涼宮ハルヒの異界Ⅲ
いったいこれは何なんだ!?
俺は今、信じられないものを目撃している。
むろん、自称が取れる証拠を律儀に俺に見せてくれた宇宙人、未来人、超能力者がたむろしている文芸部室自体も信じられるものではないが、眼前の光景はそれに輪をかけて信じられないものだった。
立つ続けに発生する《神人》。
それを発生するたびに、『魔法』で撃退している蒼葉さん。
どうやら《神人》たちは蒼葉さんを相手にするにはあまりに力不足らしい。
と言うか、蒼葉さんが強過ぎる。これを見ていると古泉の超能力自体も相当弱いものなのだろうか、などと勘違いしてしまいそうなほどだ。
にしても……
「アストラルブレード!」
今度は両手で握ったロッドの先端から青白い刃が生まれ、それを携えた蒼葉さんが《神人》たちの間を時代劇の立ち舞いよろしく切り倒していく!
ううむ……三体があっという間に真っ二つにされて倒れいくなんて……
「ね、キョン! すごいと思わない! さっきはあんまり見てらんなかったけど、改めて見せられると爽快な気分ね!」
ハルヒが満面の笑顔で蒼葉さんの奮闘ぶりを眺めている。
「さっき? 俺が気を失っている間のことか?」
「そうよ」
ここでハルヒは蒼葉さんから俺に視線を移し、しかし得意満面の笑みで、
「あんた、頭からだくだく血を流してたし、顔色も悪かったし、そっちの方が心配だったわ。んで、あんまり頭を下に向けていると血どころか脳味噌が出てきそうだったんで少し頭をあげてあんたを膝枕してあげてたの。その所為でさっきは蒼葉さんをよく見ることができなかったんだから」
ええっと……俺はそれは謝ればいいのか? いや違うだろ? ここは感謝すべきところだよな?
と言うか膝枕?
むう。性格はともかくツラとスタイルが良く、肌も滑らかなハルヒの膝枕をまったく覚えていないとは。
どことなく不覚だ。それにしても四年前の七夕の朝比奈さんの時もそうだったが俺は膝枕されているときに記憶がないのはなぜだろう? 誰かの陰謀なのか?
って、ちょっと待て!? 俺はそんなに深手だったのか!?
「そりゃそうよ。あ、でも安心して。蒼葉さんが完璧に治してくれたから。もう傷口どころか痛みだってないでしょ」
今一度頭をさすってみたが確かに異常を感じられない。
「……その割には俺の制服もお前のスカートも汚れていないようだが……」
まさか蒼葉さんは服を汚れる前の状態に戻せるのか?
「いや、さすがにそれはできないって言われた。だからあたしが一生懸命タオルで拭き取ったの。血でベトベトでちょっと気持ち悪かったし。ま、今はここが暗いんで分かり辛いだけよ。明るいところならあたしの服もあんたの服にも結構血痕が付いていると思うわ」
そうか。これはハルヒに多大な迷惑をかけたってことだな。素直に謝っておこう。
「当然よね! 今度、奢ってもらうから!」
それはいつもだろ。
「何言ってんの。いつものやつはみんなじゃない。今度はあたしだけに奢りなさい、って言ってんの」
「そうかい」
よくよく考えたら俺はハルヒの盾になって負傷したわけだからチャラじゃないのか、などと思ったりもしたのだがまあいいさ。
「じゃあ、そろそろ行くわよ。創造主を見つけないと蒼葉さんに怒られるもんね」
「だな」
言って、俺とハルヒが踵を返したちょうどその時、
再び、世界に静寂が訪れる。
どうやら蒼葉さんが今、この場に出現した《神人》どもは片づけてしまったようである。
が――
はあ……はあ……
――!!
「蒼葉さん!?」
俺は思わず振り向いた。
い、今……呼吸が乱れていなかったか……?
表情に焦燥感を浮かべながら視線を移すと、
はあ……はあ……はあ……
蒼葉さんが肩で息をしている。
後ろを向けているんでその表情は知る由もないが、おそらく疲労が蓄積しつつあるのだろう。足元には顔から滴り落ちているであろう汗がとどめなく滴を地面に跳ねさせている。
無理もない。
次から次へと発生しまくる《神人》をたった一人で撃退しているのだ。
これで疲労が来ないのだとすれば人間じゃない。
再び地響きが巻き起こり、
「今度は……三匹か……」
絞り出すように呟きながら、再び蒼葉さんが舞い上がる!
「オーロラサドンフリージング!」
ロッドを振りかざすと瞬時に《神人》三体が白い彫刻となった!
おそらくは瞬間冷凍の魔法なんだろうぜ。
それにしてもあの《神人》を三匹まとめて凍らせるなんてとんでもない魔法だ。
急激に凍らされた《神人》が乾いた澄んだ音を立てて砕け散る。
どこか幻想的で思わず見入ってしまうほどの美しいダイヤモンドダスト的光景ではあったが、蒼葉さんが着地して片膝を付いた瞬間にそんな気持ちは吹き飛んだ。
「蒼葉さん!」
ハルヒが叫んで俺も一緒に駆け寄る。
「ごめん……あたしたち……何の役にも立てなくて……」
珍しくハルヒが悪びれた謝意の言葉を切羽詰まった表情でかけているわけだが俺も同感だ。
まったくもって俺は何をやっている?
あたふたしているか呑気に実況をやっているか、だけじゃないか。
「私に謝る暇があるなら……早くこの世界の創造主を探しに行きなさい……あんたたちが見つけるまで私が何度でもあいつらを打ち倒してやるわよ……」
「でも……」
ハルヒの切ない悲痛の声の逆説も分かるってもんだ。
こんな状態の蒼葉さん一人を残して俺たちが動ける訳がない。
だいいち創造主は今ここにいるんだ。探しに行くまでもないってやつだ。
しかしだな。
それを蒼葉さんに伝えていいものなのかどうか俺には判断できん。
蒼葉さんは、話し合いで解決できないときは創造主を抹消することも辞さない、とまで言ったんだ。
それは場合によってはハルヒを殺す、と宣言したのと同じであり、そんな重大なことを俺に判断しろって方が無理だ。
さらにどれだけの時間が経過したのだろう。
俺とハルヒは後ろ髪引かれる思いで再度、新館と旧館に向かった。ハルヒは悲壮感を漂わせて創造主を探していただろうけど、俺は通称・旧館の部室棟一角に位置する文芸部室でもう一度、長門とやり取りした。
答えは同じだったがな。
――この世界から涼宮ハルヒを消失させることが唯一無二の解決方法――
くそ……
俺もまた、心を苛立たせながら再び新館と旧館の間に広がる中庭でハルヒと合流した。
いったいどれだけ同じことを繰り返したのだろうか。
ハルヒは何度も何度も旧館と新館の間を往復して、俺は旧館担当になったときにこれまた何度も何度も長門とやり取りした。
――穏便にすませる方法はないものか? ハルヒを消失させずに――
――涼宮ハルヒに『力』のことを告げ、止めさせるしかない。しかしそれは正しいことかどうか判断しかねる――
そりゃそうだ。
今、ここでハルヒにハルヒの力のことを教えてやるのは簡単だが、それがどんな結果を招くか分からないんだぜ。
いくら長門だって躊躇うってもんだ。
どうすりゃいい?
結局、最初の疑問に立ち戻るしか俺はできなかったのである。
俺たちの新館旧館往復の間も《神人》どもはランダムに発生していた。
いや、最初の七匹から次の二匹を除けば間を置かず、ひっきりなしと言っても過言ではないだろう。
それほどまでにハルヒはこの世界を誕生させたいのだろうか。けど、ハルヒがこの世界の創造を止めさせたいという気持ちも本当なんだろうぜ。
一見、ハルヒの中に矛盾があるようだがそうじゃないんだな。
ハルヒの新世界誕生を望むのは本心だ。それも長門のお墨付きで。
だが、この世界の創造主がハルヒ自身だってことに気づいていないんだから責任の所在が別になっているってことだ。
つまり、この世界の創造主はハルヒの中ではハルヒじゃなく別の存在ってことだ。ハルヒがハルヒの力のことを知らないんだから仕方ないことだ。
居もしない別の創造主をハルヒは追い求めているんだ……これじゃハルヒにだって非がないことになっちまう。
ハルヒは創造主探しを諦めたわけではないのだが、どうしてもこの場から離れたくないようだ。当然だな。俺だってそうだ。
握りこぶしに力を込めて全身を震わせる俺の眼前では、
「蒼葉さん! もういい! これ以上戦ったら蒼葉さんが死んじゃう!」
ハルヒが泣きながら、無理矢理立ち上がろうとした蒼葉さんを後ろから抱き締めていた。
いや押さえつけているのだろう。
そりゃそうだよな。
蒼葉さんは魔法を開放するとき以外はもう、まともに立っていられなくなっているんだから。
「もういいわよ……蒼葉さんの世界の人たちだってきっと分かってくれるって……たとえ世界が滅びたって蒼葉さんの所為にしないって……」
とどめなく流れる涙で蒼葉さんの背を濡らすハルヒの言葉は偽りならざる心だろう。
俺もそう思う。
蒼葉さんはよくやった。これ以上は絶対に蒼葉さんの命に関わるんだ。そっちの世界の人たちだって許してくれるさ。
体力や気力に限界があるように超能力にだって限界があるんだろうぜ。
現に古泉は初めて俺を閉鎖空間に招いた時に、《神人》を打ち倒すのは結構疲労すると言っていた。
当然、蒼葉さんにだって限界が近づいて来ているってことは明白だ。誰が見たってそう思うさ。
「……で、私に……みんなを見捨てて生き延びろ、とでも言う気……?」
が、蒼葉さんの息絶え絶えで発したセリフは明らかに非難の色が混じっていた。
「そ、それは……」
ハルヒが虚をつかれて言葉に詰まる。
「冗談じゃないわよ……私一人……助かっていい訳ないじゃない……それに……ここに来た時からこのことは覚悟していたわ……世界が崩壊するなら私だって世界と供に滅びるべき……私の命が尽きる前に世界が滅びることは許さない……
本当にみんなが……私がよくやった……って言ってくれるのは私も天国にいないといけないじゃない……じゃないと本当に力及ばず力尽きて……にならないし……」
「覚悟だって……? 自分の命を捨てる覚悟ですか……?」
茫然と問いかけたのは俺だ。
「そうよ……私だって世界のみんなと一緒に居たいんだから……親友……弟子……同僚のみんな……見捨てられる訳がないじゃない……
私のために世界がある訳じゃないんだから……世界があって私がいるんだから……」
――!!
「ある人に……とっては面白くない世界なのかもしれない……でも、また別の人にとってはそれは面白い世界なのかもしれない……世界を楽しいと思う人も……いれば世界に怒りを感じる人もいる……嬉しいと感じる……人、悲しいと感じる人だっている……人一人一人にドラマがあって……それは誰にも否定できないことなんだから……それが世界……一人一人が集まって……初めて形成される空間……だから私は世界を守るために戦う……だって私も世界の一部だから……」
この言葉は、正直言って俺の心を激しく揺さぶった。
が、そんな感慨に浸る暇もなく――
――もう出てくるな!
焦燥感溢れる表情で俺が心の中で絶叫する。
青白い巨人どもがまた、今度は十体ほど一斉に姿を現したのである――
さらに時間は経過する。
この世界の時間の概念がどんなものかは知らん。しかし、あの十体一斉出現の後、巨人どもは十体単位くらいで発生するようになったんだ。もっともそれでも蒼葉さんは全て打ち倒してきたけどな。
けど、その代償はあまりに大き過ぎる……
蒼葉さんはもう突っ伏して全身が痙攣するように息を荒げているんだ。
ハルヒも蒼葉さんにかける言葉が見つからず、絶句して顔面蒼白になってその身を震わせている。口元を押さえ、その目から後から後から涙が溢れさせているんだ。
そして――事ここに至って俺は自分に嫌悪を感じることをようやく思いついた。いや悟ったという方が正しいかもしれん。
くそ……俺はどうしてこんなことに気がつかなかった……
よく考えたらハルヒが自分の能力を知ったからってどうだというんだ?
それに俺はこの世界からハルヒと供に戻る方法を知っているんだ。この世界から元の世界に戻ってもハルヒがこの世界から消失するってことと同意語なんじゃないか。
怖いとか気恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんじゃないか?
それを躊躇して結果、全然無関係の世界を一つ、滅ぼそうとしていることの方が大問題じゃないのか?
ハルヒに唐変朴な力が備わったのは俺たちの世界の所為であって、蒼葉さんが住む世界に何一つ非はない。だったら俺たちの世界がハルヒに対して責任を取るべきじゃないのか? もちろん俺も含めてだ。
「蒼葉さん、もういい……」
俺は意を決して切り出した。
瞬間――
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「今度は二十匹!?」
ハルヒが絶望の叫びをあげる!
と同時にうずくまっていた蒼葉さんが残っている全ての力を振り絞るかのように立ち上がった!
はあ……はあ……
肩で息をする声ですらもうほとんど聞こえなくなってきた。
当然だ。一人で相当な数のあの巨人どもを屠ってきたんだからな。はっきり言って、こんな蒼葉さんの様子を見せられては俺はあいつらに『神』なんて冠を付けたいと思わん。
まるで悪魔の所業だ。
「……ご……めん……みんな……もう私が……」
――っ!
俺とハルヒが息をのむ。
今、蒼葉さんが言った『みんな』という言葉は俺たちを指していないことをお互い理解できたからだ。
つまりそれは……
しかし、それでも蒼葉さんは右手に猛回転しながらまばゆい光を放つ魔宝石のロッドを構え、左手は別の魔法の光を携えて、
「この……二十匹はこれで……打ち倒せる……良かった……この魔法……あの子に注入しておいてもらって本当に良かった……でもこれ以上は……たぶん……」
「やめろ! 蒼葉さん!」
が、俺の叫びは蒼葉さんには届かなかった。
もう……耳も聞こえていないのかもしれない……
「これが……私の最後の……魔法……けど……これが最後なら……みんな許してくれるよね……だって……この魔法は……」
蒼葉さんを中心に強烈な、眩い光を放射させている炎の気流が巻き起こる!
いや、気流というより竜巻だ!
「実はね……私……この術に名前……付けてたんだ……今度会ったら感想聞かせてよ……結構考えたんだから……」
蒼葉さんの表情に笑みが浮かぶ。しかしその瞳にすでに色はない。
駄目だ! 蒼葉さんやめてくれ!
「グレイトフルサンライズフェニックス!」
野獣の雄たけびのような轟音でこの空間全てを震わせる眩いばかりに光り輝く巨大な――そう、不死鳥と言っても過言ではないだろう。
光の不死鳥の羽ばたきが二十匹の青白い巨人を一気になぎ払っていった。
再びこの閉鎖空間に静寂が訪れる。
と、同時に崩れ落ちる小柄な人影。
「蒼葉さん!」
ハルヒが駆け寄り、彼女を抱きあげる。
が、彼女の意識はすでになかった。顔色を失い、まぶたは閉じられ、頭髪は艶やかだったシアン色が真っ白に変貌している。
「どうして……どうしてこんなことに……」
ハルヒの瞳から涙がこぼれ落ちている。
くそ……これは俺の所為だ……俺はどうして真実を言うのを躊躇った……
「キョン! 次にあの巨人たちが出てくる前に創造主を探し出すわよ! でないと蒼葉さんたちの世界が滅んでしまうんだから!」
俺に涙目のまま決意を固めた鋭い眼光を飛ばすハルヒ。
ああ、俺も同意見だ。
もっとも別に探し出す必要はないんだがな。
今なら言える。もう隠し立てしてはならんのだ。
「ハルヒ、蒼葉さんの様子はどうだ?」
「大丈夫。心音も聞こえるし呼吸もしてる。でもたぶん長く持たないわよ……心音も呼吸もだんだん細くなってきちゃってる……」
「この世界じゃ碌な治療も出来んからな。これは早く蒼葉さんを元の世界に戻してやろうぜ」
「うん。そのためにはこの世界の創造主をとっ捕まえるしかないもんね! とっ捕まえて世界創造を絶対に止めさせてやる!」
「いや探す必要はない」
「え?」
戸惑いの表情を見せるハルヒに俺はしゃがみこんで目線を合わせてやる。
「この世界の創造主ならもう俺の目の前にいる――」
ハルヒが戸惑いの視線を向けてくるがもう構わない。
俺は静かに、まるで子守唄を聞かせる母親のような優しい口調で言った。
「ハルヒ――お前がこの世界の創造主なんだ――」
当然、ハルヒは絶句した。
しかしそれは少しだけの沈黙を呼び、
「何バカな冗談言ってんのよ! 今はそんな場合じゃないでしょ!」
当然のように抗議してくるハルヒ。
しかし、俺のハルヒを見つめる、労わるようではあるが深刻で真剣な眼差しを崩さないまま、
「嘘でも冗談でもない。ハルヒ、この世界を創造したのはお前だ」
と告げてやる。
「あのなハルヒ。お前は四年前の七月七日に東中の校庭でけったいな絵文字を描いたよな?」
「それがどうしたのよ。みんな知っている話だわ。そんな話よりも今は」
「違う。これは重要な話だ」
「む……」
俺の強気な言葉にハルヒが言葉を失くす。
ハルヒが黙ったところで俺はさらに続けた。
「その時、校庭に忍び込んだのはお前ひとりじゃなかったはずだ。そこには女の子をおぶった男がいて、お前はそいつと一緒に絵文字を描いた。それは織姫と彦星にあてたメッセージだ。その意味は『私はここにいる』だろ?」
――!!
ハルヒの目が愕然と見開いた。
「ど、どうしてキョンがそれを知ってるのよ!? 誰から聞いたの? いえ、あたしはあの時のことを誰にも言ってない。あたし以外に知っているのは――まさか!」
「そうだ――知っているのはお前と一緒に絵文字を描いた奴、ジョン・スミスしかいない――」
再び、今度は世界自体が絶句して時間が止まった気がした。
「キョン……あんたがあの……ジョン・スミスだっての……? だってあれは四年前のことよ……」
ハルヒの絞り出すような声が再び時間を動かし始める。
「お前はさっき言ったが今は冗談なんか言っている場合じゃない。俺の言葉に嘘がないことをお前に分からせたかった」
「じゃ、じゃあ、どうやってキョンがあの四年前に!?」
「女の子をおぶった男が、と言ったはずだ。あの日あの時間に俺を連れて行ってくれたのはその背におぶっていた女の子だ」
「誰なのよ!」
「朝比奈さんだ」
俺の即答にハルヒは再び絶句した。いや協調反転したかもしれん。しかし構わん。
俺はさらに続けた。
「そして、お前が俺に教えなかったあの絵文字の意味、それを教えてくれたのは宇宙人だ。そう、お前の発案した絵文字は正に、宇宙的言語だったんだよ」
言葉を失くしたまま、ハルヒの視線が再び俺を捉えてきた。
もっともその瞳は、それは誰?と切羽詰まった色を携えて問いかけてきていた。
「長門が教えてくれた――長門は宇宙人に創られた存在だった。だからお前の絵文字が読めたんだ」
「嘘……」
「嘘じゃない。言ったはずだ。俺もこんな状況で冗談なんて言うつもりはないと。つまりそういうことだったんだ」
俺はハルヒの肩を力強く握った。
「去年の入学式の日、クラスの自己紹介でお前が言った『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者』の内、宇宙人と未来人はもう傍にいたんだ。お前が知らないだけで、お前のほしいものはすぐそこにあったんだよ。そして今、異世界人の超能力者にも出会えた」
ハルヒの驚嘆から来た愕然とした表情はまだ崩れない。
「お前が望んだ異世界人で超能力者の蒼葉さんを助けるために、いや、蒼葉さんと蒼葉さんの生きる世界を救うためには俺とお前がこの世界から元の世界に戻ればいいんだ。それだけでこの世界の創造主のお前が消失することにもなるんだ。そして、これでこの世界は消滅する。それはお前も俺も知っていることだ。あの去年の5月の時にな」
「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ何? あれは夢じゃなかったってこと? ううん、仮にそれを信じるとして、そもそもあたしたちはどうやって戻れたの――って、はっ!」
俺はハルヒの問いの答えることなく、ハルヒのどこか思いつめた表情をズームアップさせながら俺は瞳を伏せた。
そして――あの日と同じように俺はハルヒと――