「・・・やっと会えた・・・・。」

 

私は、彼の顔を見た瞬間、そうつぶやいていた。

 

眼鏡をかけていないのになぜか彼の顔がはっきりと見えることや、今、自分はあのおかしな空間ではなく、喫茶店のトイレにいることなど、この時の私は気にもしていなかった。

 

彼に会えた。

 

ただ、それだけで頭がいっぱいだった。

 

しかし、彼はなぜかきょとんとした顔から、とても驚いた顔になり、私の顔を凝視していた。

何?私、何かおかしなことでもしたのだろうか?

 

・・・そんなに、見ないで・・・。

 

私の頬が熱くなっていくのを感じる。そういや、一昨年も部室で同じようなことがあったっけ・・・。

 

彼はしばらく私を見つめ続けていた。私はおそらく顔を真っ赤にしてずっとうつむいていただろう。この時のことはよく覚えていない・・・・・・。
 
 
 
 

「・・・ョン・・・キョン・・・ちょっとキョン、聞いてるの!?」

 

その言葉で俺は、我に返った。目の前では顔をトマトみたいに真っ赤にした長門がうつむいている。

 

顔を真っ赤に?おかしい。あの無表情宇宙人娘がこんな反応を見せるはずがない。それに、目の前の長門はさっき笑ってたんだっけ。

 

俺は、長門の笑顔なんてみたことは・・・・・・

いや、ある。一回だけ。あれはもう一昨年のことだろうか。

 

忘れもしないあの悪夢のような三日間。あの時の出来事の中で、唯一輝いている思い出・・・。

 

そうか。それじゃあ、この長門は・・・・・・。

 

 

そこまで考えたとき、俺の顔は180度後方という、普通だとありえない方向へ曲げられ、そこには、ハルヒの不機嫌顔があった。

 

「もう!何やってんの!?さっきから呼んでるのに返事もしないで!有希の家に電話したけど、誰も出なかったから、今から有希の家に・・・ってあれ?有希?」

 

家に、という部分まで一息でまくしたてたハルヒは俺の前に立っていた長門をみつけ、みかんの木に、なすが生っているのをみた農家の人のような顔になった。

 

俺は、目の前の長門の正体に気づいていたので、ハルヒがいろいろ聞きだしたらまずいと思い、とっさに言い訳をした。

 

「あ、これはだな・・・そうだ、長門は今、ちょっと風邪をひいてるんだ。今日、待ち合わせ場所に一番最初に来たのはいいけど、外にずっと立っていて体調が悪化したらいけないから、さきに店の中に入ってたんだよ。そして、店の中で俺らを待っていたら、トイレに行きたくなって、それで今出てきたところなんだよ。なあ、長門?」

 

本当に風邪をひいているのかと思うくらい赤い顔をした長門は、少しきょとんとしたが、すぐにゆっくりとうなずいた。

 

「え、そうなの・・・・・・?大丈夫?風邪ひいてるんだったら、家に帰ったほうがいいんじゃないの?」

 

俺の、グダグタな言い訳を簡単に信じたハルヒは、いかにも心配そうな顔を長門に向けた。

この長門には、いろいろと聞きたいことがあったので、今、帰ってもらっては困ると思い、

 

「いや、今は熱もないみたいだし、今日一日はしゃぎすぎなかったら、大丈夫だろう。それとも、午前中だけ参加して、午後から帰ってもらうのはどうだ?」

 

と、でたらめな言い訳を作ったが、

 

「あんたには聞いてない!!」

 

と、ハルヒに怒鳴られ、何も言い返せなくなった。

 

「有希?大丈夫?大事をとったほうがいいと思うわよ?」

 

俺は長門がどう答えるか、冷や汗ものだったが

 

「・・・・・・大丈夫。風邪といっても、それほどひどいものではない。」

 

やけに強い口調ではっきりとそう答え、あっけにとられたハルヒは

 

「え?そうなの・・・・・・?家でゆっくりしたほうがいいと思うけど・・・・・・。」

 

と、まだぶつぶつ言っていた。

 

「ほら、長門本人がこう言ってるんだから、もういいだろ?自分の体調は自分が一番よく分かるんだ。もし、悪化したらすぐ帰ればいいだろ?」

 

「そう。まあ有希が大丈夫って言うなら、いいけど・・・・・・きつくなったらすぐにいいなさいよ?あと、キョン!あんた、有希が体調崩したら、すぐに面倒見てあげるのよ?」

 

はいはい、どうせ俺が作った話だから、そんなことする必要はないだろうがね。

まあ、本当に長門がそんな状況になったら、必ずそうするだろうがな。

 

などと考えているうちに

 

「あの~どうしたんですか?みんな、なかなか帰ってこないから、少し心配になって・・・あれ、長門さん?来てたんですか?」

 

「おやおや、これは珍しい。こんな小さな店内にいながら、お互いが気づかないとはね。」

 

といって、きょとんとした朝比奈さんと、0円スマイルをうかべた古泉がやって来た。これで、トイレ前の狭い通路に、SOS団全員集合ってわけだ。

 

さすがにこれは邪魔になるだろう。俺たちは5人揃って、席へと戻った

 

 

 

「・・・というわけなの。だから、今日は有希にあんまり無理させちゃだめよ。わかったわね、みんな?」

 

「は、はい。」

 

「了解しました。」

 

と、ハルヒが状況説明をし、その場にいなかった2人が状況を理解した後、不思議探索恒例のクジ引きが行われた。

 

俺は、長門が他の奴らと同じ組になるとまずいと思い、緊張した面持ちでクジを引いたが、どうやら杞憂だったらしい。

 

午前中の班は、俺と長門、ハルヒと朝比奈さんと古泉の2つに分かれた。

どこかかでヒューマノイドインターフェースが覗いていないだろうね。あまりにも出来すぎている。まあ、なんでこの長門がここにいるのか、じっくり聞くいいチャンスだ。

 

もはや俺は、この長門がここにいることにあまり驚きを感じていなかった。何か、用があってここに来たのだろう。

 

俺は今までにたくさんの超常現象と熱戦を繰り広げてきたんだ。さっきは、不意打ちをくらって、あっけなくダウンしてしまったが、そうでなければ、少なくとも最終ラウンドまでは戦うことができるだろうよ。

 

 

 

「いい?有希から目を離しちゃだめよ!何かあったら、すぐに連絡しなさい!」

 

とハルヒは言い残して、朝比奈さんと古泉を引き連れて、街中へと消えていった。

 

 

さて、俺たちも行くか。そう言おうとして、俺はある重大なことを思い出した。

 

「長門、ちょっと、待ってくれ・・・・・・。」

 

きょとんとして、瞬きを繰り返す長門に俺はこういった。

 

「ちょっと、トイレに行かせてくれ・・・・・・。」

 

そこ、笑うな。なんやかんやがあったせいで俺はトイレに向かった本当の目的を忘れていたんだよ。

 

やれやれ・・・・・・。

 

      ~Different World's Inhabitants YUKI~ニチヨウビ(その四)~へ続く~


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