「朝比奈さん、ちょっと待っててください!」


 滅多に使わないため、台の奥にしまっていた電話帳を取り出してめくり、国際電話をかけた。数回コールした後、眠そうな声が聞こえてくる。時差だろうが、なんだろうが関係ねえ。非常事態なんだ。こういう時のために、母親っているんだろ。小言を言うな。
 

 母親に、ナツキの事を聞いたわけだが……、思いっきり後悔した。


「ナツキちゃん?懐かしいわね。小学5年生の時までお隣さんだったけど、お父さんが亡くなって引っ越したじゃない。今どこにいるのかしらね」
 

だとよ……。
 

 そんな馬鹿なことってあるか!?この世界だけじゃない。ぶっ飛ばされた異世界でも、ご丁寧にお隣さんだったんだぞ。それが、当たり前なんだ。ところが、この世界じゃいないことが当たり前になっている。そんなことってあるかよ……。

 

「あの……、どうかしましたか?真っ青ですよ」
 

 いつの間にか、朝比奈さんがいた。ソファーにへたり込んだまま、戻ることができなかったので、心配して来てくれたんだろう。
 

「どうやら、この世界は俺の知っている世界とは違うようです」
 

「どこか違うところがあるんですか?」
 

「ナツキ、っていう本来いるはずの幼なじみがいなくなっています。ははっ、今の今まで気づかないなんて、どうかしてる……」
 

 これも涼宮が原因なんだろうか。まるで今朝見た悪夢が、現実になったような感覚。夢の中であいつは「さようなら」と言って手を振っていた。そして、俺は必死に手を伸ばしたのにつかむことができず、離れていつまでも後悔していた。あれは夢じゃなくて現実だっていうのか?俺の記憶?

 

 何言ってるんだ、そんなの嘘だ、信じられるか。ここはどこだ?俺はどこにいて、どう存在している?気が狂いそうだ。どうやら俺も朝比奈さんと一緒に、別の世界に飛ばされたようだな。だって、ナツキがいないんだぜ?あいつがいない世界なんて認められるかよ。どこにいったんだよ、ナツキ……。

 

「これも、涼宮のせいなんですかね……。あいつ……、俺に恨みでもあるのかよ……」
 

 今、思えばすっげえ後悔してる。こんな格好悪い姿、朝比奈さんに見られてしまったわけだからな。
 

「あの……。少し待っててください」
 

 身体に力が入らない。一体、俺はどうすればいい?漫画だったら、愛とか友情なんて力で、次元の壁だって越えられるだろう。ところが、この世界は呆れるほど普通の世界で、俺は何の変哲もない一般人だ。唯一、向こうの世界では「異世界人」という、どうにも役に立たないステータスがあったわけだが、今では朝比奈さんに奪われてしまう始末。これほど、アホな能力を持っている涼宮が羨ましく思ったことはない。

 

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