今はゴールデンウィーク。
つい最近まで春にしては寒い日が続いていたのに、今度は暑い日が続く。

そんなある日のダイエーイの店内。
相変わらずイトウヨウカドウのように高校生でも遊べるゲームがない子供専用みたいなゲーセン。
唯一遊べるのは、ポップンミュージッ君やUFOキャッチャーぐらいだろう。
その前にある百円ショップで、俺はそいつと遭遇した。
「・・・なんで、お前が居る?」
「―――不明―――何となく気分・・・」
もう一回言うがそこはダイエーイ。こいつが居そうな場所じゃない。
俺は目の前に居る、物凄い髪の毛の少女の姿に唖然としていた。
髪の毛は無理矢理なポニテ。いや、ポニテはポニテだし悪くは無いんだが良いわけもない。微妙すぎる。
そして、手には蕎麦粉。宇宙人がどんな買い物だ。
そんな俺の目の前に居る奴はあの九曜だ。


いつも曜日は九曜日 プロローグ兼ねた第一話「九曜、髪をすいてみました」


相変わらずの無表情。
いや・・・まぁ、出会った当初に比べれば多少は表情が柔らかくなったように見えるが。
「―――これからお昼ごはん食べに行く―――CoCo壱番屋、一緒にどう?」
「ココイチかよ。・・・あぁ、まぁ、暇だから良いか」
実際、悪い気はしないしな。ちょっとばかり、実は九曜の事が気になってるし。
蕎麦粉買った帰りにココイチ。素晴らしいと思うね。
あぁ、そうとも。この上ないぐらいシュール過ぎやしないか?
わっけが解らんね。と、言うか
「さっきからその髪型が気になるんだが、切らないのか?」
「―――おかしい?」
「凄くおかしい」
「―――じゃあ、切る―――でも、切り方知らない・・・手伝って」
長門のバックアップより何倍も出来が悪いようです。
九曜は俺の手を握ると大抵床屋で済ませる俺はそうそう行かないような店に入った。
そして、入ってそうそう一言。
「―――切りたい」
という声が空間に響いた。
何と言うか、直球かよ。ストレート過ぎにも程があるだろ。
「予約はしてないですねぇ?当店は初めてのご利用でしょうかぁ?」
やけにキャピキャピした感じの、しかしどこか憎めない凄く明るい店員が九曜の対応をする。
光と闇みたいに正反対な二人だな。
「―――初めて」
「解りましたぁ。そちらの方は切りますかぁ?」
「いえ。俺は結構です」
「はぁい。では、そちらの女の子こちらへどうぞぉ」
九曜は店員に導かれてシャンプー台へと向かう。
髪の毛を洗うためだ。・・・え?

―――あの髪の毛を・・・洗う?

シュールだ。有り得ないぐらい非現実的だ。モップをシャンプーで洗うようなものだぞ?
奥から「痒いところはありませんかぁ?」という声が聞こえた。
店員よ、あんたは気にならんのかね。絶対髪の毛がへばりついているだろうに
その後、洗い終えたらしい九曜と店員がカットの為に例のごとく鏡の前に座る。
「今日はどんな感じに切りますかぁ?」
「―――・・・どんな感じ?」
何故そこで俺に尋ねる。宇宙人の髪型なんて聞かれても困る。
でも、まぁ、聞かれたんだから俺が好きなように答えちゃえば良いよな。
「・・・さぁ?まぁ、すいてもらったら良いんじゃないか?ポニテが似合う程度に」
「―――・・・そんな感じで。あと―――なるべく可愛く」
「解りましたぁ~♪」
店員がハイテンションでさっそくハサミを手に持った。
―――ジョキジョキ。ジョキジョキ。
ある一定の間隔で鳴る髪の毛を切る音。
―――ジョキジョキ。ジョキジョキ。
それを聞いてたら・・・・・・眠くなってきた。寝よう。
どうせ、切り終えたら起こしてくれるだろう、誰かしらが。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
・・・。
ユサユサ。
ん・・・・・?
ユサユサユサユサユサユサユサ。
「んぅ・・・?」
誰かが、俺を揺さぶっている。俺は目を開けた。
「カット完了しましたぁ~♪ご確認してあげてください~ね☆」
あの店員だった。ニッコリとした鶴屋さん顔負けの超笑顔である方向を指差している。
俺はまだフォーカスの合わない視線をそちらに向けた。
そして、焦点を何とか力ずくで合わせようと努力する。
ハッキリと対象物を視認できるようになると、俺は目を大きく見開いた。
「・・・九曜?」
「―――うん」
そこにはちょっと短くなった、とはいえまだ異常な髪の毛の長さの、だけど、大分まともになった九曜が居た。
こうしてみると、結構可愛いかもしれない。
雪のように白い肌に、長い長い緑髪。これは、ヤバい。
「ポニテにするとこうなりま~す♪」
店員がゴムで九曜の髪の毛を纏める。
それは、凄く俺が求める理想のようなものだった。
「―――どう?」
「可愛いんじゃないか・・・相当」
ピクッ。
俺の言葉に九曜がそんな反応を示した。そして、
「―――ありがとう」
と無表情に―――だけど少し頬を赤くして―――言ってきた。グッと来た。
「ありがとうございましたぁ~♪」
店員の明るい声に見送られ、俺達は店を出た。
その後、ココイチに入ってカレーを注文して、美味しいカレーを堪能した後に出た。
そして、近くの公園に寄ってベンチに座る。
適当に九曜にはココア、自分自身にはお茶を買う。
「―――今日貴方を誘ったのは・・・偶然じゃない―――ずっと、考えていたから」
淡々と喋る九曜。
「何を?」

「―――好き」

「ブフッ!?」
俺は、口から茶を噴出さずには居られなかった。
「―――貴方が、好き」
ほんのりと赤い頬で無表情。そんな矛盾だらけな顔で俺をまっすぐ見つめて言ってくる。
しかし、俺の反応を見るや無表情のまま―――多少眉がショボーンとした気がするが―――ぽつりと一言。
「―――やっぱり、駄目?」
と聞いてきた。
「―――解ってる。理解している―――私は、貴方には有害―――だけど、好き・・・」
ポロリと、九曜の目から涙が落ちた。・・・無表情の涙。何か知らないがシュールだ。
だが、状況が状況なだけに笑えない。心の中で密かに笑う事も出来ない。
相手が、本気だからだ。
「仕方ないな・・・顔上げろ」
「―――ん」
このセリフ、本来ならキス用だろうが、俺はそんな事出来ない。だから、抱きしめた。
「・・・俺はお前が気になっている。だけど、好きかは解らない」
「―――うん」
「・・・そんな中途半端な状態で良いなら、こんな俺で良いなら・・・」
「―――いいの?」
「構わない」
その言葉に九曜が俺に腕を回してぎゅっと抱きしめてきた。
大した力じゃない。けど、必死に俺を抱きしめているんだと解る。
俺達はそんな風に動き出した。
そんな俺達の様子を、陰からこっそり覗いている奴が居た。
っつか、居る。めっちゃバレバレやん!!
「てい」
「ぐふぁっ!!」
とりあえず、後ろから接近して踵落としを食らわせた。
「誰だ、あんたは」
「天蓋領域と申す。今は、アドバーグ・エルドルを名乗っておるものじゃ」
天蓋領域?・・・あぁ・・・この人が。・・・って。

めっちゃおっさんじゃねぇか!!

「いやぁ、人間っていいものですな~」
「―――パパ、何しに来たの」
ん?パパ?・・・パパ!?
って・・・あぁ、そうか。九曜の創造主だもんな。そりゃそうだ。
「一応人間の世界を見て回ってたら楽しくなっちゃってなぁ。あははははは!!」
・・・マジ、ただのおっさんだ。
「そうじゃ!思念体の方々によろしく伝えておいてくれ。あはははははは!!」
・・・うぜぇ。
そんなこんなで、俺は天蓋領域ことアドバーグ・エルドルと出会った。
この時はまだ知らなかった。

まさか、後に起こるバカ騒ぎがここから始まろうとは。

 

 

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最終更新:2007年06月07日 23:02