~プロローグ~

 

「今、この世界に存在しない『彼』。もう一度、会いたい?」

 

目の前に立っている少女は私に向かって、そう言った。

 

しかし、私は正直何が何だかまったく分からなかった。
本音を言うと、会いたい。会いたくて、会いたくて、仕方がない。
この一年間と少しの間、私の目の前で消えていった『彼』のことをずっと思い続けていた。

しかし、そんなことが本当にできるのだろうか。

 

いや、まずこの状況は何なのだろうか。

 

私の名前は長門有希。

 

そして、私の前に立っていたのも、長門有希だった・・・。
 
 
 
 

一日目[ニチヨウビ]

 

季節は春。いや、もう春といっていいのだろうか。ちょうど、ぬるま湯につかっているようで、暖かいのか、冷たいのかよくわからない、しかし、これからは暖かくなる一方だと考えると思わずにやけてしまいそうになる、そんな3月の初めが、俺はある意味一番好きな時期なのかもしれない。

誰だって、これから楽しいことがあるのはうれしいだろう。遠足を一週間後に控えた小学生と同じ心境だ。

 

それなのに、今の俺はそんな時期をいまいち楽しめないでいる。なぜだか、口を開けると溜息ばかりでる。なんでだろうね?

 

「そろそろ暖かくなるころだから、不思議がその辺でのんびりしているかもしれないわ!今こそチャンスね!」

 

今、俺の前で、まるで不思議というものを熊か何かに勘違いしているような話をしているのが誰だか、言わなくても分かると思う。

いや、頼む、分かってくれ・・・。

 

「ちょっと、キョン!聞いてるの!?今日は、午前中だけなんだから、いつもより気合入れていきなさいよ!」

 

SOS団団長ながら、今現在は編集長でもある涼宮ハルヒは怒ってんのか、笑ってんのかよくわからない顔で俺にそういった。

 

 

編集長?

 

そうだ。また、このときがやってきたのだ。機関誌作りという、どうでもいいときがね。

元はといえば、古泉たちが勝手にでっちあげたイベントなんだから、何も二年連続で作らなくてもいいと思うが。

 

まあ、あの退屈大嫌い女、ハルヒのことだ。

機関誌作りという、絶好の暇つぶしを見逃すなんて事はないと思っていたがな。

 

 

こうして、俺は去年のように文章という悪魔と戦っているわけだ。

 

 

また、今日は日曜日。本来なら、体と心を十分に休める日だと、キリスト様がお決めになったありがたい日だ。

 

俺は、キリスト様の教えに従って連日の文章との戦いの疲れを癒すべく、前日に妹にボディプレス禁止令を申告し、シャミセンと共に、布団の中に立てこもるつもりだったのだが、SOS団が誇る非常識女は、強盗が立てこもった銀行に強行突入するSWATばりの勢いで俺を布団から追いやった。

 

「キョン!まさか寝てたの?あんた、まだ原稿できてないんだからそんなのんびりしている暇はないはずよ!」

 

電話に出てコンマ一秒ほどで怒声が響いてくる。

ああ、朝からこいつの声を聞いたときは、俺の休日が休日ではなくなるのはこれまでの経験ですでに実証済みだ。

さらば、俺の休日、さらば、キリストの教えよ・・・。

 

で、こんな朝早くから何のようだ?まだ午前7時だぞ。お前は俺にモーニングコールをするのが趣味なのか。

 

「そ、そんなわけないでしょ!!バカ!!それよりあんた、今日どうせ家でいても原稿を書くつもりないでしょ?」

 

ふん、悪いがそのつもりだったさ。日曜日という大切な日をわざわざ原稿のために使うほど、俺はバカじゃないさ。

 

「何いってんの!家でゴロゴロしているほうが、よっぽどバカだわ!というわけで、今日はあんたの原稿作りをみんなで監視してあげる。でも、それだけじゃつまんないから、それはとりあえず午後にするとして、午前はSOS団恒例の不思議探索をするわ。8時にいつもの駅前に集合!遅れるんじゃないわよ!」

 

8時だと!?何でそんなにはやいんだ?今日は何かあったか?

 

「あんたがいけないんでしょ!!あんたが原稿をはやく書かないから、大切な午後の時間を使うはめになったのよ!午後が使えないんだったら、朝早くからやるしかないでしょ!いい、遅れたら罰金だからね!」

 

そういって、本当にガチャという音が聞こえそうなくらいの勢いで電話が切れた。

やれやれ、どうせ遅刻しなくても、罰金は払わなくちゃいけないんだがな。

 

それにしても、8時か、間に合うか?まったく、わざわざこんな日にまでわけの分からない探索などしなくいいと思うがね。

 

 

とまあ色々と愚痴をこぼしつつ、身支度を整え、自転車をぶっとばして着いた駅前には、いつもどおり、団長様の不機嫌な顔と、むかつくぐらいのにやけ顔と、目眩を起こしそうなくらい可愛いお顔と、変わることのない無表情顔が・・・ってあれ?長門がいない。めずらしいな。俺は今回、罰金を払わなくていいのか?

 

「そうねえ・・・有希からはまだなんの連絡も入ってないの。無断欠席はしないような子だから少し心配で・・・。まあ、まだ8時になってないし、喫茶店で待ってたら、そのうちくるでしょ。それまでの料金はあんた持ちね。」

 

はいはい、どうせそうなると思ってましたよ。

それよりも、長門はどうしたのだろう。何か厄介事にまきこまれてなかったらいいが。

 

こうして、喫茶店に入った俺は、心配を紛らわすかのようにアイスコーヒーをがぶ飲みしてしゃべりまくるハルヒをみて、自分の財布の中身と、今日一日の出来事を考えながら溜息をもらしている。

 

この春を迎えるべき快き季節を満喫できていないのは、このようなたーくさんの出来事が俺を縛っているからだ。分かるかね?ワトソン君。

 

 

いよいよ、自分でも何を考えているのか分からなくなってきたとき、

 

「もう8時ね。有希に何かあったのかも・・・。ちょっと電話してみるわね。」

 

と、ハルヒが携帯をとりだしていじり始めた。

ちょうどいい。実は、俺はさっきからトイレに行きたくて仕方がなったのだ。まったく、こんなに急に集めやがって。トイレに行く暇もなかったぜ・・・。

 

こうして、俺は席を立ち、喫茶店の奥にあるトイレへと向かった。急いでドアを開けようとしたが、思い止まってドアをノックした。どこかの誰かさんと違って、俺はノックもせずにトイレに入るほど非常識じゃねえよ。

 

 

10秒ほどたっただろうか。これだけ待っても返事がないのなら大丈夫だろ。そろそろ入るか、と思ったときだった。

 

まるで、俺のドアを開けようとする意思に反応するかのようにドアが開いた。

なんだ、まさか俺まで超能力を使えるようになったのか、と一瞬バカなことを考えたが、すぐにその原因は判明した。

 

「長門・・・・・・?」

 

そう。ドアの中から現れたのは、長門だった。

驚いた。まさか、こんな所から現れるとは。なんだ、もうとっくに来てたのか。あ~あ、結局今日も俺のおごりか・・・。

 

 

以上、これまでが俺の記憶だ。この後、数分のことはよく覚えていない。

なんせ、この後、長門がトイレから出てきた驚きなどとはまったく比べ物にならない、まさに驚愕の出来事が俺の目の前で起こったからだ。

 

「・・・やっと、会えた・・・・。」

 

そういった長門の顔をみて、俺は急性近視病にでもかかったのかと思った。

少し弱々しかったが、誰が見てもこの表情は、ひとつにしか見えなかった。

 

笑顔。

 

そう、俺の前で長門は、電池の切れかけた懐中電灯くらいの明るさの笑顔をみせていた。

何が起こってるんだ・・・。俺は、激しい目眩に襲われた・・・。

 

       ~Different World's Inhabitants YUKI~ニチヨウビ(その二)~に続く~

 

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