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まだか……。ちくしょう。
なにも出来ない自分の無力さに苛立ち、腹が立ってくる。
くそっ、ハルヒはあんなにも苦しんでいるってのに……なにか出来ることはないのか……。
 
有「おとうさん。」
 
キ「…っと、すまん、なんだ?有希。」
 
有「…落ち着いて」
 
そこで、今、自分が意味もなくウロウロと歩き回っていることに気が付いた。
さっきまでそこの長椅子に座っていたばずだったがいつのまにか立って歩き回っていたらしい。
そんな自分の行動にも気が付かないほどおれは落ち着きを無くしていた。
 
今、おれと有希は病院にいる。そして目の前にある扉の向こうにいるハルヒのことを案じているわけだが、
別になにか大きな怪我をしたとか病気なわけではない。扉には分娩室と書いてある。
そう、おれと有希はハルヒとおれの子供が産まれてくるのを今か今かと待ちわびているわけだ。
ふぅっ…。ひとつ深いため息をつき再び長椅子に腰を下ろした。
いつのまに買ったのか、有希が缶コーヒーをひとつ渡してくれた。まだ暖かい。
有希はおれの隣に座りもうひとつの缶コーヒーを開け、一口飲むとじっと、中にハルヒのいる扉をジッと見つめている。
たぶん有希には中の様子が全てわかっているのだろう。その姿からは多少心配しているのがみてとれるが、
焦りのようなものは感じられない。
おれは渡された缶コーヒー口をつけた。暖かさが体に染みていくように感じる。そういえば、ずっと何も口にしていなかったけな。
そのコーヒーの暖かさと有希の姿に少し気持ちが落ち着いていくのが感じられた。
 
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人生で一、二を争う重大な決断を迫られるはずの二件の案件を僅かの検討の時間も与えられず流されるまま決断してしまった
嵐のような高校の卒業式の日から3ヶ月あまり、おれの家に共に住み始めたハルヒと有希だったが、
宇宙的、未来的、超能力的騒動も起こる気配を見せず、なんの問題も起こらず日々の生活を送っていた。
家ではハルヒがおふくろとどちらが美味しく造れるかと競いながら愉しそうに日々の食事作りにいそしんでいる。
おれから見ればどちらも遜色ないのだが、ハルヒ曰く、「くやしいがまだまだ敵わない」らしい。
まぁ、おれとしてはどちらも美味しくいただけるのでまったく問題はない。
有希に関しても妹がいつぞやの朝比奈さんに対して以上になついており、
今や日課のように毎日一緒に風呂に入るほどの仲の良さぶりでこちらもなんの問題もない。
おれはそんな穏やかで平和な日々を満喫していたのだが、どうもハルヒにはなにか心に引っ掛かるものがあったようだ。
 
その日、いつもの様に妹と有希が風呂に入っているとき、おれとハルヒは部屋でのんびりした時間を過ごしていたのだが、
毎度のごとくハルヒが唐突に話し出した。
 
ハ「ねぇ、キョン、これでよかったのかしら。」
 
キ「なんだ?主語なくいきなり聞かれてもなんのことだかわからんぞ」
 
ハ「あたしの旦那ならそれくらい察しなさいよ、有希のことよ」
 
キ「無茶言うな。で、有希がどうかしたのか?」
 
ハ「養子のことよ。本当にこれでよかったのかしら?」
 
キ「ずいぶんと今更な疑問だな、それなりに楽しそうに見えるし、おれは特に問題有るようには思えんが?」
 
ハ「それはそうなんだけど、たまに有希があたしたちに遠慮してるように思えるときがあるのよ」
 
キ「そうか?そんな風には思えんが…」
 
ハ「なんて言うか、前より距離があるような違和感みたいなものを感じるの」
 
キ「おまえの違和感がどういうもんなのかよくわからんが、まあ、有希にしても今まで一人で暮らしてきたんだ、
それがいきなり大勢の家族と暮らすようになったんだ、そりゃ戸惑うこともあるだろうさ」
 
ハ「そんなもんかしら」
 
キ「なんならおれが有希と話してみるよ、それにおまえまで変に気を使ったら余計有希が遠慮とかするんじゃないか?」
 
ハ「それもそうね、じゃあ有希のことはあんたに任せるわ、頼むわね」
 
ちょうどハルヒとの話しが終わるタイミングで風呂から上がった有希が部屋に入ってきた。入れ替わりにハルヒが風呂に入りに行き、
いつもの様に本を読み出した有希に話しかけた。
 
キ「有希、ちょっといいか?」
 
有「なに?」
 
キ「その、なんだ、この家に来てなにか言いたいこととかないか?」
 
有希はそう聞いたおれの顔をみながらまるで質問の意味がわからないといった感じで少し首かしげる
 
キ「いや、今更な話しなんだがあんな風にいきなり養子のこと決めてよかったのかとハルヒが気にしているみたいなんだ。」
 
有「特に言いたいことはない。わたしは自分の意思でここに居る。」
 
キ「なら、いいんだが、ほかになにか不満やら不都合に思うことはないか?」
 
有「ない。元々わたしの最優先任務はおとうさんとおかあさんの保全。今の状況は都合がいい。不都合はない。特に不満もない。」
 
なんと言うか、聞きたかったのはそういうことじゃないんだが・・・。有希は話は終わったと判断したのかすでに読書に戻っている。
まぁ、しかし、ハルヒが感じている違和感とやらの正体が解った気がする。
有希はなに一つ変わったわけじゃない、ハルヒの中で有希との関係性が変わったのにも関わらず、そのなにも変わらない有希との距離感に
ハルヒ自身が違和感を感じている。近くなったはずなのに変わらない。それをハルヒは遠慮や距離が出来たと感じたのだろう。
なんつーか、難しい問題だな、今すぐとうこう出来る事でもないし、まだまだおれたちは本当の家族には成れていないようだ。
やはり時間をかけて様子みるしかないだろう……。やれやれ。
 
そんな少しのわだかまりの残しながらも、まぁ、平和な日々を過ごしながらしばらくたったある日のこと、
朝、いつも通り起こしにきた妹のボディプレスに悶絶し目を覚ました。
しかし、妹も外見はまだまだ幼いながらさすがに中学生ともなると体もでかくなってきているわけなのだから
いい加減この起こし方は本気で辞めてもらいたい。まぁ、言って辞めるならとっくに辞めているだろうから多分言っても無駄だろうな。
そんな感じでいつも通り着替えて朝飯にありつくため、リビングへ降りるとなんだかいつもと少し様子がちがう。
いつもは先に朝飯をかっ食らいながら「遅いわよ!バカキョン!」なんて激が飛んで来るのだが、
一体どうしたことか、当の本人はリビングの椅子でチビチビと牛乳を飲んでいるだけだった。顔色も悪い。
 
キ「どうした?もう食べ終わったって感じじゃないな、具合でも悪いのか?」
 
ハ「別に…、少し食欲がないだけよ」
 
キ「なら、いいんだが、大丈夫か?顔色も悪いし、今日は学校休んだらどうだ?」
 
ハ「平気、すぐ治るわ」
 
キ「無理はするな、一日ぐらい休んだってどうってことないだろ、念のため医者に診てもらったほうがいい。」
 
ハ「・・・・・・そうね、やっぱりそうしようかな。キョン、悪いけど今日休むわ。有希と二人だ行ってきて」
 
ハルヒはなにか言いたそうだったが少し思案したあとめずらしく素直におれの言葉に従うことにしたようだ。
しかしなんだ、今、医者という言葉になにか反応したように思えたのは気のせいだろうか。
 
キョン母「なら、部屋で休んでなさい。後片付けはやっておくから」
 
ハ「ん。ありがとう、お義母さん。そうさせてもらう。キョン、あたしが居ないからってさぼっちゃだめよ。有希、キョンのことお願いね。」
 
そう言ってハルヒは部屋に戻っていった。ハルヒがあんな具合悪そうにしているのはあまり記憶にない。さすがに少し心配になってくる。
ないとは思うが、一応、大学で有希や古泉にハルヒの周りでなにか厄介ごとでも起こっているのか聞いてみたが
やはり閉鎖空間なども発生はしていないらしい。やはりおれの考えすぎか・・・。
 
夕方、家に着き、玄関を開けるとなにやらハルヒがすごい勢いで二階からかけ降りてきた、どうやら体調不良はもういいみたいだな。
 
ハ「おかえり!待ってたわよ。」
 
待たれていたのは素直に嬉しいがしかし、なにをそんなに慌ててるんだ?
 
ハ「話したいことがあるの。有希、悪いけど夕飯の支度の手伝いはお願いね」
 
有「わかった。」
 
有希はそのまままっすぐ台所に向かう。おれはハルヒに手を引かれ部屋に戻った。
 
キ「それで改まって話ってなんだ?」
 
ハルヒはしばらく言いづらそうに沈黙していたがやがて意を決したように話し始めた。
 
ハ「今日、病院に行ってきたのよ…。」
 
キ「どうした?どこか悪かったのか?」
 
ハ「そうじゃないの、……その、……………たのよ。」
 
キ「ん?なんだって?」
 
ハ「だから……………………してたのよ。」
 
キ「すまん、声が小さくてよく聞き取れないんだが。」
 
ハ「妊娠してたって言ってんのよっ!ちゃんと聞きなさいよ、バカキョン!」
 
キ「そうかすまんすまん、………………って、今なんと?」
 
ハ「赤ちゃん出来てたって言ったの。まったく。まぁ、ちょっと前からもしかしたらって思ってたんだけどね。」
 
キ「・・・・・・マジか?」
 
ハ「こんなこと嘘つくわけないじゃない。それでどうしようかと思って。」
 
キ「いや、すまん、そうじゃないんだが、それより、どうしようかってのはなんのことだ?」
 
ハ「産むべきかどうかってことよ。」
 
キ「・・・いやいや、ちょっとまて。おれとおまえはまがりなりにも夫婦だ。夫婦間に子供が出来てその選択肢は正直おかしくないか?
まさかおれが中絶しろと言うとでも思ってるのか?」
 
ハ「あんたがそんなこと言うわけないことくらいわかってるわよ。」
 
キ「じゃあなんだ?」
 
ハ「だって、今あたしたち、生活や学校とかなにからなにまでお義母さんとお義父さんに頼りきりじゃない。
ただでさえ負担かけてるのにこんな状況で子供まで産まれたらどれだけ大変かわからないわよ。……それに有希のこともあるし」
 
キ「有希がどうかしたのか?」
 
ハ「なんか今の状態で子供が産まれたら、ますます有希との距離が離れそうな気がして・・・・・・」
 
そう言ってそれきりハルヒは黙り込んでしまった。
なんかハルヒが"らしく"ないと逆に俺のほうが冷静になってくるな。
たぶんハルヒは不安なんだろう。今の状況で子供が生まれてはたして周りに祝福してもらえるのかと。
子供が出来た実感もまだ無いんだろう、だから喜びよりもさまざまな不安のほうが先立つ。
・・・こうして見るとハルヒもやはり一人の女の子なのだと実感するな。
しかし、こいつをこんな不安な気持ちにさせるなんて、ほんと、情けない奴だな。おれは。
 
キ「なあ、ハルヒ」
 
ハ「・・・なによ」
 
キ「たしかに生活のことは無視出来ない大きな問題だ。しかしそれはおれが大学をやめて働けばいい。おれたちや有希の食い扶持くらいは何とかなるだろうさ。」
 
ハ「・・・キョン」
 
キ「有希のこともおれたちがそんな変な気を使って中絶なんてしたらあいつはきっとおれたちを一生許してくれないぞ。おれやおまえの親だってきっとそうだ。」
 
ハ「・・・・・・。」
 
キ「周りの面倒事はすべておれがなんとかする。だからおまえはそんならしくない心配なんかせず、元気な子を産むことだけ考えていてくれ」
 
ハ「・・・・・・たしかにあたしらしくなかったわね。わかったわ。あたしはこれから色々大変になるから面倒なことは全部あんたがなんとかしときなさい!」
 
キ「ああ、まかせとけ」
 
そう言ってハルヒはいつもの100Wの笑顔を見せた。そうなんだ、こいつにはいつだってこの笑顔が似合う。
 
ハ「・・・みんな喜んでくれるかしら?」
 
キ「当たり前だ。」
 
ハ「あんたは喜んでくれる?」
 
キ「答えるのが馬鹿らしいくらい当然だ。」
 
ハ「あたし、あんたと結婚出来てよかったわ」
 
キ「そりゃ、おれのセリフだ」
 
おれはハルヒを抱きしめ、ハルヒもおれの背中に腕をまわす。
こんな甘い雰囲気はそれこそおれたちにはらしくないかもな。でもたまにはいいだろう。夫婦なんだし。
ゆっくり瞳を閉じておれはそっとハルヒにキスをした。
 
ガチャ、妹「キョンくーん、ハルにゃーん、ごはんだっt・・・、はえ?・・・・・・おかーさーん!キョンくんとハルにゃんがちゅーしてるー!」ドタドタドタドタ
 
妹よ・・・、中学生にもなってその反応はないんじゃないか?おれはおまえをそんなベタな子に育てた覚えはないぞ。
 
その後、夕食のときにおふくろと親父にハルヒの妊娠のことを告げた。ハルヒは多少緊張した面持ちだったが二人の喜び様にホッとした様子だ。
連絡を入れ、さっそく駆けつけてきてくれたハルヒの両親も揃い、その場でおれは大学を辞めて働く意志を伝えたのだが、
双方の親からはそのことは気にせず、逆にちゃんと大学を出てから生活基盤を作るようにと諭された。
まったく、ありがたくて下げた頭が上げられない。いつか頭を上げて胸を張れるようになりたいものだな。
 
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ふと、時計を見る。時間は深夜3時過ぎ。
かれこれ6時間はこうして待っている。おれは手にもった少し冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
そう言えばまだ全然名前を考えていない。そもそもハルヒの"先にわかったら楽しみが無くなる"という理由で
子供の性別などのことは一切知らされてないからな。まあ、無事生まれてくれればどちらでもかまわんのだが。
しかし、やはり立ち会えばよかったな。まあ、ハルヒにあんたがいてもどうしようもないでしょ、なんて拒否されちゃ仕方がないか。
その時、つい、と袖が引っ張られた。見るとずっと分娩室の扉を凝視していた有希がおれのほうに向き袖を掴んでいる。
 
キ「なんだ?有希」
 
有「・・・生まれる」
 
有希の言葉が終わるか終わらないかのうちに扉の向こうから微かに、でもはっきりと力強い泣き声が聞こえてきた
 
キ「・・・・・・生まれた?」
 
有「生まれた。」
 
泣き声が聞こえる。たしかに聞こえる!生まれたっ!そうかやっと生まれたかっ!・・・そうだ、ハルヒは無事なのかっ?
 
有「おとうさん」
 
キ「有希!ハルヒはっ?ハルヒは大丈夫なのかっ!?」
 
有「まだ終わっていない」
 
キ「へっ!?」
 
直後、扉の向こうからもう一つの力強い泣き声が聞こえてきた
 
数分後、分娩室の中から年配の女性看護士が出てきておれに告げた。
「旦那さん?おめでとうございます。元気な双子の赤ちゃんですよ。男の子と女の子。」
 
案内され分娩室に入ると台に横たわり、今まで見たことの無いほど疲れ果て、やつれた顔のハルヒ力ない笑顔で迎えてくれた。
 
キ「ハルヒ、大丈夫か?よくがんばったくれたな。」
 
有「お疲れ様」
 
ハ「さすがにしんどかったわ・・・。しかも二人だしね・・・。」
 
そう言ってため息をつき二人の赤ん坊に目を向けたハルヒの瞳はなにか今までと違って見えた。
 
結局、そのときはハルヒの消耗が激しいということでおれと有希は早々に病院を後にした。
朝一でおふくろとお義母さんが病院に駆けつけてくれると言うので少し休ませてもらい、おれと有希は昼ごろ再び病院を訪れた。
ちょうど昼食の最中だったハルヒだったが、見てるこちらが心配になるほどの食欲をみせていた。
・・・つーか、いきなりそんなに食べて大丈夫なのか?
 
ハ「なによ。食べないと体力回復しないでしょ。」
 
キ「体の方はもう大丈夫そうだな。」
 
ハ「そうね。まだちょっとだるいけど。」
 
キ「おふくろとお義母さんはどうしたんだ?」
 
ハ「なんかベビー用品買い揃えるって張り切って出て行ったわ。
それより食べ終わったら赤ちゃん連れてきてくれるんだって!あんたたちも楽しみにしてなさい!」
 
30分ほどたったころ、看護士さんが病室に赤ん坊を連れてきてくれた。
 
「こちらが女の子の赤ちゃん。お母さんに似て美人よ。男の子は優しげな目元がお父さんそっくりね」
 
おれとハルヒは看護士さんから。おれが男の子、ハルヒが女の子を赤ん坊をうけとった。・・・・・・似てるのか?よくわからん。
「じゃあ、1時間ほどしたらまた来ますね。なにかあったらすぐ呼んでください」
 
おれは礼を言って、赤ん坊に視線を戻した。・・・ちっちゃいな。しかし、本当におれに似てるのか?さっぱりわからん。
ハルヒは優しい笑みでジッと赤ん坊の顔を見つめている。
 
ハ「なんか、やっと実感湧いてきたわ。さっきまで全然なかったのに」
 
たしかにおれも全然実感はなかった。しかし、包まれている布越しに伝わってくる体温がおれを父親だと実感をさせてくれる・・・。
 
有希の方へ視線をやると、いつもの無表情でジッと赤ん坊を見つめていた。
おれはベットの傍らにある椅子に座るよう促し、有希に言った。
 
キ「有希、おまえの妹と弟だ。抱いてやってくれないか?」
 
おれは自分の抱いていた赤ん坊を有希に渡すと、有希は抱えるようにそっとうけとる。
有希はまるで不思議なものを見るようにそのクリアブラックの瞳でジッと自分の抱く赤ん坊の顔を見つめ続けていた。
 
赤ん坊の包んでいる布が少しはだけた所から小さな、小さな手が見えている。
有希が指先でそっとそのちいさな手に触れる。赤ん坊の小さな儚げな手がそれでも力強く有希の指先を握り返す。
おれもハルヒもなんとなく目を離せずその光景を見つめていた・・・。
 
ハ「・・・有希!?あなた今・・・」
 
キ「おまえ・・・」
 
有希は驚いているおれたちの声にも振り返らず、赤ん坊を見つめつづけてる。おそらく自分でも気付いていないのだろう。
その赤ん坊を見つづける自分が、いつもの無表情ではなく、優しく微笑んでいることに。
 
有「おとうさん、おかあさん。」
 
キ「なんだ?」
 
有「・・・・・・この子たちは」
 
ハ「なに?」
 
有「この子たちは、わたしがかならず守り続ける」
 
そう言った有希の瞳は今まで見たことのないほどの意志が感じられた。
 
辺りも暗くなり、面会時間が終わって、名残惜しかったがおれと有希は病院を後にした。
帰り道、並んで歩く有希に話し掛けた。
 
キ「なあ、有希」
 
有「なに?」
 
キ「これからはおれとハルヒにもっと甘えてくれないか?おれたちが困るくらいのわがまま言ったっていい。
おれもハルヒもおまえの為にもっとなにかしてやりたい。そう思ってるんだ。」
 
有「そう。」
 
有希は一言そう呟くと少し視線を俯かせた。
 
キ「さて、おふくろも今日は浮かれて飯の支度も忘れてるかも知れんな、何か食べて帰るか?」
 
有希は微かに首を横に振るとおれの顔を見て少し躊躇いがちに言った。
 
有「・・・今夜は」
 
キ「ん?」
 
有「今夜は、おとうさんの作ったカレーが食べたい」
 
おれが少し驚いて言葉を失っていると、真っ直ぐにおれを見ながら小首を傾げる。
それがまるで「だめ?」と言ってるように見えた。・・・くそ、かわいいじゃねえか。
 
キ「いいぞ、とびっきりのやつ作ってやるからな。いっぱい食べろよ。」
 
有「食べる。楽しみ。」
 
そう言った有希の頭をおれはくしゃくしゃと撫でた。
その時、ふと、理解出来たんだ。今日やっと、おれたちは本当の家族になれたんだ、ってな。
 
  おわり
 

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