『God knows』

~8章~

今、俺はエレベーターに乗っている。
もち、隣りにはみくるさんがいる。
密室に二人きり。
こんなに素晴らしいシチュエーションはないな……、
などと考えられないくらい、俺は切羽詰まっている。
何故かって?
それでは、5分前を思い出してみようか。


「キ、キキキ、キョンくん!あ、あ、上がって……いき、行きませんかぁっ!?」
「……………えぇっ!?」
「い、いや!そ、そ、そんなや、やましいことじゃ、な、な、ないですよっ!?た、ただ……ね?寂しい……から…。」
「で、でもっ!ほら……親とかもいますよね!?」
「か、家族とは……もう…連絡が…。」
「あ……、す、すいません……。」
「ううん、いいの。……しょうがない…こと、です。」
「…よし。わかりました、上がらせてください!」
「ふえっ?ほ、ほんとですかぁ?」

「はい。だけど……襲われても知りませんからね?」
「……はいっ!わ、わたし、キョンくんをし、信じてますっ!……じゃあ、つ、ついて来てくださいっ。」


というわけだ。
よくよく考えると、異性の家で二人きりだな……。
だが、『信じてますっ!』って言われたしなぁ……。
あぁ、長門?
あいつの家は別だ。

ドアの前に来た。
《802号・朝比奈みくる》と、可愛らしい字で手書きしてある。
なるほど、確かに一人で住んでるようだな。
「あ、あの……ど、どうぞ?」
鍵を開けたみくるさんが、ドアを開け、俺に中に入るように促す。
俺は、一つ深呼吸をして答えた。
「……お邪魔します。」
「あ、……はい。」
みくるさんは、メチャクチャ優しい微笑みで迎えてくれた。

入ると、そこからは、安らげる匂いが広がった。
「おぉ……みくるさんの匂いがしますね。」
みくるさんの顔が、徐々に赤くなっていく。
「ふ、ふえ?ご、ごめんなさい!い、今から消臭して…来ますぅっ!」
「ち、違いますよっ!あれです、俺が一番安らぐ匂いだなぁって!!」

「ふぇ!?は、恥ずかしいですよぉっ!?あ~、お、お隣りさんにき、聞こえちゃいますっ…キ、キ、キョンくん、は、早く入ってくださいぃっ!!」
と、この様に、とてもうるさいカップルを一通り演じた後、俺は奥に入った。
「きれいに片付いてますね~……あ、これってアルバムですか?」
俺がアルバムを手に取り、開こうとした瞬間、
「だめえぇぇ!!そ、それだけはだめ!ぜ、絶対だめですぅ!」
と叫びながら強奪された。
しかし、だめと言われると見たくなるのが人間の性である。……だよな?


しかし、意外にガードが堅かった。
アルバムを抱きかかえて離さないのである。
しょうがない、作戦を変えようか。
「みくる……さん。」
俺は【真面目な顔】を作り、みくるさんを真っ直ぐに見つめた。
「ふぇ?……ど、どうしたの?キョン…くん……?」
よし、これなら……。
俺は正面から両肩を掴み、少し顔の距離を近くした。
「え、え?キョ、キョンくん?」
オドオドしている隙を突き、俺はアルバムを奪った。
「へへへ、アルバム借りますよ!」
「あ、あぁっ…もう!………ひどい、です。…見ても、笑わないでね?」

「もちろんですよ、じゃあ、見させてもらいます。」
アルバムを開く。

……まさかこんな光景とはな。
そこにあったのは、主にSOS団の活動時の写真と……俺1人だけ写ってる写真だ。

もの凄い罪悪感が襲ってくる。俺がみくるさんにかける言葉を探っていると、みくるさんが話しかけてきた。
「ほ、ほらっ!い、いつもキョンくんって、撮ってばっかりで…だ、だからたまには…良いかなって……。」
「むう……。みくるさん、まだ何か理由隠してるでしょ?」
「ふえっ?……は、はい。こ、これはね、実は……わ、わたしへの《ご褒美》です。えへへ…。」
めっちゃ嬉しいね。
こんな事言ってもらえる俺は世界一の幸せ者だ。

その時、俺は棚の上に【ある物】を見つけた。
「なんだ、いい物があるじゃないですか。」
「あ、それ……。それにも、わたしの…あの……《ご褒美》が、は、入って…ます。」
これ以上ないくらいに真っ赤な顔になっているみくるさん、食べたいくらいだ。
……冗談だが。
「まだ入ってますねぇ、《これ》。…あと少しか。」

俺は《それ》をおもむろに手に取り、みくるさんの横に腰掛けた。

まぁ、わかっているだろうが《それ》とは使い捨てカメラである。
残り回数は、3回。
「みくるさん……これ、使いましょうよ。たった3回分だし。」
「え!?…あ、うん。い、いいです、けどぉ……。」
「文句は無しです!いい顔してくださいね?」
俺はみくるさんの肩を抱き、引き寄せる。
「ひ、ひえぇっ!?キョ、キョンくん?か、顔近いですっ!」
「これくらいじゃないと入りませんよ。ほらっ、いきますよ……はい、チーズ!」
パシャッ。
「うわあぁぁ……、ちゃ、ちゃんと笑えたかなぁ…?」
「いや、俺に聞かれても。」
「ですよねぇ……。あ、キョンくん!ちょ、ちょっと貸してくださいっ!」
俺はあっさりと、カメラをみくるさんに手渡した。
パシャッ。
「はい?」
「えへへ~、キョンくんのマヌケな顔、もらいました!」
しまった……。巻かずに渡すべきだったか。
「あ~あ……、もう…あと1回分、かぁ……。」
みくるさんが、少し淋しそうな顔で、カメラを見つめる。
「いいじゃないですか、これでアルバムに入る《ご褒美》が増えますよ?」

「………うん、そう…ですねっ!…ねぇ、キョンくん。新しいカメラをね、買ったら……い、一緒にう、埋めていってください、ね?」
「もちろんですよ!あ、最後の一枚…俺に撮らせてくださいよ。」
「え?……ん~、わかりました!あ、あの……良い顔、してくださいね?」
この時見せたみくるさんの笑顔、これで俺は完全に心を決めた。

再び、肩を寄せあった。
さっきと同じように、俺たちは笑顔を作る。
「じゃ、いきますよ。……はい、チー…あ、みくるさん。」
「はい?」
チュッ………パシャッ。
俺は、みくるさんに呼びかけ、こっちを向かせた隙に【キス】をし、シャッターを切った。
「あ……、え?……えぇぇっ!?」
「へへへ、ごめんなさい。俺、我慢出来なかったです。まぁ、これは俺の《ご褒美》と思ってください。」

みくるさんは、顔を赤らめて、俯いてしまった。
「あ~、怒っちゃい…ました?」
俺は俯いているみくるさんの顔を覗き込む。
チュッ。
「へ?」
キスされた。しかもマヌケな声を出してしまった。
「えへへへ……、1回は1回……ですよ?」

うわぁ……イタズラ天使、ここに光臨。
って違うだろ、現実に戻れ、俺。
「わ、わたしにも《ご褒美》、です。……ダメ、ですか?」
俺はしばらくみくるさんを見つめた後、言葉を発した。
「まったく……。これじゃ、みくるさんの方が写真の分だけ《ご褒美》多いですよ?」
「ふぇ?……あ、ほ、ほんとですね…。」
「つ~わけで、もっかい、させてもらいますよ?」
「あ~、う~……はい。ど、どうぞ……。」
みくるさんが目を瞑る。
俺のイタズラ心、発動。
ゆっくりと…唇を重ねる。
「ん………ん?んむぅっ!?んむっ………………ぷはぁっ!」
え~、はい。
少し大人のキスをみくるさんに仕掛けてみました。

みくるさんは、目を潤ませて、こっちを見ている。
「これも1回……ですよね?」
俺は尋ねる。
「うぅっ……。い、一回…です。」
「ですよね。でも……いやぁ、ドキドキしましたよ。」
「キョ、キョンくんが言わないでくださいっ!!……わ、わたしの方が…ドキドキ…して……。で、でも…き、気持ち……よかった、ですぅ。」
「《幸せ》…ですか?」
俺は尋ねた。
みくるさんは即答で、
「し、《幸せ》……ですぅ。」
と答えた。

それから、俺達はいろいろな話しをした。
まず、未来からの仕送りが無くなったから、あと3ヶ月も持たないという問題や、
一人暮らしは危ないから、うちに来てくれと伝えたりした。
「そう、ですね……。でも、ほ、ほんとは迷惑、かけたくない……です。」
「迷惑じゃないです。親は絶対に、説得しますから。」
「は、はい……。じゃ、じゃあ、お願い…します。……キョンくん、か、かっこいい…です。」
そして、23時になったので、帰ることにした。
もちろん、玄関でもキスしましたが。

そして、一人きりの帰り道。
俺は気付いた。
「もしかして、俺、メチャクチャ大変なこと言わなかったか?」

~8章・終~



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