機械知性体たちの即興曲 メニュー

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□第三日目/朝

 

 スズメの声(チュンチュン)

 

にゃがと    「…………」
あちゃくら  「…………」

にゃがと    「……予想はできていた。するべきだった。たぶん」
あちゃくら  「わたしもなんとなーくそんな気がしていたのですが」
にゃがと    「……この状態をどう説明すれば彼女の怒りを買わないで済むか、早急に検討を」
あちゃくら  「いや、急にそんなこと言われても。もはやどうにもならないんじゃ……」
にゃがと    「あなたはわたしのバックアップ。仮に我々に怒りの矛先が向いたとしても、あなたはわたしを守る義務がある。盾となって散るべき」
あちゃくら  「そんな! 元はといえば長門さんが感染さえしなければこんなことにはなってないじゃないですか!」

 

????  「……朝からどうしたんです。もう……騒がしいです……」

にゃがと&あちゃくら 「……ごくり」

 

????  「ふぁああ……おはようございます……?」
にゃがと    「おはよう」
あちゃくら  「……いい朝ですね。まるで……その、生まれ変わったみたいに……」

????  「確かに気分は――? ……こ、この体は……!」 
にゃがと    「まずは深呼吸することを推奨する。落ち着くべき」
あちゃくら  「わー……可愛いですー……とっても」
????  「な、な、な……」

 

ちみどり    「なんですかー! この幼児体型はーっ!」

 

にゃがと&あちゃくら 「おお」 (吼えた……)

 

 十分経過

 

ちみどり    「しくしくしく……」
にゃがと    「まぁ、そんなに落ち込まないで」
あちゃくら  「そうそう。慣れてしまえば、この状態も悪くはないですよ?」
ちみどり    「こんな……わたしはこんなキャラでは絶対ないはずなのに……!
                    たとえ地球が砕け散っても、わたしの立ち位置はけっしてこんなギャグキャラではないのに……!

                    長門さんや朝倉さんと違って……! 絶対に……! 断じて……!」
あちゃくら  「あー……なんか微妙にむかっとくる発言なんですけど」
にゃがと    「自分だけは、と思ってる者こそ、このような逆境ではたやすく心が折れる。挫折を知らないエリートによくある心理傾向」
あちゃくら  「長門さん冷静ですねー」
ちみどり    「うっうっうっ……」

にゃがと    「一緒に寝たのが運のつき。安心するといい。あなたの失った質量。つまり情報リソースは無駄なく我々に還元されている」
あちゃくら  「せいぜい五ミリ程度しか成長していないんですが……」
ちみどり    「……わたしの体を返してーっ!」
にゃがと&あちゃくら 「それ、もう無理」
ちみどり    「うわぁああん」

 

 さらに十分後

 

ちみどり    「…………」ブチブチ
あちゃくら  「長門さん、なんか喜緑さんが空ろな目のまま、体育座りで、部屋の隅のカーペットむしり始めたんですけど」
にゃがと    「これは彼女自身の問題。我々の上っ面の慰めの言葉は今は彼女に届かない。自身の現状をありのままに受け入れるまで静かに見守るべき」
あちゃくら  「……言ってることはとっても立派でごもっともなんですけど、それ、元凶の人が言う言葉じゃないです」

ちみどり    「…………」スクッ
あちゃくら  「あ、立った」
ちみどり    「(フッ)……これもまた、情報統合思念体史上随一の問題児、長門有希の観察命令を受けた時から、覚悟するべき事態だったということ」
あちゃくら  「悟った!?」
にゃがと    「その認識には言いたいことがあるが、今は黙っておく」
ちみどり    「そうです。これもまた任務の一環。立ちはだかる障害といえるのです。このような厳しい、意味不明で理不尽な……理不尽な……」(ガクッ)

にゃがと&あちゃくら 「あ、折れた」

 

 さらにさらに十分後

 

ちみどり    「……申し訳ありません。みっともないところをお見せしてしまいました」
あちゃくら  「まぁ、そのショックは理解できますけど」
にゃがと    「誰しもそういう時はある。気にしない方がいい」
ちみどり    「……とりあえず、お腹すきました」
あちゃくら  「あ、ごめんなさい。お食事の支度、まだなんです」
にゃがと    「ではみんなで台所に……」

 

 台所到着

 

あちゃくら  「あは……あははは……」
にゃがと    「…………」
ちみどり    「これは……」

 

にゃがと    「予想もできたし、当然の帰結といえる。我々の今の身長では、台所に上ることはきわめて困難」
あちゃくら  「ど、どうしましょう。冷蔵庫だって開けるの大変ですよ!?」
ちみどり    「これは夢……きっと夢……たぶん夢……」
あちゃくら  「喜緑さん、現実逃避しないでー!」

 

ちみどり    「……うふふ……このまま、この部屋の片隅で朽ちていくしかないのでしょうか。
                    まさかこんな、単純な物理的障害で、この高度知性体のわたしともあろう者が……」
あちゃくら  「そんな大げさな。もう。しっかりしてくださいよー」

にゃがと    「いつもの自信はどこに消えた、喜緑江美里」
ちみどり    「……長門さん」
にゃがと    「我々は、それぞれ個別任務を与えられ地球に降ろされた、この銀河を統括するという情報統合思念体による被造物。
                    いかなる困難が待ちうけようと、けっして途中で任務放棄などしてはならない。それが我々に託された最上級のオーダー」
ちみどり    「……こんな真面目な長門さんを見たのは久しぶりです」
あちゃくら  「腐っても最大派閥の主流派端末という感じです。いつもこうなら……」
にゃがと    「腐るとか言うな」

 

にゃがと    「……ともかく、現在の我々は食料によるエネルギー確保が最優先項目。万難を排してこれを達成しなければならない」
ちみどり    「……しかし、現状のわたしたちでは……」
あちゃくら  「ほかの端末に支援を要請したらどうですか。キョンくんが来るまでにはまだ時間がかかりますよ」
ちみどり    「……それは、絶対にいけません」
あちゃくら  「もう。意地張ってる場合じゃないでしょう」

にゃがと    「失点を最も嫌うのは、この中では穏健派の彼女。借りを作りたくないのだと思われる」
あちゃくら  「それはそうでしょうけど。この際背に腹は変えられないのでは」
ちみどり    「そんな理由ではありません」
あちゃくら  「じゃあ、なんで――」

ちみどり    「こんな――こんなみっともない姿を他派閥の端末に見られるくらいなら、自身の情報結合を解除します」
あちゃくら  「もうとっくにわたしたちに見られてるじゃないですか。今更」
ちみどり    「あななたちのような、おふざけ担当キャラに知られるのとは意味が違うんです!」
にゃがと    「さらりとひどいことを言う。心外」
あちゃくら  「プライドがここに来て障害に……まぁ、気持ちはわからないでもないですが」
にゃがと    「どうせ、静観派端末あたりがずっとこの状況をリモートセンシングでモニタリングしている。
                    現状も随時思念体本体に報告されているはず。無駄な努力というべき」
ちみどり    「……ここに三体も情報端末がいるんですよ。いったいどんな顔して救援要請をしろと。しかもその救援の理由というのが……」
あちゃくら  「要するに『飯を食わせろ』という内容ですからね……情けないといえばこれ以上はちょっとないかも」
にゃがと    「理解した。では――我々三体だけで解決する」


あちゃくら  「……さて。準備はいいですかー」
にゃがと    「こちらの準備は問題ない」
ちみどり    「……こんな、梱包用のビニールひもでうまくいくんですか、ほんとうに」
にゃがと    「仕方ない。我々の背の届く範囲で回収できた中で使えそうなのはそれくらいしかない」
あちゃくら  「(ゴソゴソ)……では決死隊、あちゃくらりょうこ、行きます!」(敬礼)
にゃがと    「(コクリ)公平にくじ引きで決めたこと。朝倉涼子。あなたの勇気と根性に期待する」
あちゃくら  「ひもはきっちり腰に巻いたのを再度確認っと……では登頂に成功したら、このひも伝ってきてくださいね、長門さん」
にゃがと    「よろしく頼む。あなたの行動が我々に残された唯一の希望」

 

ちみどり    「ああ……勇気? 根性? そんな精神論が必要とされるなんて。

                    情報端末としてのプライドが根こそぎ崩壊していく……」
にゃがと    「なにを気落ちしている。喜緑江美里。我々にはもう落ち込んでいるような余裕はない」
あちゃくら  「もうここまできちゃったんですから、いいかげんあきらめましょうよー」


あちゃくら  「よいしょ……うんせっと……」
にゃがと    「台所登攀ルートは、シンク下大扉ルートをA。引き出し部分を経由するルートをBとした。難易度はおそくらAルートの方が高いと予想される」
ちみどり    「……で、朝倉さんはどちらのルートを?」
にゃがと    「もともと台所仕事は彼女の得意分野。ルートの選定は彼女に一任してある」
ちみどり    「はぁ」

 

あちゃくら  「ふふ……長門さんとの生活で、さまざまな困難を乗り越えたこのわたし、あちゃくらりょうこが、
                    主流派、穏健派双方の端末の危機に際し、これほどの活躍を見せることができる……」
あちゃくら  「派閥からのボーナスも期待できますが、なによりふたりに貸しを作るということの方が大きいのです。これはがんばらなければ」

 

ちみどり    「なんかすごく楽しそうなんですけど、朝倉さん」
にゃがと    「彼女にもいろいろと思うところはあるのだろう。そしてなにより台所は彼女のフィールド。
                    解き放たれた彼女の行く手を遮るものはなにもない。おそらく」
ちみどり    「どんな環境にいたんですか、あなたたちは」

 

あちゃくら  「……もう少し……もう少し。もう少しでコンロに手が届く……!」

 

ちみどり    「なんという敏捷能力……もうあんなところまで」
にゃがと    「急進派の行動力は、感嘆に値する」
ちみどり    「がんばって……わたしたちの朝ごはんはあなたのその手にかかっているのだから……!
                    昨日の残りのお味噌汁。ごはんは冷えててもいいですが、味噌汁だけは熱くないとダメなんです」
にゃがと    (……なじんできている)

 

あちゃくら   「ふふ……ここまで来ればあとは……!」

にゃがと&ちみどり 「おお……!?」
あちゃくら  「……これで――!」

 

 ……カサカサ

 

あちゃくら 「……へ?」
にゃがと&ちみどり 「あ」

 

 ……カサカサ

 

あちゃくら  「…………」
にゃがと&ちみどり 「……あー」
あちゃくら  「……い、いやああああああっ!」ドスンッ


 ――ピンポンパンポーン
 ※お見苦しい映像があったことをお詫びいたします


あちゃくら  「た、太郎さんが……太郎さんがっ……!」
ちみどり    「……相当頭を強く打ったようです。妙なうわごとを……」
にゃがと    「妙ではない。太郎さんとは、飲食店関係者であれば誰でも知っている隠語。
                    あなたも偽装とはいえ喫茶店に勤めていたのだから知っているはず」
ちみどり    「あ、そうなんですか? わたしは知らないのですけど……」
にゃがと    「不勉強。つまり太郎さんとは、お客に対して知られてはならない、害虫を示す隠しコード」
ちみどり    「……なるほど。太郎さんですか」 
あちゃくら  「うーん、うーん……」

 

 だいたい十分後

 

あちゃくら  「……あー……いたた」
にゃがと    「だいじょうぶ?」
あちゃくら  「もう慣れっこですから、いいんですけど……あいたー」
ちみどり    「しかしこれで、朝ごはんは無理ということに」
あちゃくら  「もう少しわたしの心配してくれてもいいんじゃないですか、喜緑さん」

にゃがと    「しかし、これはいけない。絶望的状況」

あちゃくら  「その前に。どうしてゴキ……いえ、太郎さんがいるんです、この台所に」
にゃがと    「あれの侵入を食い止めるのは困難。その生命力の強さから、地球上から人類がいなくなった後、
                    支配者として君臨するのは彼らであると予測されるほどの生物であり――」
あちゃくら  「そんな話じゃないです。いつもわたしが掃除してあげてたのに。
                    それに掃除はこまめにするように言っておいたじゃないですか。それがなんでゴ……太郎さんがここに」
にゃがと    「……さあてね」
あちゃくら  「こっち向いて話さんかい、こら」
ちみどり    「お腹がすきました……ぐすぐす」

 

にゃがと    「いけない。こんな危機的状況下で仲間割れは死活問題。冷静になるべき」
あちゃくら  「すぐそうやって話をごまかす」
ちみどり    「……ぐすぐす」

 

にゃがと    「……こうなった以上、統合思念体主流派端末として指揮権を発動する。
                    全力を持って問題解決――つまり食糧問題を解決することを宣言する。なんとしてでも」
あちゃくら  「そんなこと言ったって、台所にアレ……がいるのがわかった以上、わたしはもうイヤですよ。怖すぎます」
にゃがと    「殺虫剤がどこかにしまってあるはず」
あちゃくら  「こんなサイズの体で、散布した薬品吸い込んだらどうなるのかわからないじゃないですか」
にゃがと    「……では、新聞紙を丸め武装した上で彼らと戦い、台所の領有権を実力で奪回するというのは」
あちゃくら  「長門さん、新聞なんて取ってないでしょうが」
にゃがと    「……建設的な意見はなにもない。否定ばかり。やる気が削がれる」(ぷい)
あちゃくら  「現実を見て話をしてください!」

 

 ぎゃーぎゃー

 

ちみどり    「……待って。落ち着いて。ほかに方策があるかもしれません」
にゃがと&あちゃくら 「おお?」
ちみどり    「――ここに、先日、現地通貨に変換しておいたものがあります。
                    あなたたちのための紙おむつやベビー用品を購入した際のお釣りです」
にゃがど   「……二万五千円と少し。なるほど」
あちゃくら  「? でもこれでどうするんです? わたしたちだけじゃこの七〇八号室から出て行けないんですよ?」
ちみどり    「ふふふ……」

 

ちみどり    「出て行けないのであれば、外から呼び出せばよいのです!」 
にゃがと&あちゃくら 「……おおー」(パチパチ)

 

あちゃくら  「なるほど。デリバリーですね!」
にゃがと    「これは盲点。さすが穏健派。視点が違う」
ちみどり    「ふふ……端末として当然の思考です。あまり褒めてもらっても困ります」

にゃがと    「では、なにを頼むのか」
あちゃくら  「定番でピザでいいのでは? 早いですよ」
ちみどり    「食べられるのならなんでもいいです」
にゃがと    「了解した。ではトッピングを決定するべく、第一回情報端末朝食決定会議を開催する」
あちゃくら  「この際、全部載せません? もうお腹がすいて仕方ないです」
ちみどり    「早く電話を……とにかくなんでもいいですから……」
にゃがと    「わかった。では早速」

 

 …………

 

あちゃくら  「あは……あははは……」
にゃがと    「…………」
ちみどり    「うえーんうえーん」

 

にゃがと    「予想もできたし、当然の帰結といえる。我々の今の身長では、電話台に上ることはきわめて困難」
ちみどり    「これは夢……きっと夢……たぶん夢……絶対夢……うふふふ……」
あちゃくら  「長門さん! また喜緑さんが現実逃避しちゃってます!」
にゃがと    「……これは、かなりシリアスな状況」

 

 

―第三日目/昼につづく―

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