彼らはニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
ああ、やっぱり無視すればよかったのかなと少しだけ思ったが無視したほうがもっとひどい目に合うと分かるのでそう考えるのはやめた。
「あの団長の涼宮を、明日この教室につれてこい。」
「…なぜ、ですか?」
「女を犯す。それだけだ。」
「!?」
「お前はこの教室にあいつを呼ぶだけでいいんだぞ?できるよな?」
「それはできません!!そんなっ…そんなことっ!!」
「うるせぇ!!」
彼が髪の毛をつかんでいた手を振り下ろす。僕の顔面が教室の床に強く打ちつけられた。
そしてまた2回、3回と打ちつけられ、鼻血がボタッと床に落ちた。
「な、古泉。これ以上痛い思いはしたくねぇだろ?」
「…できません」
「しぶといヤツだな!!」
しゃがんでいた彼が立ち上がったかと思うと、教室に入ったときに殴られたお腹を蹴られた。
咳き込み、横に倒れた。僕の荒い呼吸が教室に響いている。
そしてまた一発、二発、と蹴られ、殴られた。
このままでは本当に好きなだけ殴られてしまう。けれど僕には大事な使命がある。
神をわが身恋しさに受け渡すなんてとんでもない。もしもしてしまえば僕はすぐ機関によって抹殺されるだろう。
できない。絶対にできない。
──でも、もう限界だった。痛くて痛くて、くじけそうになった。何度、やめてくださいと許しを請うただろうか。
暴力が急にやんだ。僕はゆっくりと顔をあげて男の顔をみる。
「…そういえばお前噂で聞いたけど、同じ部活の男が好きなんだって?」
ぎゃはは、と数人が笑った。
「…それ…は……」
僕は答えれなかった。僕自身もよくわからなかったからだ。
キョンくんに好意は抱いているが、それが恋愛感情なのかどうか分からなかった。
だから僕はいいえ、と答えれなかった。答えにつまった。
というよりもなぜ彼がその言葉を発したのか理解できなかった。
なぜいきなりその話になるんだろう。わからないまま僕は黙っていた。
「黙ってちゃわかんねーんだよぉ。」
「まさか本当なのかよ。ならケツの穴いれられてキモチイー!って叫ぶのかぁ?」
また笑い声が響いた。
僕はどうしようもなかった。
言い返す言葉が見つからない。
「ならしてやるよ、あの団長を連れてこれないならお前がかわりにキモチイー!って叫べよ~?」
「ぎゃはは、ちゃんときもちいい~んもっとーとか言えよ古泉~!」
「あ、ちょ…やめ……やめてください…!僕は…僕はっ!!」
声が恐怖でかれている。彼の手が僕のベルトをはずし、ズボンを無理やり脱がした。
そしてうつぶせにさせられ、下半身だけを上にむけられる。
無理やり彼の指が僕の穴にいれられた。抵抗したが両手が使えずほとんど無意味だった。
教室にはまだ、数人の笑い声が響いていた。
その後は思い出したくない。
彼らの精液が僕の体にたくさんかかっている。腕の拘束もいつの間にかはずされ、仰向けで僕は寝転がっていた。
「じゃあなぁ。明日、団長つれてこいよ?副団長さん。」
笑いながら彼らは去っていった。
僕はそのまま何時間も教室の天井をみつめたまま呆然としていた。
一体なぜこんなことが起きたんだろう。なぜ僕は男たちに犯されなければいけなかったんだろう。
何かが可笑しい。だいたい男と男がやるだなんて、同性愛者じゃない僕たちがする行為じゃない。
僕は涙をおさえて起き上がる。腰の痛みとお尻の穴の痛みが同時にきて顔がゆがんだ。
痛い。帰りたい。それしか考えれなかった。
ズボンのポケットにいれてあったポケットティッシュで体を拭いた。
お尻を拭いたとき、激痛が走った。同時に彼らとの行為を思い出して、吐き気がした。
耐えれなくなって、軽くぬぐっただけでやめた。
ズボンを履き、ベルトをしめた。シャツのボタンもとめ、上着のボタンもとめる。
ネクタイをしっかりとむすんで、扉の近くに落ちてあった鞄をもち、体をひきずるように靴箱に向かった。
靴箱につくと、誰かが立っていた。少し逆光で顔が見えにくい。
けれど僕の名前を呼んだ瞬間それが誰か理解し、うろたえた。
「……古泉。」
「……!!ど、どうされたんですか?こんな時間まで…涼宮さんとか、皆さんは?」
明らかな動揺を僕は隠し切れなかった。だがこんなときでも笑顔がつくれる自分に少し悲しくなる。
すると彼の眉間にしわがよった。
「…お前を待ってたんだよ。おいおい、どうした?髪の毛ボサボサだぞ。」
「え、あ、す…少し機関の仕事を教室で残ってやっていたんです…」
「……よく分からんが、大変そうだな。…かえるぞ。」
「は…はい…すみません」
「明日は部活こいよ。ハルヒご立腹だったぞ。」
そのせいで俺は理不尽な命令をどれだけ受けたか、と彼はため息をついた。
「それは申し訳無いことを…。明日、そうですね…明日は…行きます」
「当たり前だ。こなきゃ俺がお前の教室行って部室までひっぱっていくっつーの。」
途中で分かれ道になった。彼とはここまでだ。
「では、ここで。また明日。」
「おう。明日な。」
分かれたあと、僕は座り込んだ。と、いうよりも、彼の前で痛みを我慢していたから限界がきて崩れ座った。
体に力が入らなかった。
彼らのうちの一人が言った言葉が頭で何度も再生される。
それと同時に思い出したくない行為も再生された。また、吐き気がした。
後ろから車が近づいてくる音がした。
「…お迎えにあがりました。」
「……新川さん」
車の中で、新川さんは何も聞かなかった。
僕は疲れて車の中で寝てしまった。
朝、体が重かった。目覚めはいい方だが昨日の出来事をああ何度も夢にみると寝不足になる。
しかしいつまでも寝てはいられない。僕は無理やり体をおこして学校へ行く準備をした。
教室に入ると、あの昨日のクラスメートが見当たらない。
今日はきていないんだろうか。そうだとすれば嬉しい。そう思ったのもつかの間、後ろから声がした。
「おはよう、古泉ぃ」
びくりと体が震える。振り向くと、彼らがいた。
僕は笑顔で挨拶をかえし、そして自分の席へと逃げた。
その日の授業はほとんど頭に入っていない。ノートはほとんど真っ白だった。
学級委員の「起立!」という声に僕は慌てて椅子から立ち上がった。いつの間にか全部の授業は終わっていたようだ。
僕はあの男たちにつかまる前に部室へ行く準備をして走って部室に行った。
「ん?どうした古泉、そんなにあわてて。」
「い…いえ…涼宮さんがもうきていたら、と思うと…」
「それがあいつ今日はちょっと遅れるってよ。なんか職員室に向かってた。あと長門も朝比奈さんも遅れるって。」
「そうですか…」
部室に入るとキョンくんが一人でパソコンをいじっていた。
彼が座っている後ろの窓にSOS団のサイトをみているのが反射してうつっていた。
カチカチ、とマウスの音が部室に響く。
「……あ!?」
彼が素っ頓狂な声をあげた。
そして僕とパソコンの画面を交互に見ている。
「…?どうしたんですか?」
イスから立ち上がり、彼のほうへむかった。
「こ、古泉!やめとけ!見るな!く、くるなっ!!」
やけに彼があわてている。静止する彼の言葉を無視して僕は画面を覗き込んだ。
そして固まる。なぜだ、どうしてこれが。という言葉が頭の中で何度も繰り返された。
画面には受信したメールに添付された画像がうつってあった。──昨日の行為を写した写真だった。
「悪質なイタズラ、だよな?」
確かめるように彼が僕に聞いた。
「どうしてこれが…だ、誰からですか!?」
「まさかこれ、本当にお前なのか…?!」
「ちが…僕は、こんな…こんな…僕は…!」
信じてください、と言おうとして彼の手を持ったときだった。
彼が反射的に手をひっこめた。
「あ…。す、すまん。」
拒絶された。彼の視線がまたパソコンの画面に動いた。
僕も同じように画面を見ると添付された画像には文がついていた。
本文:今日は団長を犯す日だ。約束したはずだ、お前がつれてくるって。
はやくこないと、お前の部の部室にのりこむ。
「これ…本当か…?」
彼が僕を見る。
違う、と言おうとしたけれどあまりのショックに声が出ない。
ノドがからからに渇いている。
「…すまん、俺は帰る。」
カチカチッと音をさせてパソコンの電源を切る彼を僕はただただ何もいえないまま見つめていた。
バタン、と強くしめられたドア。結局今日は誰もこなかった。
きっと彼は僕を軽蔑しただろう。
僕は涙を拭いて、鞄を持ち電気を消し、部室から去っていった。
次の日からだった。キョンくんに少しずつ無視をされ始めた。
朝比奈さんはなんだかよそよそしいし、涼宮さんは僕に話しかけることをしなくなった。
長門さんは……相変わらず黙々と本を読んでいる。
あの日、彼女たちをつれていかなかったためにあのクラスメイトから暴力と、そして無理やり犯すというイジメが始まった。
機関からは自分で対処しろ、と突き放された。
僕は既にくせになった笑顔で暴力に耐えた。その笑顔のせいで何度も顔面を殴られた。
けれど僕は一般人に危害を加えることなんてできないと思っていたから、抵抗はしなかった。
いつの日からか、僕の机に落書きがされるようになった。
教科書も、ノートも、鞄も。
ホモは死ね、ホモ菌、気持ち悪いから学校に来るな…
けれどイジメは僕のクラスだけでしか行われない。
廊下では普通に僕の横を通り過ぎるけれど、教室内で僕が横を通り過ぎると気持ち悪いんだよっ、と突き飛ばされたことがある。
だから僕は休み時間は極力動かないで机の上で次の授業の予習をすることしかしなくなった。
部活は相変わらず行っている。彼らはまだ僕によそよそしかった。
きっと僕がイジメられているなんて知らないだろう。
ある日のことだった。たまたまお手洗いの帰りにキョンくんにばったりと廊下であった。
うしろには彼の友達がいる。たしか、谷口くんと国木田くんだったはずだ。
「ちょうどいいじゃねえかキョン!古泉に借りれば?」
谷口くんが彼の肩をぽんぽんと叩いて言う。彼はすこし考えたあと、言った。
「あ、…あのな、体操服忘れてきてしまってな。…ジャージでいいから、貸してくれないか?」
気まずそうに頬をぽりぽりとかきながら目線を合わさず聞いてきた。まだあの写真が引っかかっているんだろう。
まさか話しかけられると思わなかったのと、嫌っている相手に物を借りるなんて行為をするとは思わなくてあ、え、とどもりながらも了承した。
谷口くんがよかったなー!と言い、国木田くんがありがとね。と言って、ほらキョンもお礼言いなよ、とせかした。
「……その、洗濯して明日かえすな。」
「あ、はい…わかりました…」
僕は急いで教室に戻る。
落書きされたロッカーから自分のジャージを取り出した。