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キョンくんのクラスにつくと、ちょうど彼が教室をでてきた。
彼が僕に気付いてジャージを受け取り、すまんな、と言って少し笑った。

次の日、キョンくんが教室にきた。
よりによって、僕が暴力を受けているときに。
暴力をあたえていた人たちの動きがとまる。どうにかして取り繕うと口がぱくぱくと動いていた。
彼はずんずんと目の前までくると、僕の腕を引っ張り無理やり教室から屋上へと向かった。

「…なんだよ、あれ。おまえ、なんで……」

屋上につくと、彼が戸惑いながら僕に問いかける。
どうにかして誤魔化そうと、彼に心配をさせてはいけないと思った。

「……げ、劇の…練習です」

苦しい言い訳だった。言い訳にもならない、抵抗の一言だった。
いじめられていると、自分で認め、彼に泣きつくなんてできない。
機関では僕は笑顔で何でもこなす、エリートだった。だから、これぐらいのことはなんとか我慢できる。
とにかく彼に心配させてしまうのがとても嫌で、僕はいろいろ言い訳を考えた。

「嘘つくなよ…本当のこと言えよ!」

彼の背中が、少しだけ震えていた。

 

「いじめられてんのか?あの、…あの写真も、いじめられてたんだよな?」
「……違います…僕の、…汚くて醜い…趣味です。」
「嘘をつくなってんだよ!俺、あのときは事情を知らなかった。だから…気持ち悪いって…思って…」
「そうです…僕は汚くて醜い趣味をもった、気持ち悪い人間なんです。」

笑みがこぼれた。
直すにも直せない、昔からの癖だ。

「どうしてあの時、言い訳しなかった?きっとあの写真で、お前は脅されてたんだろ?」
「……いいえ…僕は汚い人間ですから…彼らに犯してもらうかわりに、涼宮さんと貴方を引き渡すと言ったんです。」
「そんなこと、しないだろ。お前は機関の使命を守るためならどんな手段も構わなかったはずだ!あいつらをぶん殴るぐらいできただろ!?」
「…機関の言いつけを守るより、自分の欲望に走った…汚い人間ですから。」
「いい加減にしろ!!」

パシンッと渇いた音がした。
彼が僕の頬を殴っていた。

「お前は…ハルヒが犯されないように自分が全部引き受けてたんだろ。…なあ、古泉。」

 

僕は返事をしなかった。
彼は僕の腕をぐい、と引っ張りそして強く抱きしめた。

「…なあ古泉、もういいんだ。嫌なことがあったら泣いていいんだよ。今みたいに。」
「……。」
「よく今までその涙に耐えてきた。俺にもハルヒにも酷い扱い受けてたってのに、お前は俺らを裏切らなかった。」
「…違います…僕は……」
「すまなかった。ハルヒの分も俺が謝る。すまなかった。それから…お疲れ。もう、休め。」

彼の肩が震えていた。もう一度彼が強く僕を抱きしめる。同時に僕はしゃくりあげて泣いた。
機関に入ってから一度も泣いたことがなかった僕は、その分を取り返すかのように、大きな声で幼い子供のように泣いた。


それから僕が泣き止んだのは何十分もあとのことだった。
少し恥ずかしくて、照れて笑いながらキョンくんを見た。
彼はこっちみるな、うっとうしい!と言いながら顔を背けていたのだけれど目が真っ赤になっているのにその時初めて気付き、彼も泣いていたのだと知った。
少しして落ち着いたころ、彼が今後のことについていい方法があると言った。

「長門に頼もう」

そう言って携帯電話で彼女と一言二言交わして屋上へと呼び出した。
彼女はかなり早くついた。

「何か、用?」
「長門にしか頼めないことがある。」

その後は早かった。彼女に頼むと「…分かった。」と言って何か呪文を唱えたかと思うと「いじめがある前に戻した」と言って踵を返し去っていった。

あれだけで本当に終わったのかどうかは分からないが、すぐにキョンくんの言葉でそれが本当なのだと納得した。

「…あれ?なんでお前と屋上にいるんだ俺は。」

彼は僕がいじめにあっていたことやあのパソコンに送られてきた写真のことをすっかり忘れていた。
教室に戻るとクラスの人たちが普通に話しかけてきたし、僕の机は綺麗に戻っていた。
鞄も、靴も、体操服やロッカー、教科書類すべて何もなかったかのように落書きや傷は消えていた。
部室にいくと涼宮さんはいつもどおり僕に話しかけてくるし、朝比奈さんもお茶を出してくれる。
いじめはなかったことになっていた。そのことを覚えているのは僕。
そして、長門さんは口には出さないだけできっと覚えているだろう。

それをのぞくと、僕には日常がもどっていた。
あとは僕をいじめようと企てているらしい彼らぐらいだった。またいじめられたらどうしようと心の片隅に黒い塊があった。

そんな塊を抱えて帰っていたある日だった。
あの僕をいじめていたクラスメイトが大きなダンプカーに轢かれる瞬間を見た。
夕暮れ、彼らは大きな夕陽に照らされて綺麗な色をしていた。赤と橙が混じった、素敵な色だった。
彼らの元の形はほとんど分からなかった。顔がつぶれていて、どこが何なのか分からない。
あ、これは下の歯だとかこれが舌だな、とか色々見ていた。
人を轢いて真っ青になった運転手は僕を見て言う。おまえさん、人が死んでるのになんてぇ顔だ。と。
僕は言った。


「笑顔は癖のような感じなもので。」



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