『God knows』

~11章~

寒い冬。
俺は冬服とコートに身を包んだみくるさんと手を繋ぎ、坂を登っている。
「もう、すっかり真冬……ですねぇ…寒い、です。」
俺はクリスマスにみくるさんからもらったマフラーをかけてやった。
「これ、使ってください。俺はみくるさんと手、繋ぐだけで暖かいですから。」
我ながら歯の浮くようなセリフを吐いたな。
「あ、ん~…でもぉ……せっかく、作ったんですよ?キョンくんに……つ、使って欲しい、です……。」
みくるさんは少し膨れっ面で俺を上目遣いで見てくる。

何度見ても、正直、たまりません。
俺は、少し長めに作ってあるマフラーを少し自分の首にかけた。
「これなら、一緒に使えますね。……少しくっついて窮屈ですけどね。」
「うふふふふ、窮屈だけど……あったかい、です♪」
最近は家の中でも外でもくっつく事が多いな。だって、寒いだろ?
だからと言って、俺達はまだ、《性行為》なるものをやってはいない。
みくるさんが求めてくるまで、俺にはそんな気は無いしな。
そんなこんなで、坂を登りきり、学内に入る。
「じゃあ、みくるさん。また…。」
「あ、うん……キョンくん、ま、また昼休みに…。」
そう、俺達は昼休みには一緒に弁当を食べている。
……長門のいる部室でな。
「キョ~ン~!!また朝から朝比奈さんとイチャついてんのか!?」
…このいつまでも五月蠅いのは谷口か。
ちなみに、国木田は年下の1年の娘と付き合うことになり、谷口は完全に孤立化してしまっている。憐れな奴だ。
「くやしいならお前も彼女を作れ。……お、ハルヒだ。ハルヒ~、教室まで一緒に行こうぜ!」
「あら、キョン。おはよっ!……あのバカはほっといていいの?」

「いいさ。それより寒いから早く教室行こうぜ。」
「それもそうね、あ~、寒いわ……。」
「………………………。」
憐れな谷口よ、そんな所で放心してたら風邪ひくぞ。


そして放課後、なんの変化もなく普段通りのSOS団。
………にはならなかった。
「朝比奈さん。お尋ねしてよろしいでしょうか?」
「は、はい!?な、なんでしょう、古泉くん…。」
「一番近くの私立短期大学に、奨学金などを使って行く。というのは本当の話でしょうか?」
おいおい、俺しか知らないはずだろ?……教師からか。
「あれ?……あの…えっと…は、はい。ほ、本当……です。」
ん?……空気が変わった気がするぞ。
「………ダメよ。」
「ふえっ?……す、涼宮さん…今、なん…て?」
「ダメ。ぜっっ……たい許さない!!みくるちゃんは来年も、此処に来て、あたし達と遊ぶの!」
「ちょ……ハルヒ!無理に決まってるだろ!?」
「短大なんか…行かせない。みくるちゃんはあたし達と来年も過ごすの!」
「ハルヒ!ワガママを言うな!!」
「わたし……も………。」
「な、長門?」
「わたしも、短大になんか……行って欲しくない。」

みんながわかっていることだ。だが、仕方がない事でもある。
「あのな、二人と……「涼宮さん、長門さん……。」
みくるさんが珍しく、はっきりとした口調で話し始めた。……かと思うと、目に涙を溜めていた。
「わたし……が、一番……ひぐっ、離れたく…うぐっ……ないんですよぉ!?」
「みくる……ちゃん…。」
「だ、だって!み、みんなは一緒の学年なのにぃっ……わたし…わたしだけ一つ上で……ぐすっ、だ、だけどみんなと……少し、でも、な、長く……一緒に居たくてぇっ!」
「………朝比奈…さん。」
「や、やっと…名前、呼んでくれましたね……ぐすっ、長門、さん。……でも!ふ、二人とも、ずるいです!そ、そんな……わが、まま…うぐっ、言われたら…決心が、揺らいじゃうじゃ……ないですかぁ……うぅっ…あぁぁぁぁん!」
とうとう、みくるさんは大声で泣き出した。
「あ、あたしだって……言いたく、なかったわよぉ!…う、うぅっ…うわぁぁぁあん!!」
「わたし……も、そんなつもりじゃ……ぐすっ、ううぅ……。」
ハルヒも長門も泣き出した。
3人が身を寄せあって泣いているのを見て、俺と古泉は部室の外に出た。

「……お前は泣かないのか?古泉。」
「ふふふ、ご冗談を。そもそも、あなたの家に行けば何時でも会えるでしょう?」
正に、その通りだ。
「俺たちがイチャついてる時は会えないが、な。」
「あなたも言いますねぇ。……しかし、彼女達には手放したくない程、朝比奈さんのいる《学校生活》が楽しかったのでしょう。」
だろうな。やはり、男には男の、女には女しかわからないことがあったんだろうな。
「古泉。中の3人が落ち着くまでコーヒーでも飲みに行くか、……お前の奢りで。」
古泉は肩をすくめ、苦笑する。
「まったく……。まぁ、あなたのそういう所、僕は嫌いじゃありませんがね。」


俺達は30分程、話しながらコーヒーを啜った。もちろん、古泉の奢りだ。
さて、俺達が部室に戻ると、元気な声が聞こえて来た。
「みくるちゃん、待ちなさ~い!!」
おぉ、もう元気を出したか。
しかし、彼氏として俺はハルヒに襲われるみくるさんを助けなければならない。
「古泉、止めるなよ?」
「やれやれ、仕方ないですね。」
バンッ!
俺は勢いよく扉を開けた。
「「「「「……………」」」」」
ザ・ワールド、時が止まった。

理由か?
長門とみくるさんが二人がかりでハルヒをやりたい放題にしているからだ。
「キョ、キョンくん。見てて……良いですから…と、止めないで、ね?」
満面の笑みだ。……とても怖い笑みだがな。
「や、やめてぇっ!!……あんっ!」
ハルヒが喘いでいる。意外に打たれ弱いんだな……ってか長門がメチャクチャ能動的に動いている、楽しいんだな。
「古泉、将棋でもするか?」
俺は、3人を無視しつつ古泉に言葉をかけた。
「おやおや、どういう風の吹き回しでしょうか。……良いでしょう、今日は勝ち越しますよ?」
「ちょと……キョン!古泉くん!た、助けなさ……あぁん!や、やらし……あぅんっ!」
俺は喘ぎながら助けを求めるハルヒを華麗にスルーし、
「お前が勝ち越すなら、今度の探索の奢りを賭けるぞ。……これは、《規定事項》だ。」と、古泉に声をかけた。
「これは……負けられませんね。」
古泉も華麗にハルヒをスルー、空気を読んでるな。
俺達は部活終了時間まで、ハルヒの喘ぎ声を聞きながら、将棋を楽しんだ。


「はぁ、はぁ……。有希、みくるちゃん…覚えて…なさいよ…。」
「また……してあげる。」

「うふふふふ。涼宮さん、とても可愛かった、です。また……しましょうねっ!」
みくるさん、長門。ハルヒの言ってる『覚えてなさい』の意味を取り違えてないか?
「………じゃあまた、明日。」
「それではお先に失礼します。」
二人が出て行く。長門もだいぶ挨拶とか増えたよな…。
「さて、みくるさん。俺達も帰りまし……「待ちなさい!!」
「なんだよハルヒ、さっさと立ち上がれよ。……パンツが見えそうなんだよ。」
「…っ!?バカ!エロキョン!見るなっ!」
いや、お前が待ちなさいって言ったんだろ?
……とか言うと長引くので、俺はみくるさんの手を引いて、部室を出ようとした。
「キョ、キョン~~。待ってよぉ……。」
ハルヒが半分、ベソをかいたような顔でこっちを見ている。珍しい顔だ。
「だから何なんだよ!地面に座りっ放しでお前は!」
驚愕の言葉が発された。
「た、立てないのよぉ~、こ、腰に力が入んないの……。」
……なるほどな。
つまりアレか、《絶頂》とやらで腰が抜けたと。
俺はみくるさんの方を見た。
「あ、え!?ああっ!!や、やり過ぎちゃいました!えへへ~…。」

えへへじゃないですよ。
「で、でもっ!ほ、ほとんどなが、長門さんですから……ね?」
ふぅ……溜め息が出ちまうな。
「あの~……あたしを、無視しないで?」
ハルヒが半ベソでこっちを見てくる。
「やれやれ。俺がおぶって行ってやるよ。……みくるさん、着いて来てくださいね?」
みくるさんは沈んだ顔を浮かべた。
「は、はい……。す、涼宮、さん……ごめん、なさい。」
ハルヒはそれに強がって笑い、答えた。
「い~のよ!みくるちゃんっ!……ほら、気持ち…よかったし、ね?」
二人に伝えたいことがある。…そんな話は俺がいないところでしてくれ………。


俺は、ハルヒを家までおぶって行き、その後みくるさんと一緒に歩いて帰ってきた。
飯を済ませると、俺はすぐに風呂に入ったが、未だに足が限界を訴えていた。
「あの~、キョン、くん。……大丈夫ですか?」
俺の足は、誰が見てもわかるくらい震えている。
「まぁ、見たまんまです。」
「あうぅ……ご、ごめんなさいです……。」
「いや、気にしないでくださいよ。俺は部室でみくるさんや長門やハルヒの楽しそうな様子が見れて嬉しかったですから。」

実際、俺の心は安心や喜びで満たされていた。
「で、でもぉ……。」
俺は布団を頭まで被せ、みくるさんとの《2人きりの世界》を作り出した。
「『でも』は無しですよ。」
いつものように、キスをする。今日は短く、触れるか触れないかのキスをした。
「ん……あ、あれ?お、終わり…ですかぁ……?」
「俺、疲れてますからねぇ……。」
「じゃ、じゃあ……わたしが…。チュッ……チュ、ペロ………っはぁ…。こ、これなら…キョンくん、大丈夫ですよね?」
みくるさんのキスはだいぶ上達している。
実際、とろけそうになったぜ。うへへへ……っと、キャラが変わったな。
「疲れてても、みくるさんのことは愛せますよ。」
俺はそう言うと、みくるさんのちっこい体を強く抱き締めた。
「あっ……。キョ、キョンくんの…優しさで、あったかい…です。……なんちゃって、えへへ。」
しばらく、強く抱き締めたまま、お互いにキスをした。
「えへへへ、こうしてると、世界に二人だけ、みたいです。」
「そう…ですね。何も聞こえないし、みくるさんしか見えないですよ。」

「あ~、もう、わたし幸せですぅ……。ね、キョンくんっ!今日は……この状態で…ね、寝ませんか?」
「ん?…俺は最初からそのつもりだったんですが?」
「……やっぱり、いじわるさん、です………。」
そして、俺達は真っ暗な《2人きりの世界》で眠りに落ちていった。


3学期というのは、本当に早いもので、誰もがみくるさんとの毎日を大事に、本当に大事に過ごしていた。


そして、卒業式の日を迎えた。

~11章・終~



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