~プロローグ 旅立ちの日~
「じゃあ、行ってくる」
俺を見送る家族に声をかけて、荷物を持った。
「キョンくん、ほんとに行っちゃうの? 寂しいよぉ……」
まだまだかわいげのある妹の頭を撫でてやる。しばらく会えないとなると寂しいもんだ。
「ずっと会えないわけじゃないから大丈夫だ。帰ってきたら遊んでやるから」
「……約束だよ?」
あぁ、約束だ。再び荷物を持ち直すと、親といくつか声をかけあってその後歩き始めた。
そう、俺は自宅を離れて暮らすことになる。理由は県外の大学に行くためだ。
特急で片道一時間を電車に乗って行くわけだ。地元の奴等としばらく会えなくなるのは悲しいな。
あぁ、そういえばもう一週間か。ちゃんと準備をして、出発したかな? あいつは……。
「行ってくるわ。心配しないでいいからね、ママ」
親父は朝早くから仕事だから、見送りはママだけ。それでも車で駅まで送ってくれるからありがたいわ。
「ハルヒ、元気でやるのよ。……それと、パパからよ」
手渡された茶封筒。中を覗くと、現金と手紙が入っていた。
『おこづかいだ。たまには帰って来いよ』
きれいな文字で、とても短い一文だけど愛情がわかる親父からの手紙だった。
ありがと……パパ。
「それじゃ……またね」
あたしはママに手を振って駅の中へと歩いて行った。あたしも4月からは大学生。
県外に出て行くんだけど、心残りはSOS団のみんなに会えなくなることね。
……あ、ちょっと顔が見たかったな。しばらく帰ってこれないもんね。
キョンはどうしてるかな? ちゃんと家を出たかしら? 顔が見たい。一週間も会ってないから。
電車の中ではずっとそんなことを考えていた。そしたらずっとずっと早く着いたように感じるからね。
あたしは手荷物を持って、電車から外に向かって歩きだした。
駅から徒歩5分程度があたしの家の場所。破格の買い物だったわ。
新しい場所、違う県。不思議もたくさんありそうな雰囲気で、自然と足取りが軽くなる。
もうすぐに家に着く。あーもう! 足が勝手に走っちゃう!
かなり速いスピードで走っていたのか、すぐに新居に着いた。
鍵は開いている。どうしてって? それはね……。
あたしは思いっきりドアを開き、靴を脱いで玄関に荷物を放り投げた。
そして、部屋の中に走って行って……抱き付いた。
「キョン、会いたかった!」
「俺もだよ、ハルヒ。もう待ちくたびれたし……ずっとこうしたかったぞ」
キョンの唇があたしに乱暴に押しつけられ、あたしは目を閉じてそれを受け入れる。
そう、あたし達は恋人関係にあるの。そして、誰にも内緒で同棲をする。
行く大学も一緒。一週間会わなかったのはここで再会する時の喜びを増やすため。
ずっと一緒にいたいのよ。だって、キョンが好きなんだもん……。
好きで好きでたまんないの! もう止まんない。久しぶりに顔見たら……やっぱり好き! 超好き!
「わかってるよ、俺も本当に我慢したんだぞ。何回メールとか電話を我慢したと思ってるんだよ。まったく……妙なことを考えやがって」
キョンには迷惑かけちゃったかも。でもいいわ。その迷惑があったからこそ、こうやって愛し合ってるのを確かめられるんだから。
「まぁな。……さぁ、荷物を片付けて飯でも行こうぜ」
キョンと離れて、あたしは玄関に荷物を取りに行った。そして、家の中を見回す。
今から始まるのよね、キョンとふたりっきりの幸せな生活が……。
プロローグ おわり