ここで、ハルヒコのSOS団とメンバーについて触れておこう。
俺たちの世界でハルヒがSOS団を結成したように、あちらの世界でもハルヒコによってSOS団は結成されていたという。
しかしアチラの場合のSOS団は、
 
S 涼宮ハルヒコが
O オーバードライブに全世界を
S 制覇する
団 体
 
の略称なのだそうで、それはこの世界でも同様だった。
 しかしこの世界では二つのSOS団が存在している。
しかも結成のタイミングまで同時だったため、SOS団の名称の使用権を巡って、
当人たちにとっては自分たちの存在を左右するほどに重要な、
状況次第でどちらの陣営にも転がる事になる団員達にとっては
実にどうでもよすぎる不毛な争いが延々と続けられていた。
 この不毛に過ぎる争いに楔を打ったのは、調停に疲れ果てた俺の
「だったらどっちもタダのSOS団にしなけりゃいいだろうが」
という実に投げやりな提案だった。
 
するとどちらもすぐさま部室に引き上げて、ハルヒは太字のマジックで、ハルヒコは毛筆で自分たちのSOS団の名前を、
まるで裁判の判決が下された直後に支持者と報道陣に見せ付ける勝訴とか不当判決のように団員達に見せ付けてくれた。
それがハルヒの“超”SOS団であり、ハルヒコの“大”SOS団だった。
 
 かくしてその日を境に“超SOS団”VS“大SOS団”による、千年戦争の火蓋が正式に切って落とされる事になったのだ。
 
 というわけで正式に名称が分かれたところで、大SOS団、つまりアイツたちの世界のメンバーの紹介だ。
最初に触れておく必要があるのは、やはり大SOS団の団長である涼宮ハルヒコについてだろう。
今からアイツの世界での大まかな経緯から紹介する。
 
 中学時代にハルヒは伝説となった数々の奇行を繰り返していたが、ハルヒコもまたそれは同様だったそうな。
ただし、男らしい方向に衝動が向ったようで、その発散方向から世間一般には不良と認識されていたようだ。
 一番の武勇伝は最強のケンカ師を目指していた時に獲得した勲章で、中学二年のときに近隣一体の最大規模の不良グループを一人で壊滅させ、
格闘家崩れの巨漢たちまで叩きのめしたというもの。
その件のあと、数多くの挑戦者を迎え撃ったり、裏街道からも引く手数多になったそうだが、
逆にそれが原因でその道に飽きてしまい、いわゆる「更生」をしたのだという。
 ハルヒコは北高に入学してアイツに出会うとすぐに、学内で長門勇希、朝比奈いくる、小泉一姫、そしてアイツというメンバーでSOS団を結成し、
その団の名前の目的の通り学内はともかく学外にも同志を募り、今日は日本を、明日は世界を制覇せんと意気込み活動していたそうな。
 ただ、ハルヒと同様に一般常識が強固にあるらしく、とりあえずそこを上手い事刺激しながら、
本気でその力を世界制覇から発展して、全次元と宇宙の制覇に向わせなないように均衡を保っているのがアイツの活動になっていたそうだ。
 
 そしてこの世界では、ハルヒコは平行世界の自分、この世界では従兄弟であるハルヒと仲違いしていて対決しているのはこれまでの通り。
ハルヒが不機嫌なときはハルヒコは機嫌がよく、ハルヒコが不機嫌だったらハルヒは機嫌がよいというわけで、
この両者を程ほどに対立させる事で世界の均衡を保つというのが、この世界の暗黙のルールになっていた。
 
 そんな厄介ごとの首魁の一人であるハルヒコなのだが、俺はハルヒコに左程不快な感情を抱いた事はなかったりする。
それどころか意外かもしれないが、むしろハルヒと行動するより気は楽だったりするのだ。確かに俺の事を義弟だのと呼びはするが、まあそんな事は些細な事だ。
 
 ハルヒコは典型的な親分肌の男で、ハルヒのヤツが俺に昼食の全員分を肩代わりさせるような、負担を部下に肩代わりするのが大嫌いだった。
逆に全員分を奢る事の方が多いくらいで、ハルヒとアイツにむしりとられて文無しになった俺にメシを奢ってくれた事も一回や二回じゃない。
もっとも、奢ってくれる店といえば無期限のツケが利く、古びれた中華料理の大衆食堂に限定されてしまうのだが、そこは文句を言うところではない。
 それだけではない。これは時系列だと後の話になってしまうが、四人兄弟全員の快適な自宅ライフを運営するために、
常に金欠気味にされてしまうオレを誘って、
短期で稼げる実入りのいいバイトを紹介してくれる事もしばしばあった。
「勇希は誘いにくいし、いくるは見た目からアレだ。そっちの古泉は華奢すぎて耐えられそうにないが、お前とならやれそうなんでな。つきあえよ兄弟!」
 と、そんなわけで紹介されるバイトというのは、表の求人誌ではまずお目にかかれない、ハルヒコが荒れていた中学時代に築いた人脈ルートから紹介されるもの。
労働基準法何するものぞ、どれもこれも朽ちかけた丸太で掛けられた、濁流を渡す橋のようなものばかりのヤバい仕事だらけだった。
 こうやって消耗した体力と神経に見合ったのかどうか疑わしい、しかし高校生にとっては魅力的な報酬があるお陰で、
この世界での俺たち兄弟と俺のSOS団は円滑に運営されていたのだ。
 
 そうそう、ハルヒコのヤツは涙ぐましい事に、稼いだバイトの半分は家に入れているというのだ。
家庭がやりくりに困っているからというのではなく、今までとこれからの迷惑を掛けてきた親へのケジメだというのだから驚かされる。
おいハルヒ、お前はハルヒコのこんなところを知っているのか?お前の従兄弟は本当に大したヤツだぞ。
俺だって自分の身の回りの事で使い果たしてしまうっていうのに。
 
 って、良く考えたら俺の稼ぎの半分は働きもしないアイツが率先してふんだくっているじゃねえか!
兄弟で食べる菓子やジュース、全員用のゲームの資金にされるのはまだ納得もできるが、そのうちのさらに半分はお前の“接待費”とやらに消えているんだぞ。
 何、俺がバイトに出てハルヒの面倒が見れないときは代わりに自分が出て取り繕っているから、その必要経費なんで納得しろだと?
あのなあ、バイトに出ていたお陰で俺が活動に参加していない翌日は、必ずハルヒに嫌味を言われたあげく、金を持っているんだから出せと飯を奢らされているんだぞ。
何が「ハルにゃんは可愛くていい娘じゃない」だ!
俺が働いている最中はいつも女ばかりでかしましく、喫茶店に入り浸って楽しんでいる事くらい把握しているんだぞ。
それも費用は割勘か全額お前の奢り、つまり全額俺の懐からだ!
いくらそっちの世界だとハルヒコに捕獲されて嫁扱いされてしまい、逆ハーレム状態になったのを僻んだ女友達から排斥されてしまって
ダベり相手がいなくて寂しい思いをしていたからっていってもやりすぎだろうが。
 畜生、美味しい思いをしているのはお前ばっかりじゃねえかまったく!
毎回毎回今にも力尽き果てそうな俺の手から給料袋を取り上げて貴重な万札を引っこ抜き、お疲れ様の一言だけで踏んだくりやがって。
 
 何、感謝の言葉だけじゃ足りないっていうなら、お礼にオレのほっぺたにチューでもしてやろうかだと?
だったら結構だ。そんなことで骨が削れるほど消耗したオレの体に活力が戻るわけでもないからな。
第一そういう方法で釣るっていうのは、傍で見ていてご馳走様でしたと言いたくなるほど幸せそうな
恋人同士や新婚家庭でやることだろうが。何が悲しくて平行世界の同一人物にしてもらわねばならんのだ?
ってそこで妹はともかく弟までけしかけるなぁ!寄るな、気持ち悪いっ!
 
 ったく、うちのお袋も親父の小遣いにはやたらと厳しいことを言うくせに、ご近所の井戸端会議ではいつも喫茶店を使っているが、
日頃お袋にブツブツ文句をこれでもかと並べ立てて反抗するのに、そんなところだけマネしやがって。
親父、じいさん、ご先祖様。我が家系の男というのは、常に女に搾取され続ける菜種油のような哀れな存在でしかないのでしょうか?
 
 続いては宇宙人勢力の長門兄妹、ここでは兄である勇希先輩についてだ。
俺の世界では、長門が俺に貸し出した本の栞に会合の時刻のみが記されていて、その日時を数日すっぽかしたあげく、
ようやく長門のマンションであの情報多寡で、こちらの思考がナローバンド回線しか使っていないのに、
高画質動画を見ようとして硬直してしまったパソコンのようになってしまうような話を聞かされ続けたのは今更の話だ。
 
 で、この話をしたところ、アイツときたら人を薄汚いドブネズミでも見るような見下した視線で俺を見て、散々に罵ってくれやがった。
曰く、女の子から渡された本を読みもしないで数日も放置するなんて人間のすることじゃない。その夜の内に夜なべしてでも読破して、内容丸暗記は当然。
次の日には朝一でにこやかに話しかけて感想を懇切丁寧に述べるのが常識以前でしょうが!とキツイお言葉を頂戴した。
 
 じゃあお前はどうだったんだと聞き返したら、そういえばいくる君に一度小難しそうな本を貸してもらったことがあったけど、
そのままスパっと忘れてしまってそのまんまだったって、にこやかに頭をかきながら照れ隠しするんじゃねえ!
何、こっちの世界だとまだ借りていないから気にするなだと?
何言ってやがる、もしかしたらその本の中に、この状況を打破する秘策が記されていたかもしれなかったんだぞ。
と、問い詰めると、急に話題をそらしてわからないものはわからないし今更どうしようもない、って笑って済ませやがるからムカっ腹が立つんだよ。
ったく、平行世界の同一人物とはいえ、男と女が違うと感性まで変わってくるから面倒でたまらん。
まして同性なら肉体言語に訴えていいところが出来なくなるのが不愉快でたまらん。
 
 っと、いい加減話を戻そう。
 
俺とアイツが元の世界での記憶が戻ってすぐに、長門先輩に二人揃って呼び出されてからマンションで聞かされた話
―――これはアイツの世界でも同じだったそうだが―――だと、長門はともかく、
長門先輩は涼宮ハルヒコという人間の観測の為だけに生み出された存在ではなかったというのだ。
 
何でもこの太陽系の観測を目的に送り込まれていた存在だったらしく、地球人類との接触は人類が電波を使用し始めてからだったそうで、
実に二百年ほど昔から人類社会に潜伏していたんだそうな。
 それにしちゃあなんでまたそんな目立つような若々しい姿をしているのかといえば、俺のじいさんたちが青春を謳歌していたご時勢に、
その美麗なお眼鏡に適う位に興味を引かれた人物がいたので、その姿と名前を拝借したかららしい。
 そんなこんなで、俺たち太陽系全体のデータを取りつつ地球の全生命体の監察もしていたそうだが、その時にダブル涼宮の情報爆発に遭遇してしまったので、
そのまま先輩の収集していたデータを基に、長門有希を始めとした宇宙人の代理人たちが生み出され、続々とこの地球に送り込まれたらしいのだ。
 
 なるほど、宇宙人連中には性格が変な連中ばかり揃っているのは、長門先輩の収集したデータとその解釈に問題があったということだったんですね。
でも先輩、だからって妹さんの性格まで貴方にそっくりな無表情、無表現というのは止めて欲しかったんですが。
 
 未来人である朝比奈姉弟については、俺とアイツの世界での状況に違いらしい違いはなかった。
どちらも禁則事項とやらでがんじがらめにされている上、元々が天然さんなので、日頃は本当にお茶汲み用のマスコットとして愛玩されていたのも同様。
 もっとも俺の世界で朝比奈さんを弄んでいた首班はハルヒだったが、アイツの世界だといくるを弄んでいたのはヒメだったそうだが、それはどうでもいい話だな。
時折眼前で繰り広げられる、際どいところを押し当てられて赤提灯のように真っ赤になったり、
プニプニとつきたての餅のように柔らかいほっぺたを引き伸ばされたり、女装させられたり着ぐるみを着せられたりと、
ヒメの手にかかっても、ハルヒの手にかかっても、全く同じ事をされていたのには苦笑するしかなかったな。
 
 その朝比奈姉弟が自分たちの情報を開示をしてくれたのも、俺たちが揃ったところを見計らってこれまた同じ公園で姉弟同時だった。
そのユニゾンっぷりときたら、表向きは双子で、その実平行世界の同一人物であるはずの俺たちなんぞ比べるのもおこがましいほどのもので、
地球の守護神を自負する、東京タワーに繭をかけて大迷惑を引き起こした巨大蛾の使者である小人の姉妹のような見事さだった。
 
しかし二人とも必死に訴えようとしているのは理解できたのだが、その中身はやはり相変わらず禁則事項だらけで理解に苦しんでしまったが。
 
 そうそう、いくるが成長した姿はどうだったかとアイツに聞いたところ、出くわした時は別人としか思えないほど身長が伸びていて、
本当にどちら様でしょうか状態だったそうな。
同一人物の証拠もやはり星型のホクロだったが、その場所は髪に隠れたうなじの奥だそうで、
朝比奈さんみたいに胸だったり、男だからといって際どいところだったらどうしようかと心配せずに済んだのは良い事だった。
 
 っておい、機会があったら朝比奈さんのをしっかり見せてもらおうって、ワクテカしてるんじゃねえぞ、このスケベ女!
何?俺が、女性がひた隠しするような際どいところにあるのを知っているのがおかしいだと?!
しょうがねえだろ、その機密情報はその朝比奈さんご本人からうやうやしく拝聴したんだからな。
 
 またこの世界で発生した興味深い事と言えば、朝比奈姉弟は揃って長門兄妹にメロメロになってしまった事だろう。
姉弟揃って一目惚れしてしまった上に、数々のイベントを進行していく中で補強されてしまったのだ。
姉弟が意中の相手と向かい合ってしまうと、それだけで表情が信号機のようにくるくると変わってしまうのは、
傍から見ていても実に微笑ましいのだが、長門兄妹ときたらそれを二人揃って「ユニーク」の一言で片付けるのは、
人知を持っては計り知れない思考の持ち主である宇宙人とはいえ、その反応はいくらなんでも酷すぎるんじゃないだろうか。
 
 そして最後グループは超能力者である、古泉一樹と小泉一姫についてだ。
 
 俺の世界だと小泉は、最初にカマをかけたらあの調子でベラベラとご丁寧に解り難く自分たちについて教えてくれた訳だが、
ヒメの場合はあまり説明してくれなかったそうだ。
想像は付くのだが、いつもの調子で要点“だけ”を物凄く乱雑にブツ切りにして、何の捻りも無く皿に盛っただけだったらしい。
というか一知半解の知識を並べていただけで、アイツの質問には殆ど答えられなかったそうだ。
で、耳で聞くより見た方が早いからと、実演と称して閉鎖空間で能天気に暴れている姿だけ見せてオシマイだったというから、
話を聞いていて俺の方まで頭が痛くなってしまった。
 
 そういう訳だったので、古泉から二人一緒に誘われた時、アイツは心底喜んでいた。
まさか古泉の色気にしてやられてしまったんではなかろうかと危惧してしまったが、
まあ健全な女なら、俺でさえうらやむような美形の紳士にご同行を懇願されれば応じないわけは無いよなぁと、そこは黙っておく事にした。
 
 というわけで例の繁華街の交差点にタクシーに揺られて向ったわけだったが、
古泉が助手席で、俺たちが客席だったのはお誘いを受けた賓客として当然だったとして、後部座席の真ん中にヒメが潜り込んで来たのは想定外だった。
この二人は性格も正反対で、アプローチの方針も正反対だったので、同じ組織ではないのだろうと考えていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
 しかし車内での、流暢というより眠たくなるような古泉のご説明の最中、退屈だからと子猫のようにジャレついてくるヒメは本当に迷惑千万だった。
せめてずっと俺だけにジャレついてのなら抑えようもあったのだが、やはり主な標的はアイツだったようで、話を幾度も中断させるほど態度が宜しくなかった。
 
 というわけで目的地途中のコンビニで、アイツは休憩したいからとタクシーを止めさせると、そのまま可燃ゴミのようにヒメを放り捨てて発車させてしまったのには驚いた。
俺の周りにはあそこまでおふざけが過ぎる異性はいなかったが、それにしても傍から見ても実に手馴れた動作だったな。
何、自分の世界だと、こうしておかないと物事が先に進まない事がしょっちゅうだったからだって?
異性の俺でも毎回のようにあんな事をされたら、手を挙げたい衝動に駆られるだろうから、そいつは素直に同情しておくぞ。
 
 して、あの場所に到着すると、神人という巨大な光のバケモノが暴れていたのはおなじみの光景だったが、決定的な違いがそこにあった。
 
 何と、色の違う神人同士がグニャグニャしながらドツキ合っていたのだ。
 
 俺が良く知っているのは青の方だが、アイツは赤の方が馴染みなのだという。
その青と赤が、灰色の閉鎖空間で周囲の建築物を粉砕しながら、ノタノタとプロレスに興じているのがこの世界の閉鎖空間の日常なのだそうだ。
 ハルヒとハルヒコいずれか片方が、まず神人を出現させ暴れさせる。すると少々遅れてもう片方の神人も出現し、そのまま互いに潰し合うのだそうだ。
そして超能力者たちは、頃合を見計らって両方を同時に倒すことで閉鎖空間が消滅するのだという。
 
 ハルヒとハルヒコの二人が同じ北高校に通うまでは、それぞれが別個に出現していたため損耗が激しく難儀していたところ、
一度親族の法事で二人が顔を合わせた際に神人同士が潰し合ったので、
その状況を固定化させようと機関とやらが何とか両者を誘導させたのがこの結果だったらしい。
 お陰で連中は随分と仕事が楽になったと言っていたが、こちとらに掛かる負担は倍増しているんだ。
お前らからもっと目に見える形で、俺たちにバイト代か我が家の口座に仕送りでもやってほしいぜ、まったく。
 
 また情報交換をしていて驚いた事もある。それはSOS団の名誉顧問にして大財閥のご令嬢、鶴屋さんについてだ。
俺とアイツの世界では、ほぼ全員の性別が逆転して存在していたのだが、何と鶴屋さんだけは例外であっちでもあのまま女性だったという。
鶴屋さんはタダでさえ謎が多い方だったが、こうなるとハルヒたち以上に次元を超越した存在になってきたな。
 
 違いらしい違いといえば、ハルヒは鶴屋さんを友人扱いにしかしていないのに対し、ハルヒコは師匠と仰いで師事していたとの事。
何の師匠だったのかといえば兵法の師匠だったというのだが、一体全体どんな事を教わっているのだろうか?
そもそもこの現代においてビジネス以外で兵法が何の役に立つのか疑問しか浮かんでこないのだが……。
 
 あとの面倒事は朝倉涼子への対応だったな。
かつて二度までも命を狙われていたことをハッキリ思い出せたのは、不覚にも三度目に襲撃される直前だったのだが、
頭の片隅に警戒心がこびりついていたので俺は常に朝倉に対して警戒していた。
 では何故三度目の襲撃を迎えるハメになってしまったのかといえば、腹立たしい事に俺の警告をアイツが完璧に無視しやがったからだ。
相談に乗って欲しいことがあるからと聞いて、ノコノコ誘い出されやがって。
俺が間に飛び込まなかったら、お前さんの自称、玉の肌とやらにザックリ傷が刻まれてしまったところだったんだぞ。
で、俺はといえば走りながらアイツを庇い続けたお陰で全身ズタズタに刻まれてしまい、
その上走り回るハメになったものだから、危うく出血多量で三途の川を渡っちまうところだった。
まあ、平行世界の同一人物とはいえ、目の前にいる女をキズモノにしてしまったとあれば末代までの恥だからな。ご先祖様たちに顔向けできなくなっちまう。
 
 何、庇ってくれたのは良かったが、俺に突き飛ばされたお陰で打ち身に擦り傷こさえただと?
やかましい!治療してもらえたにしても、痛い思いをしなくて済んだ事くらい素直に感謝しろ!
相手は二人で、そのうち一人は大型ナイフの二刀流だったんだからな。
 
 そうなのだ。この時俺たちを襲ったのは俺にとってはおなじみの朝倉涼子だけではなかったのだ。
この世界には公立高校には不似合いな不良崩れの大蛇系の超危険人物、浅倉陵がいやがったからだ。
 
 アイツの世界だと、浅倉陵はほとんど不登校に近い出席状況で、アイツに一度近づく素振りを見せたあとに問題を起こして退学になっていたそうだ。
この一件から察するに、恐らく襲撃しようとしたところで事前に長門先輩に消されたに違いないと俺は考えている。
 とにかくこの二人は教室を閉鎖空間、いや、文字通りの異次元空間に作り変えて俺たちを狩の得物のように追い立ててくれた。
後で長門は、あれは確変的連結空間と説明してくれたが、ドアや窓を潜り抜けると、教室から体育館、スーパーマーケットから採石場に、果てはヘンテコな宇宙空間などと、
とにかく逃げれば逃げるほどデタラメな場所に繋がっていたのだ。
そして狩人を気取った、どこから飛び出してくるかわからない連中の魔の手からアイツを庇って逃げ回るのは心底キツかった。
この一件は俺の筋金入りのトンデモ体験の中でも、特に洒落にならないことの一つになったが、我ながらあの時の反射神経には賞賛を送りたいぜ。
 ともあれ俺の出血が酷くなり、体力が尽きて逃げられなくなったところで我らが長門が助けに来てくれたのだったが、どうにも長門の様子がおかしかった。
何でもあのヘンテコ空間から俺たちを見つけ出すのにかなり無茶をしたらしい。
二対一だったとはいえ、まるで息子たちを救いに来た途端に長旅の過労で倒れた光の巨人の親父のように、
あっけなく長門が崩れ落ちて、メッタ刺しにされて行動不能にされてしまったときは、アイツはともかくさすがの俺も目の前が真っ暗になっちまったさ。
 
 と、この文字通りの絶体絶命の危機を救ってくれたのは、他ならぬ長門先輩だった。
長門先輩は地球に居る宇宙人連中でも一番の権限を持たされているらしく、
特に仲間内での抗争となると親玉たちの許可が出ないと簡単に動けないので登場が遅れてしまったのだ。
 
 その代わり登場した後は圧倒的なご活躍だった。二対一をものともせず右手に持った文庫本一冊でナイフ三本を退けると、
指弾き一つで連中を消滅させちまったのだ。
長門の話だと、先輩は連中に対して崩壊因子と言うヤツを組み込むのではなく、自分の権限で連中を消去してしまったらしい。
その後、俺と長門を治療してくれた時の先輩の瞳には、表情に出さない重さがあったのは忘れられねえ。
圧倒的な実力差を見せ付けた後も再三、任務に復帰すれば罪には問わないと連中に警告していたし、
ほかの宇宙人連中、派閥は違っても、あんな危ないカップルだったとしても、先輩は本当に肉親だと思っていたんだろうな。
気が遠くなるような年月、ずっと太陽系の惑星を孤独に観測し続けてやっとできた同胞だったんだ。無理も無い。
 
 この件は、連中が表向き問題を起こして自主退学。ウワサでは連れ添って駆け落ちしてしまったということで片付けられた。
 お陰でハルヒは他人の痴情に興味は持たないと、この件に首を突っ込む事はしなかった。
だが俺が長門先輩に介抱されていた場面を、妄想癖の強いオタク女の谷口に見られてしまったのはマズかった。
お陰で変なウワサを流されて、俺の友人の国木田や俺の良く知るほうの谷口にまでドン引きされるハメになっちまったからな。
 
 この後、俺の世界で起きたイベントといえば、閉鎖空間でのハルヒとのアレだったわけだったが、こちらでは発生する事がなかった。
これもハルヒのヤツがハルヒコとの勝負に執心して、憂鬱とは縁遠くなったお陰だな。
 しかし元の世界での件を話したところ、そんな事で憂鬱になって事件を起こしちゃうなんて、
やっぱりハルにゃんは繊細な女の子なのよ。などと、アイツは羨ましそうに溜息を漏らしていたがこっちは冗談じゃなかったんだぞ。
何、そっちの最初のクライシスは中間試験の点数が原因だっただと?
投げやりに解いたら高得点を採っちまって、今後の進学がどうこう、バカな事は止めたら云々と、教師に言われた事が発端だっただと?
 それに比べりゃあ確かにこっちの方が……、ええい大差ないだろうが!
って、そんな事で乙女の初めての唇を差し出すハメになった分自分の方がダメージが大きい?
ああ、確かにそれはそうだな。そんな情緒も何も無い事で使っちまったんじゃあ、泣き言の一つや二つ言いたくなるわな。
 
 ともあれ後はひたすら両SOS団は勝負勝負の連続だった。
 
 最初の勝負はメンバーが変則的に入れ替わって行なわれた野球だったな。
飯を奢ってもらった借りを返すために、ハルヒコの側についてハルヒとやりあう事になったのだが、ハルヒが投げて俺が迎え撃った最初の打席で、
いきなり○リーグボール1号を仕掛けられた挙句、ヘルメットごしに後頭部を直撃し終盤まで身動きできなくなったのは忘れられねえ。
まあ、ハルヒはハルヒ故に退場させられたりしなかったが、投手交代で長門先輩が投げる事になったのには驚いたな。
長門との兄妹対決では、超音速のバトルになってしまったのには苦笑するしかなかったが。
 
 その後も競技は健全、しかし相変わらず不規則にメンバーが入れ替わった上、特別ルールが異常という屋内外の勝負が続いた。
これも無駄に有り余ったエネルギーを発散する相手がいたからだろうな。
元の世界だとそこまでアグレッシブな活動は無かったと思うのだが、こっちだと三日に一度は体と頭に鞭打たなきゃならんのは勘弁して欲しかったぞ。
 
 七夕デーでの時間移動イベントは、意外な事にほぼ元の世界と同じような展開になった。
違いらしい違いと言えば、長門宅に用意されていたのが、布団ではなく二段ベッドが二台用意してあったことくらいか。まあ、人数が倍の四人になったのだから当然か。
 夏休みに入ると、これまでの競技系から、かくれんぼや鬼ごっこのようなお子さま遊び、山野を巡ってザリガニやカブトクワガタ狩り。
果てはUMA釣り対決まで、実に馬鹿げた勝負に移行しやがった。
お前ら、本当に小学生の時ちゃんと遊んだんだろうな?
 
 そして迎えた夏の合宿。
この時はついてきた弟をガチでボコってしまったり(理由は聞くな。あれは同じ男として許し難かったからな)したが、大変だったのはそれからだった。
俺の世界のように南の島で推理大会が予定されていたはずだったのだが、海水浴の最中にハルヒコとアイツが流されて遭難しやがった。
 まあ、アイツにはハルヒコが付いているし海は荒れに荒れてしまったので、捜索は無理だしまあ大丈夫だろうと、
結局そのままアイツら二人以外のメンバーで推理大会が行なわれ、アイツはハルヒコと近くの無人島でサバイバルするハメになってしまった。
嵐が止んだところでさっさと救助したが、安心して泣き出したかと思ったら、今度はこっちの話を聞いて怒って泣き出してしまった。まあ、無理も無いな。
 
 なお、この合宿で一番大変だったのはいくるだったに違いない。
初日は散々俺の弟妹にオモチャにされたあげく、海に出たら熱中症で倒れてしまい、嵐の間中うなされっぱなしだったからだ。
だが、同時にこれほどうらやましいヤツもいなかっただろう。
献身的に朝比奈さんの介護を受けていたのは家族として仕方がなかったが、つきっきりで二晩看病していたのは何と長門だったからだ。
睡眠をとる必要がない体とは言え、その間ずっと額に手を当ててもらっていただけでなく、ご丁寧に汗まで拭き取ってもらっていたのだからな。
 すると当のいくるは体が冷えて意識が戻るたびに、真っ赤になってまたベッドに沈んでしまうのを繰り返していた。
長門よ、いくらいくるの反応が「ユニーク」だからといって、覚醒させてすぐに気絶させて遊ぶものじゃないぞ。
女であっても男であっても、相手の純情を弄ぶのはあまり宜しい事ではないからな。
って、女が男を弄ぶのは一向に構わんだと?弄ばれるほうが悪いだと?
お前なぁ、そこいらの野郎ならともかく、ぬいぐるみの化身のような純情少年が文字通り弄ばれるのを見て……。
スマン。俺もあれは面白いと思っていたと今更ながら白状しておく。
 
 そうそう、夏休みの宿題は開始と同時に二人で早急に体に鞭打って、七月中に終わらせた事も明記しておかねばなるまい。さもなくば、あの地獄のエンドレスエイトを、またしても体験せねばならなくなるからな。
 夏休みが明けると、次は運動会で特別出場枠を強引に設けさせ、全種目出場での勝負という常軌を逸した事をやるハメになった。お陰で丸二日間筋肉痛でダウンしちまった。
 
 まあ、学園祭では軽奏楽部の窮地を救うべく立ち上がったダブル涼宮、バニーと赤マントの怪人がタッグを組んだ、事実上のSOS団バンドのライブが聴けたのは大いなる収穫だったといえるだろう。
映画の件は聞いてくれるな。朝比奈さんの色気で野郎を釣るか、長門先輩といくるで御婦人を釣るのかどうかで、中身なんて超と大の監督たちにとってはご満悦でも本当にカオスな作品でしかなかったからな。
そしてその二本分の編集は俺の両肩に……。開始早々、手も付けずにイビキを始めたアイツの顔に、濡れハンカチで覆ってやろうかという衝動に何度駆られた事か。
 その後はPC全機材と部室の返還を掛けた、旧コンピ研との勝負なんてのもあった。ほぼ完璧にハルヒコの舎弟軍団と化していたような気がしていたのだが、ともかく再起をかけて立ち上がってきた根性は誉められるべきだろう。
連中は他校から場所と機材の支援まで受けて挑んできたが、案の定長門兄妹に完膚なきまでに叩きのめされて、その高校のコンピ研諸共軍門に下ることになってしまったが。
 
 とまあ喧騒を掻き分けていくと気がつけば十二月を迎えていた。この時期に長門は欲求不満が原因で誤作動を起こして暴走してしまったのを鮮明に覚えている。
それはアイツの方も同様だったらしく、俺たちはその事態に最大の警戒態勢を布いていたのだが、こちらではそんな事件が起こることもなく、当たり前のようにクリスマスまでの時間が流れていた。
 理由は極めて単純で簡単だった。こちらでは長門兄も妹も誤作動を起こす理由がなくなっていたからだ。
気の遠くなるような反復時間だったエンドレスエイトを回避したからというだけではない。
もっと根本的に、長門には兄が、長門先輩には妹という存在が居たことが大きかったようだ。欲求不満の芽を互いに摘み取りあい、健全に発散させることで、この宇宙人組は上手く機能していたのだ。
 そんなわけで冬季試験も何とか切り抜け、あとはクリスマスに向けて、両団長が何かしでかすのだろうなと考えていた時に事件は起こった。そしてそれは俺たちの全く予想もつかないところから起こったのだ。
 
 古泉一樹が暴走したのだ。
 
 このハルヒとハルヒコの超と大のSOS団の対立は、もう一つ、古泉一樹と小泉一姫の対立でもあった。
この二人については幼なじみであることが判明していたが、女性陣からはこの二人は付き合っていたのではないかと推察されていた。
 それが事実だったのか、その時点でオレに知る術はなかった。ただ古泉にとっての状況は、俺の世界よりはるかにプレッシャーが大きい環境になっていたのは疑いなかった。
なにせ神様が二人に増えた上に、同僚のはずのヒメは古泉の負担をさらに増やしてばかりだったからな。
それでいて古泉は例によって半端な傍観者の立場を崩そうとしないものだから、心理的だけでなく、所属している機関とやらでの立場も悪化していたらしい。
そりゃそうだ、何も考えずに積極的に両団長にアプローチを掛けてトリックスターとして振舞う能天気なヒメの方が、一挙手一動作にまで気を使って行動していた古泉より目に見えて効果を挙げていたんだからな。
俺だって古泉と同じ立場だったら気が滅入るどころか胃潰瘍で胃に穴が開いていただろうというものだ。
 
 ともあれ、色々と追い詰められていた古泉は自分の立場、というよりも自分がこの場所に居続けるために大きく打って出た。
クリスマス直前に決戦の場をお膳立てして、この時点の通算成績で劣勢になってしまっていたハルヒの超SOS団を勝たせようとアレコレ画策し、あろうことか八百長まがいの事まで仕組んでいたのだ。
 情報操作に関しては地球人類ごときでは手も足も出ないはずの宇宙人を目の前にして、よくもまあ行動に移せたものだと驚嘆はしたが、こんなことが露呈しないわけが無かった。
 宇宙人兄妹が指摘するまでも無く、あろうことか勝たせようとしていたハルヒに喝破されてしまったのだ。
激怒し、そして自噴の念に駆られたハルヒは、副団長の失態は自分の責任だからと自ら敗北を宣言。逆に超SOS団は解散の危機に追い込まれてしまったのだ。
 
 だが、この危機を救ったのは敵である大SOS団の団長であるハルヒコだった。
ハルヒコはこの落とし前をフリーファイトのタイマン勝負でつけると言い放って、古泉と対決した。
相手は超高校級の男、ハルヒコだ。華奢で肉体派とは程遠い古泉は、見るも無残にボコボコのノシイカにされちまったが、倒れ臥しても執念で何度も起き上がり、
とうとう神そのものであるハルヒコの顔面に、一発拳をぶち込む男気を見せたのだ。
直後にカウンターが入って止めを刺されちまったが、ハルヒコはそれで許そうとせず、さらに追い討ちを掛けたところ、ここでなんと、まるで母猫が子猫を守るかのようにヒメが古泉を庇ってハルヒコに反逆するという超展開が待っていた。
 実はこれがハルヒコの真の狙いで、この二人が溜め込みすぎていたものを全てぶちまけさせるために、わざとケンカ勝負という男の王道の解決法で、この事件を納めたのだ。
 かくして古泉はヒメとヨリを戻し、クリスマスパーティーは両SOS団の年内休戦と古泉はヒメの関係修復祝賀会として大いに盛り上がり、無事に二学期を終え、年越しの冬合宿を迎えるだけとなっていた。
 
 だがこれらは全て、俺たちを待っていた最後の事件のための、長い長い導入部に過ぎなかったのだ。
 
 


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