「すまん、待たしちまって。」
喫茶店から出てきた彼はこちらへ小走りでやって来た。
一昨年会った時の彼は、何というか、心ここにあらずみたいな、どこか上の空な感じだった。そんな彼が、今、目の前で生き生きとした表情をみせている。
そんな私の顔をのぞきこんだ彼は、少し戸惑ったような顔をしたが、すぐに笑顔を作って、こう言った。
やっぱり、そうだ。
彼は、私が別の世界から来た『長門有希』だということに気づいている。喫茶店での私を見る態度からして、そうではないかと思っていた。
自分の目から見ても、元からこの世界にいた、『長門有希』と私は、外見では見分けがつかないくらいそっくりだった。それはそうだ。2人とも同じ存在なのだから。
じゃあ、どうして分かったのだろう?
そんな私の心のうちを読み取ったかのように彼は、
「それで、お前がここに来たからには、何か理由があるんだろう?もう1人の長門に何か聞かなかったか?あと、あの長門は今、どこにいるんだ?」
と、彼がやけに真剣な表情でそう聞いてきたので、私は、もう一人の『長門有希』から聞いた、にわかには信じられないような話をゆっくりと始めた。
私そっくりの少女が突然、自分の部屋に現れたこと。
私の世界の、涼宮ハルヒに用があって来たのだと言っていたこと。
同じ世界に『長門有希』が二人いるのはあってはならないことなので、彼女と入れ替わりに、こちらの世界に来たこと。
こうして、口べたなりにも一生懸命話し終わった後、彼は意外にも、落ち着いた口調で
彼女からことづけられた本があることを思い出し、彼に渡した。
「よし、だいだい理解できた。じゃあ、こんな所でずっとつっ立っとくわけにもいかねぇし、そろそろ行くか。どっか行きたい所はあるか?」
この彼の言葉で気がついたが、私達はずっと喫茶店の前で話をしていたらしい。
私は、頬を少し赤らませながら、
「・・・・・・図書館。」
普段の長門とは何回か来た事があるが、この長門と来るのは初めてだ。
「どうした?本、読まないのか?」
そんなことになった時は、決まって面倒なことが起こっている。
今までの俺の経験がそう言っている。
だいだい今までの面倒ごとの9割はハルヒが原因だな。
遂にこっちのハルヒだけじゃなく、向こうのハルヒも何か始めたか。あんな存在は一人で十分だ。
何が起こってるのか、早くあの小型アンドロイドに聞かないとな。
このままでは、心配でまともに夜も眠れりゃしない。
これは、あの宇宙人長門が書いたもので間違いないだろうから、きっと午後8時に何か起こるのだろう。
たぶん、二人の長門も揃うはずだ。その時に、また、わけの分からない言葉でじっくり説明してもらうとするか。