『lakeside love story』

 

《3日目》

 

 

静寂。
俺は目を覚ました。
まだ誰も起きていないみたいだな。
顔を洗い俺は外に出た。
「おぉ…」
そこで感じた物に声をあげた。
小鳥のさえずり、夏を感じさせない心地良い風、そして視界を奪う朝日の白色……
「こいつはすげぇな…」

 

 

俺はどのくらい外に座っていただろうか。
完全に心を奪われていた。
「んっ……キョン?」
その声で俺は我に帰った。
ハルヒだ。
「どうした?」
「いや、目が覚めたらドアが開いてたから……」
そりゃ悪いことをしたな。

 

 

「すまん。それより顔洗ってこいよ、まだ目が開いてないぞ。」
ハルヒは顔を真っ赤にしていた、珍しく恥ずかしいのか。
「……っ!い、言われなくてもわかってるわよ!!」
と言って、中に戻って行った。
「さて、今日は何をするもんかねぇ」

 

 

朝飯はと言うと今日は長門が作るということになっていたが……
「………食べて」
まず、起こす際にまたもや噛まれたわけだ。
もちろん右手だ。
そして準備された朝食が問題だった。
レトルトカレーにキャベツの千切りかよ。
「朝からカレーね……」
「ちょ…ちょっとキツいかもです」

 

 

「昨日キョンくんに殴られた口内が痛いですね…」
それは関係ない。
そもそも俺は顔は殴ってねぇよ。
長門は全員の皿をズイと前に出し、
「食べて。」
と言った。
しょうがない、食べるか。
「パク。…………ん?」
妙にあっさりしているな。
「長門、なにかアレンジしたのか?」
長門はしばらく考え、朝比奈さんを見た後、俺を見て言った。
「……禁則事項。」
か、かわいい…。
ってオイ。俺よ、正気に戻るんだ。
朝比奈さんが真っ赤な顔をして
「な、長門さん!い、い、いただきます!……あ、おいしい…です。」
「………そう」

 

 

長門はホッとしたようだ。
長門の表情の専門家を自負している俺が言うのだから間違いはない。…はず。
結局、古泉もハルヒも大絶賛で長門のカレーを平らげた。
一瞬だけ微笑んだ長門は今日見た朝日のようだった……ってまたキザだな、オイ。

 

 

今日は川に探索に行くらしい。
しかも全員で。
これはハルヒが何を考えているかはみんなわかったようで、みんな少し嬉しそうにしている。
ただ、ハルヒは遊ぶだけではないらしいな。
なんだその網は。
「ん?もちろん捕獲用よ。ツチノコかスカイフィッシュ辺りが欲しいとこね!」

 

 

はぁ、さいですか。
とりあえず全員で湖に沿って歩き、その後少し川を上った。
ええ、やはり荷物持ちでしたよ。

 

 

いい感じに開けた場所に着いた。瞬間に問題発生。
あのバカ……
長門と朝比奈さんの手を引っ張っていきなり川に飛び込みやがった。
もちろん着替えなど誰も持ってないだろう。
「「やれやれ」」
古泉が被せて来やがった。
おい、それは俺のセリフだ。
「いいではないですか。たまには……うわっ!」
言葉を継ごうとする古泉を引っ張り俺も川に飛び込んだ。
朱に交わればバカになるって奴だ。……違う?気にすんな。

 

 

 

2時間程暴れまわっただろうか。
「キョンく~ん、古泉く~ん。ご飯にしましょ~。」
の声で俺達は川から出た。
「全くあなたは……」
ん、なにか言ったか?
「いえ………」
よし、完全に古泉を押さえ込む立場に立ったな。

 

 

 

昼飯は3人の握ったサイズ別おにぎりを長門の作ったカレーに付けて食べると言うものだった。
これまたイケル。

 

 

さすがに遊び疲れたのか、女性陣3人は身を寄せあって寝てしまった。
食事の片付けはもちろん俺と古泉だ。
俺から話を始めるのもありかな。
「なぁ、古泉」

 

 

少し驚いていやがる。そんなに珍しいか、俺は長門か。
「いえ、失礼しました。なんでしょうか?」
「………いや、なんでもない。ただ俺達は良い仲間を持ったよな。」
「……何をいまさら。もう一年以上付き合って今頃気付いたのですか?」
古泉は苦笑しながら続けた。
「あなたには感謝してますよ、心からね。もちろん他の方々にもですが……」
ドンッ!
バシャッ!!
後ろから押されて2人で川に顔から突っ込んだ……ハルヒか。
「あっははは!2人とも、お勤めご苦労!!あたしの寝たフリに騙されるなんてまだまだねっ!」

 

 

川から顔を出し、俺は古泉に言った。
「今なら前言撤回は効くか?」
古泉は大きく肩をすくめ、苦笑した。

 

 

それから、ハルヒは本当に寝たようで起きるまで俺と古泉はずっと3人の寝顔を見ながら話をしていた。
本当に他愛のない話だったがな。
しばらくすると、朝比奈さんが起きた。
「わ、わひゃっ。ふ、二人とも!なに見てるんですかぁっ!」
3人のかわいい寝顔です。
「え、え~と…顔!顔洗ってきます!」
かなり慌てた朝比奈さんはこれまた可愛かったわけだ。
次に起きたのは……どちらでもない。

 

 

つまり起きないまま夕暮れになった。
その上、起こそうとすると、
「こんなにかわいい顔で寝てる二人を起こしちゃダメですっ!」
とか朝比奈さんに言われるため、俺がハルヒを、古泉が長門をおんぶして帰った。
左手で支えつつ、右手で荷物を持つという荒技のおまけ付きだ。
ペンションに着く直前、ハルヒが目を覚ました。
「んぅ………へっ?キ、キョン!?何してんのよ、あんた!」
おんぶでしょう?お姫様。
「ち、ちょっと!恥ずかしいから下ろしなさいよ!」
もうすぐ着くから黙って待っとけ。
「………っ!わかったわよ。」

 

 

というやり取り後、古泉が長門に頭を噛まれるという事件があった後にペンションに着いた。
さすがに疲れたな……。
「キョン…あ、ありがとね。今日は先にお風呂入っていいわよ。で、でも古泉くんも頑張ったから一緒に一番風呂に入りなさいよ!!」
ありがとよ、ハルヒ。
とりあえず古泉に襲われないように気をつけるわ。
「………ご飯はあたし達が作っとくからゆっくりね。」
了解した。
俺と古泉が風呂に行こうとすると、古泉の袖を長門が引っ張っていた。
「おや、どうしました?」
「………ありがとう。それと……大丈夫?」

 

 

古泉は微笑んで長門に言った。
「ええ、気にしないで下さい。僕は頑丈ですから。」
おおう。さすがヤングジェントルマン古泉。
「なんですかね、その気になる名前は。それより早くお風呂で疲れを取りましょう。」
俺は女性陣3人に向かって肩をすくめ、照れながら風呂に向かう古泉の後を追った。

 

 

風呂から上がると夕食が出来ていた。
メインの魚料理をハルヒが、サラダを長門が、デザートを朝比奈さんが作ったようだ。
……黙々と食いつつも、俺は感動を覚えていた。
料理上手すぎるぞ、この3人。

 

 

片付けはまた俺と古泉がして、3人には風呂に入ってもらった。
美味いもん食わせてもらえる礼だよな、古泉。
「まったくですね。僕らは世界一の幸せものかも知れませんよ?」
うむ、異論はない。

 

 

そして森さんが来て、俺は朝比奈さんが作ったデザートのあまりを森さんに出した。
「うわぁ、美味しそうですね。」
ってか美味しいですよ。
「うふふ、キョンさんが言うなら間違いないんでしょうね。ありがたく頂きます。」

 

 

さて、散歩タイム。
今日は朝比奈さんとだ。
正直、舞い上がっているかもしれん。

 

 

「うふふ、そんなに緊張しないでくださいっ。」
え、顔に出てますか?
「いえ、女の勘です♪」
かわいい……。
俺の理性……保つかな?
「………ねぇ、キョンくん。」
はい、なんでしょうか?
「わ、わたしとか、かか駆け落ちしませんかっ!?」
はあ?
「あ、でもこの時間平面だと古泉くん達の機関に見つかっちゃうなぁ……。過去と未来ならどっちが良いですか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!なんでいきなり……そんなことを?」
「わ、わたしがキョンくんを……す、好きだからですっ!」
……落ち着け俺。

 

 

正直予想してなかったぜ。
過去と未来ならどっちかと言うと未来派だが………って違う。
そんなことじゃないだろ。
「あ、朝比奈さん!正直……気持ちは嬉しいです!!だけど……」
俺はもうずっと前から考えていたはずの答えを言った。
「俺はやっぱりハルヒが一番好きです……。みんな好きだけど…すいません。」
朝比奈さんは背中を向けたまま震え出した。
泣いてるのか?
「キョ、キョンくん…うっ……うっ…うふ、うふふふ。あっははは!」
はぁ?笑ってるのか?
しかもめっちゃ晴れ晴れとした笑顔だ。

 

 

「あははは、ご、ごめんなさい。ふふふ、録音しちゃいました!」
俺は凍りついたね。
単独ドッキリですか。
「ああ!そんなに怒らないで!わたしは涼宮さんがかわいそうだからつい…」
ハルヒがかわいそう?
何故だ?
「涼宮さん、今回の合宿はとても期待してますよ~。もしキョンくんが告白出来なかったら涼宮さんにこの音声を聞かせちゃいますねっ!」
なるほど。
ドッキリに加えて強制告白の罰ゲームか。
「でも……わたしがキョンくんを好きなのはほんとですよ?」
へ?じゃあなんで……

 

 

「キョンくんとはこう……なんて言うのかなぁ…」
友達以上、恋人未満ってやつですか?
「そうです!そんな感じが一番気を使わなくて良いかなって……」
「男にとってかなり辛い言葉ですよ?友達以上、恋人未満って。」
俺がわざとらしく悲しい顔をしたら
「ふえぇっ!?そ、そうなんですか?ご、ごめんなさいっ!」
とか言って、
さっきまでのマジメな顔の朝比奈さんはどっかへ行き、いつも通りに戻っていた。

 

 

ま、確かにこっち関係のがいいかもな。

 

 

「さ、急いで戻らないとハルヒにいじめられますよ。」
と言って朝比奈さんの手を握って帰った。
朝比奈さんは慌てていたが、そのままついて来たな。

 

 

ペンションに戻り、俺は寝る前に朝比奈さんに聞いた。
「さっきのドッキリと俺がする返事って規定事項だったんですか?」
朝比奈さんはいつものようにイタズラっぽく微笑み、
「禁則事項です♪」
と言った。
あぁ、もちろん返事はわかっていたさ。
その後、何事もなく全員寝に入ったため俺も寝た。
「みんな、良い夢見ろよ。」と言って、寝た。
「…………クサい。」
……長門の寝言が聞こえた気がした。

 

 

《3日目終了》

 

 

 

 

 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年07月26日 01:34