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2話


「わたしがうかつだった。わたしのせい」
 喫茶店に着くと、いきなり反省モードの長門がいた。
 いったいどうしたってんだ?
 そこからは、長門は黙り、古泉が話し始めた。
「実はですね、僕達の周りの環境が少しだけ改変されたのですよ。世界的には全く影響はありませんが」
 ……もっと詳しく分かりやすく説明しろ。
「ですから、昨日の僕達の会話を涼宮さんは聞いていたのでしょう。そして、あなたの妹という立場に興味を持った……。
 たぶん、あなたが妹さんを抱き締めたのも見てたのでしょうね」
「わたしが、《兄妹》という概念についてあなたの妹に聞いたのが原因」
 あぁ、あれか。となると、あいつはあの時寝たフリ状態だったわけだ。やっかいな奴め。
 それで、何であいつが俺の妹になりたいと願ったんだ? そしてお前等は何故、改変の影響を受けていない?
「後者の質問については、朝比奈さんが『涼宮さんの様子が少しおかしかった』と言われたので、
 長門さんが一応ナノマシンを注入してくれたのですよ。前者については……」
「キョンくん、もう少し女の子の気持ちをわかるようになった方がいいです」
 ……朝比奈さんが俺を責める理由がわからん。
 ともかく、世界が改変されたのはわかった。……戻せるんだよな?
「それは可能。ただ、わたし一人の力では不可能だから、他のインターフェースの協力を要する」
 そうか。どのくらいの間、俺はハルヒの兄でいればいいんだ?
「不明。可能な限り早く元通りになるように努力はする」
 ……わかった、頑張ってくれ。その間はハルヒを妹として扱っておくよ。

 俺はそう言うと、喫茶店を後にしようとした。……が、古泉に止められた。
「一応伝えておきますが、僕達は二年生、涼宮さんだけ一年生です。そして、力もいつも通りあります」
 つまり何が言いたい。
「精神が不安定になりがちな時期ですので、可能な限り不機嫌にしないようにお願いします」
 ……頑張ってみるさ。

 自転車に乗って家に帰る途中、俺は頭の中で愚痴っていた。
 能力が出て来た4年前の出来事を経由してないのに、無意識に能力を残すなんて、かなり都合のいい改変だな。
 ……そして、何で俺の妹なんだよ! あんな妹が居たら落ち着いてられないだろ!
 危うく叫びそうになる気持ちを抑え、その分を自転車のペダルにぶつけた。
 その甲斐あって、いつもより早く家についちまった。……しまった。
 ただいま。
「キョン兄! ご飯も食べないでどこ行ってたのよ! もう片付けちゃったわよ!」
 あぁ、悪い。ちょっと友達に呼び出されたんだ。飯はいいよ、昼飯と一緒にする。
 そう伝え、そのまま自分の部屋へと戻った。
 今は一刻も早く頭の中を落ち着かせ、この環境に対応出来るような思考を作らねばならん。
 ……ふぅ、胃が痛いぜ。元気が出ない。
 ストレスと戦いながら長門が元に戻すのを待つ……か。胃に穴が開くのとどっちが先だろうか?
――コンコン――
 ノックの音……誰だ?
「あたし。入っていい?」
 ハルヒがノックした上に入室許可を取るなんてらしくないが、一応兄妹としてのプライバシーとやらが出来ているからだろう。
 用があるなら入っていいぞ。
 ハルヒはゆっくりとドアを開けた。……飯?

「これ、取っといたから温めてきた。あたし、ここで待ってるから早く食べて」
 そっか。……ありがとな、ハルヒ。
「ば、バカ! せっかく取っといたんだから捨てるのもったいないだけだからね!
 ここに残ってるのも、キョン兄が片付け出来ないからなんだから!」
 わかったわかった。じゃあ急いで食うからちょっとだけ待っててくれ。
 意外にも当たり前のように適応出来ている自分に驚きつつ、朝食を食べた。
 ハルヒも、妹と同じように扱えば何の問題もないな。
 黙々と食べる俺、それを黙って見つめるハルヒ。その静寂を破るように妹が俺の部屋に入ってきた。
「ハルにゃ~ん、わたしもお腹空いたよぉ」
「あんたはさっきデザートまで食べたでしょ! それに『ハルにゃん』はやめてって何度言ったらわかるの?」
「だってハルにゃんはハルにゃんだもん!」
 姉妹喧嘩か。なかなか珍しい光景だ。
 ……そしてハルヒ、お前にも『キョン兄』はやめろと言いたい。
 最後に味噌汁を啜り終え、ハルヒに食器を返した。
 美味かったぞ、ハルヒ。
「あ、あたしは温めただけよ。お母さんにそう伝えとくわ」
 ハルヒはドタバタと階段を降りて行った。
 普段よりぶっ飛んでないハルヒもいいもんだな。
……ってちょっと待て。俺がこのハルヒを受け入れちゃダメだろう。
 このハルヒを受け入れるということは、元のハルヒを拒否するということだ。
 それは何だかんだで楽しい日常を崩すことになる。そんなのは困るな。
 ともかく、妹ハルヒの機嫌と面倒を見つつ、長門が元に戻すのを待とう。
 二、三日で元に戻るといいけどな……。


「キョンくん、どっかに遊びに連れてってよ!」

 部屋で一人、ダラダラと本を読んでいると、妹がのしかかってきた。
 どっかって何処だよ。
「ん~とね、お買い物とか!」
 やだね。お前と買い物に行くと財布の中身が……「いいわね、それ!」
 ハルヒはドアをぶち破るような勢いで開けながら大声で叫んだ。……プライバシーはどうした。
「たまには美味しい物をごちそうしてもらいましょ! あたしも行くわ!」
「わ~い! おっかいもの、おっかいもの!」
 二人の強引さに、断ることも出来ず、両腕を引っ張られながら外へと引き摺り出された。
 やっぱりハルヒはハルヒだな。何も変わっちゃいないぜ……やれやれ。
 外に出ても、両腕を二人に引っ張られたまま、デパートへ歩くことになった。
 ……なぁ、恥ずかしいんだが。
「なによ、こんなかわいい妹二人にくっつかれて不満があるの?」 
 かわいいかどうかはわからんが、不満はある。歩きにくい。
「ヒドいなぁ! わたし達かわいくないの? キョンくん」
 正直、かわいいか、かわいくないかで言うならかわいいだろう。
 だが、褒めると間違い無く付け上がるから褒めないけどな。
 二人の罵声を浴びつつ、しばらく歩き、デパートへとついた。
 さて、わがまま姫二人は何をご所望だ?
「わたしアイス~!」
「あたしはケーキね。デザートが美味しい所があるからそこに行きましょう」
 ハルヒに連れられた先は、男には入り辛い雰囲気の店があった。
 ……おい、俺も入らなきゃダメか? 金は渡すから。
「ダメよ。キョン兄もこの味は知っとくべきよ!」
 はぁ、さいですか。
 本当に仕方なく店に入り、アイスやらケーキやらを味わった。……つーか一人2個ずつって食い過ぎだろ。

 その後も小物屋、ゲーセンなどを連れ回され、俺の財布が悲鳴をあげ始めた所で帰宅の許可がもらえた。
 財布は軽いが、心と足取りが重い……。
 家へと帰る公共機関代で財布にとどめを刺され、ガックリとうなだれながら家へと歩いた。
 はぁ……古泉の奴にでも請求してみるか? 必要経費として。
 そんな心にも無いことを考えていると、家の前に立つ人影に気がついた。
「キョン兄、あれ友だ……彼女?」
 そんなわけは無い。俺には悲しいことに、彼女など存在しない。
「よかった……じゃなくて、じゃあ誰? あの娘」
 ハルヒに『あの娘』と言われるくらいに子どもっぽく見える人物。
 朝比奈みくるさんがそこにいた。
「あ、あの……お話があって来ました」
 立ち話もアレだから、とりあえず部屋の中に入ってもらった。
 朝比奈さんと二人きりで部屋の中……夢のようなシチュエーションだ。
「えっと……あの……」
 どうしました?
「昨日ここに来た時にペンダント落としちゃって……」
 ペンダント? どこにも見掛けなかったですけど。
「ベッドの下かなって思ったんですけど……その……色々と置いてあったら悪いかなって調べれなかったんです」
 顔を真っ赤にする朝比奈さんを見て、言わんとすることはわかった。
 大丈夫です、机の奥底にしまってますから。……とは言えず、しょうがないからベッドの下に頭を入れて、ペンダントを探した。
 ん~……本当にあるのか? ………………あった。
 朝比奈さん、これですか?
「あぁっ、そ、そそそれです! ありがとうございましたぁっ!」
 よくわからんが、慌てて朝比奈さんは家から出て行った。
 ……いったい何だったんだ?
「あれ、キョンくん。お尻の所に何か入ってるよ?」

 お尻の所って言うのはダメだ。ポケットと言いなさい。
「お尻のポケットに何か入ってるよ?」
 そうそう。……で、何が入ってるんだ?
 手で引っ張り、自分の顔の前に持ってくる。……封筒? 少し厚みがあるな。
 中身を出して見ると、諭吉さんが2枚、俺の方を見つめていた。
 おいおい……っと、手紙か? これは。
《今日、デパートで見掛けたけど大変そうでしたね。これ、少ないけど涼宮さんのお世話に役立ててください。

 PS、ペンダントはわたしが仕掛けちゃいました。ごめんね!  みくる》
 なんて優しいお方だ……。天使じゃなくて女神だ! ありがたくいただきます!
 ハルヒに見つかると厄介な展開になりそうな気がしたから、すぐに二人の諭吉さんを財布にしまった。
 と同時にハルヒが近付いてきた。俺の予感もまだまだ捨てた物じゃないな。
「さっきの誰?」
 朝比奈さんって言って、部活の先輩だ。
「ふぅん……あたしの先輩でもあるわけね」
 まぁな、北高だからな。
「……彼女じゃないのよね?」
 あんなにかわいらしいお方が俺なんかの彼女になると思うか?
「キョン兄だって……かっこ……よくは無いけど、優しいじゃない」
 顔を赤らめてそう言ったハルヒは何となくかわいかった。
 惜しむらくは、このハルヒはハルヒであってハルヒじゃないってことか。
 これを妹じゃないハルヒが言ってくれたら、普段からこき使われる俺の気持ちはどれだけ救われることか……。
 とりあえず、今は妹ハルヒとの時間を大切にするか。
 こいつも意外にいい奴だし、期間限定だしな。
 そう言ってくれてうれしいぞ、ハルヒ。

 頭をポンポンと叩き、撫でてやった。普段だったら殺されるだろうが、今のこいつは妹だ。
 これくらいのスキンシップは許されるさ。
「ちょっ……キョ、キョン兄っ! あたしは子どもじゃないのよっ!」
 調子に乗った俺は止まらない。今は立場はハルヒより上のはず。
わかった。ちょっと大人っぽくな。
ハルヒの背中に手を回し、ギュッとしてやった。
《妹》という意識が入ると軽くこの辺までは出来る。実際、昨日も妹にこれをしたからな。古泉達の前で。
「わわわわっ! は、恥ずかしい! やめなさいっ!」
 ぐふっ! ……くそ、元のハルヒのままの威力だぜ。
 零距離ボディブローをくらい、ヨロヨロと離れた。
「もう! いつまでも子ども扱いしないでって言ったじゃない! あたし、けっこう本気なんだからね……」
 ほ、本気? それってどういう意味だ?
「だからさ、あたしは……「ハルにゃん、キョンくん、ごっはんっだよっ!」
 妹が言葉を遮ると、ハルヒはどこか寂しげに膨れっ面になりながら階段を降りて行った。
 何なんだよ、ハルヒの奴……。

 ハルヒの不機嫌は、デザートのりんごをやっても治らず、結局あまり喋らないまま日曜日は終わった。
 明日からは学校か、憂鬱だ。
……あれ? ハルヒが一年ってことは、俺の後ろの席って、どうなってるんだ?


つづく
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