『lakeside love story』

《2日目》

「キョ……起き……い」
ん?
「キョンく……て…ださい」
あ~、朝か……。
まだ……5分はいいか。
「ん~……キョンくん!起きなさいっ!!」
「はいぃっ!」

俺が目を覚ますとパジャマ姿で、ちょっと膨れた怒り顔をした朝比奈さんがいた。
なかなか良いシチュエーションだ。
朝比奈さんの向こうではハルヒが朝飯の準備をしながら笑っていた。
「あははは!あんたみくるちゃんに起こされて『はいぃっ!』だってさ!マヌケだわ、マヌケ!」
く……言い返す言葉が見つからん。

「おはようございます!顔洗って目を覚まして下さいね」
と言って朝比奈さんがタオルを渡してくれた。
やはり優しい。
まだ古泉と長門は起きてないらしく、朝比奈さんは熟睡する長門を起こそうとしている。
……10分はかかりそうだな。

俺は顔を洗い、キッチンに向かった。
「何か手伝おうか?」
ハルヒは少し驚いた顔でこっちを見た。
「へぇ、気が利くじゃない。じゃあそこのリンゴの皮剥きでもしてちょうだい。」
へいへい。
と気のない返事をして作業に取り掛かった。
久々だが……なかなかうまく剥けてるぞ。

このまま最長記録でも作ろうか…「ひええぇぇえ!!」
ガシィッ
プツッ
……痛い。
なにが起こったんですか、朝比奈さん。
「な、なな、長門さんにね、ね、寝ぼけて噛み付かれましたぁっ!!」
それはそうと朝比奈さん。
「は、は、はい?」
血、付いちゃいますよ?
「ひぃっ!ど、どうしたんですかっ、それ!」
連想ゲームしますか?
1、俺はリンゴの皮剥きしてました。
2、あなたに体当たり紛いの攻撃をくらいました。
ここから連想出来ることは?
はい、答えをどうぞ。
ハルヒさん。

「みくるちゃんのぶつかった衝撃で指をサックリ……ってとこかしら。」
ハルヒは俺たちに背を向けて作業したまま答えた。
「正解。さすがだな。」
ふぅ、と溜息一つついてハルヒは続けた。
「皮剥きはみくるちゃんに任せてあんたは処置してきなさい。その後2人を起こしてきて。」
イエッサー、ボス。おっしゃるままに。
と言って、俺は救急箱を取りに行った。

「ご、ごめんなさいっ!」
いや、別に気にしてませんよ。
切った指の処置をしながら俺は言った。
「で、でもぉ……」

「大丈夫ですって。いいから早くハルヒの手伝いしてやって下さい。あと少しみたいなんで。」
朝比奈さんは渋々と俺の側を離れて、ハルヒの方へ行った。
さて……問題はここからだ。
寝ぼけて噛み付く長門…か。
どうやって起こすかな。
しょうがない、無理矢理起こすか。
ペシペシペシ
頬を軽く叩いた。
「お~い、長門~。朝飯だぞ~。」
「……………ん」
お、もう一息か。
ペシペシペシ
この判断が間違ったかな。
「………ガブッ」
……痛い。

「………わらひはふへにひゅうひひょうはへからおひてひふ(わたしはすでに12秒前から起きている)」
オーケー、わかったから噛み付きはやめてくれ。痛い。
「………ついクセで」
なんのクセだ。
とかやっていると古泉はすでに起きて傍観していた。
「朝から面白い人ですね、あなたは。」
好きでやってねぇよ。
お前も顔でも洗ってニヤけ面覚ましてこい。
「承知しました。」

朝食では朝比奈さんは謝り続け、古泉はニヤニヤ、長門は黙々と飯を食べ、ハルヒは俺の傷だらけの右手エピソードでバカ笑いして終わった。

なんだかんだで合宿の1回目不思議探索だ。
クジを作ったハルヒが全員に引かせる。
ええ、俺はまた最後でしたとも。
「あたしは古泉くんとね!今回は不思議な場所は写真に撮って、不思議な物は持って帰ってきなさい!!」
不思議な物ってなにを指すんだ?
「そんなこと自分達で考えなさいよ。それじゃ、しゅっぱ~つ!」
やれやれ。
じゃあ行きますか。
「そ、そうですねっ!行きましょう、長門さん!」
「………そう」
チームワークないな、この組み合わせ。

予想していた通り午前の不思議探索は散々な結果だった。

不思議な場所はなく、写真は撮れずじまい。
長門がキノコを見つける度にそれを収穫し左手はキノコでいっぱいの袋。
………重い。
朝比奈さんは10分に一回はこける。
それを支える俺の右手。
………痛い。

正午の待ち合わせに少し遅れてペンションに到着。
「遅い!何してたのよ!!」
俺はキノコの袋をハルヒに渡した。
「……なによ、これ。」
「長門が感じた不思議なキノコ達だ。昼からはこれを調査しようか。」
俺は苦笑しつつ言った。
ハルヒは長門の顔を見て、微笑んだ。

「有希の直感なら試す価値はあるわね。よし!昼からはキノコを調べまくるわよ!!」マジか?
俺は古泉を見た。
肩をすくめてオーバーアクション。
となると俺のセリフはこれか。
「やれやれ。」

正直、驚いた。
昼からはペンションに何故かある図鑑でキノコを調べていったわけだが……希少なものばかりだ。
さすが長門。
しかし……一番多かった種類のキノコが松茸だったとはな…。
「いや~、さすがは有希だわ!希少なやつは取っといて今日は松茸パーティよっ!」
「長門さん……す、すごいです……。」


昼飯を食うのも忘れて、キノコチェックに勤しんでいた俺達。
すでに日は傾き、真っ赤な夕焼けが出ていた。
俺は眺めの良い場所にハルヒを連れて行った。
「ハルヒ、凄いぞ。此処からの景色は。」
「うわ……」
そこはペンションの近くで深い森が拓けて、湖が見える場所だ。
今にも沈みそうな夕日を湖が映している。
「凄い……。キョン、あんたいつこんな場所を?」
「探索の時にな。お前に見せてやりたくて……っ!」
俺は慌てて口をつぐんだ。
ぐあ、またクサいこと言っちまった!
俺は古泉じゃねぇよ!

「ふぅん……。キョン、ありがとっ。」
ん?
てっきり『なに似合わないセリフ言ってんのよ!バカキョンのくせに!』とか言われると思ったんだが……。
ハルヒの態度がおかしいか?
ははは、そんなことないか。
いつもおかしいしな。
「ちょっと!なにニヤニヤしてんのよ、戻るわよ!キョン!」
うむ、いつも通りだ。

今日の夕食は松茸尽くしだった。
ちなみに持って来た食材はほとんど使われてないため、どこかで埋め合わせに使われるだろう。
やはり、長門とハルヒの大食い対決が始まった。

今日は観戦に回った俺と、いつも通り朝比奈さんと古泉はしっかりと味わいながら食べた。
俺は所々で長門とハルヒにカメラを向け、シャッターを切っては睨まれていた。

「こんばんわ。」
森さん、ご苦労様です。
「いえ、これも仕事ですので」
俺は1皿取っておいた松茸を森さんに渡した。
「これ……松茸ですか?」
少し驚いていた森さんに声をかけた。
「気にしないで食べて下さい。ちょっとしたお礼ですよ。」
とだけ言って、クジを引きにハルヒに近付いて行った。
今日は長門とらしいな。
「じゃ、行くか。」
「……………」

長門は黙ったまま少しだけ頷いた。

俺と長門は湖の回りをゆっくりと歩いている。
少し気になることを聞いてみるかな。
「なぁ…長門」
ゆっくりとこっちを向く長門。月明りに照らされている。
綺麗だな……ってオイ。大丈夫か俺。
「………なに?」
「今日の松茸……ズルしたろ?」
そう、こんな所に松茸がたくさんあるわけないんだ。
ハルヒが望んでいたのも《不思議な物》だしな。
「……………」
長門は黙っていた。
「何もお前を責めるわけじゃない。ただ…理由を聞かせてくれ。」

「……わたしはただあなた達の喜ぶか……違う。楽しむ顔が見たかっただけ。」
長門は続けた。

「あなた達が楽しい顔を見せるとわたしも【楽しい】という感情が出るようになった。情報統合思念体からすると、エラーかもしれない感情。だけど、わたしはその感情を消去したくない。」
「……そうか。だがな、長門…」
俺は立ち止まって長門の顔を見た。
「次からは俺達の楽しむ顔を見たかったら自分の目で見つけた物を出すんだ。そしたら100の笑顔じゃなくて120の笑顔を見せるからさ。」
長門は驚いた顔を見せた、何に驚いたのかは知らん。

「……ほんと?」
「あぁ、約束だ。」
と言って俺は小指を出した。
「……?」
長門はわからないといった表情をして首を傾げたから指切りを教えてやった。
「………指切った。よし、これで約束成立だ。」
「………わかった。それより、キョン。」
お、長門から俺の名前を読んだぞ?どうした?
「さっきのような言葉を言われたらこう言えと古泉一樹に言われている。」
俺は固まった。
「『今のセリフはクサいですよ。よくそんなセリフが言えますね。』と。」
あの野郎……

俺は長門の手を引いて帰った。
その時、少し握り返してきた長門の手の感触が嬉しかったが口には出さん。ハズいからな。
ペンションに着くと、まず風呂に入り汗を流した。
それから古泉をボコボコにして、気分よく寝た。

長門の中に芽生えた新しい感情に喜びを感じながら俺は合宿の2日目を終えた。

《2日目終了》



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