さて、皆は霊というものの存在を信じているだろうか?


信じている、実際に見たことがある、むしろ会ってみたい、という人も少なからずいるだろう。
俺はというと、前にもそういう類のことを話したことはあるだろうが、昔はそりゃあもう信じていた。
もちろん今は信じてなどいない。もし存在するとしてもそれは長門の言う情報の残骸みたいなものなのだろう。
そしてそれはもちろん物質として存在するわけではなく、それに触られたりすることはないわけだ。

 

じゃあ最近俺が体験しているこの状況は何だ?

 

一週間前だろうか。暑いから布団も何も掛けずに寝ていると、急に何かに軽く触られたような気がしたのである。
しかし目を開けてみるとそこには俺の身体があるだけで何もない。どうやら妹の仕業ではないようだ。
しかも、少なくともこういうものは気付くと収まるものだと思っていたが、目を開けてからもその”何か”は
執拗に俺を触り続けている。・・・・・・夏だというのに若干寒気がしてきたな・・・・・・
俺は誰かに恨まれるようなことをしただろうか?いや、もしそうだとしても俺の周りに死人は出ていないはずだ。
じゃあこの”何か”は一体なんだ?本当に霊か?霊が無差別に呪いを掛けているとでも言うのか?

 

・・・・・・とまあ、普通ならこの後、「俺はその日一睡もできなかった。」とでも言うべきなのだろうが、
何故かはわからん。本当に何故かはわからんが、その”何か”に触られるのがだんだん心地良くなってきて、
俺はすぐに寝てしまったのである。何回でも言ってやる。何故かはわからん。俺がおかしいのか?

 

 

次の日、すっきりと起きれた俺は部室で長門にこのことを訊いてみたが、全くもってわからんらしい。
こりゃ俺が寝ぼけてただけかもしれんな。

 

しかしそれから一週間経った今日まで、毎日それは起こっているのである。しかも日に日に触る力が強くなっている。
そのおかげでその”何か”は足で俺の足を挟んでたり俺に左から抱きつくようにしている、ということがわかった。
とりあえずこれで人間っぽい形と言うこともわかったが、それはそれでなんか恐ろしい。
宇宙人未来人超能力者がいたのだから、悪霊がいたっておかしくも無いかもしれない。いやおかしいよ絶対。
もしかして俺に取り憑いて呪い殺すとか異世界に連れて行くとかするつもりじゃないだろうな?
・・・・・・長門ですらわからないことだ。俺が考えてもどうにもならないだろう。
明日は他の皆にも言ってみよう。そう思いながら俺はやはり心地良い眠りについた。

 

 

朝、制服の左肩にシミが付いているのに気付いた。昨日弁当食ったときに油でも飛ばしたんだろうか。

 

「おはよーキョン!・・・・・・え?・・・・・・そのシミ・・・・・・え?」
ああ、昨日つけたのかもしれんな。それがどうしかしたか?
「あ・・・・・・うん・・・なんでもないわ。」

 


「・・・わたしにはわからない。涼宮ハルヒによって一般的に霊と呼ばれるものが生み出された可能性も否定できない」
やっぱりハルヒなのか?なんとも迷惑なやつだ。いやまだ迷惑なことは起こってないけどな。
「あなたの部屋に霊が出ることによって、あなたの部屋に行く口実を作りたかったと考えれば辻褄が合いますが・・・」
なんでそれで辻褄が合うんだ。あいつが俺の部屋に来たいわけ無いだろ。
「・・・・・・」
えっちょっと朝比奈さん、目が怖いですよ。そんな目で見つめないでください。本当に怖いです。
「朝比奈さんは何か心当たりはありますか?一週間前に何があったとか」
「一週間前かぁ・・・・・・・・・あ・・・・・・もしかして・・・・・・」
あ、何かわかりました?
「あ、いや、えぇっと・・・・・・き、禁則事項です・・・」
朝比奈さんにそう言われるとそれ以上追求できませんよ・・・・・・
「そうですか、それならば仕方ないですね。」
「ない」

 

結局それ以降は何もわからなかった。朝比奈さんが何に気付いたかは気になるが・・・・・・

 

 

今日も寝床に入るとそいつがやってきた。やっぱり昨日より強くなってるな。
それでも別に痛いわけではない。むしろ何か優しさが感じられる。・・・得体の知れないもの相手に何考えてんだ俺。
その腕に抱かれつつ俺はいつものように眠りについた。慣れたもんだね。本当は慣れちゃいけないんだろうけど。

 

 

 

俺はさっきよりもリアルに抱きしめられる感覚で目が覚めた。
・・・ここはどこだ。俺の部屋の天井じゃない。まさか油断してたら本当に異世界に飛ばされてしまったのだろうか。
ふと下を見ると、俺は制服を着ている。はてこんなことが前にもあったような?思い出したくも無いが。
そして今までと圧倒的に違う所が一つあった。

 

俺を抱きしめている腕と足が見える。バッチリ見える。

 

そしてそれは俺の左にある胴体から伸びているわけだ。・・・・・・やけに可愛らしいパジャマを着ているこいつは誰だ。
まあなんとなく想像はつくわけで・・・・・・俺は意を決して左に顔を向けた。

 

 

俺の顔の3cm前にハルヒのすやすやと気持ち良さそうに寝ている顔があった。

 

 

ハルヒは黙ってりゃそりゃあもうトップクラスの美少女であり、その顔が俺の目の前にあったわけだから、
俺は驚きの声を上げて飛び退いてしまった。・・・・・・起こしちまっただろうか。あ、目開けた。
「うーん・・・・・・らによーキョンうるひゃいわねー・・・・・・ってキョン!?なんでここにひゃあ!?」
俺の存在に驚くと同時にベッドから落ちた。そりゃそうだよな。いきなり俺と一緒に寝てるんだからな。
おっと立ち直りが早い。
「ちょっとキョン!なんであんたがあたしの部屋にいるのよ!!」
いや多分お前が連れてきたからで・・・・・・ってここはハルヒの部屋か。意外と可愛らしい部屋だな。
ふと机を見ると写真立てがあった。そういや谷口が女子は机の上に好きなやつの写真を飾るものだ。
とか言ってたな。暗くてよく見えんが・・・・・・
「あー!!!!!!!!!見るなバカキョン!!!!!!!」
写真立てを倒された。こいつにも恥じらいというものがあったか。普段もそうしてりゃ良いのに。
「着替えるからどっかいけ!!!!」
こうして俺は部屋から追い出された。着替える必要あるのか?まあいいや。話したい相手もいたことだしな。
窓から見える空は灰色に染まっていた。

 

意外なことに古泉への電話はすぐに繋がった。様子はどうだ?
「あの時とは違って僕もいつもと変わらず入ることができました。でも普段の閉鎖空間と違うのは確かです。」
どういうことだ?
「神人が出る気配が無いんです。また、いつも感じる緊張した空気が今回は感じられません。
 涼宮さんの精神状態も悪くない。むしろすこぶる良好でした。僕の個人的な見解ですが、
 これは涼宮さんの夢の中を具現化したようなものなのではないでしょうか。それにあなたが呼ばれただけです。」
もしそうだとして、何で俺がハルヒの夢に呼ばれるんだ?
「・・・・・・もうあなたには何も言いませんよ・・・・・・」
何故そうなる。あーところでどうすれば戻れるんだ?わかるか?
「・・・・・・白雪姫、sleeping beauty。ではまた明日」
おいちょっとまてそれは勘弁ツーツーツー

 

やれやれ。またアレをやるのか・・・・・・
あのときより嫌悪感を抱いてないのは何故なんだろうね?

 

おいハルヒ、まだ終わらんのか?
「女の子が服を選ぶのには時間がかかるの!」
そんな真剣に選ばんでもいいのに。
10分後、ようやくハルヒは出てきた。
「おっ待たせー!」
・・・・・・お前はこれからどこに行く気だ。まるっきりよそ行きの服装じゃねえか。しかもポニーテールときたもんだ。
正直に言おう。そりゃもう可愛いさ。いや、可愛いというより綺麗と言ったほうがいいかもしれない。
で、そんな服でどこ行くんだ。
「もちろん外によ!散歩にでも行くわよ。」
何時だと思ってるんだ。親が怒るぞ。
「いいのよ。何やっても今は許されるわ。」

 

「どうせ夢だしね。」

 

 

俺たちは街灯に照らされながら夜(灰?)道を歩いていた。


「去年の5月ごろだったかに同じようなリアルな夢を見たのよ。なんかよくわかんないけどキョンと一緒にいてね、
 なんか青い巨人が校舎をぶっ壊しながら暴れる夢なのよ。」
思い出したくも無い記憶だ。やめてくれ。俺にとっては現実だ。今もな。
「そしたらキョンがいきなり『俺はポニーテール萌えなんだ』とか言い出してね、そのあとあたしに何したと思う?」
アッーアッーきこえなーいきこえなーい
「なんといきなりキスしてきたのよ!団長様の唇は神聖にして不可侵なのよ!これはもう極刑に値するわね!」
いやっ!やめてっ!
「ま、今ここにいるキョンはあたしの今の夢の中のキョンだし、言ってもしょうがないか。」
いや、これ以上ないくらいに効いてますよ団長様。
「そんなこともあって今日はポニーテールにしてあげたわよ。感謝しなさいよ?」
それもこれ以上ないくらいに効いてますよ団長様。

 

「疲れたからベンチかなんかで休みましょ」
俺の記憶ではこんなとこにベンチなどないはずだ。まあハルヒの夢の中だしな。どうとでもなるか。
案の定すぐにベンチを発見した。
俺たち二人は横に並んで座った。静寂に包まれる。

 

 

「・・・・・・どうせ夢だから言っちゃうけど、キョンにキスされたとき、正直結構嬉しかったのよ。」
へ?
「でも結局それは夢だったのね。ファーストキスがただのリアルな夢の中なんて笑っちゃうでしょ?
 相手が好きな人だっただけマシね。」
おいちょっと待て今なんて?
「だから夢の中のあたしのファーストキスの相手はあたしの好きな人だったの。その人は今あたしの隣に座ってる。
 どうせだからセカンドキスもその人とさせてもらうわ。そうすればちょっと勿体無いけど夢からも覚めるだろうしさ。」

 

――時が止まっている俺に、ハルヒはゆっくりと唇を重ねてきた。

 

 

 

気付けば俺は自室のベッドに汗だくで寝ていた。・・・・・・今回もきっとフロイト先生は爆笑だっぜ!
しかしさっきのはハルヒにとっては夢であるが俺にとっては紛れもない現実であり、
俺は実際にハルヒから愛の告白を受けてしまったも同然である。でもハルヒにとっては告白などしていないことになる。
・・・・・・俺は明日からクラスの後ろのうるさい奴とどうやって接していけばいいんだ。まともに顔を見れる自信が無い。
というか今まで寝るとき俺を抱いてたのはハルヒか。俺はハルヒに抱かれて気持ちよく寝てたのか。
そしてその見えないハルヒは夢が覚めたにもかかわらずまだ俺を放してはくれないようだ。
・・・・・・そう知ってしまうとなんとなく左脇の辺りにやわらかいものが当たってる気がするよ?
アッー!意識したら男の生理現象が起きてしまう!落ち着け俺!落ち着け愚息!
そんなこと言っても落ち着けるはずはなかった。これ以上の表現はしないけども。
この状態はいつまで続くんだ・・・・・・もう普通に寝れる気がしないぜ・・・・・・やれやれ。

 

しかし習慣とは恐ろしいもので、俺はハルヒ(霊)に抱かれつつ安らかに眠りについた。

 


さて今日もすっきり起きれた。今の落ち着いた俺ならハルヒといつも通りに話せるね、うん。

 

教室に入ると、いつかのようにポニーテールを揺らしているハルヒがいた。あの時より髪も伸びている。完璧だ。
いや完璧なのは昨日からわかっていたがな。

 

よう、元気そうだな。なんかいいことでもあったか?
「そうね、昨日すごくいい夢をみたから」
そりゃ奇遇だな。

 

なあハルヒ。
「何?」

 


世界で一番似合ってるぞ。

 

 

 

その後のことを少しだけ語ろう。

 

結局寝るときのハルヒ(霊)は収まることはなく、毎日のように俺はハルヒに抱かれて安眠しているわけである。
しかも毎週日曜日は必ず夢(閉鎖空間)の中にご招待されるようになってしまった。週一の夢(閉鎖空間)デートですか。
つまりそのたびに俺とハルヒがキスをしないと戻ってこれないわけで・・・・・・いや別に嫌ではないが。
「涼宮さんは二人きりでデートがしたいだけなのですよ。別にあの閉鎖空間も害は無いようなのですが、
 機関の皆を日曜の夜に起こすのも何ですし、さっさと現実でもくっついていただきたいのですが。」
いや、こう改めて面と向かって告白するのはちょっとな・・・・・・

 

 

結局ハルヒ(霊)はハルヒの能力によって生み出された、言葉では説明できないものらしい。(長門談)
でも長門も古泉もそれが生まれたきっかけが全くわからないそうだ。珍しいこともあるもんだ。
唯一わかってそうな朝比奈さんは、
「禁則事項です」
しばらく教えてはくれなそうだ。

 


(実はあたし最初に霊が出たその日に涼宮さんに1/1キョンぬいぐるみ(作:みくる)をこっそりプレゼントしてたんですよね。
 もしかして涼宮さんは抱いて寝てるのかな?そして『これが本物のキョンだったらいいのに!』とか思って、
 それでちょっと能力を発揮しちゃった。キョンぐるみを抱いてる感触だけがキョンくんに飛んで、
 最後には本物を連れてきちゃったって感じかな?・・・・・・あたし今日はちょっと冴えてますね!
 あーでもキョンぐるみのことどうしようかなぁ・・・みんなに言うわけにもいかないし、二人だけの秘密にしましょうか?)

 

 

 

 

「・・・・・・うーん・・・・・・キョンだいすき・・・・・・ぎゅー・・・むにゃ」

 


 fin

 

 

 

おまけ

 

「おいハルヒ、朝比奈さんも嫌がってるだろ」
「・・・・・・なによ、キョンはそうやっていっつもみくるちゃんのことばっか・・・・・・」
「いや、そういうつもりじゃ」
「あたし帰る!!」
「お、おいちょっと待てハルヒ!」

 

その日の夜 ハルヒ宅にて
「うぅ・・・・・・ぐすっ・・・・・・もう・・・キョンのバカ!」 ボスッ

 

同時刻 キョン宅にて
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うごっ!?」

 

 

「バカ!バカ!バカ!バカ!」ボスボスバスバス
「うぶはっおぼっうぁっげほっげほっ」

 

 

翌日
「ちょっとキョン・・・・・・その痣・・・・・・」
「・・・・・・昨日はすいませんでした・・・・・・」

 

(・・・・・・やっぱり言った方がいいのかなぁ?)

 

本当におわり

 

 

  ※続編:霊なのか夢なのか現実なのか


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