キョンは、ナツキに頭を下げて挨拶をした。
「この子は?」
「俺の幼なじみで、2年6組のナツキっていうんだ。ナツキ、こいつは2年5組のキョンって言う……」
紹介が終わる前に、ナツキが宇宙人を発見したような驚き顔をして
「キョン!」
と叫び、まんじゅうが1個入るのではないかと思えるくらい、口を開けて、キョンの顔をじっと見ていた。どうしたんだ?
すると、ナツキは改まってキョンの方を向き、とんでもないことを言ったのだった。
「次の日曜日、あたしとデートをしてくれませんか?」
「「はい?」」
俺とキョンの声が重なり、あっけに取られた。前にも話したかと思うが、ナツキは憧れている人がいるとかで、告白されても全部断っていた。それがどうだ、この恋する乙女のような目と、態度は。こんなナツキは見たことないぞ。
「あ、ああ……」
キョンが何とも言えない表情になっていた。すると、何を勘違いしたのか、
「ありがとうございます!では日曜の午前9時に駅前でお願いします!」
精一杯、といった様子で言葉を絞り出した後、ナツキは全力で走り去っていった。
「こりゃ、行くしかないな」とキョン。
「そうだな、あいつが勝手に決めて悪いが、行ってやってくれ」
ナツキは性格はともかく、顔はいいからキョンも気に入るだろう。キョンはまあまあ顔がいいし、女受けする優しい性格だからな。彼女の1人くらいいても不思議じゃない。ナツキとキョンか……、案外お似合いかもな。
俺とキョンが坂を登っていたところ、キョンが難しい顔をしていた。なんだ、デートについて迷っているのだろうか。
「どうした?」
「いや、ナツキさんか?彼女のことで気になることがあったんだが……いきなりのことで忘れちまった」
「あいつは、黙っていたらかわいいんだが……。涼宮ほどじゃないが、はた迷惑な奴で凶暴だ。だけど悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれ」
「そうかい……」
SOS団の部室に戻るまで、キョンは難しい顔をしていた。
「遅い!暑くて、死にそうだわ!」
涼宮が叫んだかと思うと、ヒョウが獲物を追いかける勢いで、俺が持っていた扇風機入りの段ボールを奪い取り、段ボールを力任せに引き裂いた。そして、扇風機を取り出したのだが、組み立てなければいけないことに気づき、俺とキョンを指差して
「さっさと作りなさい!」
一喝しやがった。頼むから、部室の温度を上げないでくれ。
扇風機を組み立てたところ、涼宮が1台完全に占領し、顔に風を受け
「あー」
と昔よくやった遊びをしていた。もう1台は、部室の端に置き、最大風力にして首を回していた。
若干涼しくなった気がする。 夏と言えばやっぱ扇風機だよな。どうも俺はエアコンってのは苦手で、極力使いたくない。田舎者っていうのも原因なんだろうが、夏はやっぱり暑いのが自然ってなもんだ。
長門は涼しい顔をして本を読んでいる。古泉は1人でトランプをつかってわけのわからないゲームをしていた。朝比奈さんは、マスコットガールらしくメイド服でお茶をくみ、俺とキョンはだらけながら暑さと戦っていた。
さっきのナツキの件がなけりゃ、平凡な1日だったといえるだろう。
だがこの日のことが、後々、俺に迷惑をこうむるトラブルとなって襲いかかることに、まだ気づくことができなかったのだ。全く勘弁してもらいたいもんだよ。