「すまん、待たしちまって。」

 

喫茶店から出てきた彼はこちらへ小走りでやって来た。

 

よっぽど、我慢していたのだろうか、今の彼の表情は、安堵感であふれていた。
さっきから、きょとんとしたり、驚いたり、あたふたしたりと、忙しそうだ。
 
しかし、今の私は、そんな彼の表情の変化を見るのが、楽しくて仕方がなかった。

一昨年会った時の彼は、何というか、心ここにあらずみたいな、どこか上の空な感じだった。そんな彼が、今、目の前で生き生きとした表情をみせている。

 

私は思わず微笑んでいた。
 

そんな私の顔をのぞきこんだ彼は、少し戸惑ったような顔をしたが、すぐに笑顔を作って、こう言った。

 

「よう、久しぶりだな。2年ぶりか。時がたつのは、早いもんだな。」
 

やっぱり、そうだ。

彼は、私が別の世界から来た『長門有希』だということに気づいている。喫茶店での私を見る態度からして、そうではないかと思っていた。

 

でも、どうしてだろう?

自分の目から見ても、元からこの世界にいた、『長門有希』と私は、外見では見分けがつかないくらいそっくりだった。それはそうだ。2人とも同じ存在なのだから。

 

じゃあ、どうして分かったのだろう?

私は、この世界での私がしないようなことでもしたのだろうか?
 

そんな私の心のうちを読み取ったかのように彼は、

 

「びっくりしたぜ、長門が笑っているのを見たときは。俺のよく知ってる長門は、例えゴリラが町中で逆立ちして歩いているのを見ても、笑うどころか、表情1つ変えないような奴だからな。」
と言った。
 
そうなの?確かに、私としゃべっている時も、ずっと無表情だったような気がするが、そこまでとは。私がそんな光景をみたら、ひょっとしたら大笑いしてしまうかもしれない。
 

「それで、お前がここに来たからには、何か理由があるんだろう?もう1人の長門に何か聞かなかったか?あと、あの長門は今、どこにいるんだ?」

 

と、彼がやけに真剣な表情でそう聞いてきたので、私は、もう一人の『長門有希』から聞いた、にわかには信じられないような話をゆっくりと始めた。

 

 

私そっくりの少女が突然、自分の部屋に現れたこと。

 

私の世界の、涼宮ハルヒに用があって来たのだと言っていたこと。

 

同じ世界に『長門有希』が二人いるのはあってはならないことなので、彼女と入れ替わりに、こちらの世界に来たこと。

 

もちろん、私がこの世界に来た本当の理由が、あなたに会いたかったからとは、言っていない。言えるはずがない。
 

こうして、口べたなりにも一生懸命話し終わった後、彼は意外にも、落ち着いた口調で

 

「そうか・・・・・・。それで、あの長門はハルヒに何の用があるのか言ってなかったか?」
と、尋ねてきた。
 
私の笑顔で、あんなにも驚愕していたのに、こんな奇想天外な話には、まったく驚いていないとは。彼も、同じような経験をしたことがあるのだろうか。
 
私は、何の用があるかということなど聞いていなかったので、首を横に振ると共に、

彼女からことづけられた本があることを思い出し、彼に渡した。

 

彼は、その本をしばらくパラパラとめくっていたが、中に挟まれていた栞を手にとり、その裏側をしばらく眺めて、すぐに納得したような顔になった。
 
そういえば、この光景も一昨年見たことがある。どうやら、もう一人の私にとって、栞はメッセージを伝える役割も持っているのだろう。
 

「よし、だいだい理解できた。じゃあ、こんな所でずっとつっ立っとくわけにもいかねぇし、そろそろ行くか。どっか行きたい所はあるか?」

 

この彼の言葉で気がついたが、私達はずっと喫茶店の前で話をしていたらしい。

周りでは何人かの通行人が、何か意味ありげな目線でこちらを見ている。
 

私は、頬を少し赤らませながら、

 

「・・・・・・図書館。」

 

と、答えていた。
 
 
 
 
 
喫茶店からしばらく歩いて、俺と長門は図書館に着いた。

普段の長門とは何回か来た事があるが、この長門と来るのは初めてだ。

 

この長門も、てっきりふらふらと本棚へ向かっていくものだと思っていたが、図書館についた後も、長門は俺の後ろで影のように立っていた。
 

「どうした?本、読まないのか?」

 

俺がこういうと、長門は何故か悲しそうな顔をして、それでもふらふらと本棚へ向かっていった。
 
やれやれ、厄介なことになったもんだせ。あの世界のハルヒに用がある?

そんなことになった時は、決まって面倒なことが起こっている。

今までの俺の経験がそう言っている。

だいだい今までの面倒ごとの9割はハルヒが原因だな。

遂にこっちのハルヒだけじゃなく、向こうのハルヒも何か始めたか。あんな存在は一人で十分だ。

 

俺は、二人のハルヒに言いようにあしらわれている自分の姿を想像し、あまりの恐怖に思わず体を震わせた。

何が起こってるのか、早くあの小型アンドロイドに聞かないとな。

このままでは、心配でまともに夜も眠れりゃしない。

 

さっき長門から渡された本に挟まれていた栞には明朝体の文字でこう書かれていた。
 
『午後8時、私の部屋に来てほしい。』
 

これは、あの宇宙人長門が書いたもので間違いないだろうから、きっと午後8時に何か起こるのだろう。

たぶん、二人の長門も揃うはずだ。その時に、また、わけの分からない言葉でじっくり説明してもらうとするか。

 

 

その後、俺は最近の精神的苦痛のせいか、急激な眠気に襲われ、そのまま夢の世界へと旅立っていった。

 

  ~Different World's Inhabitants YUKI~ニチヨウビ(その五)~へ続く~


|