YUKI burst error ⅩⅡ

 

 

 視覚機能低下……聴覚機能低下……

 すべての機能が停止していく……復元不能……致命的損傷……

 わたしはもう……

 でもこれでいい……

 わたしがいればまた……涼宮ハルヒに……朝比奈みくるに……古泉一樹に……そして……彼に……辛い思いをさせてしまう……

 苦しませてしまう……

 だったらわたしは居ない方がいい……

 …… …… ……

「有希!」
「長門!」
「長門さん!」
「長門さん!」

 微量に聞こえる……微量に見える……わたしを呼ぶ声……でももう対処不能……音声機能停止……運動機能停止……この引力に贖うこと不能……

 …… …… ……

 どうして……わたしの内にこんな思考が浮かぶ……

 みんないる……?

 どんな顔してる……?

 わたしは対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス……のはず……

 プログラムされた以外の行動も思考も存在しないはず……

 なのに……

 …… …… ……

 これはバグ……それともノイズ……

 でも悪くない……暖かい……

 そう……これが心……わたしの内に芽生えたみんなが植え付けてくれたプログラム……

「有希!」「長門!」「長門さん!」「長門さん!」

 また、みんなのわたしを呼ぶ声が微細に聞こえる……

 ……嬉しい……わたしを必要としてくれる人……人間として見てくれる人がいる……

 わたしは……異常動作をしていたわけではなかった……受け入れれば良かったのだ……

 彼が言ったように……わたしも楽しんで良かったんだ……朝比奈みくる……古泉一樹のように……

 役割を務めながら楽しめばよかったんだ……

 あ……彼が私に何を望んでいたのか今……分かった……時々、わたしの方を興味深そうに観察していた彼……彼だけじゃない……涼宮ハルヒも……朝比奈みくるも……古泉一樹も……みんなが望んだこと…….

 やってみよう……今ならできる気がする……

 でも私だけじゃない……みんなで……そうありたい……

 だから……


 …… …… ……


 もう……限界……視覚……聴覚……嗅覚……インターフェイス機動全ての機能停止……



 最後に……思考機能停止前に……



 伝えたい……




 み……ん……な……




 だ……




 い………




 す…………




 ……
 …… ……
 …… …… ……


「ゆきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 ハルヒの絶叫を聞きながら俺は完全に言葉を失って立ち尽くしていた。
 何故……! 何故なんだ長門……!
 どうしてお前は……!
 みんな……みんな……お前が戻ってくることを願ったってのに……
 悔しくて悲しくて辛くて、俺も誰はばかることなく目から涙がとどめなく流れてしまっていた。
 いや俺だけじゃない。朝比奈さんも、古泉もだ。
 しかも最後に俺たちに見せたあの表情は……
 その表情が俺から消えることはない。記憶喪失になるか誰かが時空改変をやらかして俺の記憶を書き換えない限り。
 確かに俺はそれを望んださ。でもこんな形でじゃない!
 その日の記憶が蘇る――あれは俺以外には忘れ去られた十二月十九日の夜――


 ――曖昧に頷いていた長門は俯いたまま、俺たちをドアまで見送りにきた。
 朝倉が先に出たのを確認して、
「それじゃあな」
 俺は戸口の長門に囁いた。
「明日も部室に行っていいか? 放課後さ、ここんとこ他に行くところがないんだよ」
 長門は俺をじっと見つめ、それから……。
 薄く、だが、はっきりと、

 微笑んだ――


 くそっ! あれをいつでも見てみたいと望んだのであっていまわの際でなんて微塵も思っちゃいなかったんだ!
 それなのに……!
 俺たちはいったいどれだけ茫然自失としていたんだろうか。
 いや、いっそうのことこのまま茫然自失したままでいてやろうか。その方が楽だ。ここは長門が居た場所だ。もしかしたらあいつが帰ってくるかもしれないじゃないか。
 時空の挟間だろうと長門なら……
 …… …… ……
 ……だったら長門は微笑んだりしない……か……
 俺の淡い期待は無残にも俺によって打ち砕かれ灰となった思いは虚空の風に吹き飛ばされてしまった気がした。


「……ない」
「え?」
「……めないんだから……」
 ハルヒ?
 俺の前でうずくまっているハルヒが何が呟いている。
 もっともまだ涙に震える嗚咽を漏らすような声。
「認めないんだから!」
 いきなりがばぁっと起き上ったハルヒに思わず身を引く俺。
「キョン! あたしは認めないからね!」
 即座に振り返り俺に涙目のまま鋭い眼光を飛ばす。
 が、俺はハルヒの言いたいことが何のかはすぐ分かった。
「ああ、俺もだ」
 自分でも分かるくらい落ち着いていて、それでいて決意を固めた声が響く。
「あたしもです……」
「もちろん僕も、ですよ」
 入ってきたのは近づきながらしゃべってきた二人、もちろん朝比奈さんと古泉だ。
 そんな俺たちを一瞥してからハルヒは涙をぬぐい、いつもの勝ち気いっぱいの笑みを浮かべた表情に戻った。
「ふっ、その通りよ! あたしのSOS団は異体同心一蓮托生! 団長の考えはSOS団の考えでもあるんだから!
 有希は今、どこかに行っちゃったわけだけどそんなもの大した問題じゃないわ!」
 再びハルヒは視線を、今、長門が吸い込まれて今はもう閉じてしまった天へと向ける。おそらくあの何者も恐れない自信に満ち溢れた瞳をぶつけているはずだ。
「待ってなさい有希! あなたがどこに連れて行かれようがあたしたちが必ずあなたを探して見つけ出す! そしてまたみんなでSOS団の部室に戻るんだから!
 あたしのSOS団から離脱者が出るなんて天地がひっくり返ろうがあたしは認めない! だから有希! あなたを連れ戻す!」
 今度は指を突き付けて宣言するハルヒ。
 もっとも俺も同感だ。たぶん、朝比奈さんも古泉もな。
 でなきゃみんなで空を見上げたりなんてしない。する訳がない。
 そうだろ? 長門は居なくなったわけじゃないんだ。ただ単に力の使い過ぎで機能が停止してしまっただけだ。
 長門はハルヒを観察するためにいるんだ。
 情報統合思念体とかいう長門の親玉が長門を処分するつもりなら全力で阻止してやる。そして脅しをかけてやる。長門以外にハルヒを観察できる存在なんていない、と言ってな。だいたい長門の親玉にとってもハルヒは重大なファクターなんだ。ハルヒに逆らうような真似なんてできやしない。
 そもそもハルヒを観察したければハルヒの気に入る奴じゃなきゃそれはハルヒが許さないんだ。
 もちろん、それは長門だけだ。
 何? また異常作動を起こしたらどうするか、と問われたらだと? んなもん考えるまでもない。
 何回異常作動を起こそうがそのたびに元に戻せばいいと言ってやるだけだ。前回は俺が、今回はハルヒが戻せたんだ。
 だったら今度だって戻せるさ。
 時空改変なんて些少なことよりSOS団から誰かが離れるなんて事の方があってはならないんだ。
 みんなそう思ってる。
 ハルヒも俺も朝比奈さんも古泉も。
 ならやることは一つだ。長門を探す旅に出る。どれだけ時間がかかろうとも必ず見つけ出す。
 こっちにはハルヒがいる。
 無理難題、確率論なんざ全てぶっち切る暴走一直線団長様がいる限り不可能なんてないんだからな。

 

YUKI burst error ⅩⅢ


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