突然目が覚めた。まるで悪い夢を見た直後のようだったが、夢の内容を思い出せない。
知らない方が良いだろうと自分に言い聞かせ、時計を見ると6時だった。
携帯電話が鳴った。画面を見ると、あたしの一番愛しい彼の名前が表示されている。

ハルヒ「こんな朝早くに起きてるなんて珍しいわね。どうしたの?」
キョン「なんか緊張して眠れなかったんだよ」
ハルヒ「うれしいこと言ってくれるのね。でもね体調崩しちゃ本末転倒でしょ」
キョン「大丈夫、元気だ。で約束は9時でいいんだよな?」
ハルヒ「そうよ。駅前で集合よ」

じゃあまたあとで、とキョンは言って切れた。ニヤニヤが止まらないわ。
あの日よりあたしとキョンは付き合い始めた。ただしばらくは恥ずかしくてまともに会話もできなかったけどね。それはキョンも同じ。付き合ってもあだ名で呼んでるけど、別にいいわよね?
最初は目が合うだけで顔が熱くなった。そこから手を繋いで歩くようになるまで二日もかかった。告白時にはキスをしたくせにね。

付き合って四日目、つまり一昨日。下校のときにキョンがうれしい話を持ちかけてきた。

キョン「あのさハルヒ。明後日の日曜日空いてるか?」
ハルヒ「不思議探しもやめたし、もちろん空いてるわよ」
キョン「えっとな、良ければその日二人で遊ばないか?」
ハルヒ「えっそれってつまりデ・・・」
キョン「まままあそうなるよな、ハハハ」
ハルヒ「いいわよ。ただし!あたしを楽しませてくれないと絶交よ!!」
キョン「冗談でもそれを言わないでくれハルヒ」
ハルヒ「あっ・・・ゴメン。じゃあ9時に駅に集合ね」

「死刑」という言葉ではなく「絶交」と言ったのは呆れるキョンを見たかっただけ。でも悲しそうな顔をされるのは想定外だった。今度から言わないことにしよう。
回想終了。さて顔を洗おう。

約束の時間の30分前。あたしはいつもの駅前に向かった。
今日のあたしの服装はピンク色の長袖シャツ、青色の長ズボン。シャツの真ん中に、自分でウサギを縫い合わせてみた。想像に任せるわ。
到着したとき、まさかキョンがすでにいるとは思わなかった。さえない青い長袖シャツ、緑の長ズボン。得意げな顔がムカつくわね。

キョン「遅かったな」
ハルヒ「いっいいのよ別に団活動じゃないから。ていうかそんな早くからいたの?」
キョン「正直に言おう、今来たばかりだ」
ハルヒ「同時ってことね」
キョン「にしても今日は一段と可愛い服だな。特にその熊、自作か?」
ハルヒ「もう正直に言われると恥ずかしいわね。ちなみに熊じゃなくてウサギよ。キョンはいつもの服なのね」
キョン「オシャレってどうすればいいかよくわからん」
ハルヒ「キョンらしいわ」
キョン「いやーそれほどでも」
ハルヒ「ほめてないわよ」

さてどこに行こうかしら。一応貯金を全額持ってきた。じゃあ買い物にでも

キョン「最初は買い物に行くかハルヒ?」
ハルヒ「考えることが同じなのね。でもいいわ、お揃いみたい」
キョン「じゃああのデパートに行くか。ほらハルヒ」
ハルヒ「えっうん!」

キョンの手は相変わらず温かい。あたしたちは手を繋いで交差点を渡った。

服売り場に着いた。団活動でも言った場所。

ハルヒ「服売り場に来たのはいいけど、キョンは欲しいものあるの」
キョン「ハルヒ」

さらりと言われて、恥ずかしさのあまりキョンの頭をはたいた。

キョン「今のは本気だぞ」
ハルヒ「あたしはとっくにキョンのものよ!あらためて言わないで!」
キョン「落ち着け。人の視線が痛い」

周りを確認すると、店員や子連れの母や女子高校生の視線があたしたちに集まっていた。痴話喧嘩よ、なんて聞こえた。
結局あたしがキョンを連れまわした。お揃いのシャツを選んだり、冬の団の合宿用に登山服を探したり、少し気を早くして春に着る服を試着してみた。まあ登山服はなかったけどね。

キョン「やっぱハルヒって何着ても似合うよな」
ハルヒ「うれしいこと言ってくれるのね。でもどれでもいい、て言われてるみたいで少しショック」
キョン「ゴメン。で結局さっき何を探してたんだ?」
ハルヒ「あれ言わなかった?登山服よ。冬に合宿のためにね」
キョン「あーすまんその日は用事がある」
ハルヒ「まだ出発日時も言ってもないのにね」
キョン「そういやそうだな、ハハハ」

今ならキョンが言うことが冗談かどうかすぐわかる。冗談ね、本当は楽しみにしてるはずだわ。

ハルヒ「結局どの服買おうかしら。選んでよキョン」
キョン「買う物ぐらい自分で選べよ」
ハルヒ「キョンの好きな服を着たいのよ、ね?」
キョン「そういわれちゃうと敵わないな」

そう言ってキョンはさっき素通りした緑のシャツを二着持ってきた。

キョン「じゃあこれにしよう」
ハルヒ「なんで二着なのよ?」
キョン「なんでって、お揃いだろ?」

そういやそうだった。我ながらバカである。うれしいな。

ハルヒ「どーせならあれがいいわ」
キョン「どれど・・・ハルヒ、さすがに町中であれを着たくはないぞ」
ハルヒ「いいじゃない。あたしたちの愛を町中に見せつけるには持ってこいよ!」
キョン「あのなぁ、見せつける必要はないんだ。背中と前にデカデカと『LOVE』なんて書いたシャツはいらない」
ハルヒ「え~だめ~?」
キョン「猫のモノマネしてもダメだ。それに俺に服選びを任せるんだろ?」
ハルヒ「ん~そうね。女に二言はないわ」

キョンが選んだ服を二人で一着ずつ買った。服売り場を去るときにキョンが何かに驚いていた。聞けば今買った服よりさっきの愛のシャツの方が安かったらしい。まあ本音はこっちの方が良いから返品しないけどね。

キョン「おい、もう12時だぞ」
ハルヒ「えっ?あっホントだ。服選びだけで3時間も使うなんてね」
キョン「楽しい時間は速く過ぎ去る、てことだろうよ」
ハルヒ「そうね」

もー幸せ。まだ高校生だからお互い自立できないけど、いつか絶対に幸せな二人暮らしをしてやるわ。

「幸せ」が一生続けばいい。

キョン「じゃあ昼飯にするか」
ハルヒ「話してるうちにレストランがいっぱいある階に着いたけど、どこにするの?」
キョン「説明ご苦労。よしあれだ」

えーっと?ラーメン屋??

キョン「そんな白い目で見ないでくれ。手持ちが少ないんだ」
ハルヒ「なら今日はあたしの奢りでいいわ。レストラン行くわよ」
キョン「まさかハルヒが俺に奢る日が来るとわな。不思議探しじゃ結局なかったけど」

不思議探し。この話題になるのなら、あれを聞いても良さそうね。

あたしがキョンから告白を受けたとき、告白中とは思えない話に進んだ。

キョン「ハルヒ、おまえはもう不思議を探す必要はない」
ハルヒ「ふぇっ?なんで?」
キョン「俺よりも不思議現象が好きか?」
ハルヒ「そんなことはないわよ!でも未練が残るわね」
キョン「俺にはわかるぜ。おまえは不思議探しよりもSOS団の団員と遊ぶことの方が楽しかったんだろ?」
ハルヒ「うっうん」
キョン「だったらだ。おまえの言う不思議現象なんてこの世にないと思え。ただ長門や朝比奈さん、おまけで古泉の存在を認めてやってくれ」
ハルヒ「なんかよくわかんないけどわかったわ。告白中なのに変なの」
キョン「じゃあこうすればいいよな」

キャアアアアアア!!恥ずかしいったらありゃしない!
でも忘れたくない思い出なのよね。

キョン「どーした、顔赤いぞ?」
ハルヒ「なっなんでもないわ!」

レストランに入り、あたしたちはスパゲッティを頼んだ。さてさっきのことを聞いてみよう。

ハルヒ「キョン、こっ告白のときのあれってさ。結局どういうことなの?」
キョン「あれって?」
ハルヒ「『不思議現象を望むな』っていうことよ」
キョン「ああそれか。じゃあ聞くが、あのあとから妙な事件は起きたか?」
ハルヒ「えっ別に。古泉くんや有希は変わったかもしれないけど」
キョン「そういうことだ」
ハルヒ「どういうこと?」

まあまあ、と言われてごまかされた。結局わからなかった。
さっき言った通り付き合い始めた日から、古泉くんや有希は変わった。
あたしの言うことにはほとんど賛成だった古泉くんが、最近は意見を言うようになった。今まであたしの独壇場だっただけに、少し困惑した。
でもあたしたち団員は友達なんだ、対等に議論できる相手がいることは良いことに違いない。
あとあまり疲れた古泉くんを見なくなったかな。

ほとんど無口だった有希は特に変わった。
他の団員を名前で呼ぶようになったわ、キョンは「キョン」だけど。
少しだけど、感情を顔に出しはじめた。うれしいときは口元が緩んで、怒ってるときは少し眉を寄せて、悲しいときは目を閉じた。
以前よりも口数が増えた。こんな感じに。

キョン「おっどうした長門?スピードやってみるか?」
長門「うん」
古泉「では僕が相手をしましょう。お手やわらかに」
キョン「よし座れ長門」
長門「・・・ありがとうキョン」

・・・増えてるのかな?

今はデート中だしいつまでも疑問を引きずるのはやめよう。

キョン「食べ終わったら次はどこ行く?」
ハルヒ「そーねぇ、じゃあ商店街行きましょう」
キョン「今からあそこ行くのかよ、どーせならデパート内にしようぜ」
ハルヒ「だってここだと食品売り場しか行くところがないんだもん」
キョン「試食品コーナーでも食い荒らそうぜ」
ハルヒ「いやよ」

スパゲッティを食べ終え、あたしたちは電車で商店街に向かった。

駅を出て交差点を通ると、映画の撮影でも行った商店街に着いた。以前より人が多いのは日曜日だからかな、それとも宣伝の結果かな。

キョン「んじゃ入口から順番に見ていこうか」
ハルヒ「そうね」
キョン「人が多いからはぐれるなよハルヒ」
ハルヒ「はぐれるわけないじゃない」

手を繋いでいれば離れることはないもんね。
いつぞやの電気屋を見つけた、いや本当にあの電気屋なのだろうか。某電気店みたいな立派な仕様になってた。

おじさん「おおーお嬢さん久しぶりやな」
キョン「あっあのときの店長!随分繁盛してますね」
おじさん「男に用はない!お嬢さんのおかげじゃ、ありがとう」
ハルヒ「良かったわね!あっおじさん!いつか色々買い込むことになりそうだから、その時は安くしてね」
おじさん「店長と呼んで欲しいのぉ。もちろんじゃ、カメラかい?」
ハルヒ「その時のお楽しみ、フフ」

電気屋に別れを告げるとキョンが聞いてきた。

キョン「俺の扱いがひどかったな。で、なにを買うんだ?」
ハルヒ「キョンだけに教えてあげるわ。テレビや冷蔵庫や掃除機、いっぱいあるわね」
キョン「それって」
ハルヒ「ウフッ」

あたしたちは一生愛し合うのよ、キョン。

いろいろ見てまわってるうちに空がオレンジ色に染まっていた。

キョン「今日は充実したな」
ハルヒ「ええ、不思議探し以来ね」
キョン「恥ずかしいこともあったが、悪くはなかったよ」
ハルヒ「えーあれぐらいいいじゃない」
キョン「ジュース一杯を二人でストロー使って飲むやつ。周りから見たらバカップルだな」
ハルヒ「いいのよ。あたしたちはバカップルよ」
キョン「ハハハ」
ハルヒ「ねえキョン、またさ、土曜日にSOS団全員で集まらない?」
キョン「不思議現象を探さないって約束を忘れたか?」
ハルヒ「違うわ。なんか付き合い始めた日から不思議を探す気になれないのよ。土曜日は団員全員で遊ぶ日にするわ。昨日はホント退屈だったし。ねっいいでしょ?」
キョン「ハルヒのセリフとは思えんな。わかった、あとであの三人に伝えておく」
ハルヒ「ありがとう。じゃあ今日は解散ね」

そう言った直後、何かが目の前に降ってきた。

キョン「鳥のフンだな、気持ち悪い」

空を見上げると、一羽のカラスが舞っていた。そのままどこかに飛び去った。落としたのはフンだけだろうか?

ハルヒ「最後の最後で嫌な贈り物ね」
キョン「昔頭に落とされた俺よりはマシだろ」
ハルヒ「えっ・・・ご愁傷様キョン」
キョン「こんな話やめようぜ。そうだ商店街の入口から駅の改札まで競走しようぜ」
ハルヒ「え~」
キョン「嫌な気分を振り払うためだ。すがすがしくなるぜ」
ハルヒ「ん~まあいいわ。じゃあヨーイドン!」
キョン「まだ早い!っておいハルヒ!」

人混みの中をあたしたちは走った。言い出しっぺのキョンは遅かったけど。
しばらくして交差点が見えてきた。歩道の信号が赤だった。車道の信号は青。
あたしは信号機の真下で休憩を兼ねてキョンを待った。冬とはいえ大量に汗をかいた。
息が整ったころにようやくキョンが見えてきた。

ハルヒ「遅いわよ~キョ~ン!」

走ってる最中だから返事はできないようだ。あーあ、あんなに息切らして。
あたしから少し離れた位置でキョンは立ち止まって休んだ。

キョン「町中で名前を呼ぶな!恥ずかしいだろ!」
ハルヒ「あだ名なんだからいいじゃ」

言い終わる前にキョンが突然顔を青くしてこっちに走ってきた。

「危ない!ハルヒーー!!!」
「えっななにっキャッ!」

走ってくるなりキョンがあたしを突き飛ばした。直後大型トラックがあたしの視界いっぱいに広がって信号機に衝突した。
あたしはしりもちを着いたままただ茫然としていた。
不意に視界の隅で赤い色を見つけた。それを視界の真ん中に持って行く。ああ、それがなにかわかってたはずなのに。
ひしゃげた信号機の柱をいろどる赤い液体。トラックで隠れたソレから生える腕。

あたしの足が勝手に動いた。

「キョン!キョ・・・」

あたしは腕の持ち主であるソレの顔を確認しに行った、はずなのに
顔を確認できなかった。顔があるべきところに潰れたトマト状の物体があった。
でもあたしには誰であるかはわかる。だってソレは朝から見てきたダサくて青いシャツを

「イヤアアアアアアアアァァァァ!!!!」
――――――――――――――
――――――――
―――

「あっ古泉さんですね。今日も閉館時間までいますか?」

彼女の世話をしている看護師が声をかけてきました。

古泉「はい。今日は約束の日でもありますし」
看護師「約束の日、ですか?」
古泉「こちらの事情です」

お疲れさまです、と言い看護師と別れて病室に向かった。

あの日、キョン君が事故でなくなった日から彼女は眠ったままです。愛しい人が突然目の前で亡くなれば、僕だって気絶するだろう。しかし彼女がここまで長く意識がないのは別の理由があります。
あの事故は大型トラックが涼宮さんの死角から走ってきて、カーブを曲がりきれずに信号機に激突したものでした。ちょうど涼宮さんがいた場所にです。
彼女を守るために体を張った彼はトラックと信号機の板挟みになった。そのうえ顔に大きすぎる力がかかったのでしょう、身元の確認に時間がかかったと聞いてます。
現在SOS団は解散し、みんなに会うのも二ヶ月ぶりです。
病室の扉を開けると、朝比奈さんと長門さんがいました。

古泉「お久しぶりです朝比奈さん、長門さん」
みくる「あっこんにちは古泉くん」
長門「一樹、こんにちは」

挨拶を済ませた長門さんは「作業」を再開しました。

古泉「これでもう二ヶ月ですか」
みくる「はい。でも何も容態は変化なしです」
古泉「あれから生活はどうです?」
みくる「もう古泉くん。女の子の生活を聞くもんじゃありませんよ」
古泉「特別な意味はありませんよ。ご両親や長門さんとうまく過ごせているか聞いてみたいだけです」
みくる「そのことですか。おかげさまで大丈夫です」

キョン君が涼宮さんと付き合い始めた時から世界は大きく変わりました。
僕たち「機関」の人間から超能力がなくなり、朝比奈さんたち未来人の干渉がなくなり、長門さんたちTFEIや情報統合思念体が全て消滅しました。
ただ朝比奈さんや長門さんは存在しています。
キョン君は告白のとき涼宮さんに何を言ったんでしょう。色々矛盾する現象がありますが、気にしてもしかたないです。
 
朝比奈さんはその日家に帰ると、未来にいるはずのご両親が出迎えたそうです。未来では決定事項なのでしょうか、未来人はいないことになったはずですかね。
ご両親は現代に来たのはいいが、まだ仕事を見つけてないようでした。そこで僕が元「機関」の方々に頼んで、彼らに仕事を与えてもらいました。
長門さんは今までTFEIや情報統合思念体に頼ってたそうで、一人暮らしはできないとのこと。最初は長門さんを機関の方で面倒みてもらってたのですが、長門さんが朝比奈さんと暮らしたがってたそうです。今は朝比奈さん宅に居候しています。
本当はお互い犬猿の仲でしょうに、長門さんも寂しかったのでしょう。

長門「みくる。一樹。海馬へのハッキングに成功した」
古泉・みくる「本当ですか!」

二人して長門さんの背後に移動した。若干驚いた顔も良いですよ長門さん。

長門「約束通り二ヶ月で済ませた」

そう、「約束の日」とはこのことです。

涼宮さんが「眠って」二日目の夕方。
情報統合思念体が消えても、長門さんには長門さん自身に与えられている力が微力ながらあったそうです。
その力を使って彼女を起こそうとしましたが

長門「ハルヒが自身の脳に強力な力を使い、目覚めないようにしている」
古泉「彼女はまだ力を持っていたのですか?」
長門「事故直前まではたしかに力が消失していた」
古泉「ふむ。その力を消失させれば涼宮さんは目覚めるのですね?」
長門「そう。しかし・・・」
古泉「そんな悲しい顔をしないでください。察しはつきました。では他に何かできませんか?」
長門「・・・できることならある。情報操作」
古泉「えっ?現在の長門さんにそれを行使する力はないはずでは?」
長門「正確には情報操作の中でも記憶操作、それの基本であるカイバ閲覧」
古泉「カイバ・・・ああ海馬ですか」
長門「彼女の夢から解決の糸口を探る」
古泉「なるほど。今すぐできますか?」
長門「やってみる。・・・おそらく今から二ヶ月はかかる。しかし私は約束する、必ず二ヶ月で終わらせる」

回想に浸りすぎましたね。

みくる「なにか目覚める鍵がわかればいいですね」
古泉「そのために頑張ってもらいましたからね。では長門さん、涼宮さんの夢を覗いて報告をお願いします」
長門「そのつもり」

長門さんは黙々と涼宮さんを見始めました。記憶を見ているようです。

みくる「お母さんとお父さんに聞いてみたのですが、どうもキョン君たちがデートする日が未来の分岐点だったそうです」
古泉「それはどういう二択ですか?」
みくる「キョン君たちが幸せに生きていく未来と・・・今の未来です」

なるほど。じゃあこの矛盾は。

古泉「僕の中の疑問が少しだけ晴れました。前者がいつか時間遡航が可能になり、後者が時間遡航の可能性を失った。こうですか?」
みくる「禁則事項で・・・あれ?禁則が解けなくなりました!」
古泉「なるほど。元未来人がいるのに時間遡航が解明されない理由がわかりました」

話を聞くうちにわかったこと。それはキョン君が涼宮さんに告白する時にしか朝比奈さんを保護できない、と未来人が考えたことです。
不意に嗚咽が聞こえた。この病室には僕たち四人。涼宮さんは眠り、僕と朝比奈さんは違うとなると

長門「ウッ・・・グスッ・・ヒック」
みくる「どうしたんですか長門さん!?」

長門さんが肩を小さく震わせていた。泣くのを無理にこらえてるように見えます。僕は驚きでただ見ていることしかできませんでした。
長門さんの嗚咽が大きくなっていく。

朝比奈さんは腰を落として長門さんを背後からそっと抱きしめました。まるで聖母のようです。

みくる「どんなつらいことが見えたのかはわかりません。でもね、泣きたくなったら泣いていいんですよ」
長門「グスッ・・・」

泣けばいいと言われたのに落ち着くあたり長門さんらしいです。
長門さんが口を開きました。

長門「恋とは・・・つらいものなの?」
みくる「そんなことありません!むしろ幸せです!」

あっ朝比奈さん、涙出てますよ。

みくる「そうです・・・・幸せ・・・な・・はずですウワアアアン!!」

私はハルヒの夢を知らない方が良かったのかもしれない。
表現できない感情が私を埋める。
彼がハルヒに告白した時、私以外のTFEIや情報統合思念体が消えた。私は寂しい感情を自覚した。
そんな私を助けてくれたSOS団全員に感謝している。
でもこれは別。
私はいつかこう言った。

幸せを手に入れた二人。
私はあなたたちを祝福しよう。
幸せ。
「幸せ」とはどのようなもの?

そう。それは永久に続くことがないもの。そして「不幸」の前兆。

眠っている彼女の夢。それは幸せを装う悪夢。
ここからは私の推測。


彼女は現実逃避をしたくて力を行使し、最も幸せな「現実」を作ろうとした。しかしキョンとの「不思議現象を望まない」約束がそれを邪魔した。彼女の欲求と彼との約束が、彼女を苦しめた。
そして彼女の中で出た結論は

現実を捨て最も幸せな「夢」の中で彼と生きていくことだった。

しかし皮肉なことに「夢」は「最も幸せな」あの日だった。忠実に再現される事故の日。
「夢」の中でも彼女は現実逃避をした。「夢」でなら何をしてもいい。ならその日がなかったことにすればいい。
そして再び最も幸せな「夢」を見る。



この地獄の無限回廊から彼女を解放しよう。
それが彼女のため。

あっまた私の目から涙が。
泣いているみくるに抱かれている私は、一樹の方を見て言った。

「一樹。機関の病院関係者に頼みがある」

ハルヒを永遠の安らかな眠りにつかせてあげて。


―――
――――――――――
――――――――――――――
突然目が覚めた。まるで悪い夢を見た直後のようだったが、夢の内容を思い出せない。
知らない方が良いだろうと自分に言い聞かせ、時計を見ると6時だった。
携帯電話が鳴った。画面を見ると、あたしの一番愛しい彼の名前が表示されている。
――――――end――――――
 

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最終更新:2020年03月17日 00:45