機械知性体たちの即興曲 メニュー

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□第二日目/夜

 

喜緑          「ただいま」
あちゃくら  「あ、おかえりなさーい」トテトテ
喜緑          「あら。長門さんは?」
あちゃくら  「することないって、ずっとごろごろ寝てます。今も」
喜緑          「……ニート端末」
あちゃくら  「すごく……駄目人間ぽいです」

 

にゃがと    「……よく寝た」
あちゃくら  「緊張感ないなー……」
喜緑          「……さて。気を取り直して、今後のことをお話しましょう」
あちゃくら  「はーい」

喜緑          「長門さんの話を信じるならば、時間さえ経過すれば元通りに復元されると。そうですね?」
にゃがと    「おそらく」
喜緑          「それはどれくらいかかると予測されますか?」
にゃがと    「ただ過ごしているだけであれば、一週間もあれば完全復元できると考えられる」
あちゃくら  「……一週間も」

 

喜緑          「問題は、その間どうやってあなたたちの生命維持活動を支援するかです」
あちゃくら  「簡単に言うと、お世話してくれる人はどこに? ということですね」
にゃがと    「わたしと朝倉涼子のふたりでは、日常生活を送るのはかなり困難と言わざるを得ない」
あちゃくら  「ドアも満足に開けられないですしねー……」

 

喜緑          「……暫定的にわたしが対応しているわけですが、わたしも学校へ行ったり、わたし自身に与えられた任務もあります。
                    この際、ほかの派閥の端末に依頼するべきでしょうか。いくらか暇な機体も存在するようですし」
あちゃくら  「えーと……派閥の失点になるので、おおやけにしたくないといいますか」
にゃがと    「朝倉涼子の意見に同意する」
喜緑          「……まぁ、腐れ縁という言葉もありますし。しばらくはわたしが泊り込みで面倒を見ることにしましょう」
あちゃくら  「お世話になります」
にゃがと    「面目ない」

 

喜緑          「学校には連絡をしておきます。ふたりそろって病欠扱いとなりますが、嘘ではありませんし問題はないでしょう」
あちゃくら  「せっかくカナダから戻ったことになったというのに、出席日数が……」
喜緑          「懸念があるとするなら、このような事態を静観できない、ある勢力が存在することです」
あちゃくら  「……?」
にゃがと    「…………」
喜緑          「SOS団です。彼らがこの事態を黙って見ているとは思えません」
あちゃくら  「あー……」
にゃがと    「…………」
喜緑          「長門さんはこれまで、病欠ということはなかったはずです……『涼宮ハルヒの分裂』の最後を除けば、ですが」
あちゃくら  「そのメタ発言は危険水域ギリギリですので、あまり触れないほうがいいと思います」

 

喜緑          「周辺状況の対応についてですが、"彼"にはそれとなく事情を説明する方がいいでしょう。今日もすでに危うい接触をしてしまいました」
にゃがと    「"彼"であれば信頼はできると考える。その意見に同意する」
あちゃくら  「あー……でもキョンくんの場合、変にうろたえて涼宮さんに気取られる心配もあるのでは……」
にゃがと    「そういう面での心配はあるが、あらかじめ情報を伝えておくことで万が一の時、スムーズに支援を受けられる」
喜緑          「意外と"彼"はタフですよ、これまでの行動を観察していると」
あちゃくら  「……評価高いですねーふたりとも。長門さんはわかるとしても」
にゃがと    「どういう意味」
あちゃくら  「いえ、別に」

 

喜緑          「次いで『機関』に属する古泉一樹には細心の注意が必要と判断します。なるべく彼を遠ざけるようにしないと」
にゃがと    「古泉一樹、そしてその背後にある『機関』には必要以上の情報を与えない方が賢明。どのような反応を示すか推測が困難であるから」
あちゃくら  「よくわからない組織なんですよねー……あれ」
喜緑          「暴力装置を保有しているのはほぼ確実です。この間抜けな……失礼しました。この状況にどのように対応してくるか実際のところわかりません。
                    最悪、これを好機とみなしてあなたたちを捕獲するべく動くかもしれません」
あちゃくら  「捕獲ですか」
にゃがと    「……実際、その可能性はあると思う」
喜緑          「生きている宇宙人のサンプルですからね。いわば」
あちゃくら  「捕まったらどうなるんでしょうか」
にゃがと    「尋問、生体実験、最悪は生体解剖。もしかしたらヤフーオークションにかけられる可能性も捨てきれない」
あちゃくら  「最後のは絶対違うと思います」

 

あちゃくら  「朝比奈みくるは……どうでしょう」
にゃがと    「知られないに越したことはない。慎重に行動するべき。彼女たちもまた、我々とはいつ対立してもおかしくない」
あちゃくら  「しかし、この体でこんなシリアスな検討してる状況ってすごいシュールですよね」
喜緑          「どうでもいいですけど、ふたりともどうしてわたしのヒザの上に座ってるんです」
あちゃくら  「あ、つい気持ちよくて」
にゃがと    「検討に支障はない。続きを」

 

喜緑          「で、最後の、そして最大の心配事は――」
にゃがと    「涼宮ハルヒ」
あちゃくら  「どうしたもんですかねー」
喜緑          「おそらく、というかほぼ確実な予測なのですが、この七〇八号室にお見舞いという名目で突入してくるのは間違いないでしょう」
にゃがと    「わたしもそのように思う」
あちゃくら  「……居留守を使いますか?」
喜緑          「病欠の人間が、居留守を使うというのはよりいっそうの疑念を彼女に与えてしまうだけでしょう。危険な対応だと思います」

あちゃくら  「ではどうしたら……」
喜緑          「……病欠、というのは再考の余地がありますね。すでに今日も休んでいるわけですが、
                    いっそのこと、どこかの親類の家に行くこととなった、などのような説明が必要かもしれません」
にゃがと    「わたしもその方が良いと考える。ただ――」
あちゃくら  「ただ?」

にゃがと    「これは心配のしすぎかもしれないが、わたしの親類、という存在そのものを彼女が疑いだしてしまうのでは、という懸念がある」
喜緑          「その親類を探し出して、追いかけてくると? それは人間社会ではさすがに非常識の範疇に含まれるのでは。
                    これまでの彼女の行動は人類の平均的な行動より多少は外れているかもしれませんが……」
にゃがと    「そうではない。彼女がそこまでの行動を起こすとは思わない。
                    そうではなく、わたしの親類、というそのものが、彼女の意識の中で確立されてしまうことを恐れている」
あちゃくら  「……というと?」
にゃがと    「つまり、彼女の願望実現能力なるものが刺激されると、わたしの親類という架空の存在が顕在化してしまうのでは、ということ」
喜緑          「本来存在しない、『長門さんの親類』がほんとうに生み出されてしまうかもしれない、という危険性ですね」
あちゃくら  「さすがにそこまでは……」

 

喜緑          「……しかしながら、SOS団の襲来を防ぐ言い訳はほかには見つかりません」
にゃがと    「危険は伴うが、やむを得ない」
あちゃくら  「……どうしてまたこんなことに。体がちっちゃくなっただけでは済まないなんて」
喜緑          「そもそものことの発端はなんだったのですか? 今更ですが」
にゃがと    「……それは」
あちゃくら  「?」
にゃがと    「朝倉涼子の画像と聞いて、リンクを踏んだらそのままいろいろと変なものが」
あちゃくら  「……いったい、わたしのなにを期待してそんなリンクを踏んだんですか、あなたは」
にゃがと    「欲望には逆らえなかった。済まない」

 

喜緑          「とにかく、今日からこの部屋にわたしも泊まりこみます。よろしくお願いしますね」
にゃがと    「面倒をかける」
あちゃくら  「ご飯作らないとですね。もうこんな時間。お夕飯ですよ」
にゃがと    「よろしく頼む。できれば子牛のロティ。ノルマンディー風の……」
あちゃくら  「冷蔵庫にチンゲン菜とブタ肉とオイスターソースがありますので、それで炒めものにしましょう」
喜緑          「おいしそうですね。では台所に」
にゃがと    「…………」

 

喜緑          「はい。ごちそうさまでした」
あちゃくら  「どういたしましてー」
にゃがと    「……けぷ」

 

喜緑          「さて。明日からはしばらくここで篭りきり状態になるわけですが」
あちゃくら  「その言い方はちょっと……」
にゃがと    「事実は事実。たとえ現状にいかなる不満があったとしても認めなければならない」
あちゃくら  「そもそも誰のせいだと思ってるんですか、あなたは」

 

喜緑          「先ほどのお話でも決めたことですが、"彼"に連絡をしてここに来てもらうことにしましょう」
にゃがと    「それほどのこと?」
喜緑          「電話で説明するには事情がやや複雑ですし、来てもらった方が手っ取り早いでしょう」
あちゃくら  「……この姿を見られるのですか。なんか抵抗があるんですけど」

喜緑          「ここで"彼"を取り込んでおけば、後々、"彼"を媒介として、涼宮さんに対して有効な手が打てると考えます。
                    後々、というのはこの件が解決したあとも、『あなたに対しては常に我々は情報を提供するのだ』という意思表示であり、
                    信頼関係構築手段の確立につながる」
あちゃくら  「おー」
にゃがと    「……それだけ?」

 

喜緑          「……無論、すべての真実を明かすわけではありません。嘘をつかない。ただ全てを話さないという意味ですけどね」
にゃがと    「……策士」
あちゃくら  「……黒い」
喜緑          「いいたいことはそれだけですか?」
にゃがと&あちゃくら 「ごめんなさい。もういいません」

 

喜緑          「むしろあなたたちは無条件に人間たちを信頼しすぎる傾向があると感じます。今夜は情報端末としての心構えをとくとと教えてさしあげましょう」
にゃがと&あちゃくら 「うわー」

 

喜緑          「……その前に"彼"に電話をしておかないと。お電話お借りしますね」
にゃがと    「自由に使っていい」
喜緑          「では」

 

喜緑          「もしもし?」
キョン        『その声は……喜緑さんですか? どうしてまた長門の家から』
喜緑          「いろいろと事情がありまして」
キョン        『……この電話。まさか紙オムツとか、ベビー用品の買い出しとなにか関係があるんですか』
喜緑          (勘の鋭い人間……)

 

あちゃくら  「見ました? 長門さん。今の表情の変化」
にゃがと    「一瞬だけ眉毛が微妙な角度を形成。心情変化はするものの普通は気づかれないレベル」
あちゃくら  「表面上穏やかに見えるだけに、ああいうのって怖いです」
にゃがと    「海の波の穏やかなるも、その深奥には深い闇が……」
あちゃくら  「長門さん詩人ですー」

 

喜緑          「……あ、ちょっと待ってくださいね」
キョン        『? なんだ?』

 

                    ……トコトコ
                    バシバシ
                   (うぎゃー)

 

キョン        『……なんの音ですか? それに誰か子供のような声が……』
喜緑          「――お待たせしました。いえ、ちょっとしたアクシデントがありまして」

 

                   (おうぼー)
                   (よめのもらいてがないぞー)

 

キョン         『……テレビですか、これ。どういうわけか、弾圧された民衆の怨嗟の声のようなものが遠くから聞こえてくるんですが』
喜緑           「お気になさらず。話が横道に逸れました。さっそく本題に移らせていただきますね」

 

      ――説明中

 

キョン         『……なるほど。それで学校を休んでいたのか、長門のやつ』
喜緑          「いろいろとご迷惑をおかけします。このような簡単な説明ではなんですので、一度こちらに来ていただきたいと」
キョン        『はぁ……』

喜緑          「涼宮さんに事態を把握されると困るのは、お互い一緒だと思うのです」
キョン        『それはまぁ……確かに』
喜緑          「では、明日。放課後に。七〇八号室でお待ちしております。あ、それと」
キョン        『?』
喜緑          「古泉一樹、朝比奈みくるの両名にはこのお話はしないよう、くれぐれもお願いします」
キョン        「……わかりました。じゃあ、明日に」
喜緑          「ご苦労をおかけしますね。では」

 

喜緑          (……さて。これで"彼"はこちらに組み込めるはず)
喜緑          (少なくとも、あと数日の間、他勢力に介入される隙は極力作り出さないこと)
喜緑          (どこまで欺瞞が通せるか――)

 

にゃがと    「……また表情が黒い。なにか企んでる色がありありと見える」
あちゃくら  「基本設計部に問題があるんですかねー。わたしの場合はニコニコしながらナイフも振るえたものですが」
にゃがと    「性根の問題。おそらくは」
あちゃくら  「つくづく思うんですが、保守系派閥ってみんな暗いですよね。思索派とか」
にゃがと    「それはまた別の問題だと思うが――」

 

喜緑          「(薄ら笑いを浮かべながら)――さあ。ふたりとも心構えはよいですか? 命ごいの準備は?」
にゃがと&あちゃくら 「ごめんなさい。許してください」

 

 

―第三日目/朝につづく―

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