~半年位後~
 
「そうだったのですか…。いや~、驚きましたねあなたと岡島瑞樹先輩との間にそのようなエピソ-ドがあったとは」
「嘘をつけどうせある程度の事は把握していたんだろ」
「ははは。しかし、困りましたね… あなたは今でも岡島先輩の事を愛してらっしゃるのですよね?」
「愛してるって言い方が気持ち悪いがその通りだ」
「そうですか…、あなたはてっきり涼宮さんの事が好きだとばかり思っていましたが…勝手な思い違いをしていて申し訳ありません」
「気にするな。今回の事だってもとはと言えば俺がいつまでもぐずぐずしていたせいだ」
「いえ、先日の佐々木さん達の件での僕の不手際のせいです。でなければ上から催促されずに済みこのような状況は避けられたのですから」
「どっちのせいってのはこの際どうでもいいだろ、ともかく今から俺はハルヒの家に行く。こんな時間だから少々気が引けるがそうも言ってられないだろう」
「そうですね、早くあなたには一番いい目を出していただかないと…こちらの方はあの方が何とかしてくれるでしょう。機関の一員としては褒められた事ではないですが事態が事態ですからね。細かい事は言ってられないです。
あ、あなたの荷物はこちらが預かっておきます。上手く事が収まったら機関がお届けあがりますので。ではご武運を」
 
 
 
 
 岡島先輩と俺は初デートでの一件以来、お互いにメールしたり、都合が合えば一緒に遊んだりしていた。
 その間、実に微妙で特殊な間柄ではあるが二人の関係は順調に進んでいたと思う。
 例えばだな、毎日どちらからともなくメールをしてその日の出来事やくだらない(俺にとってはくだらないなんて事はない)話をしたり、学校で合えば岡島先輩のご友人である鶴屋さんや朝比奈さん、
その他諸々の上級生の方との会話に花を咲かせたりもした。
 そういえば俺が入院してる時は見舞いに来てくれなかったんだよな…
 後で聞いたら、凄く心配で行きたかったけどうんたらかんたらと何故か知らんが濁されてへこんだね。
 もうこの人の気持ちは変わったのかって…
まあ結局その後、『キョンくんが退院したお祝いにデートなんて駄目かな?』なんていう世界が分裂してようと断るわけの無いお誘い岡島赤面モードで受けたんだがな。
 実はと言うとそのお誘いがあるまで初デート以来、ヘタレな俺はメールや会話などは出来たがデートに誘うということが出来なかったんだなこれが。
 で、喜びのあまりシャミセンにほお擦りしてたところを妹に見られてネタにされたのはいい思い出だ。
 後、例の機関誌作成の時、猫の観察日記ならいざ知らず『恋愛小説』という俺にとっては今から過去へ行きタイタニックを沈没の危機から救えと言われたのと同等の超ど級のハードミッションを
我らが団長様曰く公明正大なくじによりたたきつけられどうしようか途方にくれていた俺の為に『友達から色々恋愛体験とか聞かせてもらったんだけど…良かったら参考にしていいよ』と救いの手を差し伸べてくれたんだ。
 メール見ながら泣いたな。
 結局使わなかったが…
 流石に人様の恋愛体験を機関誌という不特定多数の人間の目に触れる物に載せるのは気がひけたからな。
 あ、忘れていた事がもう一つ。
 バレンタインの時はSOS団が誇る美少女三人衆以外から唯一のおチョコを貰ったんだったな。
 ………今おもえばホワイトデーのお返しをした時に想いを告げるべきだった。
 どうも俺はぬるま湯の心地の良い感じから抜け出せない性分らしい。
 今日こそは伝えようと思っても中々…
 そのせいで今の非常にまずい状態に陥ったわけだ。
 そろそろ、状況を説明しろってか?
 やれやれ、鼓膜までかっぽじって聞きやがれ。
 
 
 
 
 佐々木達との一件は古泉が雪山での『機関を裏切ってあなたに味方します』というのを果たす格好で無事に解決した。
 まあ、そのせいで古泉は機関の上司からこっぴどくしぼられたらしい。
 本人曰く『現在世界ではこの世の終わりが2012,13年だと言った説がまことしやかにささやかれていますが、僕はてっきりその世界の終わりが早まったのかと思いましたよ』だそうだ。
 終止普段のニヤケ面語ってはいたんだが目がハルヒに弄られている朝比奈さんの怯えた目を凌駕していた…所謂レイプ目ってやつだ。
 そんな古泉の様子を見ている間、俺の頭の中には妖絶な笑みを浮かべながら銃を構えるスーパーウーマン森園生さんが浮かび続けていたのは内緒だ。
 まあ何だかんだ言って長門も無事だったわけだし。
 一件落着ってやつだ。
「…………」
 しっかしな…なんだこの視線は。
いや、死線とでも言おう。
 今は団活中であり俺は古泉と軍人将棋に興じているわけだが、さっきから…いや今朝から団長様の意味不明な視線を浴び続けている。
 この様子だと被爆しているに違いない。
 即刻なんちゃかシャワーを浴びさせてもらいたい。
 その結果古泉に押されるという奇跡体験をしているんだなこれが。
 このままでは俺の精神衛生及び対古泉戦の対戦成績が悪くなるのは明白なので…
「なあ、ハルヒなんか用でもあるのか?」
「な、何のことよ」
 そんなさっきまで俺をジト~っと見ていたくせに何のことよじゃねえよ。
「何かあるんなら言ってくれ。このままじゃ気が散って古泉に負けちまう」
 この前、身を挺して俺達を守ってくれた恩があるとはいえ古泉に唯一勝てるゲーム類で負けるのは癪だ。
「…………さい」
「はい?」
「今日、あたしと一緒に帰りなさいって言ってるの!!!」
「わ、分かった分かったからそんな大声をだすな」
 お前さんが大声だしたおかげで朝比奈さんがお茶をこぼして…ない。
 何故だ? 何時ものあなたなら『ふえええ』という愛らしいお声を漏らしながらお漏らしをしたかのような水溜りを足元につくり俺のなけなしの理性をぐらつかせてくれるはずだというのに…
 なんですかその落ち着きはなった態度は?
 そんなの………俺が知ってる朝比奈さんじゃないです!
「返事はどうしたの返事は!!」
「は、はいご一緒させていただきますです」
 
 
 
 
 俺は意味不明な敬語を吐いてからというものハルヒからのこれまた意味不明な視線から一応解放され俺は長門の定刻を告げる合図まで古泉をけちょんけちょんしてやった。
 ざまあみやがれってんだ。
 そして今、俺はハルヒの命令通りに二人で帰っている。
 ハルヒの奴はというと…
「…………」
 自分から一緒に帰れと言ったくせにだんまりだ。
 やれやれ、一体なんなんだってんだ全く。
「…あのさ、あんたって佐々木さんと付き合ってんの?」
「はあ?」
 国木田にでもふきこまれたのか?
「だからさ、佐々木さんと仲良いいんでしょ? 男女で仲がいいってことはそういうことなんでしょ?」
「あのなあ…、だったら俺とお前さんは付き合ってるってのか?」
「ばば、ば、馬鹿言わないでよ! だ、だ、誰があんたみたいなさえない奴とあたしが付き合わなきゃいけないのよ!!」
 さえない奴で悪かったな。
「だろ? つまりそういうこった。ハルヒだけじゃねえ、朝比奈さんや長門にだって言えることだ。仲がいい男女ってだけで付き合ってる云々言ってたらキリがない」
「それもそう、よね……」
 なんだなんだ?
 ハルヒにしては大人し過ぎやしないか??
 いつものハルヒならそのまま国会のなんとか委員会に放り込んでも違和感がないくらいの暴論で俺を完膚なきまでに論破するところだろうに…
 なんだこの味気なさは。
いや、味気ないのが嫌とか言うわけではないぞ!
 別に罵られて濡れたりなんかしてるんじゃないんだからね!
「じゃあさアンタ今誰か好きな人いるの?」
 …いるな。
 阪神のスターティングメンバーに金本が居るのと同じ位な当然さでいるな。
 だがここでハルヒにゲロっていいものか…
 だってそうだろ?
 理由は未だに謎ではあるが岡島先輩はハルヒに対して何らかの負い目を感じているのは明らかだ。
 そんな岡島先輩の事を思うと…、そう簡単に言っていいものかどうか。
「ねえ黙ってないで何とか言いなさいよ」
 しかしな…、今のハルヒを見ていると嘘をつくのはまずい気がしてならない。
 嘘をついたところでばれてアボンみたいな感じになる気がする。
 それにこんな不思議な表情のハルヒは始めて見た。
 なんだろな…喜び勇んでやってきた新兵が始めての実線を前にして緊張しているといった感じか。
 まあこいつには似合わない雰囲気だ。
「ちょっとキョン聞いてるの!!」
「あ、ああ聞いてる聞いてるからネクタイを引っ張るな苦しい」
「だったら答えなさいあんたは今好きな人いるのいないのどっちなの!!」
 だーかーらー、引っ張るな!
 身長差を考えろ身長差を! これじゃあドワーフが人間を狩ってるような感じだろが!
「いる!! 好きな人います!! ほら答えただろ、早く離してくれ頼む」
「そ、そうなの」
「そうなんだ! だから離してくれ…」
 そろそろ、キレイなお花畑が見えそうだ…
 ホントに危ないぞ。
「あ、ゴメンゴメン。……でさ、誰なの? その…キョンの好きな人ってさ」
「…岡島先輩って覚えてるか?」
 
 
 
 
 俺はハルヒに俺がどれだけ岡島先輩のことが好きなのか喋った。
 今思うとどうしてあんなに喋ってしまったのか不思議な位喋った。
 …馴れ初めはぼかしを入れさせてもらったがな。
 あんなことこいつに言ったら何されるか分かったもんじゃねえ。
 まあ俺としてはありがたいことに俺が喋っている間ハルヒは静かに、それでいて真剣に静聴していてくれたわけだが…
「…………」
 あの~、ハルヒさんや? もう俺の話は終わりましたよ?
 それとも何か俺のじれったい態度に腹を立ててらっしゃるのですか?
 だとしたら安心しろそのうち本気出す。
「あ、あのさ…」
「ん?」
「そのさ…」
 なんだモジモジしやがって?
 それに言うことあるならちゃんと人の目を見て話せ。
 俯いてたら話し相手に失礼ってもんだ。
 古泉ほどやれとは言わんが…、ぶっちゃけあれはキモイからな。
 あれのおかげで俺は多大な被害を被っているんだ。
「なんだらしくないな、はっきり言えよ」
「あ、あたし」
「あたし?」
「あたしはあんたの事が好きなの!!!!」
 …………そういえば、このあいだ谷口が人間にはモテ期とやらがあってその時期に差し掛かった奴はそりゃもうギャルゲ、エロゲの主人公並にモテるんだとご飯粒を口からぶちまけながら力説していたな。
 俺自身ギャルゲやらエロゲやらを谷口ほどしてない。
 ゆえに谷口のように確固たるイメージってのはない。
だからその話を聞いてこんな風になったら人生楽しいんだろなあって程度にしか思っていなかったわけだが…
 そんな事はないらしい、もてるってのは罪なもんなんらしいからな。
 …おい、そこ笑うんじゃねえ。
 ともかくだ、心の中だが叫ばしてもらう。
 何がともかくだとかも気にすんじゃねえぞ。
 すぅ………どうなっとんじゃあああああああああああああああああああい!!!!!!
 はあ、はあ…、訳っっ分からん!
 俺の事好きだと?
 ハルヒが? 神様もどき及び時空の歪み及び自立進化の可能性である唯我独尊団長様涼宮ハルヒが俺の事を好きだと??
 ありえん。ありえなさ過ぎる!
 …分かった。SOS団プレゼンツドッキリ大作戦ってか?
 やれやれ、驚かせやがって全く。
「ねえ、キョン大丈夫? とんでもない汗出てるわよ」
 もう俺は分かってるぜハルヒ。
 こんな簡単なドッキリに引っかかる程俺は落ちぶれてはねえよ。
 だから、そんな顔をするな。
 頼む…
「…ゴメンね、あんたは岡島先輩が好きなのよね、さっき言った事は忘れて頂戴」
「おい、ハルヒ…」
「あ、いけない、用事を思い出したわ。じゃ先に帰ってるわ、それじゃあ」
 そう言ってハルヒは信号が点滅している交差点を自慢の健脚で駆けて行った。
 …一瞬、ハルヒが走り出したその瞬間、あいつの目には涙が浮かんでいたのをたった一瞬だってのに俺は見てしまった。
 これほどの短い瞬間に後悔したことはない。
 
 
 
 
 普段の俺ならばハルヒと分かれた後、速攻で家に帰って風呂にでも入り母さんが夕食を作ってくれるのを今か今かと待っているところなんだろうが…、今は違う。
 今は誰にも会いたくない。
 …たとえそれが自分の想い人だとしてもだ。
 
 
 
 
 何時間位たっただろうか、辺りは当たり前に暗く冬のような冷たい風が俺を家に帰れと言わんばかりに吹き付けている。
 それでも俺は家路を急ぐサラリーマンすらいなくなった住宅地を徘徊している。
 正直、街頭しかないもんだから辺りは暗く自分が今何処にいるのか分からん、…少々不安になってきたな。その上寒い。
 しかし俺の携帯にはGPS的な便利な機能なんてのは恐らくない。
 …やれやれ、その内誰かに出くわすだろう、その人に聞いてみるとするか。
 と、都合がいいことに誰かが向こうから走ってきt
「え、キョンくん!? なんでこんなとこに!?」
 なんてこった…、こんな時に限って岡島先輩…
「ちょっと大丈夫なのキョンくん震えてるよ?」
 岡島先輩は心の底から心配そうな顔を俺に向けてくれている。
 普段なら発情ものだが今ばっかりは…
「とりあえず、私の家、上がってって。こんな所いたら風邪ひいちゃうよ」
「い、いえ大丈夫で…」
「大丈夫じゃないよ! ほら早く」
 そう言って岡島先輩は俺の手を引いて歩き出した。
 その手は振りほどこうと思えば容易く出来ただろうが俺はそうしようとはしなかった。
 さっきまで誰とも会いたくないって思ってたってのに現金な野郎だよ俺は…
 
 
 
 
「はいどうぞ」
「どうも、ありがとうございます」
 岡島先輩が淹れたのか、はたまたお母様が淹れられたのかは分からんお茶を俺はすすった。
 熱いな、ちょっと舌火傷したかもしれん。
 だが、さっきまで少々寒い外を徘徊し続けていた俺にはこれ位がちょうどいいのかもしれない。
「どう少しは暖まれた?」
「はい随分と」
「良かった…、ねえどうしてあんな所にいたの? しかもこんな時間に」
 こんな時間ってどんな時間?
 …なんてこったもう時計の針が重なりそうになってやがる。
 全くどんだけ徘徊してたんだ俺は…
「まあ、ちょっとありまして…、ねえ…」
 正直ちょっとではない。
「そっか…、あ、そうだ明日キョンくんに渡そうと思ってた物があるんだ」
 すると岡島先輩は部屋の隅に立てかけてあった何が入っているのかおおよその予想がつく袋を持ってきた。
「このあいだメールで言ったよね? キョンくんも楽器してみないって」
 一週間位前になるかな? 日課となった岡島先輩とのメールのやり取りをしていた際、俺が『俺も岡島先輩みたいに何か楽器弾けるようになりたいですね』
と言ったら岡島先輩が『じゃあキョンくんも何か楽器してみない?』と食いつきになられたんだっけか。
 ほんとこの人は律儀だな。
「舞に頼んで借りてきたんだ、このベース」
 そう言いながら岡島先輩はソフトケースからベースを取り出して俺に見せてくれた。
 それは財前先輩が去年の文化祭で弾いていたものとは違って薄い茶色、黄土色のものだ。
「これね、舞がベース始めたころに使ってたのなんだよ」
「そうなんですか…、しかしいいんですか俺なんかがこんな立派のもの借りてしまって? 俺上手く弾けないかもしれないですよ」
「安心して、舞だって『使わずに埃被るよりキョンくんに弾いて貰う方がこのベースにとって幸せだ』って言ってたよ。それに…これは舞に絶対内緒だよ。ベース簡単だしね」
 そりゃ絶対に内緒ですね。
 財前先輩は座右の銘が『ベースは最も簡単なパートであり、最も難しいパートだ。だからこそ最高の楽器なんだよ。それに酒をたくさん飲まなくちゃいけないからな』
という後半部分は完全に何かからの引用を匂うわせるものではあるが、この文言からも分かるようにベースを愛されている方である。
 そんな財前先輩にベースは簡単だみたいなことを言ったら大変なことになるというのは上級生の方々の間では有名な話であるからだ。
「でもこれでキョンくんも楽器できるようになれるね。そしたら今年の文化祭は安心だよ」
「今年の文化祭ですか?」
「そう、涼宮さん達と今年の文化祭ライブするんでしょ?」
 ……ああ、ハルヒが去年そんなこと言ってたな。
 ハルヒ、か…
「涼宮さんや長門さんは勿論大丈夫だろうしキョンくんがベースを弾けるようになったら後はドラムだね。……みくるちゃんはちょっときつそうだね、え~っと古泉くんだっけ?
あの人なんでも出来そうだから大丈夫だね。もし困ったら私協力するよ」
「はは、ありがとうございます」
 岡島先輩の好意に対しこんな風に複雑な気分になるのは初めてだ。
 まあ…仕方がないか。
「…………」
 ん?どうしたんだ、いきなり黙り込んで。
「…あ、ゴメンねちょっと浸っちゃってた」
「え…、浸ってた?」
「うん……、私達って何だか恋人同士みたいだなあって…」
 ……すいません、俺が情けないばっかりにあなたにまで迷惑を…
 恋人…か…………、もう決めねえといけない。
 いや、始めから決まってたはずだ。俺が情けなかった所為でこうなっただけだ。
 責任を取るなんて言い方をしたらいけないんだろうが…
 俺は…
「キョンくん?どうしたの、大丈夫?」
 様子の変化に気が付いた岡島先輩は俺に近づいてきた。
「岡島先輩!」
「!?キョ、キョンく、ん?」
 そんな岡島先輩の肩を少々乱暴にだが掴む。
 先ほど走っていた為か岡島先輩からはほんのりと汗の匂いがしている。
「岡島先輩!お、お俺は…ピロリロリンリ~ン♪
 なんとも間抜けなお馴染サウンドが俺の右ポッケから鳴る。
 ……逆に空気読めすぎだろ。
「す、すいません電話が…」
「う、うん…大丈夫…」
 はあ、空気が読めまくってるのは誰ですか…って、こいつか…
 ここじゃ不味いよな…
「すみません、親からです。恐らく早く帰ってこい的な電話だと思うんで今日はお暇させてもらいます。…この話はまた今度にして下さい」
「あ、今日はまだ帰ってないんだもんね。お母さん怒ってるよね。…また話の続きしてね」
 
 
 
 
 帰る際岡島先輩のお母様が車で送ってあげようかと申し出ていただいたが一刻も早く電話しなければいけない気しかしなかったので申し出を丁重にお断りして徒歩で歩きながら、先ほどの電話の主にコールした。
 プルルというお馴染みのコール音が少しだけ響き…
「少々お時間よろしいでしょうか」
 いかにも待っていましたと言わんばかりの声で電話に出たのは古泉だ。
 まあ古泉に掛けたんだから当たり前だよな。
「ああ、俺はかまわんが場所は…」
『大丈夫ですある程度把握しています。じき迎えをよこしますのでそれに乗ってきて頂いたらよろしいかと』
 把握してるって…相変わらず機関ってのは何でもありだな。
 
 
 
 
 機関御用達、黒塗りの車に乗せられ少しすると運転手改め新川さんが目的地に着いた旨を俺に伝えてくれた。
 簡単な礼を告げ車からおりるとそこには古泉がいたのだが、ここは…
「どうもすみません。こんな夜分遅くに呼び出して」
「あ、ああ、気にするな、今日は呼び出された理由も大体分かっているからな」
「それは助かります」
 そう言うと古泉はいつものにやけ面を引っ込め
「…無粋な事を承知でお聞きします。何故涼宮さんの『告白』に返事をしなかったのですか?」
 元々鋭かったであろう目を俺に向けてきた。
 その視線にはまさに突き刺さるという言葉がぴったりだ。
「正直機関は混乱しています。いえ、機関だけではありません。朝比奈さんや長門さんも同様に驚いていらっしゃるはずです」
 まあそうだろうな。
「…実はですね、今日涼宮さんがあなたに告白をされたのは僕の所為なんです」
「おい、それはどういう事だ」
 事態がキナ臭さを帯びている事に気付いた俺は強く古泉を見据える。
 そんな俺に対しこいつはまったく動じていない。
「先日の佐々木さん達との一件は覚えてらっしゃいますよね?」
「ああ、ついこの間の事だからな」
 妙な連中が現れたり長門が急に倒れたり…全く驚愕の連続だった。
「だが待て古泉、この間の件がどうやったらハルヒが俺に告白に繋がるんだ?」
「その疑問はごもっともです。説明しましょう。あの件で僕は機関の意向とは反する行動をとりました。そうSOS団副団長古泉一樹として行動しました」
 ああ、そうだ。
お前さんがああいう風に判断してくれなけりゃ今こうやって俺達はSOS団としての活動ができていなかったかもしれないからな。
「僕自身あのように行動した事について一切後悔していません。しかし…」
 ここにきて言いよどむ古泉。
 元々深刻な事態なのだろうとは思っていたが、どうやらそれ以上らしい。
 俺が見た事のない古泉の表情、仕草がそれを物語っている。
 ホントに冬は終わったのか、実は冬なんではないかと錯覚させるような冷たい風が吹き付けてくる。
 その間俺は古泉が口を開いてくれるのを待つ。
 どれだけそうしていただろうか、そろそろ俺から問い詰めてやろうかと思い出した位になり古泉が口を開いた。
「機関は僕の行動を良しとはしませんでした。それ自体は驚くべきことではありません、所謂想定の範囲内というやつですね。しかし機関は、機関といっても僕自身あったことのない上層部の連中なのですが、
その連中は僕が今までの他勢力との相互不干渉という暗黙の了解を破った事を許されざる事態と認識しました。
そう、僕が機関の意向を無視し長門さんを救った事を良しとしなかったのです」
 今まで黙っていた分をこれでもかというくらいに吐き出している。
こいつは根っからのおしゃべりなのだろうとつくづく感じさせられる。
 まあ、そんなことは今どうでもいい。
今重要なのは古泉はまだ全てを言い終えてないということ。
 こいつはホントに言いたいことをまだ言っていない。
 そんな気がする。
「そのこと自体は先ほども言った通り想定の範囲内でしたが、思念体側は僕が長門さんを救う際に提示した『対価』を払うように思念体は迫ってきました。
その対価というのは彼らが渇望している『自立進化の可能性』言い方を変えるならば『情報爆発』…」
 現状維持を目的として動いていたとんでも集団機関も宇宙人相手にはもろ手を挙げて降参だってか。
「彼らは今まで基本的に静観していました。しかし、最近涼宮さんの力が収束する方向に動いている事に大変な危機感を感じていたようです。
そんなさなか情報爆発を得るきっかけをつかんだ…まさに棚から牡丹餅だったのでしょうね。そしてその情報爆発をえる手段として涼宮さんの告白という手段を提示したのです」
 古泉の大演説は止まらない。
 珍しいことに俺自身この演説が終わって欲しくないというなんともレアな心境である。
「おそらく思念体の意図はこうでしょう。涼宮さんは十中八九あなたに好意をいだいていた。それは現在も変わりません、でその好意を抱いているあなたに告白という行動をとらせることによりその結果が彼女の望むもので無くとも情報爆発は起こると考えた。
だってそうでしょう、告白という行為は結果がどうなろうとその人の精神、心に多大なプレッシャーを掛けます。その心へのプレッシャーは涼宮さんの場合、彼らの求めるものにに繋がる、それは少し考えたら分かる事です」
「そうなのか?」
「ふふ、そうなんです」
 笑うな気持ち悪い、あなたとか付いてるから二割増しで気持ち悪い。
 こんな状況だけに安心するが…
「しかし待て、さっきから聞いているとお前達の機関は思念体から脅迫を受けしぶしぶ今回の行動に出たってことなんだよな?」
「まあそういうことになりますね」
「だったらなんで機関の一員であるお前がハルヒが俺に告白するように画策する必要があるんだ?」
 確かにハルヒの一番近くにいる宇宙人様にこんな事をさせるのは無理なのは分かるが…
「インターなんちゃかに命令し、それを実行したらいいじゃねえか?だってのにどうして機関を脅迫してまで機関にさせる必要がある?」
 まさか『人の恋心は分からない』なんて事じゃあねえだろな?
「あなたの疑問はもっともですね。それについては僕がこの役を申し出たからです」
 さっきまでの鬼気迫る雰囲気は幾分和らげられ今目の前で自嘲気味に語るのは俺が良く知る古泉その人だ。
「先ほども言ったように今回の事は僕の行き過ぎた行動が招いた結果です。僕はそれにより現在機関へ多大な影響を出してしまった。しかし何だかんだ言っても僕は機関に助けられた身です。
だからその恩人と言える機関を『助ける』なんて言ったらおこがましいのでしょうが、何か行動に出たかっのです。
そして僕には今回の行動を起こすに足りる動機がありましたしね」
「動機?」
「はい、僕はつねずねあなたと涼宮さんにはご一緒になってもらいたいと思っていました。これについては機関でも意見が分かれていたことなので機関の意向という事ではありません」
 いや、この際機関の意向とかはどうでもいい。
 状況が状況だからな。
「まあ、今述べた動機は『SOS団副団長古泉一樹』としての動機です。…比べるつもりは毛頭ありませんが、聞いていただけると光栄です。『機関の構成員古泉一樹』としての動機を」
 ……今日はえらく長い演説だな。
「ここで聞かんって言うと思うか?」
「思いませんね」
「だったらどうぞ大演説を続けてくれ」
「ふふ、かしこまりました。以前あなたを閉鎖空間へ招待した際、『頭が狂ったかと思った』と説明しましたが、あれは嘘です」
 ……はあ?なんで今一年前の嘘を告白してんだよ。
 神様たるハルヒに告白された俺に対するあてつけか?
「頭が狂ったと思ったのではありません。簡単な言葉を選ぶなら自分という存在が無くなる恐怖に襲われたと言えるでしょう……」
 普段なら息が掛かるほどの至近距離で俺に講釈をかましているくせに、今は俺と目すら合わそうとしない。
「あなただって僕の状況になれば同じように感じると思います。見ず知らずの少女の感情が全てとは言いませんが流れ込んでくる恐怖、自分がしなければいけないという理不尽な使命感によりもたらされる恐怖、
それらからくる自分という存在が無くなるのではないかという恐怖…僕は涼宮ハルヒという存在を恨みましたよ」
 涼宮ハルヒという存在ね……
「そんな状況に機関の迎えが来ました。始めは人体実験でもされるのかと思い、恥ずかしながら迎えの車内で恐怖の余り失禁しましたよ。まあ、その恐怖も機関に着き、他の超能力者の方とあったら消えうせましたがね」
 ようやく古泉は俺のほうを向いた。
 そこには自嘲気味な笑顔があった。
「彼らは僕を温かく迎え入れてくれました。彼らにだって僕と同種の恐怖はあったはずなのに、僕を勇気ずけてくれたのです……その日の事は何があっても忘れません」
 だから恩人か。
「しかし今、いや、本来ならば涼宮さんの力が消滅でもいない限り無くなることはないのですが、我々超能力者達はこれまでに無いほどの危険に晒されている可能性があるのです」
「危険だと?閉鎖空間がとんでもないことになっているとかか?」
「お察しの通りです。今僕たちがいるこの道に見覚えはありますか?」
 ……ああ、あるさ。
 ここは…
「その様子だと既に気づいているようですね。そうです、ここは今日、涼宮さんがあなたに告白をされた場所です。そして、今発生している閉鎖空間の中心でもあります」
 そうここは夕方ハルヒが俺に告白した通りだ。 
「恐らく…いえ、恐らくなんて言い方は必要ないでしょう。涼宮さんは今大変ショックを受けています。それこそ世界を消滅させてしってもおかしくない程に、だから今まで我々機関が観察してきた中でも最大級の閉鎖空間が現れているのです」
 すでに古泉の顔は自嘲気味に語っていた時の面影は無く、また俺の知らない古泉のものになっている。
 そのことからも事態の深刻さは伺い知る事は出来るがそれ以上にこいつをこんな風に追い詰めてしまったのはいったい誰の所為なんだと分かりきった問いが俺の中で巻き起こっている。
 そう、分かりきった問いがだ。
「しかし、この閉鎖空間にはおかしな点が一つあります。それを今からお見せしたいのですが…付いてきていただけますよね?」
 古泉の問いは疑問系でこそあるが、そこからは有無を言わせぬといった感じがある。
 もっともそんな風にされなくとも俺にはこの申し出を断る正当な理由はない。
「……ああ」
「ありがとうございます。では以前にしたように目を閉じて手を出して下さい」
 
 
 
 
 それは余りにもショッキングな光景だった。
 その光景はまだ世界が核戦争が終結した後の方がマシと自信を持って言える程のものだろう。
 神人、ハルヒのイライラが溜まると現れ、閉鎖空間というハルヒが作り出した精神世界(この言い方が正しいかどうかは分からない)で破壊活動を繰り返す物騒で巨大なやつ。
 以前の経験から俺はそのように神人を認識していた。
 だが、今遠くで自分の身体を、頭をそこらじゅうにぶつけ、のた打ち回りながらそこらじゅうの建物を破壊している神人は聞こえるはずの無い叫びを上げているようであった。
 そう今俺が見ている神人は明らかに苦しんでいる。
「この閉鎖空間が発生すると同時にかの神人は出現しました、今あなたが見ている行動を続けています今でこそこのように自傷行為をしていますがこの後どのような行動をとるか分かりませんでしたので
機関は早々に神人の駆逐を始めましたがまあこの神人はどれだけ攻撃しても消滅しないのです。
傷が増えるだけで自傷行為を止めようとしませんでした。もっともこのまま放って置いたら閉鎖空間は拡大する一方ですし観察を続ける我々機関にも危険が及ぶ、
そして何より涼宮さんの精神に余りにもよろしくない。理由は言わずとも分かりますよね?」
「……おい古泉、この閉鎖空間が現れたのはいつ頃だ?」
「今日の、正確には昨日の夕方、あなたと別れた涼宮さんが帰宅なさった時からです」
 それを聞いた瞬間俺は思わずしゃがみ込んで頭を抱えた。
 今こうして神人が自らを傷つけている理由は古泉が言うとおり講釈無しで理解でき、その理由は100%俺にあるからだ。
 ハルヒはずっと苦しんでいる。
「そのご様子だとお分かりのようですね」
 古泉の問いかけに俺は何も返事が出来ない。
 それどころか今は申し訳ない気持ちでこいつと顔を合わせることすらつらく思わずいっそう顔を下に向けてしまった。
 すると何かが俺の首根っこを掴み俺は身体を起こされた。
 そして強い衝撃が俺の左頬を襲い俺の身体は地面に転がる。
 それが古泉によるものだと認識するのに時間は必要なかった。
「今あなたがすべき事はその様に現実から目を背ける事ではありません」
 転がったままの俺に古泉は続ける。
「今あなたがすべきなのは一番いい目を出す事です。あなたの大切に思う方々を幸せに、あなた自身も幸せになる…そう、皆が幸せになる目をあなたの力で出す事です。これはあなたなら…いや、あなたにしか出来ない事なのです。お願いします立ち上がってください」
 皆が幸せに…
 こんな俺にそんな事が出来るのか?
 …古泉はこんな問いに答えてはくれないだろうし俺自身答えはいらない。
 だって天下のSOS団副団長様が俺にしか出来ないと言ってくれてるんだ。
 出来ないわけがねえ。
 俺は立ち上がり古泉の目を見据えた。
 俺の知っている古泉をだ。
「流石は涼宮さんに選ばれた方だ。男の僕でも思わず胸が締め付けられるよう精悍な顔つきですよ」
「その手の冗談をお前が言うと背筋が凍るから止めろ」
「いえいえ、冗談でも何でもないですよ、僕は割りと真剣…「ええい、みなまで言わんでいい!」
 お前のその態度のせいで一部では俺と出来ているといった噂があるのを知らないのか?
 岡島先輩からそれを聞かされた時は目の前が真っ暗になったってもんだ。
「まあ、そのことはいい。それより、なんだ…さっきはありがとよ…おかげで目が覚めた。感謝するぜ」
「んっふ、あなたからそのような素直な言葉が聞けるとは僕は中々の果報者ですね」
 閉鎖空間から戻り俺は事の発端とこれからの事について古泉と話し合った後各々のすべき事をするために別れた。
 俺は機関の人の運転でハルヒの家の近くまで送って貰った。
 状況が状況なだけに運転は大変荒くこれからまっているであろう難局を前にして俺のへタレハートはダウン寸前である。
 そんなダウン寸前の心に追い討ちを掛けるかのように今俺は第一の関門を目にしている。
「普通に考えたらこんな時間にどうやって人様の家に上がればいいんだよ…」
 しかも俺は男だというハンディ付である。
 こんな事なら機関の人に何とかしてもらえばよかったな…
「よし、グチグチ言っても仕方がねえ取り敢えず正攻法で…「その必要は無い」
 ………今ここで振り向いたらこれから先の俺の人生は変質者としてのレッテルを貼られたまま過ごす事になるだろう。
 しかし、今ここでハルヒの家から逃げたら今度は全人類がヤバイわけではっきり言って俺が変質者のレッテルを貼らて生きていく方が正しい選択であるのは間違いない。
 だが、そんな変質者という汚名を着せられたおれに最高の目を出す事が果たして出来るのd…「涼宮ハルヒ以外の者、両親は情報操作で起きないようにしている。玄関の鍵も同じように情報操作を施してあるから安心して」
「な、長門!?」
「何?」
「何じゃねえよ全く…ただでさえ緊張しているってのに一言かけてくれればいいのによ」
「……先ほど私はあなたに対し『その必要は無い』と一言かけた筈。それはあなたが聞き逃す事のないような声量で発した。責任があるとするなら同級生女子の家の前で自ら変質者だと疑われているのではないかといういやらしい被害妄想を抱いたあなた。それに……」
「わ、悪かった長門!だからそんなに言わないでくれ」
 そしてさらっと心を覗いた事ばらすな、しれっと本人に伝えるな。
「そもそも一年以上の付き合いがある友人の声とどこの馬の骨とも知らない警官の声を間違えるという行為自体があまりにも友人の存在を蔑ろにしていると思わざるを得ない……」
 このまま説教を聴いてたら日が明けちまう。
 長門の目を盗めるかどうか甚だ疑問ではあるがここは長門が説教に夢中なうちにハルヒの家に突入させていただく。
 
 
 
 
 長門の言ったとおり家の中は皆が寝静まったかのように静かで俺という侵入者の存在には全く気付いていない様子だ。
 この様子だと電気を付けても大丈夫だろうがもしもの事があると不味いので月明かりを頼りにハルヒの元へ行くことにする。
「しかし、月明かりの中女の子の部屋に行くなんてなんだか夜這いに行くみたいな感じだな」
といったアホの谷口が考えそうな事を考えるほど俺の緊張は解けてきている。
きっと先ほどの長門とのやり取りのおかげだろう。
それはさておきとっととハルヒの部屋に向かおうとするのだが…
「…ハルヒの部屋ってどこだよ」
 なんで誰も教えてくれねえんだよ!
 おい、長門!説教するよりこっちを先に教えてくれ!
 はあ…仕方ない適当に探すか。
 岡島先輩は二階に部屋があったからハルヒも二階だろうと全く根拠の無い理論を打ち立てた俺は取り敢えず階段を上がることにした。
 階段を上がり一つ扉が目に入った。
 それは何の変哲も無い普通の扉であった。
しかしその扉は月明かりの中でもはっきりと見えたため俺はその扉に吸い寄せられるかのように手をかけた。
 カチャというお馴染の音が鳴り扉を開くとそこには
「………ハルヒ」
 ハルヒが机の上でまるでいつも授業中にするように寝ていた。
 本来ならすぐにでも声を掛けなければいけないのだが今のハルヒを見るととてもじゃないが声を掛け起こす事なんて出来ない。
 両腕にこちら側を向いて乗せられた顔は寝ているというのに何とも言えない憂いを帯びた表情をしている。
 それは普段のハルヒの印象を180度変えてしまう程の威力があるものだ。
 俺自身決心が揺らぎそうになる。
 だがもう決めたんだ。
 俺は最高の目を出すと。
「…おいハルヒ起きれくれ大事な話がある」
 
 
 
 
ハルヒと共にさっきの所へ戻ってくる間当然の事ながら二人の間には会話は無かった。
 俺が部屋にいたことを無茶苦茶に突っ込まれるかと思っていたんだがな…
 ハルヒの奴俺を見るなり顔を背けて
「な、なんで!なんでホントに来るのよ」
 なんて訳の分からない事を言い出したもんだから俺がそれについて問いただすと
「何時もはあたしの言う事なんか聞かないくせになんでこんな時だけ来ちゃうのよ」
 と難解な返答をしてきたもんだからもう一度問いただそうとしたら
「く、空気読めこのバカキョン!!」
 って怒られたもんだから結局ハルヒが何を言いたかったのか分からず仕舞いの上にどうやら変に機嫌を損ねてしまったらしく先ほどからツンケンしたままである。
 それでも俺が何処に行くのか具体的に伝えたりしていないのにも関わらず俺に付いてきてくれている辺り何となくハルヒから信頼されているように実感でき一先ずは安心しているのだが…
 ここからが本番だ。
「?どうしたのよ急に止まって」
「ここが目的地だからだ」
「………ふ~ん」
 ハルヒはここが自分が告白をした所だと気づいているだろうし勘のいいこいつの事だ今から俺がその事についての話をしようとしているのが分かっているだろう。
 その証拠にさっきからハルヒは俺の方を見据えたまま動こうとしない。
 だが俺も動かない。
 何故ならまだ役者は揃っていないからだ。
 
 
 
 
 少しの間そうしているとこんな深夜に似つかない朗らかな声が響いた。
「おまたーキョンくん!瑞樹一人前お届けに参ったよ!」
「鶴屋さん?それに…」
「す、涼宮さん…」
 鶴屋さんが古泉と共に岡島先輩を連れてやって来た。
 何故古泉以外の二人がいるのかというと、俺が古泉に岡島先輩を連れてきてくれと頼んだからだ。
 しかし、古泉には岡島先輩と面識が無くそのまま家にいったら変質者確定だったので俺が岡島先輩のお友達である鶴屋さんにお願いをしたからだ。
 幸いというかなんと言うか鶴屋さんは俺の不可解な申し出に疑問を抱くどころかいつものテンションで快諾してくれた。
 うん、俺はホントにいい先輩をもったな。
「うんじゃあたしたちのお仕事はここまでさ。それじゃお三方ごゆっくりっ。そんじゃあ行こっか古泉くんっ!」
「はい、それではまた明日…いえ、今日学校でゲームでもしましょう」
 また学校で…か。
 ああ、任せとけ今日もお望み通りけちょんけちょんにしてやる。
「ちょっとキョン!どういう事か説明しなさい!」
「まあ、そうせかすな今からちゃんと説明する」
 一見普段の調子を取り戻したかのようなハルヒを制して俺は岡島先輩の方を向く。
「すみません。こんな夜中に呼び出したりして」
「うんん気にしなくていいよ。だけど私も説明して欲しいな」
 こちらも普段通りのような岡島先輩が俺に聞いてくる。
「わかりました」
 返事を返した俺はハルヒを一瞥し岡島先輩にこう言った。
「実は夕方俺はここでハルヒから告白を受けました」
「!ちょっとキョン何言ってんのよ!」
 俺の突然のカミングアウトにハルヒは当然の事ながら抗議の声を上げた。
 それを俺は目で制して岡島先輩に続ける。
「驚きました。まさかハルヒが俺に対いして好意を抱いてるなんて思いもしなかったですから。…それと同時に俺は自分の愚かさを痛感しました」
「…愚かさって一体?」
「それは俺があなたとの関係を曖昧なままにしていた事です」
 そう言うと岡島先輩は俺が何を言いたいのか何となく理解出来たのだろう、表情が硬くなった。
「だから今ここで俺ははっきりさせます。俺は…「ちょっと待ちなさい!!」
 ハルヒが大声で叫ぶ。
「待ちなさい…それ以上は駄目よ…だ、団長命令なんだから……駄目よ…」
 さっきの大声が嘘の様なか細い声でハルヒは続けた。
「聞きたくないわよ…、あんたは岡島さんを選ぶんでしょ?…なのに、なのになんであたしも呼んだのよ…別にあたしなんか居なくたっていいじゃない…そうなんでしょ…」
 ハルヒの雰囲気を見た俺は思わず口を開く事が出来なくなった。
 とてもじゃないが迂闊に話かけることの出来ない雰囲気。
 それは入学当初の比では無いものだ。
 またしても決心が揺らぐ。
 そんな時だ、俺の横を誰かがスルリと通り抜けハルヒの元へ歩み寄った。
 岡島先輩である。
 岡島先輩は膝を抱えてしゃがみ込んだハルヒのところへ行き自らもしゃがみ込みその両の手でハルヒの頬を優しく包だ。
 そしてハルヒの大粒の瞳を見つめながら言った。
「居なくたっていいなんて言っちゃ駄目だよ。涼宮さんがそんな事言ったら私はどうすればいいの?私は何処を目指せばいいの?」
 それは優しい優しい問いかけだ。
 俺はこんな岡島先輩を今まで見た事が無く当然の事ながら驚いた。
 そんな岡島先輩の雰囲気に気づいたハルヒも一瞬驚いた顔を向け一応の落ち着きを取り戻した様子だ。
 それを見た岡島先輩は手を離し続けた。
「目、指す?」
「そう、涼宮さんは私の目指している人なの。去年の文化祭で涼宮さんが長門さんとサポートに入ってくれたよね?あの時私ビックリしたんだ。それはね演奏技術とかそんなんじゃなくてもっと違うとこだよ」
「違うとこって?」
「なんだろな…んん~、なんだか涼宮さんが神様みたいに見えたの」
…んなこの人はもしや
「あ、ゴメンね何か変な事言っちゃってたね私、でもね涼宮さんの姿を声を後ろから聞いていると凄く安心したし勇気づけられた。これって何だか神様みたいじゃない?」
「ええ~っと…そ、そうなのかしら?」
「そうだよっ!私の中じゃ涼宮さんは音楽の神様なんだから!」
 恐らく岡島先輩の頭の中は去年のライブの事で一杯なのだろう。
 その証拠に岡島先輩の表情は実に楽しそうだ。
 それにつられてかハルヒの表情は少しではあるが柔らかさが出てきた。
「だけど何だか悔しかった…」
「え?」
「助けてもらった私が言っちゃあ駄目なんだろう私たちが必死になって練習してきたものをいとも簡単に超えられちゃったんだもん…悔しくないわけないよ…」
「そんな、超えたなんて…あたしMD聞かせて貰ったけどちゃんとしたメンバーの曲の方が全然凄かった「そんな事ないよ!私たちがどんだけ頑張ってもあの時の涼宮さんを越えるものは作れない。
………だけどね私って結構負けず嫌いなとこあるからさ少しでも涼宮さんとやったライブのに近づけるようにって練習してるの。そう、あなたを目標にしてね」
 俺は知っている。
 岡島先輩が凄く音楽に対して真摯に向き合っている事を。
 もっともこんな風にハルヒを見ていたなんて事は一度も話してもらった事が無かったから知らなかったが。
「でね、もう一つ目標にしている事があるんだ」
「もう一つって?」
 岡島先輩は一瞬俺のほうを見てから言った。
「キョンくんの事。涼宮さんとの話をするキョンくんはホントに楽しそうなの。本人にそれを言ってもいつも否定されたけどきっと照れ隠しでしてるんだと思う。私もそれ位の仲になりたいんだ…でもこれも無理なのかもしれないね、へへ」
 と言って笑う岡島先輩の表情はどかかぎこちない。
「………私正直涼宮さんの事妬てる。音楽の事もそうだけどキョンくんの事はもっと妬いてる。私もキョンくんの事好きだから…私、…キョンくんとあんな事があってから半年くらいでキョンくんと随分仲良くはなれたけど…やっぱり涼宮さんには…グスッ、…敵わないよ」
「…………」
 とうとう泣き出してしまった岡島先輩の独白をハルヒは黙って聞き続いている。
「あれ、おかしいな…涼宮さん元気付けようと思ったのに私がないちゃ……駄目だよ、ね……」
 すると今度はハルヒが泣いている岡島先輩を先輩がハルヒの頬を包んだように優しく抱き締めた。
「そんな事ないわ…あたしなんかで良かったこのまま泣いてていいわよ…」
 おい、ルネッサンスの宗教画家共よく聞きやがれ。
 ホントの神様ってのは今のハルヒの事を言うんだ。
 テメーらが想像で書いたもんなんか眉唾もいいとこだ。
 ………宗教画がどんなもんかは知らなんがな。
 
 
 
 
「ありがとう涼宮さん、随分落ち着いた」
「そう、なら良かったわ、それよりキョン!」
 といつものトーンでハルヒが俺に言う。
「な、何だいきなり?」
「あんた岡島さんに話している途中だったわね?さっさと続き喋んなさい!もうこんな時間なんだから早く帰んないと明日遅刻しちゃうわよ!」
「…………」
「何ボーってしてんの!さっさとする!」
 ハルヒの意外な一言にあっけにとられた俺をハルヒはこれまたいつもの調子で叱責する。
「あ、ああそうだった岡島先輩!」
「は、はい!」
「…………」
「…………」
 ………ヤバイなんて言うんだ?
 余りにも二人のやり取りが鮮烈過ぎで伝えるべき言葉をど忘れした。
 最後の最後で俺は何をしてるんだあああああ
「……あんたもしかして何言おうとしたか忘れた?」
「いいいい、いやそんな事あるわけないじゃないかハルヒ、はは、はははは」
「そう、じゃあ早く話しなさい岡島さんは夜中にたたき起こされてお疲れのよ」
「わ、分かってる」
 怖い怖すぎる。
 目が完全に据わってやがる。
 しかし何て言えばいいのか…
「とっととする!!」
「ひいいいっ」
 ええい仕方ない考えるだけ無駄だ!
 思いのたけをぶちまけてやる!
「岡島先輩!!俺はライブの時にパンツを見られその事を恥らいながら俺に告げてきたあなたに恋をしました!!ど、どうか俺と付き合ってくださいお願いします!!」
「…………」
「…………」
 ……なに言っとるんだ俺はあああああああああああ
 こんな告白があるか!前代未聞だ!変態だ!
 ぬああああああ朝比奈さん一分前の俺を禁則事項かなんかで絞め殺して下さい!
「………りがとう」
「へ?」
「ありがとうキョンくん!」
「ぬへっ!」
 岡島先輩は俺にしな垂れかかってきた。
 もとい、岡島先輩は俺の胸に優しく飛び込んできたんだ。
 これはOKって事でいいんだよな?な??
「ありがとう…グズッ、ほん、トにありがとうキョンくん…ズッ…私もキョンくんの事大好きだよ…」
 泣きながら告げた岡島先輩の表情はとんでもなく可愛くて思わず俺は思わず顔を近づけようとすると
「はいはい、ストップストップ流石にそこまでは見せられたら溜まんないわ。それはまた二人の時にやってちょうだい」
「ハルヒ…」
「何よキョン、変な顔が余計に変になってるわよ」
「だって…おま…「ふぁあああ、あ~あ誰かさんが夜中に叩き起こすから何だか眠くなってきたわじゃああたしは先に帰るわね。キョンはしっかり岡島さんを送るのよいいわねこれは命令よ分かった!?」
 ハルヒは俺たちに背を向けながら言う。
 故に表情をうかがい知ることは全く不可能だ。
 だが
「ああ、だがハルヒ俺はお前にも言わないといけないことが…」
「はあ、あんたってホント馬鹿よね?ちょっとは気使いなさいよこっちは失恋の悲しみを抱えるうら若き乙女なのよ?今は一人にさせなさい」
 無理して気丈に振舞っているというのがひしひしと感じる。
 このままでは最高の目を出すことが出来ないと思った俺が何とか歩み寄ろうするが向こうを向いてこちらの様子など見えるはずの無いハルヒが俺を制す。
「バカキョン!!あんたには岡島さんいるでしょ!!岡島さんが好きなんでしょ!!だったら一生大事にしなさいよ!!あたしに気を使おうとする位なら岡島さんを幸せにしなさい。
納得は出来ないけど、悔しいけどそうじゃないと皆幸せになれないの!!」
「ハルヒ…」
「だけど良い?耳の穴かっぽじって聞きなさい確かにあたしはあんたに選ばれなかったけどそれだけであたし人生がつまらないものになるって決まったわけじゃないわ。
あたしはあんた達とは違うもっと凄い幸せを手に入れて見せるわよ。覚悟してなさい!!」
 そう告げてハルヒは走っていった。
 辺りが夜明け前特有の静けさを取り戻した。
 そんな中俺は告げる事出来なかった想いをどうしようかと考えているといると遠くからハルヒが叫んだ。
 姿は見えない。
「キョーーーン!!あんた今日学校サボったら罰ゲームだからね覚悟しなさい!!分かった!?分かったら返事ーー!!」
 ハルヒの叫びは俺の心にあった一抹の不安を一瞬のうちに拭い去ってくれた。
 ………考える必要もないようだ。
 だから俺は叫び返す。
「もちろんだ!!団長さんよ!!」
「よろしい!!岡島さんキョンの事よろしくお願いします!!」
 そう叫ばれた岡島先輩は一瞬戸惑ったような表情を俺に見せたがすぐに破顔して叫び返した。
「お願いされましたーー!!」
 そして辺りに再々び静けさが戻った。
 
 
 
 
 あれからどうなったかを少し。
 あの後岡島先輩を自宅に送った後寝ずに登校するといつもの様子のハルヒに一先ずは安心した。
結局閉鎖空間はあのまま消えて世界がヤバイ事になるのは防がれたと休み時間に古泉に聞かされた。
思念体の方は長門曰く一応の収穫があったらしくこれで機関への借りもなくなったとの事だ。
 という事であの事件は一件落着したわけだ。
 しかしあの事件からハルヒのとんでもパワーは勢いを取り戻したらしくその結果かなんか知らんがとうとう異世界人を呼び込むと言うウルトラCをやらかしやがった。
まあ、それはまた別の話だ。
俺はというとSOS団の活動と岡島先輩との青春フォトグラフを両立するというハードな日々を送っている。
 そして今は後少しで夏休みという時期であるんだが…
 
 
 
 
 
 
「ちょっとキョン!『ご主人様』ってのは何なのよ!説明しなさい!」
「いやこれには深いわけが…」
「だからそれを話しなさいって言ってんの!」
 現在お昼休み。
 俺は日課となった悪友一人、友人一人そして岡島先輩の四人で飯を食っていた。
 ちなみに俺の飯は先輩の手作りである。
 始めこそ谷口が呪詛を込めた文言をご飯粒をぶちまけながら唱えていたがそれもここ最近はなくなりごく普通の青春の1ページになっていたんだが今日は違った。
 事の発端は岡島先輩のある一言だ。
「ご主人様、味はどう?」
 場が凍ったね。
 谷口の口からご飯粒以外の何かが飛び出そうとしているのを確認すると同時に俺はも一つとんでもないものを見た。
 そう、ハルヒだ。
 学食から帰ってきたハルヒがなんともいえない表情を携えこちらへ歩いてきた。
 それで冒頭のハルヒの台詞に戻ると
「あんた岡島さんにやましい事してるんでしょ!そんな事あたしがゆるさないわよ!」
 親の仇でも見るような剣幕で迫るハルヒ。
「そんな事はし………」
「してんのかい!!このアホンダラゲーー!!」
 世界が反転した。
 
 
 
 
まあ、なんで岡島先輩があんな事を言ったのかというと、俺たちはあれからしばらくして所謂男女の仲になったわけだ。
 その事後の話なんだが
「これで私はキョンくんの物だね… !そうだ言いこと思いついた!」
 そう言った先輩はトレードマークである首輪?(未だになんと言えば良いのか分からん)を外し俺に差し出してきた。
「コレをキョンくんが私に付けて。そしたら私は名実ともにキョンくんの物ね」
 といつもの様に首を傾げてきんだ。
 始めは俺もそんな上下関係みたいなのは嫌だと断ったのだが先輩が
「形だけ形だけ~」
 と言うので渋々了解したのだが…コレ不味かった。
 それ以来岡島先輩は二人っきりになると俺の事を『ご主人様』と呼ぶようになり俺のなけなしの良心と理性と言う名のサイドブレーキにちょっかいかけてくるのだ。
 先輩自身それを楽しんでいるようなのでたちが悪い。
 まあ、嫌ではないんだがなあ…
 あんな風にぶっ飛ばされないのなら。
 
 
 ハルヒにぶっ飛ばされてから数分、今俺は岡島先輩看病されている
「ゴメンねキョンくん…いつもの癖で」
「止めてくださいこんなとこでそんなことを言ったら俺は悪友に呪い殺されてしまいます」
 俺はそいつをちらっと一瞥する。
 すると案の定そいつは何か言いたそうな顔をしている。
「…はあ、いいぞ谷口。言いたいことがあるなら言ってくれ
 数瞬の後
「…………コレなんてエロゲ?」
 
 
~fin~
 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年07月21日 22:44