
最初はレベッカだけが乗っていたのだが、長引く逃走劇にジーニアスも疲弊したのだ。
幾ら旅や戦いの経験が有るとはいえ、ジーニアスは肉体派ではなかった。
「でも……ごめん、このままじゃ追いつかれる」
「そ、そうか。わかった……ごめん」
しかしもう一方のレベッカには年相応の体力すらなかった。
互いに一言謝り、ジーニアスとレベッカは再び魔導ボードを交替する。
「それじゃあっち……はあいつが一度通ったのかな。木が倒されてる」
「でもあの倒れ方、なんか違わないか?」
「え?」
レベッカの指摘によく見てみれば、確かにその破壊痕は明石薫のものではなかった。
明石薫の破壊の痕は一方向からの直線的なものか、弧を描くにしても遠距離を薙払うような方向を持つ。
破壊の位置も高さはばらばらで、なにより広い範囲と面積を持った破壊の痕ができる。
それに対しその周辺は木々に無数の切り傷が着けられ、粉砕された木も破壊の範囲が狭い。
例えば怪力の人間の攻撃でもこんな様子になるかもしれない。
そしてそこに落ちている桃色の髪の毛は……
「まさか……プレセア!?」
「あ、待て!!」
レベッカの制止を背にジーニアスは飛び出して。
「見つけた!」
「え……!?」
その場所でジーニアスは、追いつかれた事を知った。
『Struggle Bind』
放たれた殺意を秘めた三本の鎖。
それでもまだ距離が開いていた為、その制御は完全ではなかった。
鎖は木に絡まり、地を穿ち、体勢を崩して跳び転がった後の空を噛む。
しかし相手は一人ではなかった。
「リインちゃん、捕まえて!」
「はいです! ――フリーレンフェッセルン(凍てつく足枷)」
ジーニアスの足下から水が噴き出す。
慌てて逃れようとするが体勢を崩した今ではもう遅い。
水はジーニアスの半身を絡め取って凍結する!
「まず……っ」
「うん。あいつら、追いついてきてる」
レベッカの言葉にジーニアスが答える。
あの出鱈目な捜索の轟音が止み、追跡も終わると思った。
しかし追跡はむしろ正確さを増しつつあった。
理由は判らないが、どうにかして二人の居場所を把握しているとしか思えない。
「はぁ……はぁ……やべーな…………」
「ベッキー、そろそろ交替しよう。ボクはもう大丈夫だからさ」
「何言ってんだ……まださっきの後、5分くらいしか歩いてないだろ」
レベッカと話すジーニアスの位置は少し高かった。
二人は交替で魔導ボードに乗って逃走しているのだ。
最初はレベッカだけが乗っていたのだが、長引く逃走劇にジーニアスも疲弊したのだ。
幾ら旅や戦いの経験が有るとはいえ、ジーニアスは肉体派ではなかった。
「でも……ごめん、このままじゃ追いつかれる」
「そ、そうか。わかった……ごめん」
しかしもう一方のレベッカには年相応の体力すらなかった。
互いに一言謝り、ジーニアスとレベッカは再び魔導ボードを交替する。
「それじゃあっち……はあいつが一度通ったのかな。木が倒されてる」
「でもあの倒れ方、なんか違わないか?」
「え?」
レベッカの指摘によく見てみれば、確かにその破壊痕は明石薫のものではなかった。
明石薫の破壊の痕は一方向からの直線的なものか、弧を描くにしても遠距離を薙払うような方向を持つ。
破壊の位置も高さはばらばらで、なにより広い範囲と面積を持った破壊の痕ができる。
それに対しその周辺は木々に無数の切り傷が着けられ、粉砕された木も破壊の範囲が狭い。
例えば怪力の人間の攻撃でもこんな様子になるかもしれない。
そしてそこに落ちている桃色の髪の毛は……
「まさか……プレセア!?」
「あ、待て!!」
レベッカの制止を背にジーニアスは飛び出して。
「見つけた!」
「え……!?」
その場所でジーニアスは、追いつかれた事を知った。
『Struggle Bind』
放たれた殺意を秘めた三本の鎖。
それでもまだ距離が開いていた為、その制御は完全ではなかった。
鎖は木に絡まり、地を穿ち、体勢を崩して跳び転がった後の空を噛む。
しかし相手は一人ではなかった。
「リインちゃん、捕まえて!」
「はいです! ――フリーレンフェッセルン(凍てつく足枷)」
ジーニアスの足下から水が噴き出す。
慌てて逃れようとするが体勢を崩した今ではもう遅い。
水はジーニアスの半身を絡め取って凍結する!
「まず……っ」
そしてジーニアスが焦る猶予すら無く。
横合いの茂みより、一つの小さな影が飛び出した。
「いやああああああああ!!」
裂帛の気合と共に振るわれる得物と風切り音に、ジーニアスは思わず死をも覚悟した。
だが訪れる衝撃は予想より遥かに小さくて、骨が砕ける音も肉が裂ける音もしなかった。
聞こえたのはガラスのように澄んだ氷が粉々に砕け散る音。
それと、少年を気遣う静かな声だけだった。
「大丈夫ですか? ジーニアス」
「え……?」
その声が信じられず茫然と見上げたジーニアスの目に映ったのは、桃色の髪をした少女。
ジーニアスが密かに恋い焦がれる、大切な仲間の姿。
「――プレセア!!」
横合いの茂みより、一つの小さな影が飛び出した。
「いやああああああああ!!」
裂帛の気合と共に振るわれる得物と風切り音に、ジーニアスは思わず死をも覚悟した。
だが訪れる衝撃は予想より遥かに小さくて、骨が砕ける音も肉が裂ける音もしなかった。
聞こえたのはガラスのように澄んだ氷が粉々に砕け散る音。
それと、少年を気遣う静かな声だけだった。
「大丈夫ですか? ジーニアス」
「え……?」
その声が信じられず茫然と見上げたジーニアスの目に映ったのは、桃色の髪をした少女。
ジーニアスが密かに恋い焦がれる、大切な仲間の姿。
「――プレセア!!」
如何なる運命に導かれてか、少女は少年の危機へと間に合った。
≪139:幸せのかたち | 時系列順に読む | 145:明暗≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | 投下順に読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | ジーニアスの登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | ベッキーの登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | 明石薫の登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | 桜の登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | 梨々の登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | イリヤの登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | 雛苺の登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪140:Far lightning/遠雷 | ベルフラウの登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |
≪108:使用上の注意をよく読んでください | プレセアの登場SSを読む | 140:Firing line/火蓋≫ |