悪くない人生の続きです



さて、本日は暖かい陽射しの中晴天に恵まれめでたくも高校卒業となったわけだが、
高校の卒業というめでたくも特別な日を涼宮ハルヒ率いるSOS団団員その一であり雑用係である
おれが何事もなく過ごそうなどとやはり甘かったわけで、
ハルヒによるおれの親まで抱きこんだ手際良い策略により
おれの知らないところで完璧に作成された婚姻届を市役所に提出して
晴れておれとハルヒは世間で言う夫婦関係となった。
まあ、簡単にいまの状況を説明してみたわけだが、市役所では突如制服姿で訪れ、婚姻届を提出しようと
する俺たち二人に向けられる窓口のオヤジの好奇の視線に耐えたり、
その後の双方の親を交えた食事会で当事者であるおれより高いテンションで
孫は男がいい、いや女だ、だのたまごクラブだの子供の名付け辞典だのと
気が早すぎる親たちが騒いでいたり、妹がさっそくハルヒをお義姉ちゃんと呼び出し、この気に乗じて
妹のおれに対する呼称をお兄ちゃんに戻すべく画策してみたのだが、
「キョンはキョンでしょ。」
「キョンくんはキョンくんじゃない。」
などと意味のわからない理由であっさり却下されたことなどはどーでもいいことなので詳しくは割愛する。
 
そんなわけで今、長門の家でSOS団メンバー5人と名誉顧問である鶴屋さんにご足労願い、
結婚祝い&卒業記念パーティーの真っ最中なわけである。
SOS団での祝い事や記念日では恒例となっている鍋や鶴屋さんが手配して届けられた一流ホテルの
料理の数々に舌鼓をうち、こんなときくらいはいいだろうとこれまた鶴屋さんが持ち込んだ
高級そうなワインやらシャンパンやらで酒も入り、まさに宴のテンションは最高潮といっていいほど盛り上がっていた。
ハルヒはいつもの倍はあろうかというハイテンションで、同じくらいハイテンションな鶴屋さんとじゃれあい、
朝比奈さんはそんな二人をニコニコと眺めていて、長門はいつもと変わらない無表情ながら
どこか柔らかな雰囲気を纏いながら黙々と料理を平らげている。
そんな光景をおれはこれまたいつもの0円スマイルの中にも楽しげな雰囲気を隠しきれてない古泉と眺めながら
この和やかな雰囲気を満喫していた。
 
古「しかし、驚きました、式のあと姿が見えないと思ったらまさか入籍されていたとは…さすがに予想出来ませんでしたよ」
 
キ「おれだってそうだ。こんなこと予想出来てたまるか。」
 
古「それにしても我々はあなたには感謝しなくてはなりません。ありがとうございます」
 
キ「なんだいきなり、おまえんとこの怪しげな組織のことか?
別におまえらのためにしたわけじゃない。感謝される筋合いはないぞ」
 
古「いえ、僕の個人的な感謝です」
 
キ「ハルヒと結婚してなぜおまえに感謝されなきゃならん?バイトが減るからか?かならずともそうとは限らんぞ。」
 
古「いえ、そうではありません。僕はあなたに出会わなければ人との付き合いを利害や損得だけで
判断するような人間になっていたことでしょう。もしそうだとしたら
このような幸福な時間を過ごすことなどなかったはずです。それを考えると感謝してもしきれませんよ」
 
キ「それならハルヒに感謝しておけ。おまえを連れてきたのはあいつだしな。」
 
古「もちろん涼宮さんにも感謝しています。ですが、涼宮さんを含め僕達全員を良い方へと導いてくれたのは
あなただと僕は思っています」
 
キ「買い被りすぎだ。まぁ、こんな席だ、素直にどういたしまして、と言っておくさ。だから離れろ。
いつも以上に顔が近いんだよ、気色悪い。」
 
古「これは失礼。ついつい浮かれ過ぎてしまったようです」
 
そう言って今まで見たことない自然な笑顔で古泉は笑い出した。いつもそうしてろ。少なくとも腹は立たん。
 
古「それに浮かれているのは僕だけじゃないようですよ。長門さんを見て下さい。よほど楽しいのでしょうか、
いつもより食べるペースが早いようです」
 
なぜ食べるペースが早いと浮かれていると思うのかは疑問だが、確かに楽しげな雰囲気は見てとれる。
まぁ、そんな雰囲気を見てとれるのは長い付き合いの俺たちだからだろうが。思えば一番変わったのはこいつかもしれないな。
そんなことを考えながら長門を眺めていたら、今まで朝比奈さんをいじりたおしていたハルヒが長門に近付き、なにやら言い出した。
 
ハ「ねぇ、有希?」
 
長「なに?」
 
ハ「前から聞きたかったんだけどさ、有希ってこんな高そうなマンションに一人暮らししてるけど
有希のご両親てなにやってる人なの?」
 
相変わらず脈絡がないなこいつは。まあ、たしかに長門の正体を知らないハルヒからしたら当然の疑問かもしれない。
今まで聞かなかったのが不思議なくらいだし、それはたぶんハルヒがあえて踏み込まなかったからだろう。
酒とこの楽しげな雰囲気が少しハルヒの気を緩ませたのかもしれない。
しかし唐突すぎる。少し焦った。さすがに本当の事を言うわけにもいかないだろう。
見ると古泉の顔にも僅かながら緊張が見える。さて、このハルヒの疑問におれはどうフォローするべきかと考えていると
長門は少し視線を上にあげ何か思案するような仕草のあと口を開いた
 
長「いない。」
 
ハ「へ?いないって?」
 
長「両親はいない。」
 
ハ「いないって、その、もう亡くなってるとか…?」
 
長「そう。」
 
ハ「…それっていつごろ?」
 
長「六年前。」
 
ハ「六年前って、それじゃそれからずっとここに一人で住んでるの?」
 
長「そう。このマンションは両親が残してくれたもの」
 
六年前か。長門が生み出されたのもそのころと聞いた覚えがある。たしかにそうことにしといたほうが都合がいいかもしれない。
まさか本当のことを言うわけにもいかないし、
ハルヒには悪いが正体がバレれば長門はここにいられなくなるかもしれないし、それを考えると仕方ない。
しかし、急に空気がしんみりしちまったな。さて、どうしたものかな。
 
ハ「…そっか、…その、ごめんね。いきなり変なこと聞いちゃって・・・・・・。」
 
長「いい。大丈夫。それに…」
 
長門はかすかに首を横に振るとおれたち全員の顔を一人一人見渡した後、最後にハルヒに向かい静かに言葉を続けた。
 
長「今、わたしは一人じゃない。」
 
そんな長門の言葉に全員の動きが止まった。…いや、なんと言うか・・・。まさか長門の口からそんな言葉が聞くことが出来るとはとは思わず、
少し意表をつかれ、唖然としてしまったわけだが。
そんな中、いち早くフリーズ状態から復活した鶴屋さんが口を開いた。
 
鶴「そのとーりっ!有希っこは一人なんかじゃないっさ!SOS団が有希っこの家族みたいなもんだねっ!キョンくんもそー思わないかいっ?」
 
いきなり話を振られ少し動揺した、でもまあ、うん、そうだな。その通りだ。激しく同意する。
 
キ「そうですね。そう思います。おれにとってもSOS団はもうひとつの家族みたいなものです。
頼まれたって一人になんかさせませんよ。そうだろハルヒ?」
 
おれはそう言うと先ほどから顔を俯かせているハルヒに話を振った。ハルヒはハッと顔を上げ、おれを見て、それから長門に向き直った。
そして少し泣きそうな顔を浮かべていたが、やがて我慢出来ない、といった感じの笑顔なり長門に飛び付きだした。
見ると朝比奈さんも目に涙を浮かべて長門に抱きついていた。酒のせいか、少しテンション変わってないか?
ハルヒのハイテンションもしんみりする前よりさらに上がったようで嬉しそうに長門と朝比奈さんを抱き寄せて頬擦りなんかをしている。
まったく、どうなることかと思ったがなにやら結果オーライだな。やれやれ。
 
…なんてのん気に考えていたわけだが、おれはこの和やかな雰囲気に油断しきっていて肝心なことを失念していた。
そう、テンションの上がりきったハルヒがこのままなにもせず終わるはずのないということにな。
 
 
宴もハイテンションのまま進み、もう深夜と言っていい時間に差し掛かったころ、
名残惜しいがさすがにお開きにしたほうがいいだろうとハルヒを見ると、
さっきまでのハイテンションはどこへ行ったのかなにやら難しい顔で考え込んでいた。
先ほどのことをまだ引きずっているのかとも思ったがいずれにせよ、お開きににしたほうがいいだろうと
ハルヒに話しかけたときだった。
 
キ「おい、ハルヒそろそろ…」
 
ハ「気が付いたっ!!」
 
ハルヒが突然立ち上がりなにやら叫びだした。なんだ一体?
 
ハ「どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら!」
 
おいおい、なんだろうね、この既視感。なにやらすごく嫌な予感がするのだが…。
 
ハ「家族みたいじゃなくて家族になればいいのよ!」
 
キ「おい、いったいなに…」
 
ハ「有希に両親がいないならあたしとキョンの養子にすれば本当の家族になれるじゃない!」
 
キ「ちょ、おまっ、突然なに言っt…」
 
古「いやぁ、それはいい考えですね、さすが涼宮さんです」
 
おまえは黙れ。いきなり同意するな、このイエスマンめ!
 
鶴「あっははははっ!さすがハルにゃん、目のつけどころがちがうねっ!」
 
朝「ふえぇぇ、すごいですぅ」
 
二人ともなぜそんな簡単に感心出来るんですか!
 
キ「待て、色々と待て!ハルヒ!」
 
ハ「なによ、いい考えでしょ?」
 
キ「少し落ち着け、話が急過ぎる!」
 
ハ「あんたが言ったんじゃない、家族みたいなもんだって。それに有希だけ両親がいないなんて不公平で可哀想じゃない」
 
キ「だからって勝手に決めていいことじゃないだろ、長門の意思はどうなる!?」
 
ハ「それもそうね、どう?有希、あたしとキョンの子供にならない?」
 
長「わたしはかまわない」
 
おーい…、長門ー…。
 
ハ「有希もこう言ってるわよ。何が悪いのよ?」
 
キ「いくらなんでも、もう少し物事の順序ってもんを考えろ、飛躍しすぎだ!」
 
ハ「有希みたいな素直でいい子が娘になるのよ?嫌なわけ?」
 
キ「嫌とかじゃなくて、大体、親たちになんて説明するんだ!?いきなり同級生を養子にしました、なんて許してくれるはずがn・・・・」
 
ピ、ピ、ピ・・・・プルルルルル・・・・プルルルルル・・・・
 
・・・あのー、ハルヒさん?携帯なんか出して、いったいどちらへおかけで・・・?
 
ハ「・・・ああ、お義母さん?うん、まだ有希んち。かくかくしかじかー・・・で有希をあたしとキョンの養子にしようと思うんだけど、
・・・やっぱり!?いいアイディアでしょ?うん、ありがとー、じゃあまたあとで。オーバー♪」
 
キ「・・・・・・おい、ハルヒ?」
 
ハ「さあ、お義母さんの許可は取ったわよ。これで文句ないでしょ?」
 
うちの親ってこんなアバウトだったのか・・・。どおりですぐハルヒと打ち解けたはずだ・・・。
 
キ「いや、しかしだな・・・、いくらなんでn・・・」
 
気が付くと全員の無言で期待に満ちたような視線が向けられている。
一体なぜ、こんな孤立無援の状況に陥っているのか、誰かここに来て説明してくれ。頼むから。
ふと、長門の方に目を向けるとその大きなクリアブラックの瞳が真っ直ぐにおれを見つめていた。
このときほど長門の表情を読むことに長ける自分が恨めしいと思ったことはない。
やめろ、長門、子犬の様におれを見つめるな、小首を傾げるな、その、いやなの?だめなの?的な視線を止めてくれ!
 
長「おとうさん?」
 
 
・・・・・・・・・・・・いくらなんでもそれは反則じゃあないか?娘よ・・・。
 
キ「……わかった。好きにしてくれ」
 
ハ「やたーー!さあ、有希!これであたしはあんたのおかあさんよ!遠慮なくおかあさんって呼びなさい!」
 
長「わかった。ありがとう。おかあさん、おとうさん。」
 
古「いやあ、おめでたいことは重なるものですね。おめでとうございます」
鶴「ハルにゃんとキョンくんと有希っこは前から親子みたいだったからピッタリっさ!いやーめでたいめでたいっ!わはは」
 
朝「ふえぇぇ、長門さんよかったですぅ」
 
…まったく、結婚初日からこれじゃ先が思いやられるな。
でもしかたない、喜ぶハルヒと長門…いや、有希の姿をみて悪くないなんて思っちまったのが運のつきだ。
それにあんな風に゛おとうさん゛なんて呼ばれちゃ降参しないほうがおかしいだろ?
これから色々頑張らんと、娘に頼りきりの親父じゃ情けないからな。…やれやれ。
 
 


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