混沌の学び舎にて(5) ◆3k3x1UI5IA
【5:そして、天秤を動かしうる少女たち】
灰原哀は、ふと歩みを止めて、顔を上げた。
彼女の肩を借りる格好で階段を降りていた古手梨花は、不審そうに隣の少女の顔を伺う。
彼女の肩を借りる格好で階段を降りていた古手梨花は、不審そうに隣の少女の顔を伺う。
「みぃ、どうかしたのですか?」
「今、遠くで知り合いの声がしたような気がしたんだけど……気のせい、かな」
「今、遠くで知り合いの声がしたような気がしたんだけど……気のせい、かな」
既に哀の両手は手錠に繋がれてはいない。
泣いて泣いて泣きまくって、ようやく涙が引いたところで梨花から鍵を渡され、自分で外し。
そして騒ぎを聞きつけて誰かが来るのを恐れ、2人は移動を開始したのだ。
泣いて泣いて泣きまくって、ようやく涙が引いたところで梨花から鍵を渡され、自分で外し。
そして騒ぎを聞きつけて誰かが来るのを恐れ、2人は移動を開始したのだ。
目的地は、1階の保健室。
梨花は「こんなの大したことないのです」と強がっていたが、それでも打ち身と疲労はかなりのもの。
おまけに、怪しげな坊主の撒いた薬で、身体に力が入らない様子。
哀が傍らで支えていたが、あまり早くは歩けない。
梨花は「こんなの大したことないのです」と強がっていたが、それでも打ち身と疲労はかなりのもの。
おまけに、怪しげな坊主の撒いた薬で、身体に力が入らない様子。
哀が傍らで支えていたが、あまり早くは歩けない。
ちなみに、これは彼女たちが知る由もないことだが――
もし、もう少し教室を出るのが遅ければ、2人はヘンゼルに見つかり、切り裂かれていただろう。
もし、もう少し教室を出るのが早ければ、2人はそのまま保健室に到着し、胸一杯に煙を吸っていただろう。
どちらにしても、ロクな展開ではない。
今彼女たちがいる階段の中間地点、2階と3階の間の踊り場という位置は、まさに運命の分岐点だったのだ。
もし、もう少し教室を出るのが遅ければ、2人はヘンゼルに見つかり、切り裂かれていただろう。
もし、もう少し教室を出るのが早ければ、2人はそのまま保健室に到着し、胸一杯に煙を吸っていただろう。
どちらにしても、ロクな展開ではない。
今彼女たちがいる階段の中間地点、2階と3階の間の踊り場という位置は、まさに運命の分岐点だったのだ。
そこに聞こえたのが、灰原哀の知り合い、江戸川コナンの声――
――のような気がするのだが、哀にもあまり自身を持って断言することができない。
どうやら梨花には聞こえなかったようだが、そうなると……
――のような気がするのだが、哀にもあまり自身を持って断言することができない。
どうやら梨花には聞こえなかったようだが、そうなると……
悪魔の薬、5MeO-DIPT。
体重に比して大目の量を摂取してしまった彼女の身には、未だにその熱が燻っている。
相当に疲れていて良さそうなのに、全く疲労感が無いし、たまに過敏過ぎる感覚がぶり返したりもする。
先ほど聞こえた声が『鋭敏化した聴覚が捕らえた遠くの音』なのか『幻聴』なのか、自分でも自信が無い。
体重に比して大目の量を摂取してしまった彼女の身には、未だにその熱が燻っている。
相当に疲れていて良さそうなのに、全く疲労感が無いし、たまに過敏過ぎる感覚がぶり返したりもする。
先ほど聞こえた声が『鋭敏化した聴覚が捕らえた遠くの音』なのか『幻聴』なのか、自分でも自信が無い。
ただ、それが本当に『声』なのだとしたら、その声は上の方からしたような気もする。
それも角度から考えて、たぶん梨花と哀の2人がさっきまでいた、あの教室のあたり。
それも角度から考えて、たぶん梨花と哀の2人がさっきまでいた、あの教室のあたり。
この広い島の中で、偶然コナンが近くに来ていて、何らかの手段で哀の居場所を知って探しに来た――
いくらなんでも、そんなことは考えにくい。
現実主義者の哀は、普段ならそこまで都合のいい偶然を期待しない。
いくらなんでも、そんなことは考えにくい。
現実主義者の哀は、普段ならそこまで都合のいい偶然を期待しない。
けれど、こうして広い島の中で梨花と巡り会い、救われたのだって、出来すぎた偶然と言えば偶然だ。
80人を越える参加者の中で、梨花以外に哀を救える可能性を持った者がどれくらい居ただろう?
あの異常な状況に対応できるだけの経験と、あの異常な状況から救い出そうとする正義感。
その双方を併せ持つ人間が、どれだけ居ただろう?
80人を越える参加者の中で、梨花以外に哀を救える可能性を持った者がどれくらい居ただろう?
あの異常な状況に対応できるだけの経験と、あの異常な状況から救い出そうとする正義感。
その双方を併せ持つ人間が、どれだけ居ただろう?
自分がいかされたのが「普通では考えられない偶然」によるものなら、もう、そんな偶然を否定できない。
気になって耳を済ませた哀は、そして今度は確かに誰かの声らしきものを聞く。
それは、決して彼女の知る『江戸川コナン』の声ではなかったが。
気になって耳を済ませた哀は、そして今度は確かに誰かの声らしきものを聞く。
それは、決して彼女の知る『江戸川コナン』の声ではなかったが。
「……やっぱり、誰か居るみたい。今度のは聞いたことのない声だけど」
「今のは、ボクにもちょっと聞こえたような気がするのです。
ところで……最初に聞こえたという声の持ち主は、哀にとって『大切な人』なのですか?」
「今のは、ボクにもちょっと聞こえたような気がするのです。
ところで……最初に聞こえたという声の持ち主は、哀にとって『大切な人』なのですか?」
梨花のストレート過ぎる質問に、しかし哀は考え込む。
確かに江戸川コナンやその関係者は、彼女にとっては恩人ではある。
けれど、どうだろう? 梨花が言外に込めたような意味があるような相手とは……。
そんな風に考え込む彼女に、梨花は「にぱっ☆」と笑うと、哀から身を離して向き直る。
確かに江戸川コナンやその関係者は、彼女にとっては恩人ではある。
けれど、どうだろう? 梨花が言外に込めたような意味があるような相手とは……。
そんな風に考え込む彼女に、梨花は「にぱっ☆」と笑うと、哀から身を離して向き直る。
「みぃ、そんな顔して考え込むような相手なら、それは十分に『大切』ってことなのです♪」
「え……?」
「見てくるといいのです。もしそこに『彼』がいるかもしれないのなら、行ってきた方がいいのです。
たとえその確率は僅かでも、ここで行動しないと、きっと後悔することになるのです」
「え……?」
「見てくるといいのです。もしそこに『彼』がいるかもしれないのなら、行ってきた方がいいのです。
たとえその確率は僅かでも、ここで行動しないと、きっと後悔することになるのです」
梨花はそういって、ポケットの中から『勇者の拳』を取り出し、哀に向ける。
その動作の意味するところは、明白だ。
「早くは歩けない自分はここに残して、これを持って『彼』がいるかどうか確認してきて下さい」
けれどそれは、哀を救ってくれた恩人を、学校内に1人置き去りにすることを意味する。
あの変態坊主は死んだだろうと思うが、他にもどんな危険人物が潜んでいるか分からないというのに。
そもそも、最初に聞こえた声が、本当に『彼』のものだという自信は無いというのに。
その動作の意味するところは、明白だ。
「早くは歩けない自分はここに残して、これを持って『彼』がいるかどうか確認してきて下さい」
けれどそれは、哀を救ってくれた恩人を、学校内に1人置き去りにすることを意味する。
あの変態坊主は死んだだろうと思うが、他にもどんな危険人物が潜んでいるか分からないというのに。
そもそも、最初に聞こえた声が、本当に『彼』のものだという自信は無いというのに。
「それは駄目! あなたを置いていくわけにはいかないし、ましてやそれは唯一の……」
「ボクなら適当にどこかの教室でかくれんぼしてるので、大丈夫なのですよ☆」
「ボクなら適当にどこかの教室でかくれんぼしてるので、大丈夫なのですよ☆」
2人にとって唯一の「武器」を、どちらが持つのか。
2人一緒に行動するのか、それとも一旦別行動に移るのか。
そして、上の様子を見に行くことを優先するのか、保健室での治療を優先するのか。
2人一緒に行動するのか、それとも一旦別行動に移るのか。
そして、上の様子を見に行くことを優先するのか、保健室での治療を優先するのか。
哀が簡単には梨花のことを見捨てられないように、梨花の方にも何か強く思うところがあるらしく。
階段の踊り場で、2人の押し問答は続く。
そんなことをしている時間は無いというのに、お互い譲ることもできずに言い争う。
階段の踊り場で、2人の押し問答は続く。
そんなことをしている時間は無いというのに、お互い譲ることもできずに言い争う。
* * *
2人は、まだ知らない。
4階の問題の教室には、今まさに、その江戸川コナンが2人の殺人者に挟まれて窮地に陥っていることを。
1階の保健室では、今まさに、死んだはずの変態坊主がリンクたちを窮地に陥れていることを。
どちらの状況も、少しの刺激でどう転がっていくのか分からない。
自分たちの選択が意味する所を知ることもなく、哀と梨花は、互いを説得しようと言葉を尽くして……!
4階の問題の教室には、今まさに、その江戸川コナンが2人の殺人者に挟まれて窮地に陥っていることを。
1階の保健室では、今まさに、死んだはずの変態坊主がリンクたちを窮地に陥れていることを。
どちらの状況も、少しの刺激でどう転がっていくのか分からない。
自分たちの選択が意味する所を知ることもなく、哀と梨花は、互いを説得しようと言葉を尽くして……!
【階段の半ばで口論する2人。】
【D-4/学校・西側階段(2階と3階の間の踊り場)/1日目/昼】
【D-4/学校・西側階段(2階と3階の間の踊り場)/1日目/昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:色々と疲労困憊。全身に無数の打ち身と擦り傷(骨折などは無い)。腕力低下(ワブアブの毒)
[服装]:体操服。体操着に赤ブルマ着用。
[装備]:勇者の拳(すぐ取り出せるポケットに入れている)
[道具]:基本支給品、5MeO-DIPT(24mg)、平常時の服
[思考]:僕のことは気にする必要ないのです。
第一行動方針:上の階に哀だけでも調査に行かせる。(その場合、『勇者の拳』は彼女に預ける)
第二行動方針:リンクと合流する(リンクが今保健室に居ることは知らない)。
第二行動方針:同行者を増やす。
基本行動方針:生き延びて元の世界に帰る。ゲームには乗らない。
参戦時期:祭囃し編後、賽殺し編前
[備考]:一休さんの事は変態性犯罪者と認識しています。
[状態]:色々と疲労困憊。全身に無数の打ち身と擦り傷(骨折などは無い)。腕力低下(ワブアブの毒)
[服装]:体操服。体操着に赤ブルマ着用。
[装備]:勇者の拳(すぐ取り出せるポケットに入れている)
[道具]:基本支給品、5MeO-DIPT(24mg)、平常時の服
[思考]:僕のことは気にする必要ないのです。
第一行動方針:上の階に哀だけでも調査に行かせる。(その場合、『勇者の拳』は彼女に預ける)
第二行動方針:リンクと合流する(リンクが今保健室に居ることは知らない)。
第二行動方針:同行者を増やす。
基本行動方針:生き延びて元の世界に帰る。ゲームには乗らない。
参戦時期:祭囃し編後、賽殺し編前
[備考]:一休さんの事は変態性犯罪者と認識しています。
【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康、5MeO-DIPTがそろそろ切れる、薬の余韻なのか疲労を感じていない
(完全に切れたら一気にドッと来る?)
[服装]:子供服。着方が乱暴でなんか汚れてる。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、エスパー錠@絶対可憐チルドレン、エスパー錠の鍵@絶対可憐チルドレン
ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)
[思考]:梨花1人、ここに置いてはいけない……!
第一行動方針:梨花の安全を確保し、梨花の傷の手当てをする。
第二行動方針:それが一段落してから、4階の様子を窺いたい。
第三行動方針:罪を滅ぼす方法を考える
基本行動方針:最後まで足掻き続ける。もう安易に死は望まない。
参戦時期:24巻終了後
[備考]:一休さんの事は変態性犯罪者と認識しています
[状態]:健康、5MeO-DIPTがそろそろ切れる、薬の余韻なのか疲労を感じていない
(完全に切れたら一気にドッと来る?)
[服装]:子供服。着方が乱暴でなんか汚れてる。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、エスパー錠@絶対可憐チルドレン、エスパー錠の鍵@絶対可憐チルドレン
ふじおか@みなみけ(なんか汚れた)
[思考]:梨花1人、ここに置いてはいけない……!
第一行動方針:梨花の安全を確保し、梨花の傷の手当てをする。
第二行動方針:それが一段落してから、4階の様子を窺いたい。
第三行動方針:罪を滅ぼす方法を考える
基本行動方針:最後まで足掻き続ける。もう安易に死は望まない。
参戦時期:24巻終了後
[備考]:一休さんの事は変態性犯罪者と認識しています
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