『lakeside love story』

《4日目》

「………起きて。」
誰だよ、まだねみぃ。
「早く起きて。」
あと……10分だけ頼む。
「………………ガブッ」
……いてぇ。
長門だったのか、おはよう。
「……ほはひょふ(おはよう)。」
とりあえず顔洗うから噛み付きをやめてくれ。
「………そう。」
いい加減慣れてきたな、嬉しくないが。

朝飯を食い終わるかどうかの時間に異変が起こった。
……ザーザー
「この音……まさか雨なの?」
ハルヒが顔をしかめて言った。
「昨日はきれいに月が見えていたんですがねぇ……。」

古泉は肩をすくめ、珍しく本当に困ったような顔をして言っていた。
二人とも落ち着け。
しょうがない、天気ってのは人間の力じゃいじれないんだからな。
「でも……あと少しで合宿終わっちゃうのよ!?キョン!あんたはこれで終わっていいのっ!?」
正直、このままなら不完全燃焼だな。
だから、てるてる坊主でも作って大人しく待とうぜ。
「ふ~ん、あんたにしちゃ珍しくいい意見を言うじゃない。じゃあ午前中はミーティングしながらてるてる坊主を作るわよ!」
マジにてるてる坊主作るのかよ……ミスった。

長門がクイクイと俺のシャツの裾を引っ張ってきた。
「どうした?」
「………【てるてる坊主】って何?」
「あ~、なんつーのか晴れるように願うおまじないみたいなもんだ。」
「………そう。」

それからは長門にてるてる坊主の作り方を教えたり、談笑などをして午前を過ごした。
だが一向に雨がやむ気配はないが。
「もう!退屈!なにか起こらないかしら。」
ハルヒは我慢の限界に来てるのか多少機嫌が悪いようだ。
「す、涼宮さん。お、落ち着いて下さい……わひゃっ!」

朝比奈さんがいじられながらも必死に諫めている様子がおもしろい。
しかしこのままだとハルヒが暴走しかねんな。
おい、古泉。
「なんでしょうか?」
「傘はあるか?」
「………?あるにはありますが……」
古泉は不思議そうな顔でこっちを見ていた。
俺は朝比奈さんに絡み付くハルヒを引き剥がしながら言った。
「ハルヒ、おめでとう。」
「……はぁ?」
「お前は俺と一緒に探索する権利を手に入れた。傘はあるらしいから外に行くぞ。」
そこにいる全員が口を半開きにして俺を見ていた。
気にしない。
「行かんなら一人で行くぞ?」

と言い俺は一人で玄関に向かった。
「ちょ、ちょっとキョン!待ってよ、団長はあたしよ!」
知ってるよ。
「知ってるならあたしに仕切られなさい!」
了解、わかったから早く行くぞ。
俺はハルヒと二人でペンションを出た。

外の雨はそんなに大したもんじゃなかったな。
ハルヒと二人で歩いているとすぐに小降りになってきた。
「やんできたわね。てるてる坊主が効いたのかしら?」
さぁな、ただ一人につき3つも作ったのはやり過ぎのような気がしたぞ。
「いいのよ、意外に楽しめたから。」
ま、そりゃそうなんだが。

「ね、ねぇ、キョン。」
二人で黙って歩いているといきなりハルヒが話しかけてきた。
「なんだ?」
「な、何でさ、傘一本しか持ってこなかったの?」

そう。
今俺達はいわゆる《相合い傘》という状態にある。
好きな女と《相合い傘》というシチュエーションを俺は作りたかったわけだ。
しかしそう答えるのもどうかと思いはぐらかした。
「気にするな。それとも俺と《相合い傘》をするのは嫌か?」
ハルヒは少し顔を赤らめて答えた。
「い、嫌じゃないわよ……。少しだけ嬉しいし……。」
「すまん、最後の方が聞こえなかったんだが。」

「……っ!聞こえないように言ったのよ!!バカキョン!」
何を怒っているのかわからないが、ハルヒは歩くスピードを早めた。
俺はしょうがなく歩幅を広げハルヒに追いつき
「ほら、あんまり早く歩くと濡れるぞ。」
と言って俺はハルヒの肩を抱き寄せた。
「!?あ、ありがと……。」
俺達はしばらくの間、他愛もない話をしながら、時にはツチノコを捜しながら歩いていた。

「ハルヒ、体震えてるぞ?大丈夫か?」
「うん、ちょっと寒いだけだから。」
「そうか。じゃあそろそろ戻るか……」

俺の言葉を遮るようにハルヒが腕に抱きついてきた。
「ちょ!?」
「あ~、あんたの腕暖かいわね。戻るまでこうさせてよ。」
右腕に抱きつかれた俺はそのままペンションに帰った。
ハルヒが腕に取りついてる間、俺の左半身は傘からはみだしずっと雨に打たれていた。

今日は太陽が雨雲に隠れて時間が把握しにくかったのか、俺とハルヒが帰りつく頃には5時くらいになっていた。
つまり4、5時間は散歩しながら話していたのだ。
「おかえりなさい、二人とも冷えちゃいましたよね?お風呂は入れてますから入ってください。」

と、朝比奈さんが迎えてくれた。
「ありがとっ!みくるちゃん。……キョン、一緒に入る?」
「ば、バカか!いいからさっさと入ってこい!!」
「あはははっ!冗談に決まってるじゃない。有希っ、キョンが覗かないように見張っててね~!」
「………わかった。」
まったく…、おい、古泉。
何をニヤけている。
「いえいえ、5時間近くも二人きりでいた効果はあったようですね。」
おいおい、まさか……
俺は朝比奈さんを見た。
「あ、わ、わたしキョンくんにお茶!お茶淹れてきます!」
……しゃべったな。
もしかして長門も聞いたのか?

「……応援している。」
まったく……逃げ道すら消される罰ゲーム付きドッキリってなんだよ、畜生。
「「やれやれ。」でしょうか?」
このニヤけ面………なんてムカつくやつだ。

「おっさき~!キョン、入っていいわよっ!」
了解、じゃあ入るか。
「長門、古泉が覗かないように見張っててくれ。」
「………わかった。」
「覗きませんよ。」

俺が風呂から上がり、着替えていると手紙が置いてあった。
『今日の散歩のクジ引きであなたと涼宮ハルヒが同じになるようにする。頑張って。』
この文字は長門か。
「余計なことを……サンキュ、長門。」

聞こえるはずのない礼を呟き、俺は夕食に向かった。

夕食も終わり、片付けをしてる頃にいつも通り森さんがやって来た。
「今日で最後ですね。これ、またデザートです。」
「うふふ、ありがとうございます。しばらく会えなくなると寂しいですねぇ……。」
またハルヒが変な事思いついたら会えますよ。
「そうですね、まだ夏休みも始まったばかりですし……次は早そうですね。」
森さんは苦笑しながら言った。そして満面の笑みを浮かべて続けた。
「今日は涼宮さんと散歩ですよね?頑張ってくださいね!」

……そうか、全ては古泉の計画だということが確信出来たぞ。
全部終わったら痛い目見せてやるか。

俺とハルヒは昼間歩いた方と逆に進み、2日目に一緒に夕焼けを見た場所に向かった。
「ねぇ。」
ハルヒが話しかけてきた。
「なぁ~に思い詰めた顔してんのよ。まさか……あたしを襲うつもりっ!?きゃあ、キョンったらエロいわっ!!」
ハルヒはなんか妙な演技をしながら俺から少し離れた。
「おいおい、そんなことするわけないだろ。しかもお前を襲っても返り討ちに遭うのが関の山だ。」
本音だ。
間違いなくこいつには敵わない。

「確かにキョンに負けるような鍛え方はしてないわね。」
「それより……この景色は夕方より凄くないか?」
俺は指をさした。
そこには、雨上がりの月を映し出した湖と、月明りで露が輝いている草木があった。
神秘的としか言い様のない、湖畔の様子だった。
「わぁ………綺麗………。」
と言ったハルヒの横顔を見たとき、不覚にも俺はクラッときた。
今しかないな。
「なぁ…ハルヒ。」
「なによ?珍しく引き締まった顔して…。」
「お前と会ってから1年ちょい、いろいろあったよな。」
「………うん。」

「かなり振り回されたけど楽しかったぜ、ありがとう。」
「ちょ…ちょっと!なに今生の別れみたいな事言ってんのよ!」
「ははは、悪かった。ちょっと言い方が違ったな。」
「………それで?」
「それでって?」
「話の続きよ!気になるじゃない!」
「そうだったな、じゃあ単刀直入に言おう。好きだ、ハルヒ!」
「……へっ!?今…なんてったの?」
「だからなぁ……もう二度は言わんぞ。好きだ。…長門有希でも朝比奈みくるでもない、俺は涼宮ハルヒが好きだ。」
スタスタスタ……パンッ!
「ビ、ビンタ!?お、お前なにすんっ……」

俺が言い終わる前にハルヒが抱きついてきた。
「……バカ、バカキョン。」
「なんだよ、いきなりはたいて抱きついてバカって……わかんねぇよ。」
「あたしが言おうと思ったのに……。」
「は?……今なんつったんだ?」
「…っ!?もう!あたしもあんたが好きなのよ!これでいいかしらっ!?」
「はははっ、悪い。ちょっとした反撃と……まぁ驚いたんだよ。」
「あたしも……びっくりしたわよ。」
「「……………」」
沈黙。
二人とも顔は真っ赤なまましばらく黙り込んでいた。
「……そろそろ戻ろっか?」
「だな。の、前に…」

チュッ
俺はハルヒにキスをした。
唐突に。
「んっ!?……ちょっと!不意打ちなんて卑怯よ!」
「たまにはいいだろ?俺から攻撃ってのもさ。ほら、帰るぞ。」
と言って手を差し出した。
「……今回だけだかんねっ!次やったら死刑だから!」
ハルヒは俺の手を取り、歩きだした。
強く、離れないようにお互い握り合い、ペンションに帰った。

この日、俺達は『恋人』になった。
恥ずかしい話だが、俺は寝付くまでに4時間ほどかかったな。

《4日目終了》



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