※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 
 きっかけ、なんて物は大抵はどうってことがない。
 俺がハルヒの巻き起こすゴタゴタに巻き込まれた理由も些細な会話が始まりだった。
 だが、そんな日々の終わりは突然にやってきた。
 何の予兆も見せること無く。警告を与えられる時間も無く。
 始まりが些細な事だったように、終わりもまた些細なことがきっかけで訪れた。
 それは、いつもと同じ日々での事だった。
 
 
「Break the World」
 第一話 ― 発端 ―
 
 相変わらず学校の授業は面白くない。何故かって言えば、内容がわからないのである。
 俺の後ろに座ってるハルヒはちょくちょくを俺をペンで突いて来るし、
 集中力削がれる事この上ない。元々無いようなもんだけど。
 やっとの思いで授業が終わると、俺は朝比奈さんの癒しを求めて部室に向かった。
 ハルヒも一緒だった。特に何も話はしなかったんだが。
 部室棟に着き、ドアをノックしようとしたが、それより前にハルヒがドアを開けた。
 おいおい、お前は礼儀を持ち合わせちゃいないのかよ。
 幸か不幸か、朝比奈さんの生着替えを目撃することも無く、部室には
 メイド服の未来人・読書ばっかりしてる宇宙人・年中営業スマイルの超能力者が揃っていた。
「よーし!皆揃ってるわね!良い事だわ!」
 揃ってるからって何かするわけでもないだろうに。
 
 俺の予想は見事なまでに的中した。さっそく団長席に座ったハルヒはそのままネットサーフィンを始め、
 我が癒しの天使・朝比奈さんはお茶を淹れてくれた。今日もありがとうございます。
 俺は古泉とチェスに興じていた。相変わらずこいつは弱い。
 長門は始終本を読むばかりで、部室に居る間に一言も発していなかった。
 要するにいつもと同じ行動をしていたのだ。平和と言える日だった。
 長門の本を閉じる音を合図に、その日の活動時間が終わる。
 各々に帰り支度をし、ハルヒを先頭に下校途中の道を5人で歩いていた。
 ……きっとこの時に俺は境界線を踏んだに違いない。ここまでは何ら変わらなかった。
 この数分後から、俺の運命が大きく変わるなんて事をこの時は知らなかった。
 
 道中、俺の視界の中にポスターを貼る看板があるのが目に入った。
 別に珍しくもないし、前々からあった物だ。変わっていたのはポスターだった。
 どうやら今日に張り替えたらしい。映画の宣伝ポスターだった。
「あれ?今朝はこのポスターじゃなかったわね」
 ハルヒもそれを見つけたらしい。
「おや?そうですね。これは映画の宣伝のようですね」
「ええと、『アポクリフ・ハルマゲドン』ですかぁ。どんな映画ですか?」
「確かね、隕石が地球に落ちるって話よ」
「ふえぇ、怖いですねぇ」
「所詮は映画の話よ」
 そんな事を言ったらハリウッド中の人が激怒するんじゃないだろうか。
 ハリウッドに住んでいたら映画好きって訳じゃないだろうけど。
 
「でも、面白いかも知れないわね」
 さっきのポスターからしばらく歩いた時だった。ハルヒが思い出したように言う。
「え?何がですかぁ?」
「さっきの映画の話よ」
「おや?興味が有るんですか?」
「そうねぇ、今ふと思ったのよ」
 嫌な予感がする。
「もし、いきなり隕石が落ちてくるってなったら皆はどうする?」
「私はぁ、みら……じゃなくて、家に帰りますねぇ」
「バカねぇ、みくるちゃん。家に居たって助からないじゃない」
「僕なら、最後は家族と過ごしたいところですね」
「あれ?古泉君って結構家族思いなの?」
「そうですね。比較的にはそう言われるほうかと」
「有希は?」
「…………」
 相変わらず喋らない。大体長門なら隕石が降る前に消してしまうだろうしな。
 こいつにそんな仮想話を振ったって無駄なのは今更でもないだろう。
「ま、いっか。で、キョンは?」
「うん?」
 振られるのはわかっていた。だが、あまりに咄嗟だったので考えが追いつかなかった。
「あんた、話聞いてなかったの!? 隕石が降ったらどうすんのって聞いてるのよ!」
「ああ、俺なら、死ぬ前にとりあえず悔いが無いようにするな」
「まるでバカが答えそうな考え典型ね。まあいいわ」
 なら聞くなよ。
 
「うーん、崩壊した後の世界のドラマってのも面白そうよね」
 再び嫌な予感がする。こいつはまさか隕石が降れとか願っちゃいないだろうな。
「パァーっと5分後くらいに超巨大隕石でも降らないもんかしらね」
 言いやがった。冗談じゃない。と思うと同時に肩に手が置かれた。
 振り返るといつものスマイルじゃなく、真剣な目つきの古泉がそこに居た。
 おいおい、まさか本当に降ってくるんじゃないだろうな。
「……この惑星の軌道上に巨大な隕石を感知。5分後に地表に到達する」
 マジかよ!そんなデカい物ならとっくに観察されたっておかしくないだろ。
「涼宮ハルヒの強い願望によって物理法則を超えた情報結合が成され、形成された」
「どうやら、本当に5分後には降ってくるみたいですよ」
 二人が小声で俺に驚愕の事実を告げる。呑気な事言ってる場合じゃないだろう。
 何とかならないのか?
「涼宮ハルヒから発信された情報で形成されていて、私でも分子結合の解除が困難」
「だったらどうするんだ? このまま降っちまうのか!?」
「今思念体とアクセスし、他のインターフェースにも協力要請を出している」
「で、間に合いそうなのか?」
「恐らく。地表に到達するのはごく小規模の隕石のみにできるはず」
 つまりは大丈夫って事か。安心するにはまだ早そうなんだが。
「その間、私の情報処理能力を全て隕石の解体に回さないとならない」
 まぁ5分くらいの事だ。大した事は起きないだろう。
「ちょっと!何話してるのよ!」
 視線を正面に戻すとハルヒが俺達を睨んでいた。
「いや、映画のあらすじが知りたかったもんで、聞いてたんだ」
「ふーん、あんたこの映画の話も知らないの? 有名なのに」
 どうにかごまかせたらしい。
「悪かったな。おかげでいい話を聞けたよ」
「別に大した話じゃないわよ、あの映画」
 今目の前に起こっている事は大変なんだけどな。と言ってやりたい。
 
「あ、あのぉ……」
「どうしたの? みくるちゃん」
「あれ……何ですかぁ?」
 朝比奈さんの指差す方向には太陽がある。……じゃない、その横に同じくらいの大きさに見える何か黒い球体。
「ちょっと! あれマジに隕石じゃない!?」
「ふえぇぇ、そうなんですかぁぁ!?」
 この慌てよう、どうやら未来でも予測してなかった事らしい。いや、朝比奈さんの事だからわからない。
 普段からこのお方、未来人なのに自分に起こる事を随分と知らないもんなあ。
「すごいじゃない! あれ降ったらどうなると思う? キョン!」
 何でそこで俺に振る。今見えるだけであのサイズだったら相当マズいだろう。
 直接地球が割れるか、良くても氷河期くらいにはなりそうだ。
「へぇ、こんな事ってあるのねぇ! でも隕石って大体が大気圏で燃え尽きちゃうのよね」
 いやいや!あれはそんなサイズじゃないと思うぞ!
 大気圏で燃え尽きるよりも先に地球に降下してドカンと行きそうだろ!
 そう思っていたのも束の間、隕石らしき球体は次第に内部からひび割れるように崩れ始めた。
「今本体を大まかに解体した。後は破片を不自然じゃない程度に消去しつつ、分解する」
 長門が後ろから声だけで実況を解説してくれている。いつもの呪文を唱えるのに空に手をかざしているが、
 俺の背が壁になってハルヒからは見えていない。
「あー、だんだんちっちゃくなってるわね。やっぱり映画みたいにドカンとは行かないわよね」
 行ったらお前以外の大多数の人間が困る。そんな冗談に俺たちまで巻き込まないでくれ。
 みると黒い球体は空中爆発を起こしたみたいに辺りに散りはじめている。
 一部は既に大気圏で燃えているらしい。何とも形容し難い花火のような光景がそこにはあった。
 正直に言うと結構綺麗で、俺はハルヒのとんでもパワーの産物を見つめていた。
「ねえキョン! あれ結構綺麗じゃない!? ちょっと高い所から見てみましょう!」
 そう言ってハルヒが俺の腕を引っ張った。今下っていた坂を再び登っていく。
 勘弁してくれよ。何だって俺なんだ。他のやつにしてくれ。
 解体作業も一段落したようで、長門はもう手を下ろしていた。
 古泉もそれに安堵したのか、強制連行されている俺をスマイルで見つめている。
 朝比奈さんは何が起こったのかわからない顔をしていた。
 
 ハルヒのいきなりの発言による突如の世界崩壊は辛うじて免れた。
 だが、これは運命の歯車が狂ったきっかけでしか無かった。
 ハルヒは意気高揚としていたのだろう。俺は俺で腕を引っ張られながらも、
 地球に隕石が降らないで済む事に安堵していた。
 それが原因だったのか、他の要因があったのか、今もってわからない。
 だが、車が低確率ながら通る交差点を左右の確認もせずに飛び出したのは迂闊極まりなかった。
 ふと轟音が耳に入った。俺がその音の正体を掴むよりも早く、『それ』は俺に激突した。
 
「キョン! ……キョン!」
 何だ?俺は今なにしてるんだっけ?
「キョン! 起きてよ!」
 ハルヒか?まったく、寝てる時にまでやかましい……
「キョン!!!」
 はいはい、今起きますよ。
 目を開くと、目の前にハルヒの顔があった。いつか見た不安の表情が浮かんでいる。
「よかった……」
 俺が起きた事に安堵したらしい。そんなに寝てはまずい状況だったか?
 確か隕石花火を見ようとハルヒが俺を引っ張って……どうなったんだ?
 そう言えば変な音を聞いた。あれが何だったか思い出せない。
「ねえ、キョン。何か変なのよ」
 俺は横になっていたらしい。とりあえず体を起こす。
「何が変だって?」
「なんだか周りの人がおかしいのよ。あんたが寝てても何も言わないし」
 見渡すと道端だった。ハルヒが俺を引っ張りまわしていた辺りだ。
 あの辺りで俺が卒倒でもしたのだろうか。
「あたしにも分からない……。気が付いたらあんたもあたしもここで寝てて」
 ハルヒも?何でお前まで卒倒するんだよ。急性貧血にでもなったのだろうか。
 
「それで、とりあえずあんたを起こそうと思ったんだけど、中々起きないし……」
「そりゃすまなかったな。辺りに人は居ないが、今何時だ?」
「わからないのよ。なんか知らないけど携帯も無いし」
 ポケットを探ると俺の携帯も無かった。制服の違うポケットに入れたのかと探ったが、
 やはり携帯はどこにも無かった。
「とりあえず学校に行くか。太陽の昇り具合から見て遅刻確実だろうけどな」
「そうね……」
 学校への道を歩いている間、ハルヒは何故か俺の制服の裾を摘んでいる。
 なんだよ、遅刻して怒られるのが怖いのか?
「ち、違うわよ! ただ……なんとなく様子がおかしいのよ」
 これまで俺は人に遭遇していないから全く分からない。
 俺が寝てる間にハルヒが何か怖がるものでも見たのだろうか。
 まさか。こいつが怖がる物なんて何があると言うんだ。
 俺があれこれと言い訳を考えている内に学校に着いた。
 一瞬、目の前が眩しくなった。一体なんだ?これは。
 頭がくらっとする。時間移動をした時そっくりの感覚だった。
 気が付くと俺は部室の角に立っていた。何が起きたんだ?
「ん……あれ?」
 その声でハルヒもそこに居た事に気付く。
「ねえ、キョン。あたし達今下に居たんじゃなかったっけ?」
「ああ、そのはずだが……」
 足元を見ると外靴のままだ。一体何が起きたんだ?
 部屋には俺達しか居ない。
「どうする?とりあえず教室にでも、」
 その時にがちゃりと言う音がして、ドアが開いた。
 入って来たのは長門だった。心なしか、目がいつもより揺れている。
 無感情な長門らしからぬ様子だった。ハルヒは気付いていないみたいだが。
 
「おい、長門」
「…………」
 返事なし。おいおい、呼びかけすら無視することは無いだろうよ?
「なぁ、長門」
「ちょっと、有希」
「…………」
 俺達二人の呼びかけにも無反応。何か怒らせることでもしたのか?
 続いてドアが開き、朝比奈さんと古泉が入って来た。
 朝比奈さんはひっくひっくと泣いていた。
 一体どういう事だ?古泉、お前朝比奈さんに何をしやがった。
「うう……キョン君……涼宮さん……」
「ちょっと、どうしたのよみくるちゃん」
 朝比奈さんは何も答えずただ泣きながら俺達の名前を口にしていた。
「まさか、こんな事になるとは……」
 古泉もいつものスマイルじゃなく、神妙な顔つきだった。
「お前ら、これは何の冗談だ?俺達はここにいるだろうが」
 全員で総無視。新手のいたずらにしては度が過ぎてる。
「ちょっと!あんた達!何で無視するのよ!」
 ハルヒの声すら無視。これはやり過ぎ……いや、様子がおかしいのか?
「どうしてこんな事に……うえぇぇぇ」
 朝比奈さんが泣きっぱなしだ。本当にこれはおかしい。
 まるで俺達が居る事に気付いていないかの様だ。それにさっきからの言葉。
 俺とハルヒが既に居なくなってるかのような……
「朝比奈さん、悲しいのはわかりますが、とりあえずは今後の事を話しましょう」
 おいおい、俺達を放置して今後の事だって?マジで何が起きたんだ?
 
「僕の機関の方では、今後の事態が予測できず混乱しています」
 ハルヒの前で機関の話を始めやがった。一体何のつもりだよ。
「ねえ、キョン。キカンって何?何のこと?」
 俺の袖を引っ張ってハルヒが聞いてくる。
 だが、俺はそれよりも状況の把握で精一杯だった。
「うぅ……わたしは……今……何故か未来と連絡が……途切れてます」
 泣いてる為に途切れ途切れだが、朝比奈さんも未来の事をさらっと言い出した。
「情報統合思念体では現在の情報の不安定を警戒している。情報爆発が良くない方向で起きる可能性がある」
 長門まで素性を明かしやがった。本当に俺達が居ることは気付いていないらしい。
「ねえ、キョン。3人共、何言ってるの?」
 振り返るとハルヒが不安と疑問をブレンドした表情を俺に向けていた。
「未来とかキカンとか情報ナントカとか……一体何?」
 俺は事実を言うべきかどうか悩んでいた。言った所で信じるか?
 前に言った時には「ふざけんなっ!」の一言で終わっちまったしなあ。
 俺が黙っていると、古泉が俺の代わりに長門に疑問を投げかけた。
「それで、最悪の場合だと、どんな結果が予測されるんです?」
「……この世界が崩壊する」
 その場に居た全員が戦慄した。
 待て待て待て。一体何の話だよ。何でいきなり世界崩壊の話になる。
 もしかしてさっきの隕石か?あの破片がどっかに落ちちまったのか?
 破片の一個がお前らの頭に直撃でもしたんじゃないのか?
「涼宮ハルヒの生命活動が停止したことで彼女の持っていた力が不安定な状態になり、
このままだと情報の爆発と同時に世界を消滅させる可能性が最も高い」
「え……?」
 真っ先に疑問の声を上げたのはハルヒだった。
 
「どういう事よ……」
 立っていられなくなったのか、ハルヒがその場に座り込む。
 俺も座り込みたい気分だった。ハルヒの生命活動が停止?
 一体何が起きたんだ!?ハルヒはここに居る。俺もだ。
 必死で混乱する頭を整頓しようと努力する。
「キョン、有希達は何の話をしてるの?あたしの力って何?生命活動の停止って何よ」
 横からハルヒの質問が矢のように飛んでくる。
 一部の答えは俺すら知らない。俺が聞きたいくらいだ。
「どうにかする方法は無いのですか」
 古泉が聞く。俺も聞きたい。
「どうしようもない。『鍵』である彼も共に生命活動を停止させてしまった以上、手段は無い」
 ……なんだって?
 俺も……死んでいる?
 
 古泉がテーブルに拳を叩き付けた。
「くそっ!僕が迂闊でした……あの時二人を止めていれば……」
「あなたの責任ではない、あの時の私が情報処理能力を残していれば……」
「ひっく……二人のせいじゃありませんよぅ……わたしがちゃんとしていれば……」
 3人がそれぞれに自分の責任だと言い出す。どうやら思ったよりも状況は深刻らしい。
「キョン、説明してよ……」
 後ろから届くハルヒの声で現実に引き戻された。
「一体何なのよ……教えてよ……どうなってるの……?」
 ハルヒも目に涙を浮かべていた。意味不明な言葉が羅列している中でも、
 自分の生命活動が停止しているって事の意味を理解したのだろう。
 俺も泣きたい気分だよ。誰か状況を説明してくれ。
「俺にもわからん。だが、どうやら相当まずい事になってるみたいだ」
 努めて冷静な口調で喋ろうとした。だが自分でも声が震えているのがわかる。
「キョン……あたし達……死んでるの?」
 ハルヒが俺の混乱してる心に追い討ちをかけた。
 
 

|