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~1 平日の寂しさ~


「ただいまー……」
 誰もいない部屋にこだまするあたしの声。キョンはまだ帰ってないみたい。
 まったく何処に寄り道してんのよ、あたしというものがありながら。
 今日のご飯当番はあいつだから作る気にもなんない。っていうかキョンがいないとご飯の準備なんてする気にならないわよ。
 早く帰って来なさいよ、バカ……。


 いや、まさかこいつが来るとは思わなかったぜ。大学の正門で待ち構えて、よくハルヒに会わなかったな。
「骨が折れましたよ。涼宮さんから隠れつつあなたを探すのはね」
 そう、超能力野郎が俺の目の前にいる。進学先も引っ越し先も教えてなかったのにな。
「進学先だけは学校で聞けましたよ。引っ越し先は未だにわかりません。涼宮さんの力で調べられなくてね」
「どういうことだ?」
「あなた達が二人で住んでいるのは知っています。その生活を誰にも邪魔されたくないと願っているんでしょうね、羨ましい限りです」
 ハルヒがそう思ってくれてるならうれしい限りだ。お前もバイトがなくなってるなら良いだろう?
「いえ、僕個人としてはあなた達二人が幸せならばそれでいいのですよ。今日の用件は別です」
「なんだよ」
「くれぐれもケンカをしないで欲しいと。それと、ちょっとした気持ちです。あなたが大学に受かるとは思っていなかったので、お祝いですよ」
 古泉は俺に金をいくらか手渡して微笑んだ。確かに金銭的には助かるが、バカにされたみたいでムカツクな。
 俺が大学に入ったのがそんなに意外ですか。そーですか。
「まぁいい。とりあえずハルヒを待たせてるからまたな。尾行てきたりなんかしたらハルヒを暴走させるからな」

 古泉は苦笑いで「それだけは遠慮しときますよ」と言うと、後ろを向いて歩き去った。
 あいつだけはいつまでも変わりそうにないな。……おっとマズい。ハルヒが腹空かせて待ってるな。
 早く帰るとするか。買い物はいらなかったはずだ。
 俺はゆっくりと家に向かって歩きだした。
 古泉の話にあった『ハルヒが今を幸せに感じている』というのを聞いてなんだか抱き締めてやりたくなったぜ。
 飯は後でも許してくれるか? ハルヒは食いしん坊だからな。
 とりあえず帰ったら抱き締めてやる。俺のわがままもたまには許してもらうぜ。


「キョン……遅い……。お腹空いた……寂しい……」
 頭で思ってることが愚痴になって口から出てくる。もう夜の8時。
 あたしが帰ってから3時間は経つのにまだ帰ってこない。
 せめてメールの一つくらいくれたって罰は当たんないんじゃない?
 携帯を開いてみる。暇すぎて数えちゃったわ。これが125回目。
 着信は相変わらず無いし、メールを問い合わせても無し。あたしもう『キョン欠乏症』で死んじゃうかも。
 あ、気が遠くなってきた……っていうか眠い……。


 寝ちゃったのかしら? っていうかなんか暖かいような暑いような……。
「んわっ!」
 驚きのあまり声が出ちゃった。だって目の前にいきなりキョンの顔があるなんて……。
 あたしはキョンに包まれるようにコタツで寝ていたみたい。……違うわね。
 コタツで寝るあたしをキョンが抱き締めたのよ。だってあたしが寝た時にはキョンはいなかったんだから。
 なかなか面白いことをしてくれるじゃない。あたしの機嫌は少し直ったわよ。

 時計に目をやると、もう10時になる所だった。いい加減あたしのお腹も限界みたい。
 起こしてご飯作ってもらおっと。でも、その前に……。
 あたしはキョンに顔を近付けて、唇を当てた。頬から首、そして唇。
 ……よし、満足! キョン、起きなさ……。
「ルール違反じゃないか? 人が寝てる間にキスして自分だけ満足だなんてよ」
「ちょっ……あんた起きてたの!? って痛い、痛い!」
 キョンはあたしを思いっきり抱き締めて、サバ折りのような状態になっている。
「お前ばっかり満足するのもなんだからな。俺も満足するまでこうしとくぞ」
「本当に痛い、痛いから! うー……調子に乗るな!」
 腕に噛み付いて無理矢理キョンから離れると、頬をはたいた。
 あたしはお腹が空いて気が立ってるの! さっさとご飯を作りなさい!
「いや、出来てるんだが」
 目の前には綺麗に食事の準備がしてあった。今まで気付かなかったのは恥ずかしいわね。
「じゃあさっさとご飯を食べるわよ!」
「……やれやれ」
 お世辞にも美味しいとは言えない料理の味。見た目だけは一級品なのに。
 だけど、あたしが一番好きな味ね。何度も言うけど、美味しくはないのに。
 やっぱりあたしだけの為にキョンが作ってくれるから好きなのかな?
 ……あー、ダメね。もう本当にキョンにべた惚れよ。もっとあたしがキョンをこき使うような関係になると思ってたのに。
 これじゃ対等な立場じゃない。うーん……悪くないけどさ。物足りないわね。
 特に不思議とか普通じゃない感じとか。
 でも、キョンと二人で探索してもただのデートになっちゃうし……。
「ハルヒ、口開けろ」
「何よバカキョン。あたしは今、考えご……むぐ……」

 これなに? キョンの料理じゃないみたいに美味しい。コンビニで買ってきたのかしら?
「今、美味いって思ったろ。自信作なんだよ、これは」
「お、思ってないわよ!」
「ふーん……じゃあ残りは俺が食うからな」
 え、ちょっと……そんなのって無いんじゃない? 目の前でキョンが口に運ぼうとしてる。
 やっぱり食べたいかも。でも、今さら言うのは恥ずかしい。……意地張ってないでもらえばよかった。
「よだれ垂れてるぞ」
「うそっ!?」
「うそだよ。食いたいなら俺に謝れよ、ハルヒ」
 む、ムカツク……。でもキョンの初めて美味しかった料理は食べたい。
 あたしの頭の中で天秤が揺れる。プライドか、欲望か。そして結論が出たわ。
「……あ、おい! 勝手に食うな! しかも素手で!」
 キョンの箸から素手で料理を奪って口に入れた。あー、おいし。
「まあまあね。上達に免じてあたしが後片付けしたげるわ」
 こう言った後にキョンはやっぱりあの言葉を発した。
「やれやれ」
 やっぱりキョンがいると寂しくない。ずっと暖かい気持ちでいられる。
 あたしが先に帰って寂しいのもお釣りがくるくらいうれしい気持ちをもらえる。
 ……うん、明日からは一人の時も我慢しようかな。その後に来る時間を楽しみにできるからね。
「おすそわけ!」
 あたしはキョンに口移しで半分わけてあげた。優しいでしょ?
「……今日の飯の中で一番美味いぞ、畜生」
 うふふふふ。そりゃそうでしょう。だって……。
「あたしの愛情がたっぷり入ってるんだから!」


~1 平日の寂しさ~おわり


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