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 きっかけは一枚の写真だった。
 それが全てだったのか、それとも原因の一つに過ぎなかったのか……それは今になっても分からない。
 端から見てるヤツらには馬鹿な行為としか映らないだろうし、俺もそう思ったこともあったさ。
 ……でも、あの時の俺たちは何も間違ってはいなかったと思う。
 ……それだけは譲れない事実なんだ。
 
 
 ある日の昼休み。俺たちの学校の中庭でそれは始まった。
「……おぉ」
「……これは……」
「……な?似てるだろ?」
 ……確かに似てる。
「まさか、本人じゃないよな?これ」
 それは谷口がコンビニで買ってきた漫画雑誌に掲載されていた。
「まさか。あの涼宮さんですよ?」
 よくある、二回に一回は水着姿の女の人が表紙を飾るような漫画雑誌だ。
「……だな。例え借金まみれになっても、ハルヒがこの手の仕事をする姿は想像出来ん」
 そこには、こんな文字が踊っていた。
 
『現役女子高生・鈴峰晴美~強気娘に恋をしよう~』
 
「にしても、似てるよなぁ……このグラビアアイドルと涼宮」
 谷口がそう言うのも無理はない。正直言って、パッと見せられた時は俺でも信じたほどだ。
 この手のグラビアにありがちな媚びた笑顔ではなく、相手を挑発するような不敵な笑みが、悪巧みをしている時のハルヒとダブってしまう。
 ……しかし、これを見るとハルヒの笑みもエロく感じてしまうから不思議だ。
 一人でそんな妄想に耽っていると、古泉が雑誌のページを捲った。
「ふむ、後半のページには少々扇情的なポーズもありますね」
 ……なんだと?
「おぉ!これはいい!ヤベ、俺ちょっと……」
「……そういう生々しい発言はやめましょうよ、谷口君」
「……」
 パラパラ……
「……おい、キョン。何故ページを飛ばす?」
「……いや、ちょっと今週の『ホーリーワールド』が気になって……」
「……残念だな、今回は休載だ。さぁ、ページを戻せ」
「……あ、新連載の『5月のタイガー』を……」
 目次、目次、と…………なんだよ!?なんで二人とも白い目で俺を見てるんだよ!?
「……古泉、こいつの行動をどう判断する?」
「はい。例え別人であっても涼宮さんに似ている容姿の女性が、男性から性の対象として見られるのが我慢ならないようですね」
「……中学生みたいなヤツだな……」
「はい。全く」
 好き勝手に言ってんじゃねぇ!俺は人間ドラマ溢れる囲碁漫画が読みたいだけだ!
「はいはい」
「ツンデレツンデレ」
「くッ……!」
 二人の冷ややかな視線を受けて、俺は雑誌を閉じる。表紙には例の娘の写真がデカデカと印刷されていた。
 見れば見るほどハルヒに似ている……。
 ……だが、やはり……。
「……しかし、アレだな」
「……やっぱりアレですね」
「……そうだな」
 どうやら三人の見解は一致したようだ。
 
 
「「「こっちの方が胸が大きい!」」」
 
 
 俺たち三人の声は見事にシンクロした。
「あ、やっぱりか?涼宮も小さかないけどなぁ……」
「……正直、これと比べるのはハルヒが可哀想だ」
「……ですよね」
 胸のスペック的にはハルヒと言うより朝比奈さん(大)だな。
 これで同じ女子高生だと言うのだから……全くけしからん!
 
 
「……何がけしからんのかしら?」
 
 
「……」
「……」
「……」
 ……あっれ~?おかしいな?今妙な幻聴が聞こえたけど……。
「……はは」
 渇いた笑い声を上げて、若干笑みを引き攣らせる古泉。そのこめかみには一筋の汗が伝っていた。
 ……なんだよ?古泉?妙なリアクションやめろよ?まるで俺の後ろに鬼でもいるみたいじゃねぇか?
「……ごゆっくりぃ~!」
 あ、コラ!逃げるな!谷口!元はと言えばお前が持ってきた雑誌が……!
 
「キョン~?団長様の質問を無視するとはいい度胸ね?」
 
「ひっ……!」
 ……あぁ、分かってるさ。俺の背後で空気が歪むほどの殺気を放っているのが誰かなんてな……。
 恐る恐る振り向いて、俺はそいつに声を掛けた。
「よ、よう……ハルヒ……」
「どうしたの?声が震えてるわよ?」
 ……さて、一旦整理しよう。状況はこうだ。
 我らが団長様にそっくりのグラビアを観賞して、更にデカい声で胸の大きさを比べていた。
 …………うん、どう見てもアウトだな。
「一体、神聖なる学舎に何を持ち込んでるのかしら?」
 ハルヒの怒りっぷりを見れば分かる。完璧に状況を把握されているらしい。
 ……これは俺には手に負えんな……仕方ない、古泉!
 ハルヒの手綱捌きにおいてはかなり頼りになる、唯一の共犯者に視線をやると、既に耳打ち出来る位置までやって来ていた。
「……こういう時には意外と素早いのな、お前」
 ただ、顔が近いぞ。
 俺がそう言うと、古泉はいつものニヤケ顔をキリリと引き締めて、こう言い放った。
「……失礼、当然と言いますか、バイトが入りましたので僕はこれで……」
 うん……いや、なんかそんな予感はしてたがな……。しかし、ここでこいつを行かせる訳にはいかない。今回ばかりは生命の危機すら感じてるんだ。
「しかしだな、古泉。たまには現実空間でどうにかしようとは思わないか?」
「ほう?例えば?」
「ここでハルヒの機嫌を直せば、お前たちはあのヘンテコな空間で命を賭けて戦う必要はなくなるということだ」
「……なるほど、一理ありますね。では、シミュレートしてみましょう」
 
『古泉君、キョンがあの雑誌持って来たのね?』
『はい、全くその通りかと』
『これは罰が必要ね』
『はい、全くその通りかと』
『この場合は極刑が妥当ね』
『はい、以下略』
 
「こんな感じですね」
「待て、それでは俺の命の保証がない気がするんだが……というか、持ってきたのは谷口だ」
「おや?僕がイエスマンに過ぎないことはあなたも知っているでしょう?僕には涼宮さんの言葉に頷くしか能はありませんよ?」
 ……もしかして、俺がイエスマン呼ばわりしたことを根に持ってるのか?
「他に案はありませんね?では、僕はこれで」
「待ってくれ、見捨てないでくれ古――うぐっ!」
 0円スマイルで立ち去る古泉を引き留めようとすると、いきなりハルヒに胸ぐらを掴まれ正面を向かされた。
「古泉君を巻き込むんじゃないわよ。どうせあんたが無理矢理誘ったんでしょ?このエロキョン」
 ……見事な騙されっぷりだ……お前が将来あの手の男に引っ掛からないことを祈るよ。
 しかし、このままでは俺一人が矢面に立たされる羽目になるので訂正だけはさせて貰おう。
「あのな、今回誘ったのは……」
「うっさい、エロキョン。言い訳するな」
「だから、取り敢えず話を……」
「変態」
「…………」
 ……流石にカチンときたね。
 なんだよ、古泉のことは勝手に信じる癖に俺の発言は全否定かよ。
「全く……こんな雑誌に載る馬鹿女のどこがいいのかしら……あたしでいいじゃない……」
「なんか言ったか?」
「変態は黙ってなさい!現実の女の子相手には何も出来ないヘタレの癖に!このムッツリスケベ!」
 
 ――プチン、と堪忍袋の緒が切れる音を、俺は生まれて初めて聞いた。
 
「現実の女ねぇ……」
 俺はわざとらしくハルヒをに視線をやり、くつくつと苦笑する。
「……何よ?」
「お前より、このグラビアの娘の方がいいな」
「何ですって!?」
「写真はお前みたいに口うるさくないからな」
 人の話も聞かずに一方的にキレたりもしないしな。
「逆ギレする気?こんな馬鹿女のどこがいいのよ!?」
 
「こっちの方が胸もデカいからな!」
 
「な……!」
「見た目で選ぶ時に顔が似てたら、あとは……」
「…………」
「……って、おい?ハルヒ?」
「…………」
 ……正直な話、こいつが世間一般的な女性のように自分のスタイルを気にするとは思ってなかったが……胸のことを言われた途端、ハルヒは黙ってしまった。
 ……少し言い過ぎたか?
「…………」
「…………」
 その余りの沈黙っぷりに俺が耐えられなくなった頃、
「……ふ……ふふ……」
 ……ハルヒは静かに笑った。
「ふふふふふふ」
 ……えーと、ハルヒさん?怒鳴って頂いた方が気が楽なんですが?
「……あたしをここまで怒らせたのはあんたが初めてかも知れないわ」
 ……そんな誉れは全力で辞退させて頂きたい。
 顔こそ笑顔だが、こいつの精神状態は誰に聞いても答えは一つだろう。もしこれで「嬉しそうですね」なんて答えるヤツがいたら、俺はそいつを自腹で眼科に連れて行ってやる。
 ……これは謝らなければ、とんでもない事態になる。みっともなく土下座をしてでも今許して貰え!
 そう俺の本能が告げていた。
「あ、あの……ハルヒ……」
 スマン、言い過ぎた!という言葉を続けようとして、
「どうしたの?何か言いたいことあるんじゃないの?」
 その笑顔を見て固まった。
 ハルヒは、あのグラビアみたいに不敵な笑みを浮かべていた。
 そして、その笑みに凄惨な何かを感じた俺は、謝るどころか、声を出すことすら出来ず、
「……じゃあ、またね。キョン」
 そう言って立ち去るハルヒを、ただ見送ることしか出来なかった。
 ……俺はその後ろ姿を見ながら、この場にいない人間に対して一人で呟いていた。
「……よかったな、古泉。多分今日のバイトは長くなるぞ」
 ……神人狩りのバイトが時給制かどうかは知らんがな。
 
 
 ……これが、SOS団どころか色んな人間を巻き込んだ珍騒動の始まりだった。
 
続く
 

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