(この話は長編・「Another Story」の設定を遵守しています)

秋…。盛大な十五夜の団子パーティから1ヶ月が経ち、
ようやく持って夏は列島から去っていったらしかった。
確かに熱くてかなわなかったが、この身体ごとどっかに持って行かれそうになる
冷たさを含んだ風はどうにも苦手だ。矛盾してるねぇ。

深い緑はすっかり赤、あるいは黄色に変わって、
この通学路も売れない画家の絵くらいには様になってるんじゃないかって風情がある。
今日も健気にその絵の中の通行人Aと化している俺だったが、
まぁ、なんだろうね。しばらくは何にもなかったし、まさにそれがゆえ、
そろそろ何かしら発生しなければおかしいのではと考えてしまうのは
もはや職業病、いや、団員病か?そんなものがあればの話だが…。

教室では文化祭の話もちらほら出始めているが、
なんせやる気のないうちのクラスのこと、本格的に動き出すのはもうちょっと
先のことじゃないかね…などと思いつつ、俺は40過ぎの中堅サラリーマンよろしく
よっこいしょといつもの席に腰を下ろす。

窓を開ければ涼しい風が吹いてくるので、もうノートを団扇代わりにする必要もない。
1週間後は中間テストだったが、一瞬思い当たった直後に俺はそのことについての思考を放棄した。

「ねぇねぇ、文化祭でうちのクラスは何をやるのかしら?」
後ろの女、涼宮ハルヒは、シャーペン攻撃と同時に俺の後頭部に言葉を投げた。
「さぁな、このクラスのことだ、出来上がるものもたかが知れてるんじゃないか」
まぁ、うちのクラスに限らず、しょぼい公立高校の文化祭の出しもののアベレージなど、
わざわざここで行数を裂いて語るまでもないね。

だが…このクラスがもし全く無気力なままに文化祭を向かえようとしたら、
それはそれで困った事態になるような予感もしているんだ。
きっと失望したハルヒは、次の瞬間「私たちで何か出し物をすればいいのよ!」とか
言い出すに決まって…

「SOS団でも何かやらない手はないわよね!」

俺がモノローグを終えるまでもなくハルヒは予測を見事に実行してくれた。
もしこの世にハルヒダービーなるものがあれば大賭けの大儲けできるだろうね。
そんなもんが存在した日にはこの世の終わりもいよいよ近いだろうが。

ってなわけで放課後だ。

俺は古泉とまわり将棋をしていた。
おおむね俺が勝っていて、これはまぁいつものことなので特筆すべき点もない。

朝比奈さんは最近紅茶に凝りだしたようで、かつて湯飲みを満たしていた
緑色の液体は、この山の木々と連動するかのように、今は朱色になっていた。
俺としては、今までどおり緑茶であった方がよかったのだが…。

長門は季節が秋になったことに伴って…なのかは分からないが、
読書の秋と脳内プログラムの一行目にコードが書いてあるかのごとく、
普段の倍近い量の(これは俺の感覚測でしかないが)ページを繰っていた。

で、団長様であるが、放課からかれこれ1時間ほど姿を見せない。
同じクラスではあるものの、一緒に部室に行く、なんて
鳥肌の立つ行動をすることは滅多になく、大抵はどちらかが掃除当番だったり、
何かしら思いつきの準備に奔走していたり…まぁそのどっちかの理由で、
俺とハルヒが同時にここの扉をくぐることは少ないのだった。うん。そうなんだよ。

ハルヒが扉を開ける時は、大抵威勢よくバーンと音響がするが、
驚くべき事にかちゃりとノブがひねられ、しずしずと歩を進めてきた。
いや、別に落ち込んだ様子があるわけではない…ように見える。

「さて、今日も部室の掃除をしなくちゃ」
第一声。誰の?分からないか?まぁ無理もないか…。

俺は驚きの連続で、それは他の団員も同じらしかった。
古泉は微笑顔がこころなしか強張っている気がしたし、
朝比奈さんはきょとんとして大きな愛らしい瞳をぱちくりしていたし、
長門ですら先ほどの倍速読書を通常ペースくらいには速度を落として、
目の端でどこかおかしいこの人物を見ているようだった。

さて、無意味に引っ張りすぎたね。そう、つまり、ハルヒが入ってきて早々に
箒片手に掃除を始めやがった。部室の。なぜだ?今まで一度でもそんなことがあったか?

「ふんふんふーん、ふふふふふん♪」

にこやかに笑いながらハミング…しているこいつの行為は、
普段なら朝比奈さんの通常業務で、それはすなわちハルヒは決して自分ではやらないことであり、
簡単に言ってしまえば雑用だった。時によっては俺の役目でもある。

「ハルヒ…?」

俺は上ずった声を抑えられず言った。まぁしょうがないと思う。

「なぁにキョン?私はいま掃除中なの。用件ならあとにしてくれるかしら」

言うなりそのままさっさかとチリトリからゴミ箱へ埃やら何やらを移し、
今度ははたきを持ち出して部室内の壁をぽこぽこやり始めた。
…何だ?急に潔癖症にでもなったのか?ハルヒが掃除?天変地異か?

などと考えるのはさすがにオーバーかもしれないが、それは俺が今まで体験してきた
事柄をふまえての事であって、そういう時は大体こうやって日常に対するささくれのような
出来事が、不意に俺たちの前に去来してくるのであった。
これもそうなのか?

「おっはなに水をーあっげまっしょう~」

掃除が終わると今度は花の水を変えるべく花瓶を持って部室から出て行きやがった。
これはどうなっているのか。俺はすぐさま向かいの人物に対しこう言った。

「今度は何だ?」
「僕が訊きたいくらいですよ」

古泉は未だ強張った微笑フェイスのまま言った。こいつなりに気持ち悪さを感じたのだろうか。

他の2人を見ると、朝比奈さんはふるふると首を振り、長門は最早
倍速読書に戻っていて、長門的には大したことではないらしかったが、
いや真っ当な感性を持つことを自負している俺としてはどうにもむず痒いぞこれは。

またどこかしおらしくハルヒは戻ってきて、花瓶を長門のテーブル脇にそっと置くと、
上機嫌のまま団長机に腰掛けた。のだが…。

「みくるちゃん、お茶くださる?」

この言葉に朝比奈さんは数秒反応できず、なぜって、ハルヒは何かシニカルな調子で
こういう口調をとることはあっても、決してどこかの有名私立校のお嬢様よろしく微笑みかけて
湯飲みをさし出したりはしないだろうから…だ。

明らかにおかしい。どこかバグッたかショートしたか、何かの設定がいじられたか…
とにかくそのようなことがあったとしか思えない。

さらに極めつけは、
「ねぇキョン、今度の休日に一緒に買い物に行きません?」
などと俺の皮膚が分離して脱皮できてしまいそうなことを言い出した。

「…お前、風邪か?」
口をついて出たのはそれだった。うん、きっとそうだ。
こいつは普段風邪なんてものとは無縁の生活を、そうだな、何年も送っていただろうから、
そのツケが今このときに回ってきて、それには季節はずれの花粉症やら何やらも混入されていて、
えーとつまり…

「熱があるんじゃないか?」
俺はハルヒの額に手をあて、残った方の手で自分の額を押さえた。
平熱。俺自身がインフルエンザにでもかかっていない限りこいつはいたって普通である。
俺は今自分なりに普通モードの思考形態を維持しているはずだから、やはりこいつは健康体のはずだ。

「何するんですか?私は何ともありません!離してください!」
ハルヒは少し腹を立てたようだったが、それがまた奇妙だった。
行動で表すのははばかられるから、大人しく首だけ横向けてつんとしているような…。
なんだか元のハルヒがどんなであったか一瞬忘れそうになったが、
部活を作ると言い出したときのあの表情を思い出して俺は何とか自分をつなぎ止めた。

「それで、買い物には付き合ってくれるんですか?」
…えーと、俺は何て言ったんだっけ?

例えばこれが小説だったとして、いきなりこのように人物設定が変えられてしまったら、君は想像がつくだろうか。
いや、俺は当事者である以上想像どころか現状を鵜呑みにしなきゃならんわけだが…。


そんなわけで俺はなぜいつもの待ち合わせ場所に一人でいるんだろうね。

15分前。待ち合わせ場所に着く時には俺はいつだって最後で、
それは誰かの謀略でしかなく、それがハルヒによるものであれば俺は両手を上向けて
いつもの言葉を言うしかないのだが、今日のこのシチュエーションは一体どういうことであろうか。

のっけからぶったまげる事うけあいなセリフをハルヒは言った。
「遅れてごめんなさい!待ちましたか?」

小首を傾げてこっちを上目遣いでうかがっていやがる!

「ちょっと待ってくれ」

俺は近くの公衆トイレに向かい、自分が見たこともないような複雑な表情、
というより、取るべき表情を選びすぎた結果全部足して平均を取ったような、
何だか分けのわからん表情をしているのをみて、顔を洗って頬をぴしゃりと叩いた。

さし当たっての処置として、俺はこいつ、隣りで端整な表情を前に向けている女を別人として扱う事にした。
そうだ、俺はふとした事で知り合った女性と今日この日だけ買い物に付き合って、
その後は笑ってバイバイ、あぁ楽しかったねと無事ウィークデーに復帰するわけである。
学校でならまだ他の団員がいるわけだし、こんな切り替えをせずとも何とかなる…というかなってくれ。

「前から買いたかった服があって…貯金してたんです」
とこのどこかの国の住人さんは言った。
ん?いや、どこかの町に住む少女は言ったんだよ。うん。
買い物場所は待ち合わせの駅に唯一あるデパートの女性服売り場だったが、
こいつのチョイスを見た俺は思わずギクリとしてあたりをキョロキョロしてしまった。

今のうちに言っておこう。今日の俺は自意識などとうにわやになっていた。と。

これは明らかに朝比奈さんの守備範囲だろう。
お嬢様風というか、どこかのパレスガーデンを歩いてそうというか、
日傘もオプションでつけたら素敵ですね…みたいな。まぁ…そんなの…だ。

眩暈がした。何にかは俺には分からないぜ。
今日一日こいつはこの格好で街を歩くつもりなのか…。

「楽しいですね、ふふ」
悪い予感ばっかり当たるのは何故だろう。分かった人はここに特電をかけてくれ。
ちなみにイタズラ電話やら出前と間違えてかけたなんてのは勘弁だぜ。

これは第三者から見たら、というか、俺から見たって何の変哲もないデートであった。
ちょっと待て、これはないだろう、以前の問題だ。
どこぞの三流作家でもこんなベタな展開には飽き飽きだろうが。

「お前、正気なのか?」
「何がですか?」
「っていうか何で俺だけ呼ぶんだよ」
「だって、いつも5人だったでしょう?たまにはいいかなと思って…」

そんな可憐になるな。うつむいてしゅんとするな。映像担当の人が困るだろ。
いやそんなことはどうでもいいんだ。

「お前昨日の記憶あるか?」
「昨日?」

時間は昼になっていて場所はレストランになっていた。
今のところお馴染みの喫茶店の出番はないらしく、マスターの顔を拝むのはしばらくおあずけかもしれん。

「そう。特に昼以降のだ。」

こいつが普通だったのは昨日の授業中までだと思うが、
昼休み以降は会話した覚えもなかったので、そこから先は普通だったか疑問である。

「そうですね…昨日は、お花に水をあげて、掃除をして…」

言葉だけ切り取ればそのまんま朝比奈さんな文面だったが、声の主は間違いなくハルヒで、
見ていると混乱した挙げ句思考に支障をきたしそうだったので俺は片手をテーブルにおいて
頭を抱えるように視界をさえぎった。

「その前は…図書室に行っていました」

あの1時間か。それで?何でまた図書室なんかに行ったんだ?らしくないな。

「えぇっと…ファンタジーの資料というか、物語を集めに…」

まさか文化祭の出し物の準備じゃないだろうな…。

「そうですよ?クラスでやるものを提案しようと思って」

どうやらキャラクターまで変わってしまったらしい。
きっと今のこいつなら道端に落ちてる1円玉ですら拾って交番に届けるだろうし、
もちろん老人や妊婦がいたら席を譲り、もしかしたらタバコの吸い殻とか空き缶ですらちゃんと
クズカゴにいれるかもしれない…。

「その時に、何かおかしな物はなかったか?」
「おかしな物?」

だからきょとんとするな。そしてそれを見るな俺よ。
これはよくあるヒーロー物の悪の組織が俺をたぶらかすために仕組んだ演技だと思え!
内なる波をなんとかいなしながら俺は質問を続ける。

「そうだ。例えば本のひとつから妙な感じがした、とか、
司書のおばちゃんの視線が何か不自然だった、とか」
「そんなことないですよ?本は綺麗でしたし、おばさんはいい人でした」

…見当がつかん。所詮俺ひとりで解決するのは無理なのか。

その後の俺は混乱するだけで一日を終え、帰ってきて
今までのSOS団市内探索のどの回より疲労していた。あいつは誰だ。

ベッドに突っ伏してそれらしく唸っていると、かちゃりと扉が開いて妹が顔を出した。

「お兄ちゃーん、ノリ持ってなーい?」

俺はそのまま机の方を指差して、後は何も言わなかった。
…えーっと、涼宮ハルヒはSOS団団長でフランクかつハイテンションのヒステリック…。
などと特徴を脳内で箇条書きにしているうちに俺は眠ってしまった。

何となく、俺はこの問題に関しては誰の助けも借りたくなかった。
どうも問題はハルヒの性格ダイアルが反対方向に回ってしまったことのみらしく、
それで他に問題が起きるとも思えず、むしろ迷惑自体は地球全体で見れば減っているはずだ。
だが戻さないわけにはもちろんいかない。ハルヒがこのままだったら俺は一週間もしない内に発狂する。

二時限目だった。数学の吉崎がねちっこく新しい公式を説明していた。なんのこっちゃ。
「やれやれ」
我ながら今日のこのセリフには覇気がなかった。いや覇気というのか分からんけどもだ。

転機となったのは昼休みの国木田のこのセリフだった。

「昨日の涼宮さん、何か変じゃなかった?」

いや今日も順調に変だぞ。大好評継続中だ。なんて授業中じゃ分からんか。
というか変なのは年中そうなのであって、今回は変なのが普通になったから変なわけで…。

「そういや今日も何となく大人しいな」
谷口が唐揚げを口に含みながら言った。
「うん、何か昨日の昼休みの初め、ぼーっと空を見上げてたんだ」
国木田が答えた。別に窓の外を見てるのは珍しいことじゃない。
「でもね、何だかそこに何か見えてるような視線だったなぁ」
「涼宮が普通の人間には見えないものを見てるのはいつもの事だろ」
谷口が言い飽きたと言わんばかりに返す。

「どのへんを見ていたか分かるか?大体でいいんだが」
俺は国木田に訊いて、国木田は窓から右、校庭の先には街並みが広がっているだけの方向を指差した。
すぐさま窓に近付いてそっちの方を見てみたが、もちろん何もない。
「そりゃそーだろ。キョン、お前は普通の人間なんじゃないのか?」

もちろんさ、谷口のこの言葉に含みなんかなく、文字通りの意味だろうが、
俺はいつだって面接で言ったら即不採用になりそうな妙な経歴はない。

さて、俺は部室で悶々としていた。
ここで何も思い浮かばないようなら通例に則って古泉、または長門あたりに助けてもらうことになりそうだが。

「お困りでしたら、相談相手になりますよ」
という古泉の申し出を俺は「まだいい」と言って断った。
長門はその時だけこちらを見ていたが、それを聞くとすぐに倍速読書に戻った。
せめてあと1日粘ってみよう。自分でも何故こんなに頑固になっているのかは分からない。
そういう時だってあるもんだ。思春期のせいにでもしとけ。

ハルヒは今日も掃除と水替え、さらには朝比奈さんの仕事を奪ってお茶汲みまでおっぱじめた。
「あの…それは私が…」との朝比奈メイドの言葉に、ハルヒは
「いいんです。いつもやってもらっていますから、たまには私が」と、
歯が20本総出で緩んで外れてしまいそうなことを言い、ついでに
「キョン、今日も付き合ってほしいところがあるの」
と言って俺を完全にノックアウトした。

俺だってもううんざりな心持ちさ。
いっそ俺も呆我してしまえればよかったが…まだくたばるには早い。

ハルヒが俺を誘ったのは、自宅からさほど遠くない小さな公園だった。

「私ね、たまに不安になるのよ」
「何が?」
半ば投げやりに俺は言った。例によってハルヒの方は見ない。

「SOS団の皆は私のことをどう思ってるのか」
これには虚を衝かれた。突然そこに戻るんだな。

「だって、私が作った団体だもの…。毎日が楽しくなればいいと思って」
今のこいつの脳内でどういう経緯と設定があったのかは知らないが、
少なくともどうやってかハルヒが団員を集めた事には変わりないらしい。

「だから古泉君や有希、みくるちゃんが退屈してないか、たまに不安になる」
退屈とはむしろ逆の方へ向かう事しばしなのでそのへん心配はないが、
これは果たしてこのハルヒ限定のことだろうかと、ふと俺は思った。

「ある日突然、皆がいなくなってしまうんじゃないかって、時々思う」
気付けばハルヒの方を向いてしまっていた。が、別人だと思う必要はないように感じられた。
あの七夕の日の、どこか物憂げなハルヒがそこにいて、一時的に人格が変わっていようが、
そういったごく稀に見せる部分は共通項としてこいつの中に存在しているらしかった。

「だから、そんな時にふっと窓の外を見たりして…」
ハルヒはくすっと笑って、どうやら別人格モードに入りそうだったので俺は再び前を向いた。
「あ。あのな、ハルヒ」
「なに?」

視線を感じたがそれには応じない。

「そんな心配は全くの思い過ごしなんだ。俺は、いや、お前以外のSOS団団員は、
この団に入ってよかったと思ってるし、そうでなかったらきっとこの日常はありふれた
つまらないものになっていたとも思ってるぜ」
「…。」

ハルヒはまだこっちを見ているようだった。何かを言いそうにはないので、俺は続ける。

「だからな、そんな事は取るに足らない。お前はこれからも団長でいればいいし、
思いついたことをどんどんやってくれれば、それで俺たちは楽しいんだよ」

このハルヒが実行する思いつきは果たしてどんな物になるのだろうと思いつつ、
しかしそれに対し自分で答える間を与えず、ハルヒは言った。

「そっかぁ…。そうだよね」
「あぁ、気にしなくていい、お前が憂鬱だと皆が元気じゃなくなるぜ」
「ありがとう、キョン」

ハルヒはぼーっと空を見上げた。もう夜だった。
曇りらしかったが、切れ間に星が見え、輝きを返す。
―その時だった。

ハルヒが急に動かなくなり、一瞬目に暗闇が落ちた…と思いきや、また輝いて、気を失った。
「ハルヒ!」
俺は頬を叩いた。いきなりどうしたんだ??
「ハルヒ!しっかりしろ!」
「…」
「ハルヒ?」
「…ん?」
「大丈夫か?」
「…キョン」
「あぁ、俺だ。大丈夫か?お前…」
「何やってんのよ」
「何ってお前…」

バシッ!
ある種王道、と呼べなくもない展開である。
なぜなら、俺はハルヒが倒れた拍子にこいつを抱き起こしており、
それで何故叩かれたかというと、もちろんさっきまでのこいつならそんなことはしないはずで、
つまり端的に言ってしまえば…戻ったのだ。こいつは。
何でだろう?

「あんた、あたしになにしてたのよ!」
「何って、何もしてない」
俺は断固として言った。ハルヒに何かしてひっぱたかれるくらいなら、
いっそ朝比奈さんを抱きしめてアイラブユーとでも言った後にこいつに
絞首刑にされるほうを俺は選ぶね。

「そもそも、あたし何でこんなところにあんたと二人でいるのよ!」
お前が誘ったんだ、と言うと今度は平手がグーに変わりそうだったので、
「お前が俺の家で文化祭の計画を練るって言った帰りに、お前は失神した」
と言ったが、こいつは簡単には信じず、
「あたしが失神?何でよ、そんな経験今まで一回もないわよ」
だが起きてしまったんだ。と結果論でまとめようとした俺に、
「じゃぁすぐさまあんたん家で文化祭の企画を考えるわよ!
っていうか何であんただけなわけ?今からでもみくるちゃんと古泉君と
有希を呼びなさい!」
まず命令すんのかよとわざわざ言ったりせず、
俺は携帯を取り出してプッシュを開始する。

そうして見事に、文化祭企画会議第一回が開催されることに…なってしまった。

「涼宮ハルヒはこの星系から7つ離れた空間に位置する意識体の発信した念波を受け取った」
…長門の説明である。

普通の人間であればもちろん受信できないし、現時点で地上のいかなる技術力をもってしても、
それを確認できる距離にはないそうだ…。
相変わらずデタラメだな。俺が傍観者なら笑い飛ばしているところだ。
だが長門はいつだって真実しか言わないのである。
少なくとも長門が嘘を言った事はこれまでにない、はずである。

その念波によってハルヒはあの性格になっちまい、
さっきの星の方角にあった逆の波動によって元に戻った、と、
何とも後付け設定的匂いのプンプンする解説だぜ。
これが古泉のものだったら俺は脳に止める事を拒否していたかもしれん。
ちなみに波動はピンポイントなもので、今後地球に命中する確率は天文学的数値らしい。

ふと俺はさっきまでのハルヒを思い出し、外に鳥肌、内に吐き気を感じ、
すぐさま休日の出来事も一緒にフォルダごとごみ箱に捨ててしまった。

ハルヒは5人で入るには狭すぎる俺の部屋で、ベッドの上で仁王立ちして計画をぶち上げた。
…それはまぁ置いておくとして、こんな事件はいい加減マンネリではないのかね?
などと考えつつSOS団員達を睥睨して、溜息。

それでも感情は裏腹だな、と気付いてしまった事は、俺の胸の家だけに秘めておこう。
ごみ箱に入れただけで完全に消去してはいない、あのハルヒの記憶と一緒に。


   終了

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最終更新:2007年01月14日 01:46