僕は今、おそらく普段の笑顔の仮面をどこかに置き忘れたような驚いた顔で目の前の長髪で

元気な先輩を見ています。なぜこんなことになったのか、冷静になるために今までの経過を思い出してみたいと思います。

 

 

 

窓の外の景色はどんどん緑が濃くなっていく…。

僕たちを乗せたバスは先日、宝探しをした時と同じ場所にむかっています。

 

ここで僕は周りを見てみた。長門さんはいつもどうり無表情、朝比奈さんは小さな欠伸をしては、

あわてて口元ふさいでいる、そして、涼宮さんは目をこすっていたかと思うと、少しいぶかしんだ表情で見ている彼を睨み返していた。今日は214日、周りの様子から察すると涼宮さんが

彼にチョコを渡すために長門さんと朝比奈さん、を巻き込んで昨日から今日の朝まで準備をしていた、といったところでしょうか。さてどんな事が僕と彼を待ち受けていることやら…、できれば先日のように山ひとつを掘り返すといったことにはならないでほしいのですが…。おや、そんなことを考えている間にバスは例の停留所に到着してしまいましたね。

 

今日は前とは別のルート、前回降りてきたほうから登るようです。ハキハキと先頭を歩く涼宮さん、

それについていく長門さんと朝比奈さんを眺めつつ、これからのことに期待と不安を抱き頭をかいていると、ある疑念が生まれたので彼にカマをかけてみた。

「さあ、行きましょう。ここまで来たら引き返せないのは僕もあなたも同じです。」

すると、僕の予想は当たっていたらしく彼は今日が何の日か知らないといった感じにきょとんとしていた。それが可笑しくて思わずわらってしまった。やれやれ…。

おっと、これは彼の専売特許でしたね。

 

その後、獣道を登っていき先日穴を掘った山の中腹の開けた所に着きました。ところで、途中彼が、

「なるほど、道理でだ…。」

と呟いていたのはなんだったのでしょうね。

 

「キョン、古泉君宝探し第二弾よ。考えてみればさ、一日頑張っただけであきらめちゃうのは粘りがなさすぎるってものよ。やっぱ、見つかるまでやらないと、宝探しってのはそういうものよ。」

という涼宮さんの笑顔ではなった一声を皮切りに僕と彼の宝探し第二弾は、始まった…。

 

結果を申し上げますと僕達は涼宮さんの指示の下、元禄小判…ではなく、しかし僕達からすれば

それ以上の価値をもつ綺麗にラッピングされた箱を三つずつ、つまり

涼宮さん、朝比奈さん、長門さんからのバレンタインチョコを掘り当てました。

このときの、涼宮さんが彼にまくし立てる光景は見ていてほほえましいものでしたが、その光景を

細かく描写するのは野暮というものなので止めておきましょう。

 

 

 

そして宝探しを終え、皆と別れ帰宅する途中にあの出来事は始まりました。

「やぁ!そこにいるのは古泉君じゃないか!その様子だと宝探しは終わったみたいだねっ、

お疲れさん!」

という我らがSOS団名誉顧問鶴屋さんの天真爛漫な笑顔と呼びかけによって。

 

「鶴屋さん、こんにちは。宝探しの件では涼宮さんがお世話になりました。」

と僕は鶴屋さんの呼びかけに答えた。

「なーに、いいってことさっ。あたしも部室で宝探しの事を話すハルにゃんを見てて楽しかったし、

それに…」

「それになんですか?」

「いーや、なんでもないっさっ。それより立ち話もなんだからさ、場所変えないかいっ!」

と言われたので、

「はあ…。」

と答えて僕は疑問を抱きつつも近くの公園に移動した。

 

僕たちはベンチに座り話の続きを始めた。

「たいした用じゃないんだけどさー、」

と言ってハンドバックからラッピングされた箱をとりだして、

「これ自分用に買ったやつなんだけど古泉君にあげようと思って。」

僕はそれを手渡された。

「今回の宝探しはハルにゃんがキョン君にチョコ渡すためのイベントだったからねっ、それに

巻き込まれた君への労いだと思っとくれっ!」

彼女の満面の笑みと共に。それに対し僕は、

「ありがたくいただかせていただきます。でも、涼宮さんのおかげで僕は偶然鶴屋さんに会って

チョコをもらえたわけですから、巻き込まれるのもいいことかもしれませんね。」

とお礼の言葉を冗談交じりで言った。すると鶴屋さんは含みのある笑顔浮かべて、

「本当に偶然だと思うかい?」

と爆弾発言を仰いました。

 

そして今に至っているというわけです。前置きかなり長かったですね。でもおかげで頭がはっきりしてきました。えーと、つまり鶴屋さんは僕にこれを渡すためにあそこで待っていたのかもしれないってことなんでしょうか。でもなぜでしょう機関と鶴屋家には互いに必要以上に関与しないよう取り決められていますし…。

「そ、それは、どういうk」

「なーんてねっ!」

気付くと何時もの笑顔に戻っていた鶴屋さんは僕の台詞を遮った。

「驚いた?おっともうこんな時間だっ、そろそろお暇しようかなっ!」

と言って、鶴屋さんは勢い良くベンチから飛び出し、

「またね古泉君!」

と言って走り去ってしまった。

 

どこか脱力感を感じつつも、このまま1人ベンチに座っているわけにもいかないので僕も帰ることにした。

涼宮さん達の満足するようなチョコのお返しとはどんなものなのか?

鶴屋さんの話の真意はなんだったのか?

この二つの難問を考えながら。

 

家に帰って今日もらった4つのラッピングされた箱を見た。

答えはまだ見つかっていないけれど…、なんとなく1ヵ月後の僕と彼は忙しくなりそうだ。

そう思った。

 

 

Fin

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最終更新:2020年03月13日 01:05