この話は2月14日の出来事の続編です 

「みくるちゃん、有希、行くわよ!」

「えっ。行くって何処へですか?涼宮さんはこの暗号解ったんですか?」

「いい、みくるちゃん。こんなのは行きながら考えるの。

立ち止まって考えるなんて時間の無駄なんだから!」

そう言うやいなや、涼宮さんは朝比奈さんを彼の自転車の後ろに乗せてから自分も乗り、僕の自転車に乗った長門さんを引き連れて
鶴屋家を出発してしまいました。

それを見送った後、僕の家に置いておいたプレゼント取りに行くために、

僕と彼もまた鶴屋家をあとにします
 

今日は3月14日。所謂ホワイトデー。そして本日のSOS団のイベントは、

ホワイトデーの贈り物を探すオリエンテーリングと言うわけです。

内容は、まず彼が涼宮さんたちに次の目的地のヒントが書かれた暗号文を
渡します。
涼宮さん達はその暗号を解き次の目的地に行き、
そこに行った証拠として
写メールを涼宮さんが彼に送ります。

送られてきた写真が正解なら彼が次の暗号文をメールで涼宮さんに送りす。

以上のことを繰り返し涼宮さん達はゴールを目指し、そして僕達はゴールで

プレゼントを用意して待っていると言うわけです。

もうお分かりだと思いますが、スタート地点は鶴屋さんに
提供していただきました。
鶴屋家なら、短縮授業が終わったあとすぐに
イベントを始めるためには荷物を置く場所として
皆さん
文句が無いですし、
僕達のプレゼントの面でも都合が良かったからです。
 

「さてと、プレゼントと材料も持ったし、とっとと鶴屋さん家に戻ろうぜ。早くしないと用意した問題全部あいつらに解かれちまうからな。」

「ええ。僕達にはまだ鶴屋さんの家ですることがありますからね。」

僕はいつもの笑顔で彼に答えた。

上の文を読んでぴんときた方もいらっしゃるでしょうが、実はゴール地点も鶴屋家なんです。

そして僕達は涼宮さん達が問題を解いている間に鶴屋家で僕達は前日に買ってきたものとは別に

もう一つプレゼントを作る手はずになっています。
 

「古泉君、キョン君、お帰りー!」

僕達が再び鶴屋家を訪れると鶴屋さんが出迎えくれました。

「台所の準備は もう出来てるよっ。ささっ、こっちこっち。」

プレゼントをおいてキッチンに行くと鶴屋さんの言うとうり
お菓子作りの道具が揃っていました。

「所で君達、何を作ろうってのかなっ?普通にお菓子を作るだけなら
あたしん家じゃなくてもいいと思うんだけど。」

「いや、別にたいしたものじゃないんですが…。」

と言いつつ彼がこっちを見る。説明は任せたと言いたいんでしょうね、
たぶん。

「クッキーですよ。」

「へー。でもさっ、それだったら別にここで作んなくても、昨日のうちに家で作ってもいいよねっ。何であたしの家で作ろうと思ったんだいっ?」

鶴屋さんは天真爛漫な笑顔で聞いてきました。ただ、その口調は本当に
分わからないというよりは、わかっていて敢えて聞いているといった口調でした。むしろ彼のほうが何でなのかわからない顔をしています。おそらく彼は料理をしないのでしょう。

「それはですね、皆さんに焼きたてのクッキーを頂いてもらうには人数分を一気に焼けるほどの大きなオーブンがいるからです。

こういったものは焼きたてが一番ですからね。」

「ふーん、そういうことかっ。さすが古泉君、気が利くねっ!」

鶴屋さんは予想どうりの返事に満足しているように言った。
その奥で、彼はまだ
いまいちわかっていないような顔をしていた。

「ところでっ、皆さんってのにはあたしも含まれてるのかなっ!?」

と鶴屋さんは、今度は冗談っぽく言った。それに対し彼は、

「もちろんですよ。鶴屋さんにはお世話になってますから。」

と答えた。だから僕は何も言わず、ただ鶴屋さんに笑顔で頷いた。

「ありがとっ。それじゃあクッキー楽しみにしてるよっ!」

鶴屋さんはそう言いながら台所から出て行きました。
 

「さてと、まず何をすればいいんだ?」

「まずは、ボールにバター入れ、泡だて器で白いクリーム上になるまで
かき混ぜて下さい。
ああ、途中で2回に分けて砂糖を入れるのを
忘れないで下さいね。」

「バターをかき混ぜる?硬くてかき混ぜられないんじゃないか。」

「ええ、そのままでは難しいです。だからお湯を入れた別のボールにバターを入れたボールを入れ、湯煎し柔らかくするんですよ。」

「なるほど。」

「それじゃあ、始めましょうか。」

「ああ。」
 

「ふー、こっちは生地出来たぞ。古泉、そっちはどうだ?」

「こちらも出来ました。それじゃあ、生地を冷蔵庫で寝かせましょうか。」

冷蔵庫に生地を入れた直後、彼の携帯がが鳴りました。

「おっと、ハルヒからメールだ。手、洗わないと…。」

と彼は心持楽しそうな顔で言った。そんなに涼宮さんからのメールが
待ち遠しかったんでしょうか。

本当に彼も仕方がない人ですね…。

「後片付けは僕がやっておきますから、あなたは先に部屋に戻って

涼宮さんの対応に専念して下さい。」

彼は一瞬ギクッとした表情を浮かべた後に、

「わかったよ。じゃあ、後片付けはまかせた。」

と言いながら表面上は嫌そうな顔をしながら台所を後にしました。

まったく、素直じゃないですね、彼は。
 

「まあ、こんなものですかね。」

片付けを終えた僕はそう呟いた。そこに、

「やっほー!」

鶴屋さんが元気な掛声と共に台所にやって来ました。

突然ですが、実はオリエンテーリングの他にもう一つ、

『鶴屋さんにバレンタインデーのお返しをする』

という懸案事項を僕は抱えています。

この懸案事項は、1ヶ月前、鶴屋さんにチョコと爆弾発言を頂いた時から
考え続けてきました。

そして、鶴屋さんの発言に対する僕なりの解釈とそれに対する答えをだしたわけなのですが、情けない事に、その答えを込めたプレゼントを鶴屋さんにまだ渡せていないのです。

出来れば二人っきりの時に渡したいのですが、なかなかチャンスが…。

「キョン君から聞いたよっ、準備終わったみたいだねっ、ご苦労さんっ!」

「労い、ありがとうございます。」

これはチャンスですね、今なら鶴屋さんと二人っきりです。

「あの、つる……。」

「んっ。古泉君、ちょっとじっとしてくれるかなっ。」

「えっ?」

つっ、鶴屋さん…、顔が近いですよ。

ぺろっ

「生地が顔についてたよっ。」

今起きたことを認識するのに数秒かかった…。

顔が熱い。おそらく僕の顔は赤くなっているでしょう。

正面を見ると、鶴屋さんが小悪魔チックな笑顔を浮かべていました。

僕がどう反応したらよいのか考えていると、

「古泉、いつまで片付けやってんだ」

そう言って、彼が台所に入ってきた。

「あっ、キョン君。片付けはちょうど終わったみたいだよ。」

「そうみたいですね。」

「ええ。今しがた終わりました。」

僕は何とか平然を装って彼に答えた。

「そんじゃあ部屋に戻ろうぜ。一人じゃボードゲームもできん。」

「そうしましょうか。今日は負けまんよ。」

「おもしろそうだねっ。あたしは観戦させてもらうよっ。」

どうやら彼は何も気づいていないようですね。助かった。

しかし、またプレゼントを渡せませんでしたね。困ったものです。
 

その後1時間弱、涼宮さん達が帰ってくるのと、生地を寝かせ終わるのを待ちながらボードゲームをして時間を潰しました。
 

「お帰りっ!ハルにゃん!」

「ただいまー!鶴屋さん!」

これはインターホンを通じての涼宮さんと鶴屋さんの会話です。

「さてと、クッキーを焼きましょうか。」

「そうだな。」

「すみませんが鶴屋さん、涼宮さん達と部屋で待っていてもらえますか。

どんなクッキーかは向こうでのお楽しみとしたいので。」

「おっけー!」
 

「お待たせしました。クッキー出来ましたよ。」

僕と彼ががそう言いながら部屋に入ると、皆はもう座って待っていました。僕たちがさっき置いておいたプレゼントと一緒に。

「遅いわよキョン、古泉君。5分くらい待ったわ。」

「これは手厳しい。」

僕は涼宮さんの発言に笑顔で応え,

「古泉が焼きたてを食べてもらおうとか言い出して皆が来てから

クッキー焼き始めたんだから仕方がないだろ。」

彼は何時もの仏頂面で答えた。

「まあまあハルにゃん、クッキーは焼きたてが一番さっ。」

「確かにね。」

鶴屋さんの発言に涼宮さんは納得したようだった。

しかし、さっきの彼と涼宮さんはまるで彼氏の失敗を冗談半分で咎める彼女みたいでしたね。

本当にそんな関係になってくれれば、僕の仕事もずいぶん楽になると思うのですが。

「わぁー。美味しそうですね。」

「ささっ、有希、みくるちゃん、食べて食べて。冷めちゃうわよ!」

「…そう。」

「あっ。ハルヒ、それは俺の台詞だ。」

「雑用のあんたには10年早いわ。」

「何だよそれ…。」

二人は本当に仲がいいですね。等と思っていると。

「古泉何だその微笑ましいものを見るような目は。」

どうやら顔に出てたみたいですね。いけませんね、まさかこうも簡単に彼に看破されるとは。

「いえ、何でもないですよ。」

彼は面白くなさそうな顔を僕に一瞬見せ、その後はクッキーを美味しそうに食べる涼宮さんを見ることにしたようです。
 

「せっかくだから、プレゼントに貰ったお茶ここで入れようかな。鶴屋さん台所借りますね。」

「いいよっ!じゃんじゃん使っちゃってっ。」

因みに、僕は長門さんには世界一の名探偵と気がいい医者のコンビが活躍する推理小説を、朝比奈さんにはアールグレイを、涼宮さんには万華鏡をプレゼントし、

彼は長門さんにやたらタイトルの長いSF小説を、朝比奈さんには緑茶を、

涼宮さんには写真たてをプレゼントしました。

「わたしも一緒に行く。あなただけだと戻って来るときにお茶をひっくり返すかもしれない。」

十分にありえますね…。涼宮さんもそう思ったらしく。

「確かにね。有希みくるちゃんのこと頼んだわよ。」

「任せて。」

「そうですか?それじゃあ長門さんよろしくお願いします。」

朝比奈さんは少し遠慮がちにそう言った。
 

「オリエンテーリングでSOS団所縁の地を巡らせて、思い出繋がりで写真たてを送るなんて

キョンにしては気が利いてるわね。」

涼宮さんは彼に貰った写真たてをいじりながらそう言った。

「『キョンにしては』、は余計だ。」

「まあまあ。」

涼宮さんは彼を無視して何故か写真たてと僕と鶴屋さんを見ていた。

いったい何を考えているのでしょうか。
 

「お待たせしました。」

「どうぞ…。」

「サンキュー、長門。」

「みくる、ありがとっ!」

「ありがとうございます。朝比奈さん。」

「ありがと。有希。」

さすが朝比奈さん、美味しいです。僕がそう思いながら朝比奈さんの入れてくれたお茶を味わっていると、

お茶を一気に飲み干した涼宮さんは言った。

「写真を撮るわよ!」

今度はそうきましたか。道理で写真たてを気にしていた訳ですね。

「いきなりなんだよ。」

「写真たてに入れる写真を撮るのよ。決まってるでしょ!」

「たくっ。お前は何時でも思い立ったら即実行だよな…。」

彼はそう言いながら溜息をついた。気持ちはわかりますよ。

「と言うことで鶴屋さんカメラある?」

「あるよっ!うちのおやっさんのが。持ってくるよ!」

これはプレゼントを渡すチャンスかもしれませんね。

「全員で写真を撮るなら三脚とかもいるでしょう。僕も手伝いますよ。」

「ありがとっ。助かるよっ。」

この時、涼宮さんと朝比奈さんがニヤニヤしていたのは僕の気のせいだと思いたい…。
 

「カメラ発見!古泉君は三脚持ってくれる。」

「わかりました。でもその前に鶴屋さんに渡したいものが。」

「もしかしてチョコのお返しかいっ、ありがとっ。中身見ていいかな。」

その時の鶴屋さんの顔は今まで見たどの顔よりもうれしそうでした。

「わー、綺麗だね。」

僕が彼女に渡したのは四葉のクローバーのアクセサリーです。

「気に入っていただけたみたいですね。」

「うんっ!」

「それはよかった。」

とりあえず一安心ですね。

「ところで鶴屋さん、先月の公園でのこと覚えてますか?」

「もちろんっ、覚えてるよ。」

「あの時、鶴屋さんは僕のことを待ってくれていたんですよね、
おそらく。」

「うん。」

鶴屋さんは何時もとは違う少しはにかんだ笑顔で答えてくれた。

「すごく嬉しかったです。演じている古泉一樹以外の僕を知っている人からこういうものを貰ったのは初めてでしたから。」

あれ?

気が付くと僕は鶴屋さんにの耳元でささやく形になっていた。いけない何時もの癖が…。

しかし、ここで急に下がるのは不自然だ。と…、とりあえずこのまま最後まで言ってしまいましょう…。

「そのアクセサリーは僕の気持ちです。」

「それって、花言葉?」

「ええ。」

それは、花言葉に明るくない僕でも知っているおそらく皆が知っているであろう

四葉のクローバーの花言葉『幸福』です。

僕はそういい終わるとゆっくり彼女から離れた。僕も彼女も顔が赤いのはしかたがないですよね。

皆のところに戻る前にどうにかしなければ…。

「こ、古泉君の気持ちはうれしいけど、でもいきなりはその…、いくらあたしでもちょっと。やっぱり、こういうのには順序ってものが…。」

あれっ?何か空気がおかしいです。それに鶴屋さんのセリフの意味がわからないんですけど。

何か情報伝達に齟齬でも生じたのでしょうか。
とりあえずこの空気はまずい…。

とりあえず、ここはてきとうに誤魔化しましょう。

「いや、別にすぐにというわけじゃありませんよ。僕もいろいろありまし。ただ、僕の気持ちを伝えておきたかっただけです。」

「そう。」

鶴屋さんは頬を朱に染め上目遣いでそう言った。正直、かなりかわいかったです。

「そろそろ行きましょうか。涼宮さんが待ちくたびれてるかもしれませんし。」

「おっけー!」

ふう、何とか先月からの課題は全て終わらせることが出来たようです。

しかし、課題はまだ続くようですね。

鶴屋さんのさっきのセリフはどういう意味だったのか

という新しい問題が増えてしまいました。

でも、彼女のことで頭を抱えるのも悪くないかな…

僕はそう思っている。 

 

Fin 

PS. 四葉のクローバーの花言葉「幸福」「私のものになって下さい」

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最終更新:2021年04月22日 00:35