「ねぇ、ずっと見てたでしょ?」
そう顔をほのかに赤らめながら言った岡島先輩を見た俺は完全に恋に落ちた。
もう一度言おう、文化祭も終わり、下校時刻になった頃に俺を軽音部室に呼び出し、演奏中に自分のパンツを見ていたことに気付いていた旨を照れながら「ねぇ、ずっと見てたでしょ?」と顔をほのかに赤らめながら伝えた岡島瑞樹先輩に俺はフォーリンラブしてしまったんだ!
「どうしたの? 口開けたまんま固まっちゃって?」
そう言って岡島先輩は俺の方へ一歩二歩と歩を進めてきた。
まだ顔は赤らめたままだ。
そして俺のハートビートは完全に突撃ラブハート状態になっている。
…意味が解らんだと? 俺もだこのアホンダラゲ!
フォーリンラブしたての思春期真っ盛りの高校生には色々とキツい状態なんだよ!!
「もう、そんな風に口開けてるから唇がカサカサになってるよ」
……メーデー、メーデー只今マイスウィート先輩による攻撃が行われています!
岡島…、岡島瑞樹先輩に俺の緊張でカッサカサになってしまった唇を人差し指で触るといういまだかつてない攻撃を受けております!!
至急指示を…、って頭ん中で遊んでる場合じゃねええええ。
何故、岡島先輩は俺のカッサカサな唇をなぞる様に触っているんだ?
…まさか、誘っているのか?
「ふふ、凄い汗だね、ビックリしちゃったかな? 女の子にこんなとこ触られちゃって?」
ああ…、さっきまではただ恥じらいで顔を赤らめているとばかり思っていたが…
こう見ると淫靡な赤らめ方なんだなと思えてくる。
これは『誘っている』でファイナルアンサーだ。
よしっ、ではみのさんこと岡島瑞樹先輩にこの旨を伝えなければ。『バッチコイ!!』と。
「お、岡島先輩!」
「なに? キョンくん?」
「へ? なんで俺の名前を?」
まさか前々から俺の事を狙っていたのか?
おいおい先輩、最高すぎでよ。
…待てよそう考えると、岡島先輩は俺にドラムの演奏中にパンツを見られていることに気がついた。
その時、岡島先輩の頭の中では『キャー、キョンくんが私のパンツ見てる~!
駄目よキョンくん、そんなに見たら私、私…』みたいな事が巻き起こっていたに違いない!!
「だってキョンくんって有名人よ、ほら涼宮さん関係でさ」
違いなくないようだ…
はあ~、なんか疲れた…誰か樹海まで運んでくれ、後生だ。
「あれれ? その顔は何か勘違いしてたって顔なのかな?」
う…、この表情はハルヒが何か良からぬ事を思い付いたときのそれと同じではないか。
「い、いえいえ滅相もないです。そんなヤラシイ勘違いなんてしてないです」
「…してたんだ。しかもヤラシイやつ」
死ね、俺死ね。
ドブで溺れ死んで生き返ってまた死ね!
俺の恋、短かったなあ…
世界最速の恋ってうたい文句で攻めれば本が作れそうだな。
「これはお仕置きが必要そうだね…」
「…はい、慎んでお受けします…」
とは言っても、ハードなのは勘弁を、例えばハルヒにたたき付けるとかハルヒにたたき付けるとかハルヒにたたき付けるとか…
「来週の日曜日私とデートして」
「はい分かりました……、はあああああ!? デデデ、デートですか? 岡島先輩と??」
「嫌ならいいのよ、そのかわり涼宮さんにキョンくんが私をいやらしい目で見て、いやらしい勘違いをしていたって伝えといてあげる」
不敵な笑みを浮かべながら言った岡島先輩の顔はまだほんのりと赤かい。
「とんでもない! 勿論オッケーです。この不束者ですが岡島先輩にお許しを頂けるよう一生懸命デートさせて頂きます」
「ありがとう、じゃあ細かい時間とかはまた連絡するね。ええ~っと携帯貸してくれる?私のアドレス送るからさ」
岡島先輩は俺とアドレスを交換した後軽音部室(正確には第二音楽室)を後にした。
俺はというと緊張が解けたせいか岡島先輩に触られていた唇の感触を思い出したせいか解らないが、血液at股間。凝縮するエネルギーになってしまったためにしばらくその場を動けないでいた。
やっとの思いで我が愚息を治める事に成功したのは、徳川家康が天下を統一してから四百数年と30分後だった。
勘違いするなよ、学校で抜いたりはしていない!
絶対にだ!!
それはさておき、突撃ラブハートをし過ぎて心を中心にボロボロとなった俺は帰宅後夕食も採らず、ベットへバタンキューし今に至るわけだ。
にしても、なんで岡島先輩は俺をデートに誘ったんだ?
しっかしお仕置きならもっと他の方法があるだろうに…
なんだってデートなんて方法を不可解な行動に出られたのだろうか?
テロレロリン~♪
そんな俺の思考を止めるかの用に俺にとってはお馴染みの着信音が鳴る。
え~なになに…
『岡島です。来週の事だけど、まず私の家へ9時に向かいに来てね。そこからデートを始めって事にしよ。私の家は○○駅で降りて右へ道沿いにいった所にあるからね。
普通に歩いていたら分かると思うけど、もし分からなかったら連絡ちょうだいね。PS:しっかりやってくれないと涼宮さんに言っちゃうよ?』
しっかりしない訳ないじゃないですか岡島先輩。
だってそうだろお仕置きとか何とか言われているが俺にとっては美味しい事この上ないんだからな。
……しかし、この文章を岡島先輩が打ったって考えただけで頭ん中が花畑になりそうだ。
今なら谷口の『可愛い女のアドレスで抜ける』って言葉の意味が何となくわかる気がする。
んで約束の日にになった訳だが、メールで岡島先輩は9時に家に来てと俺に伝えてくださった。
岡島先輩の家は俺達が普段使っている駅から20分位の所にあるから大体8時位に家を出発すれば間に合う寸法である。
しかし、だ。
お仕置きと言うのに岡島先輩とのデートが楽しみで楽しみで仕方がなかった俺は3時に起床(ちなみに夕方の6時寝だ)、することが無いから筋トレにせいをだし、軽くシャワーを浴びた後始発の電車で岡島先輩の家まで向かってしまったのだ。
そして只今、午前7時半。
今から一時間半どうやって時間を潰そうかと困っている次第である。
しかし、いくらなんでも早くに来過ぎた…
もしこんな所を岡島先輩に見られたら恥ずかしさで死ねるだろう。
うん、こんなとこで時間潰してても仕方がないし、とりあえず岡島先輩の家を確認するだけしておこうか。
確か右へ道沿いにっと…「ええっ!? どうしたのキョンくん? こんな時間に」
……DOSIM俺!!
言ってるそばから岡島先輩と遭遇してしまうとは…
なんたる不覚…というかついてなさ過ぎだ!
「まだ7時半だよ? あ、もしかして私時間間違えて伝えちゃった?」
「い、いえいえ、俺が早くに出過ぎただけですから、岡島先輩は何も悪くないですよ」
「よかった…、でもなんでこんな早くに来たの?」
「ううっ…、それはです、ねえ…」
すると岡島先輩は頭の上で豆電球が光った…ような気がした。
「ははぁ~ん、そういう事なんだ…」
「はい…、そういうことです」
くあああ、死ねる。今なら一思いに死ねるぞちきしょおおお。
「私に見つかって恥ずかしい?」
「…かなり」
「どうして?」
こ、この人はSなのか?
サドなのか?
……正直堪りません。
「ふふ、困ったキョンくんの顔可愛いわね」
…死んだ。
誰かお巡りさんを呼んでこの御方をを逮捕しろ。
逆に聞こうこの笑顔でこのセリフをはかれて死なない野郎がいるか?
これは最早殺人罪を適用するべきセルフなのだ!!
しかもそれを言ったのが日が浅いとはいえ自分の想人なら尚更だ。
ああ、俺本気でこの人を好きになったかもしれん…
「ちょっとキョンくんぼーっとしちゃって大丈夫?」
「は、はいいい。だ、大丈夫です」
「…ホントに?」
「ホントにです!」
「ならいいけど…、こんな所で9時まで時間潰してもらうのもかわいそうだし私ん家上がって待っててくれる?」
「了解しま…、はいいいい!?」
家に上がる!? 俺が岡島先輩の家にノルマンディー上陸作戦だと!?
いきなりハード過ぎるんじゃあありませんか!?
「嫌かな?」
「いえ、嫌とかそんなんじゃなくて…、その…」
「あ、もしかして変な事しちゃうかもしれないから上がれないとか? ふふ、ホントキョンくんはヤラシイんだね」
「ち、違います! 大丈夫です。お邪魔させて頂きます!」
その一言を聞いた岡島先輩は可愛らしく破顔した。
可愛すぎますよ全く…
「じゃあ案内するね、こっちだよ」
「総入れ歯なんで岡島先輩はこんな時間にそんなジャージで外にいたんですか?」
「私いつも走ってるの、あ、言っておくけどダイエットとかじゃないよ、ドラム叩く体力つけるため」
貴女にダイエットは必要ありませんよ。
朝比奈さんのようにないすばでえって訳ではないですが、実にバランスの取れたいい体つきをしてると思います。はい。
はっきり言って情熱を持て余します。
「へえ~、そうなんですか…」
それにしてもこの人は俺のボケを完全ノータッチなんだな…
差し詰めこの人の中では俺のボケはインビシブルってとこなのか?
「あ、ここよ。ここがあたしん家」
~♪ こんにちわ~♪ ありが~と~♪ さよなら~♪ また会いましょ~♪
うん、懐かしい曲だ。
それはさておき、岡島先輩の家…
………普っ~~通だな。
入学以来ありえない体験ばかりだった俺にとっては実に安心する普通さだ。
はっきり言って俺の家と同じ匂いしかしない。
しかしだな…さっきは勢いで上がらせてもらうと伝えたがいざ家の前に来たら動悸が…
誰か養命酒持って来い。
とりあえず深呼吸を…
「ほら、キョンくん突っ立てないで上がって上がって」
「は、はい分かりました」
「お邪魔しま~す」
「あ、今日みんな早くから出かけるてるからそんな気をつかわなくてもいいよ」
………なんですと?
誰もいない家で意中の先輩とふたりはプリキュア…
いかんいかん股間が…我が愚息が臨界事故寸前にまで高まってきた。
「私今からシャワー浴びてくるからその間キョンくんは私の部屋で待っててね。えっと、私の部屋は二階に上がって左に曲がったとこにあるから」
『私今からシャワー浴びてくるから』このセリフだけでイキかけた俺は変態なのか?
いや、変態じゃあなくてもこのセリフは十分にきくだろうし、それを責める事は全性少年なら分かるはずである。
「ちょっとキョンくん聞いてるの?」
「っわあ!? お、岡島先輩いつの間に?」
そして顔が近いです。
そんなに顔を近ずけたら貴女の走って軽く上がっている息がかかってイキそうになりますよ。
…上手い事言ったな、俺。
こりゃ円楽も馬面になって笑い転げるだろうよ。
「いつの間にもないでしょ。さっき言った事聞いてたの?」
「はい、聞いてました」
「じゃあ、早く私の部屋で待っててね… 言っておくけど、お風呂覗いちゃ駄目よ」
覗けるものなら覗きたいですが…
ここが岡島先輩の部屋か…
これまたベタに『MIZUKI』ってプレートが掛かってるな。
先輩は部屋で待っててって言っていたから入る事に何ら問題はないはずだが…
年頃の女の子の部屋に野郎が一人で侵入するのは流石に気が引ける…
だけど、ここで突っ立てるわけにもいかんだろうし…
…仕方ない。
「お邪魔しま~す」
おお、これが岡島先輩の部屋。
可愛らしいクッション?みたいな女の子っぽい物もあればドラムセットらしき物(楽器屋に行くと無性に叩きたくなる普通にやったら音の出ないあれだ)もあるな。
そしてクローゼット…
あの中に岡島先輩の禁則事項やら禁則事項が…
おっと、変な汗が…
とりあえずこのクッションに座らせてもらおうか。
しっかし、岡島先輩も無防備な人だ。
昨日今日に知り合った野郎を自分の部屋で待たせるなんて。
その上、本人はインザ風呂。
………将来が心配だ。
カチャリ
「お待たせキョンくん」
「いえいえ待ってなんかいまs……!?お、岡島先輩っ、どんな格好をしてるんですか!?」
「どんな格好って見たまんまだよ?」
だよ? ってその格好で小首を傾げられて可愛すぎです!マジでヤバイです。
しかもバスタオルを巻いただけのあられもない姿でだ。
それだけじゃない。
湯上がり独特のいい香りが色々と助長してきて、もう一度言う。
マジでヤバイです。
「あはは、ゴメンね、ちょっとキョンくんをからかおっかなって思っただけだよ。だからそんなに緊張しないで」
からかうって…、限度ってもんがありますよ。
情熱を持て余す高校生には猛毒です。
「じゃあさ服着たいから、部屋の外で待っててね」
にしても良いもん見せてもらった…
ハルヒ以外の八百万の神々に感謝感激あめあられだ。
「キョ~ンくん?」
「は、はい、何ですか!?」
「聞こえなかったの? 服着たいから外で待っててねって。それとも私の生着替えが見たいからそこに居座っているわけ?」
「そそ、そんなことありません。ございません。ちゃんと外で待っています」
だが、生着替えは正直見たい。
俺に生着替えを見られて恥じらいながら服を着替える岡島先輩…
プライスレス。
「ふふ、じゃあ着替え終わったら呼ぶね」
「お、お願いします」
岡島先輩の私服ってどんなんだろな…
制服姿はキレイな足が実に扇情的だったな。しかも、パンチラ付き…
さっきのジャージ姿は健康的な女の子って感じで良かった。
あのまま某大型スポーツ用品店のCMに出てもなんら問題ないだろう。
何より汗の匂いが何やら良からぬ妄想を駆り立てな。
そして、さっきのバスタオルは…、三度言おう。
マジでヤバイです。
岡島先輩のバランスの取れたぼでえーらいんがこれでもかって位に強調されていてホントヤバかった…
…………今夜もオカズには困らなそうだっぜ!
「キョンくん、もう入っていいよ~」
「あ、はい、わかりました」
カチャリ
………おお、お洒落だ。
お洒落スキル完全OFFの俺には上手く表現出来んが…
ともかくお洒落さんだ。
なんて言うんだっけか?何か民族衣装っぽいあれだ。
「どう、似合ってる?」
「はい! お洒落とか全然解らない俺が見ても凄い可愛いなって思いますよ」
「か、可愛いなんて…、キョンくんってお世辞が上手いんだね」
そろそろしつこいが今の俺の気持ちを伝えるにはこの言葉しかないだろう。
マジでヤバイです。
あれ?あれは…
「私服でもその首輪? みたいなのしてるんですね」
「あ、ああこれね。これはねずっと付けてないといけないのよ」
「どうしてですか?」
「…………」
やべ、言いづらい事だったのか?
「…私ね、飼われてるの」
…………
「御主人様に『飼い犬は飼い犬らしく首輪をはめていろ』って命令されてるの」
…………勃起した。
おお、神よ。己が愛す人が飼われていると聞いて興奮する私を許したまえ…って待て待て~
いくら俺でも騙されませんよ。
「岡島先輩…嘘付くならもっとうまくついてください」
「…あれ? 分かっちゃった?」
「そりゃ分かりますよ」
さっきランニングしてる時は付けて無かったし、そしてなによりそんなしたり顔みせられたら普通にわかります。
「なんだつまんないな~」
ま、俺としちゃあ美味しいオカズを頂けて良かったんですけど。
「この首輪はね、なんて言えばいいかな…、あ、涼宮さんの黄色いカチューシャみたいな感じかな?」
成る程、実に解りやすい説明だ。
「チャームポイントってやつですね」
「そうだね。…でも良かったな」
「何がですか?」
「ん? いや、キョンくんに服似合ってるって言われて。キョンくんって中が見える位の短いのが好きでしょだからスカートじゃないのは嫌かなって思ってたの」
「は、はは、男なら誰でも好きですよ。それに俺、そのゆったりした感じのズボンっぽいの好きですよ。後、岡島先輩が着たらどんな服でも似合います」
「…ありがと」
あ、また恥ずかしがってる
…ホント、かわいい人だな。
「あ、もう9時だし、そろそろ出発しよっか?」
いかんいかん、今日の目的を失念していた。
今日は岡島先輩とお仕置きデートだったんだな。
岡島先輩とデートってだけなら昇天なんだが…如何せんお仕置きが怖い。
この人、サドっぽいから色々やらされそうだ…
…ある楽しみでなくはないがな。
「そうしましょうか」
「じゃあ、今日は何処連れてってくれるの?」
何処? where?
「あれ…? もしかして何にも考えて無かった?」
…やらかした。
普通に考えて男が色々プラン練るだろ、だってのにそのことを失念しているとは…
しかもその結果、岡島先輩を困らせて…全く情けねえ…
「ま、まあそんなに落ち込まなくても良いって。今から考えよ、ね?そだな……うん、新しい服欲しかったとこだったし服買いに行こ。よし、決定ね」
ううう、この人は聖人君子か。
俺の失敗を咎める所か励ましてくれるなんて。
…このご恩、我が身を削ってでも今日一日、岡島先輩に返させて貰ます。
いま俺と岡島先輩はお洒落ショップでショッピングと洒落込んでいる。
正直、こんな店とは全く縁が無い俺にとっては息苦しくて仕方がないが…
隣で楽しそうに服を選んでいる岡島先輩を見ているとそんな事はミトコンドリアの作ったドリア程に小さなもんだと思えるから不思議である。
「ねえ、キョンくん、これどう? 良くない? 似合うかな?」
「はい、似合うと思いますよ」
「ホントに? さっきからキョンくんそればっかりじゃない?」
そればっかりもなにも似合うもん仕方がないんですよ。
解るでしょ? 自分が愛でている物は何でもかんでも良く見えてしまう気持ちが。
「ホントですって。岡島先輩は元が良いんですから何着ても似合いますよ」
「もう、キョンくんったら…」
…マジで幸せだ。
本物の高校生カップルみたいなやり取りだ。
俺の高校生活で一番健康的で建設的なやりとりなんじゃないだろうか。
ああ、このまま付き合えねえかな?
…それは虫が良すぎるか。
「じゃあさ、試着してくるね」
そう言って岡島先輩は俺と繋いでいた手を離して試着室の中へ入って行った。
……そう言って岡島先輩『俺と繋いでいた手を離して』
……『俺と繋いでいた手を離して』
…説明しよう。
事の始まりは岡島先輩宅を出発する時…
「はい」
「はいって何ですか?」
しかも何故右手を差し出しているんですか?
「何ですかじゃないよ、デートなんだからちゃんと手繋がないと駄目じゃん」
ななな、なんと!?
手を繋ぐ…岡島先輩と…
女の子と手を繋ぐなんて遠足ん時…いや、ハルヒと繋いだか…
それとこれとは別だ!あれはノーカンだノーカン。
何故なら相手は我がスウィート岡島先輩だ。相手が違う。
それにあの時は状況がだな…
「ほら、グズグズしないの」
「ぬあっ、心の準備が…」
「準備なんていらないの、こういうのは慣れって母さんも言ってたよ」
あなたはプライベートな庭に侵入するいけ好かない髭男ですか?
「そ、そんな事言ったってですね、俺の手汚いですし…」
「そんな事ないよ、キョンくんの手は立派な男の子の手だよ」
「立派な男の子の手がどんなもんなんかわ知りませんが、ホントにいいんですか俺なんかと手繋いで?」
「いいに決まってんじゃん。今日はデートだよ?」
「ん…、まあ…」
「…そんなに私と手繋ぐの嫌かな?」
くはっ! また小首を傾げて…
これは岡島先輩の癖なのか?
癖だとしたらこれから何回見る事になる…俺生きて帰れるか?
「全っ然嫌じゃありません! むしろ光栄です」
「良かった。じゃ行こっか」
というわけで俺は岡島先輩と光栄なことにさっきまで手を繋がせてもらっていたわけだ。
ちなみに恋人繋ぎだ。
後、手をつないだ瞬間岡島先輩の手は緊張してか少々震えているのがなんとも可愛らしくて堪らなかったのは秘密だ。
きっと俺にお仕置きをする為に頑張られたのだろう。
全く可愛いお方だ。
しかし…この左手がさっきまで岡島先輩の右手と絡まっていたと考えるともう…
……匂い嗅いでみるか。
さあ、こっちに来るんだ俺の左手。
そして岡島先輩の恐らくスウィーティーな残り香を嗅がせるんだ!
「どうかなキョンくん?」
「どうっ!!!!!!」
「ど、どうしたの? そんなに驚いて」
「い、いえ驚いてなんかいまセントルイスカージナルス」
「…驚きまくってるわね」
…ええ、その通りですとも。
「ま、いいわ。それよりどう似合ってる?」
その場をクルリと回り癖よろしく、小首を傾げる動作で岡島先輩は俺に聞いてきた。
…もう満点ハナマルだ。
「ええ、最高に似合ってますよ」
「ホントかな~?」
「ホントですって。ジェームス・ホントです」
「じゃあ具体的に何処良いか言ってみて」
…この人は司会業には向いていないな。
何故だって? おもしろくない若手芸人が泣くはめになるのが目に見えるだろ。
「ねえ、具体的に。ね?」
近いです。息掛かります。興奮します。
古泉の野郎と代わって下さい。
ええ~っと、具体的に具体的に~…………、言えん。
取り敢えず似合ってる、可愛い、服が着られて喜んでるみたいな抽象的なのしか思い付かん!
先ず第一にこの服がどんな物なのかすら俺には解らん。
なにがどうなってあんな風になるのかさっぱりだ。
せいぜい、お洒落な服程度にしか…
「…やっぱり似合ってないかな?」
そんな悲しげな顔をしないで下さい。
俺まで悲しくなります。
「そんな事ないです! ええ~っと、何て言えば良いのか解んないですけど、ともかく似合ってます! 岡島先輩の為に存在してるんじゃないかって程です!
もう抱きしめたくなるくらい可愛いです! 嘘偽りありません!」
くああああっ、何でこうも俺は語彙力がないんだよ!
ホントこういう時、こういう時だけ古泉が羨ましくなる。
こういう時だけだ!!
「…………」
? どうしたんだ岡島先輩は。
固まってらっしゃる。
「あう…」
あうって何ですか、あうなんて可愛いじゃないですか。
それになんか顔赤いですよ?
まさか俺なんか変なこと言ったか?
「キ、キョンくん…、こ、こ、声デカすぎ…」
…何か言ってたようだ、しかもデカイ声で。
く…周りの視線が生暖かい。
ドブで溺れて死ぬのってどんな感じだ?
やっぱり臭苦しいのか?
はたまた心境地なのか?
…どっちでもいい。
ともかく死にたい。
なんでかって? だって恥ずかしい上に情けない事をやらかしたわけだからな。
だってそうだろ? 公衆の面前で大声出してあんなセリフを…しかも我が愛し岡島先輩に向けその結果岡島先輩赤面。
ホントに申し訳ないことをしてしまった…
しかし、顔真っ赤にした岡島先輩……
可愛かった…
「キ、キョンくん」
「は、はいっ」
「あ…、私、これ買うね」
「はい…」
気まずい! 気まずいぞおおおお!!
「じゃあ…、会計済まさなきゃね」
そう言い岡島赤面…、もとい、岡島先輩は選んだ服を大事そうに持って会計へ。
もちろん俺もそれに付いていく。
「こちら一点で――――円になりますね」
高っ!!
女の子の服ってこんなにするのかよ!?
俺の一年分くらいになるんじゃねえか?
「――――円ちょうどお預かり致します。では、こちら商品になりますね」
いつの間にか袋に服を詰めていた店員は古泉のとは違った営業スマイルを向け岡島先輩に袋を渡した。
「ふふ、いい彼ね」
余計な一言を付け足しながら。
いや、彼氏と間違えられるのは死ぬほど光栄だ。光栄なんだが…
「あ……、う……」
岡島先輩のフェイスは真っ赤っ赤なわけで、そこから導き出されるのは、どうやら岡島先輩は俺と恋仲と間違えられたのが死にたい位恥ずかしという事実な訳だ。
……岡島先輩、俺も死にたいです。
そりゃあ俺は顔が良いわけでもフェロモン撒き散らしてるわけでもない普っ~~~~通の男子高校生でありますけど、特に魅力なんてないですけど…そんな顔真っ赤にするほど恥ずかしいんですか?
俺とカップルに間違えられるのはそんなにも辛いんですか…
「あ、のさキョンくん…」
「……はい」
「その…、………はい」
そう言うと朝家を出るときにしたように岡島先輩は手を俺のほうに差し伸べてきた。
「……はい?」
「はい? じゃないわよ、ほ、ほら手、繋ご」
「え…、なんで…?」
「なんでって…、やっぱりキョンくん私と手繋ぐの嫌だった?」
「いえいえ! そんな事ありません! ありませんけど…、いいんですか? その…さっきみたいな事なるかもしれませんし…」
「さっきの事?「おや、そこにいるのはキョンくんじゃないかっ」
こ、この声は…
「や、奇遇だねっ、こんなとこでさ」
まさかの鶴屋さん…
まさかり担いで鶴屋さん…って遊ぶな俺の脳みそ!
「ありゃりゃ、瑞樹もいるじゃん! こりゃまた奇遇だねっ」
「ほんとだね鶴ちゃん」
鶴屋さんは岡島先輩に近づいていき女の子らしく両手でハイタッチを交わされた。
このフランクな接し方を見る限り二人は友人なんだろう。
もっとも、これが鶴屋さんはこのフランクな接し方がデフォだろうが。
「で、なんでキョンくんは瑞樹と一緒にいたのかな~?」
鶴屋さんは『証拠は全部上がってんださっさとはきやがれ!』といった感じのオーラを纏いながらせまってきた。
うう…、後ろに某有名な刑事がスタンドなってスタンドを持って迫ってきているようだ。
「デートだよ、デート」
と俺がゲロる前に岡島先輩が答える。
「おやまっ、デートだったのかい!?しっかし、お二人はいつの間にそんな仲だったのさ?」
「いや、実はね…
あの後岡島先輩が鶴屋さんに今俺とデートをしている訳を話してくれたんだが…
公開羞恥プレイだった為、割愛させていただく。
余りにも洗いざらい話し過ぎです。
事の始まりを特に言い過ぎです。
鶴屋さんも鶴屋さんで事の始まりについて食いつき過ぎです。
…やっぱりにこのお二方はSだ。
「じゃ、そろそろおいとまさせてもらうよっ、あたしも用事あるしね」
と言って満面の笑みを向ける鶴屋さん
「うん、またね鶴ちゃん」
「鶴屋さんまた」
「うん、そんじゃねっ」
鶴屋さんは軽快なステップを刻みながら歩いて行ったとおもったら…
「そだそだ! 端樹っ」
何か岡島先輩に言い忘れた事があったようで慌てて戻ってきて…
「ゴニョロゴニョロ…」
耳打ち。
「え!? 鶴ちゃん!?」
「じゃ、頑張んな! 鶴ちゃんは応援してるからねっ」
と俺からしてみたら意味不明な言葉と先ほどよりも満面な笑みを残してまたもと来た道を歩いていった。
「もう…」
岡島先輩はというとこれまた顔を軽く赤らめて鶴屋さんの方を向いている。
もはやこの赤面フェイスはデフォなのかもしれないな。
「えっ~と…、岡島先輩?」
「あ、ゴメンゴメン、ボーッとしちゃってた。とりあえずお昼にでもしよっか?」
「そ、そうしましょうか」
「うん。じゃあ…、はい」
うう…、やはり繋がなくてはいけない運命なのですか?
嫌じゃないんですよ? 寧ろその綺麗なお手手にむしゃぶりつくくらい繋ぎたいですよ?
だけどな…さっきの事もあったし…
「やっぱ嫌なんだね…」
「! んな事は無いです!! 俺は繋ぎたいです! けど…」
「けど?」
「…岡島先輩は嫌でしょ? 俺みたいな冴えない野郎と手繋ぐの?」
「なんで?」
キョトンといった音がなったとしても不自然じゃない位の顔を俺に向けてきた。
「さっきみたく彼氏と間違えられたら迷惑でしょうに…」
「……ぷっ…、あはははっ」
!?
何にがあったんですか?
俺何か面白い事言いましたか??
「ゴメンゴメン、キョンくんがあんまりにも真剣に言うからなんだか可笑しくて」
「真剣にって…、俺は真剣に岡島先輩が嫌がってんじゃないかと思って…」
「そんな事ないよ」
「え?」
「私、キョンくんと手繋ぐの全然嫌じゃないし、その…彼氏さんみたいに間違えられるのもヤじゃないよ。むしろその逆かな。うれしいよ」
…打撃の神様川上哲治氏に謝りたい。
ボールが止まって見えるなんてはったりだろうと思っていたが…
止まるものは止まるようだ。
そう、今俺と岡島先輩の間に流れる時間が止まっているように…
今、岡島先輩と俺は某マクドナルドで少しおそめの昼食を採っている。
昼真っ盛りな時間ではないってのにこの人数…
恐るべし休日のお昼時といったとこだろう。
「…でね、そんな事があったから…」
岡島先輩はというと、すっかり普段(もっとも普段どんなのかはあんまり知らんが)のテンションに戻っている。
実に喜ばしい事だ。
だってそうだろ? さっきまでの微妙な感じのままじゃお互いの精神衛生上色々とよくなさ過ぎる。それに…
「…その時、鶴ちゃんったらね…」
楽しそうに笑顔で喋っている岡島先輩はさっきまでのの岡島赤面とは違うベクトルに可愛い。
何と言うか、無邪気だ。
まあ、笑顔だろうが赤面だろうが岡島先輩は可愛いんだが…やっぱりこの人はこうやって笑顔でいる方がいいなんて偉そうな事を考えたりしている。
それにしても…、さっきの岡島先輩の言葉…
「ちょっと、キョンくん聞いてる?」
『私、キョンくんと手繋ぐの全然嫌じゃないし、その…彼氏さんみたいに間違えられるのもヤじゃないよ。むしろその逆かな。うれしいよ』これはどういった意味で言ったんだ?
まさかとは思うが、岡島先輩は俺のこt「ふぐあっ!?!?」
ななな何だ!?
何かが俺の鼻に入って…、しかも熱っ!!
「ふぐあっ、じゃないよキョンくん」
…どうやら岡島先輩が俺の鼻に某マクドナルドのポテトを突っ込んだらしい。
しかもカリカリ熱々…
普段はしなしなにしなってる癖にこんな時に限って。
「もう、キョンくんったらボーッとしてたよ」
「す、すいません、つい考え事してて…」
「へ~、考え事ね~…、どうせまたヤラシイ事でしょ?」
「ち、違います! それより早くこのカリカリ熱々なポテトを抜いて下さい」
「あ、ゴメンゴメン、忘れてた」
ようやく開放された訳だが…、鼻がやたらスースーする。
ってか鼻に食べ物を突っ込むんじゃありません!
「んん~、キョンくんはお仕置きデートっていう自覚が足りないようね」
は! すっかり失念していた…
そう、今日は俺が岡島先輩の輝ける純白を見た事に対するお仕置きデートだったんだ。
いったいぜんたいこれから何をさせられることやらと俺が考えていると不意に岡島先輩の表情が曇った。
「………ま、もうお仕置きはいいかな」
「え? それまた何で?」
「あれれ? キョンくんはお仕置きして欲しいの?」
いえ、全く。
だから、その悪い笑顔をとっとと引っ込めて下さい。
「ふふ、冗談だよ」
「冗談って…、でもお仕置きはもういいってどういうことですか?」
「…実はそもそもお仕置きなんかするつもり無かったの」
はい? お仕置きするつもりなんか無かった?
「じゃあ、なんで俺を誘ったんですか?」
「…それはね、単純にキョンくんに興味があったから。涼宮さんに色々連れ回されてるキョンくん、鶴ちゃんから聞いたキョンくん、学校で見かけるキョンくんに興味があったから。だからこないだあんな風に言って誘ったの。ゴメンね騙してたみたいで」
「い、いえ、そんな謝らないで下さい…」
待て待て、美味し過ぎないか?
俺に興味があったからデートに誘った?
そりゃ…、つまり…
「ありがと…、もう分かったかも知れないけど私ね、キョンくんが好きかもしれないの。ゴメンねかもしれないとか曖昧で…、でもよく解らないんだ。
だって、全然面識が無いのにこんな気持ちになっているんだもん…、私キョンくんとこうして話していると凄いドキドキするの、うんうん話していなくても遠くからキョンくんを見てたり、鶴ちゃんのキョンくんの話を聞いてるだけでドキドキするの…」
「お、岡島先輩!」
「え…?」
「お、おお俺も…、岡島、先輩が…」
俺が言い淀んでいると岡島先輩は自分の人差し指を俺の唇に当てて。
「ありがとう…、でもねまだ聞いて欲しい事があるの。いいかな?」
岡島先輩は癖の小首を傾げる動作付きで聞いてきた。
「聞かない訳ないじゃないですか」
「ありがとう、…でもなんかヤラシイ顔だよ」
はは、ヤラシイは俺のアイデンティティでいいです…
「キョンくんは涼宮さんのことどう思ってるの?」
ハルヒ?
なんで今ハルヒだってんだ?
「ハルヒですか…、はっきり言ってはた迷惑なことばかりしやがりますし、いい加減大人しくしやがれって感じですかね。まあ、そんなこと本人に言ったら何言われるか解らないですけどね」
「……涼宮さんと付き合ってるんだよね?」
ストップステップジャンプ。
岡島先輩? 会話が成り立っていないですよ?
しかもハルヒと俺が付き合ってるって…
「そんな訳ないですよ、ハルヒと付き合ったらそれこそ『あたしと付き合ったからにはアンタの社会権はあたしの物よ!』みたいな事言われて後々の人生を棒に振るようなもんです」
考えただけでも恐ろしい!
「ふふ、キョンくんはホントに涼宮さんと仲がいいんだね」
ホント大丈夫ですか?
それとも俺が変な事言ってるのか?
何故ここで笑います?
「私はね…、この間も伝えたけど涼宮さんには凄く感謝してる」
…流れが掴めん!
「だって涼宮さんが助けてくれなかったら文化祭の為にやってきたみんなの努力が無駄になるところだったんだもん。勿論それは長門さんに対しても同じだよ」
確かにあのライブでの二人は素人目ではあるが助っ人として充分過ぎる位に役割は果たしたとは思う。
なんて言ってもにやけ面公認神様と万能宇宙人だからな出来ないってのがおかしな話しか。
「それなのに私ったら…、ろくにお礼も出来てないのに、こうやってキョンくんとデートしてる…実はねキョンくんをこうしてデートに誘ったのは友達がアドバイスしてくれたからなの。
その娘はキョンくんが私のパンツ見てるのに気づいてたんだけどそれを利用して仲良くなっちゃいなさいって言ったんだ。あ、勘違いしないでね私はその娘のせいにしているわけじゃないよ。
結局ああやってキョンくんを呼び出したのは私の独断だからね」
なんと岡島先輩のお友達に気付かれるほどおれは先輩のパンツにがっついていたと言うのか…
変質者もいいとこだぜ…
「ねえ、私って酷い女だよね?」
そう聞いてきた岡島先輩の目はうっすらと濡れている。
何が彼女を悲しませているのかさっぱりな俺をぶち殺したいがそんな事は後でも出来る。
「何処がですか? 岡島先輩は酷い女なんかじゃないです」
…根拠はないが。
「うんうん、そんな事ないよ。だって涼宮さんを出し抜いてキョンくんとデートしてるんだもん…」
だからなんでハルヒなんですか!と思わず声を荒げそうになった俺は思わずドキリとした。
というのも岡島先輩の涙腺は我慢の限界を迎えたようで目から粒状の涙が零れ落ちているからだ。
もし声を荒げたら大変なことになったかもしれない。
しかし、その姿は妹が泣いてる時に似て幼さを感じるもので。
そう、俺の部屋に侵入し俺が『絶対に開けてはいかん』って言っていた箱を開けようとしていた所を俺にどじかられ謝った時の姿に似ている。
…あれは非常に危険な状況だった。
なんて言っても小学五年生の可愛い妹には悪影響の塊だからなあの箱は。
とまあそれは置いておいて。
「………じゃあ、今日のデートは俺が岡島先輩を誘ったってことにしましょう」
「…え?」
「岡島先輩がハルヒに対してもどんな負い目を感じているのかイマイチ解らないですけど、こうしたら岡島先輩がハルヒに対して負い目を感じることはないですよね?」
「でも、私が誘ったに違いないんだしそんなこと…」
「…何を言っているんですか?今日は俺が岡島先輩をデートに誘ったんじゃないですか。違いますか?」
「キョンくん…」
うさん臭い。
実にうさん臭い。
今俺はにやけ超能力者並にうさん臭いな。
でもまあ、岡島先輩の為なら古泉の野郎でも吐かないようなセリフでもはいてやろうじゃねえか。 しかし、さっきのが岡島先輩の為になったかどうか…
「…ありがとう。ホントにありがとう」
まあ、とりあえずは為になったってことでいいだろう。
今、俺は岡島先輩が落ち着くまで俺は話しまくっている。
何を?
俺みたいな一般ピーポーが出来る話しなんてたかが知れてるだろ。
だから、話せる範囲で非常識軍団SOS団であった非生産的な出来事を話してる。
孤島で手の込んだ推理ゲームをしたとか、糞暑いなか着ぐるみ着てバイトしたとか非常識な所に触れないよう気をつけてな。
岡島先輩はというと泣いたせいで赤くなった目をしながら一生懸命に俺の話しに耳を傾けてくれているようだ。
そんな彼女を見ていると俺の中にある淡い恋心は激しく激しく騒ぎだしているわけである。
全く、どうするもんかね。
「グスッ…、ありがとうキョンくん…、もう、大丈夫」
「岡島先輩…」
沈黙が俺と岡島先輩の間を流れている。
なんだろな…心地が良いって感じする沈黙だな。
もう少しこの空気に浸っていたい。
「今日は…、ありがとねキョンくん… さっきあんな事言った私がこんな事言うの筋違いだけど………、ありがとう、涼宮さんと仲良くしてね」
ととんでもない一言で沈黙をぶち壊しくれたのは何を隠そう岡島先輩である。
「ふざけないで下さい」
「え?」
「俺は全く落ち着いてない人に騙されるようなアンポンタンじゃあありません」
「どうしてそんな事言うの? 私は落ち着いたよ」
今の俺にはその癖は通じません!
いや、今の俺じゃなくても通じねえ。
「じゃあなんで震えてるんですか? なんで泣いてるんですか?」
「うそ…? 私…」
気付いていなかった?
なんでそんな事にも気付かないんだ…
そんなに今あなたを困らせている事は深刻な事なんですか?
その原因は俺にあるんですか?
もしそうだとしたら今すぐおっしゃって下さい。
今すぐにでも俺はあなたの為に変わろうじゃありませんか。
「ゴ、ゴメンね、なんか私変だよね…、ゴメン…、ゴm
「……嫌じゃないですよね?」
…嫌かな?
いくらさっき岡島先輩があんな風に言ってくれたからって俺みたいな冴えない野郎にいきなり抱きしめられたら嫌だとな普通。
『調子に乗るなくそ野郎』って殴られても何も言えん。
だがな…、このままこの人を泣かせたまま放置出来る程俺は甲斐性なしじゃねえんだ。
「……嫌だ。凄く嫌だよ…、早く離してよお…」
「…だから俺は貴女が思ってる程アホじゃありません」
「うう……、キョンくん…」
岡島先輩は俺の服を小さく震えながら強く握っている。
顔を胸に埋めている為に表情を確認する事は出来ないが泣いてるのは確実だろう。
そんな岡島先輩の頭を優しく、馬鹿高い骨董品を扱うより数倍数十数百倍優しく撫で俺は始めて神様に祈った。
この際ハルヒでもいい。
「そのままでいいんで聞いて下さい。岡島先輩…、俺は貴女の事が好きです。始めて会ってから一週間しか経っていないから信じて貰えないでしょうし、岡島先輩の何処が好きなのかとか今は具体的にはよく解らないですけど俺は岡島先輩が好きになったんです。
俺と…、俺と付き合って下さい」
そう言ってから俺は岡島先輩の返事を待つ。
少しの間そうしているとふいに先輩は顔を上げて
「グスッ…、キョンくん…、ん」
「むっ…」
俺の唇に自分のものを重ねてきた。
…悪かったなハルヒ。
こないだはいきなりこんな事してさ。
もっともハルヒの事だ、市中を全裸で踊り歩いても許して貰えないかだろうな…
ともかくこれはビックリするわ。
統一理論は実は完成していたって事に気付いた場合の科学者もこんな感じなんだろう。
「「「「おおおっ!!」」」」
な、なんだ?
なんだこの歓声はこの拍手は?
「良かったな兄ちゃん!」
「大事にしなさいよ!」
結論から言うとだなあの時の俺達二人のやり取りはどの辺りからかは知らんが周りの客に丸聞こえだったらしい。
俺達はというと窓際且つカウンター席に座っていたもんだから他の客からの熱視線を背中にうけるだけで全く気付いていなかったんだなこれが…
んでもって、俺の告白を岡島先輩がキスで応じ、固唾を呑んで見守っていた方々の拍手喝采が巻き起きた。
全く…もし知り合いがあの中にいたら首吊りものだぞ。
ま、今死ぬ気は毛頭ないがな。
俺の人生はこれからなんだよ。
そう、これからだ…
赤の他人から拍手喝采を贈られるという非常にコアな体験をした俺達二人はとりあえず、店を出て今薄汚い公園にいる。
岡島先輩は俺の手を強く強く握ってついてきてくれた。
…正直痛い。
だがそんな事を言う程俺は空気の読めない人間じゃないんでここはノータッチだ。
しかし、岡島先輩にキスされたんだよな…
柔らかかった…
ファーストインパクトじゃないのが非常に悔やまれる。って違う違う。
あれはブレーキランプ五回点滅ってことだよな?それは違うか。
とりあえずOKって事でいいだよな?
…ニヤニヤが止まらねえ。
今の俺は古泉の事を悪く言えんな。
「さっきの事なんだけどさ…」
「は、はい」
「…ごめんなさい、今は付き合えないよ」
なんてこった…
何一人で舞い上がってたんだよ…、自分の情けない顔をよく見ろよこの糞アンポンタン…、首吊りてえ…
完全に見切り発車だ…
「でも聞いて…」
「はい…、聞きます…」
きっと岡島先輩は優しい人だろうからこの糞見切り発車アンポンタン糞野郎を慰めてくれるんだろうな…
「もう一度…、今度もう一度、告白して。その時、しっかり返事するから…」
「……へ?」
この人は一体何を言いたいんだ?
…まさかこれがこの人なりのお仕置きなのか?
だとしたらハードすぎだ。
「私達、会って一週間でしょ?
それなのに付き合ったりしたら涼宮さんに申し訳し私自身納得出来ないよ…だから、だからいつか、キョンくんがまだ私の事好きでいてくれたらでいいからもう一度告白して」
「ちょっと待って下さい! さっきも言いましたけどハルヒは関係…「関係あるよ!、おおありだよ…、私にはあるんだよ…」
語気を強めた岡島先輩は唇をかみ締めながら俯いた。
「ゴメンね…、無茶苦茶なこと言って…、でもお願い、キョンくんの気が変わったら別にいいから…、私の事なんか気にしなくたていいから…だから…、お願い…」
もう訳がわからん!
ハルヒハルヒって貴女は異世界人か何かですか?
全く………
「…解りました。でもこれだけは言わせて下さい。俺の気が変わるなんて事はありません。絶対にありません。必ず、いつか必ずもう一度岡島先輩に告白しに行きます。絶対です」
俺は強い意思を込めて告げた。
少々かっこつけすぎた気はするが。
「…ありがとう」
これからだって事が解っていただけただろう?
俺には岡島先輩にもう一度告白する義務があるんだよ。
だからこんなとこで首吊る気なんかさらさらねえんだ。
しかし困った事になったもんだ。
もう一度告白するって言ってもなあ…
今日のだってあの状況だから出来たわけだし…、そして今度って何時だよ…
誰かに相談するか?
谷口はありえん、国木田だって恋愛経験が豊富だなんて話しを聞いた事ないし…
古泉は相談するのが適役そうなのが腹立つ。よって無しだ。絶対無しだ。
…あいつはどうだ?
いやしかし卒業以来随分連絡とってないしな…連絡云々以前に有り得ないか。
ハルヒに相談する並にあり得ないよな。
どうせのび太を叱るドラえもんのごとく云々講釈垂れられて終了だ。
参ったな…ピロリロン♪
『今日はゴメンなさい。ホントはあんな事言うつもりなかったんだけど、もうなんかわけ分かんなくて…、ホントにゴメンなさい。あのさ…、キョンくんが良かったらでいいからこれからこうやってメールしてもいいかな?』
良くないわけがないじゃないですか。
いつでもバッチコイです。
しかし…、これって待ってたら岡島先輩から告白するんじゃねえか?
いやいや、ふてえ考え過ぎるだろ。
俺がしっかりと告白しないで誰がするんだってんだ。
ええ~っと『もちろんです。俺なんかで良かったら何時でもお相手させて下さい』っと。
俺の高校生活もまだまだ捨てたもんじゃねえな。