【第三話-12/06】
 
 ハルヒに続いて朝比奈さんまでもがこの地上から姿を消したと長門
から連絡を受けた。正直信じられない心境だ。ハルヒだけでも信じられ
ないのに、朝比奈さんまでも消えてしまうとは……一体どうなって
いるんだ……
 
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 俺は憂鬱な心境で学校に着いた。もちろん昨日から俺の後ろの席の主
ハルヒはいなくなったままだ。その上朝比奈さん前でも消えたとなると
俺の心境はますます重いものになった。そんなわけで午前中の授業など
まったく頭に入らず、ただただ時が過ぎていくだけだった。昼休みになり
弁当を食べようとすると、国木田が、
 
「キョン、お客さんだよ。鶴屋さんが来てる」
「鶴屋さんが?」
 
俺はすぐに廊下に出て鶴屋さんを見つけた。
 
「あ、キョン君。ちょっと聞きたいことがあって来たんだけど、時間
空いてるかなっ」
「ええ、大丈夫ですよ。恐らく見当はついてますから……とりあえず
ちょっと静かなところへ行きましょうか」
「そだね。ちょっと移動しようか」
 
 俺と鶴屋さんは屋上に移動した。相変わらず屋上には人がおらず
閑散としていた。まあ、重要な話をするにはもってことだが。
 
「で、鶴屋さんお話は朝比奈さんのことですか?」
「うん、そうなんだにょろ。今日みくる学校に来てないけど何が
あったか知らない?」
 
 俺は迷った。確かに俺は朝比奈さんが消えたことを知っている。それを
”さあどうなんでしょうね”などとごまかしていいものか……。鶴屋
さんは『機関』のスポンサーの家の人間でもあるし感が鋭い。この際
正直に解っていることを話すことにした。
 
「鶴屋さん、落ち着いて聞いてください」
「やっぱりなにかあったにょろ?」
「今日の深夜に知ったんですが……朝比奈さんはこの地上から姿を
消した、いわゆる行方不明になったそうなんです」
 
 俺がそういうと鶴屋さんは今までの元気スマイルから一転して真剣な
顔になった。
 
「みくるが行方不明って……何かの間違いだよね?」
「残念ながら……本当です。信頼の出来る情報です」
「うそ……」
 
 鶴屋さんは驚きを隠せない。恐らくハルヒのこともいずれ知ることに
なるだろうと思い、ハルヒのことも話すことにした。
 
「実は……ハルヒも昨日から行方不明になっています」
「え……ハルにゃんも……」
「ええ。色々手を尽くして探してはいるんですがまったく手がかりが
ありません」
「えっ?」
 
 そういうと鶴屋さんはちょっと驚いた顔をした。
 
「どうしました?」
「あれ?キョン君昨晩うちに来てみくるに何か言ってたんじゃなかった?」
「すいません、それはどういうことですか?」
 
 俺はまったく身に覚えの無いことを言われ混乱した。
 
「あのね、昨日はみくるが泊まっていく約束で遊びに来たんだけど、
昨晩の10時頃にキョン君が来て”偽者の正体がわかったんです。みんなも
来ているので朝比奈さんも来てください。”って言って、みくるを連れて
行ったよね?」
 
 俺が会いに行った……? それはまさしく……。
 
「鶴屋さん、そのときの俺は俺じゃありません、それは俺の偽者です!」
「嘘……今見ているキョン君とまったく同じ姿で偽者だなんて全然
わからなかったよ? 本当に来てないの?」
「ええ、神に誓ってもいいです。しかもそれはハルヒが行方不明になった
時とまったく状況が同じです。俺の偽者が現れて、ハルヒ・朝比奈さんを
連れて行ったことに……」
 
 なんてことだ。朝比奈さんが消えた状況もハルヒのときとまったく
同じだなんて!俺は鶴屋さんに詳しい状況を聞いた。
 
「その俺の偽者なんですけど、なにかほんの些細なことでもいいんで
違いとかありませんでしたか?」
「そういわれても玄関先でちょこっと見ただけだし……あたしも
みくるもキョン君だって全然疑わなかったよ」
「そうですか……」
 
 そこまで話しているうちに午後の授業の予鈴が鳴った。
 
「ハルヒと朝比奈さんは必ず見つけ出します。必ず」
「うん、キョン君なら絶対に見つけ出してくれるって信じてるっさ」
 
 鶴屋さんは再び元気スマイルで俺を励ましてくれた。内心、朝比奈
さんのことで心配だろうに……気丈な人だ。
 
「それじゃ午後の授業あるから戻るにょろ」
「そうですね」
 
 俺と鶴屋さんは一緒に校内に入り、そして別れた。俺の偽者……
ハルヒと朝比奈さんの失踪を結びつける唯一の点。鶴屋さんの話では
まったく瓜二つという……。結局、今日の午後の授業も頭に入らず、
ただ時間が過ぎるだけの時となった。放課後、俺はすぐに部室へと
向かった。そこには既に長門・古泉がいた。
 
「待ってましたよ、あなたを」
「なにかわかったか?」
「はっきり言って我々の想像以上のことが起きているようです」
「と、いうと?」
「この地上から未来人が全員姿を消しています」
「朝比奈さんの他の未来人まで行方不明になったということか?」
「はい、そうです。我々は長門さんのようなTFEI端末や朝比奈さんの
ような未来人と他にもコンタクトを取っています。それが今日を境に
全員姿を消しました」
「全員が未来へ帰ったってことは?」
 
 俺の問いには長門が今度答えた。
 
「それはありえない。情報統合思念体によると時空移動の痕跡がまったく
みられない」
「長門はなぜ朝比奈さんが消えたのがわかったんだ?」
「わたしは常にSOS団全員をモニターしている」
「そうなのか……」
 
 ってことは俺のあんなこともこんなこともモニターされていたのか。
今度長門にはプライバシーってものを教えておこう。まあ、今はそれ
どころではないが。
 
「ところで今日の昼に鶴屋さんに聞いたんだが、やはり昨晩俺の偽者が
現れて朝比奈さんを連れて行ったらしい」
「まったく涼宮さんの時と一緒ですね」
「恐らくその偽者が今回の鍵を握っていると思われる」
「この事態から察するに、涼宮さんも誘拐されたというわけでは無い
ようですね……」
 
 俺はその古泉の言葉に最悪の事態が頭に思いつき恐怖に駆られた。
 
「それじゃあ、ハルヒや朝比奈さんはもうこの世にはいないってことか!?」
「その可能性もある」
「しかし、殺害されたとは限りません。もしかすると何らかの手段を用いて
次元の狭間などに幽閉されている可能性もあります」
「でも長門の話では特にそういう現象の痕跡は見られなかったんだろ?」
「そこが謎なのですが……」
「長門、前にお前が行ってたお前の親玉の親戚みたいなヤツの仕業という
可能性は無いか」
「それは無いと思われる。その場合には情報統合思念体が感知する」
「そうか……」
「どうでしょう、昨日と同じように今日も偽者が現れた現場に行って
みては?」
「そうだな。そうすると、鶴屋さんの家ってことか」
「家まで行かなくてもその近くでも痕跡探しは可能でしょう」
「よし、とりあえず行ってみよう」
 
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 俺たちはとりあえず鶴屋さんの家の近くまでやってきた。

「地面をスキャンした結果確かに朝比奈みくると思われる足跡の痕跡が
みられる」
「俺の偽者の痕跡はどうだ」
「それに関してはまったくみられない」
「鶴屋さんの話だと特に変わった点が無かったと言っていたから、靴を
履いていないってことは無いはずなんだが……」
「もしかしたらその偽者というのは表面上はあなたにそっくりですが、
実際には実体の無いいわば風船みたいなものなのかもしれません」
「地面からギリギリ浮いているから足跡がつかないってか?」
「まあ、足跡を残さないように移動する手段はいくらでもありますが
……朝比奈さんが何の疑問も無くついていったということはそういう
小細工はしていなかったと思いますね」
「どうだろうな……あの人は慌てるとまわりが見えなくなるからな」
「まあ……そうですが」
 
 古泉は苦笑した。
 
「長門、朝比奈さんはどこに向かっていったかわかるか?」
「足跡を追ってみれば可能」
「よし、追跡してみよう」
 
 俺たちは長門の後について朝比奈さんが移動したと思われる場所まで
たどり着いた。そこは、ハルヒが消えた公園だった。
 
「まさかまたこことは……」
「ベンチに座ったあとが見られる。ただし1人分」
「恐らく朝比奈さんが座っていたんだろう。多分俺の偽者も」
「昨晩の10時に鶴屋家に現れ、そしてここに来た。その後午前0時まで
ここで過ごしそして朝比奈さんは消えた。そう考えるのがベストですね」
「ハルヒのときもそうだろうな。いわば時間稼ぎの場ってことか」
「そんなところです」
「ハルヒ、朝比奈さん、これで繋がるものは……」
 
 長門が意外なことを口にした。
 
「恐らく宇宙人・未来人・超能力者」
「ということは、僕や長門さんも狙われる可能性があるわけですね」
「そういうことになる」
「だが、お前達2人は既に俺の偽者の存在を知ってるし用心深い、大丈夫
なんじゃないか?」
「そうとはかぎりませんよ」
「と、いうと?」
「あなたの偽者が午後10時に現れて連れ出したというのは、おそらく
涼宮さんの家族や鶴屋さんに怪しまれないギリギリの時間だったから
ではないでしょうか。そうなると、家族のいない長門さんや深夜でも
活動している僕などは消える午前0時に目の前に現れてもおかしく
ありません」
 
 確かに古泉の言うとおりだ。午後10時以降となると遅すぎて逆に
家族などに怪しまれる。それ以前だと午前0時まで時間がありすぎて
引き止めておくことが出来ない。が、それだったら午前0時に寝室に現れて
さらっていけばいいのではないだろうか? などと考えていると、
 
「この2回の誘拐はあなたの偽者がその存在をアピールするためにこんな
回りくどいことをしている可能性がありますね……」
「つまり、俺が何か関係しているってことか?」
「そうかもしれませんし、あなたに対して自分の存在を教えるためなの
かもしれません」
「ううむ……心当たりはまったく無いんだがなぁ……」
「本当にあなたの身の回りで何か変化が起きた事はありませんか?」
「ハルヒの夢以外は特に無いな」
「と、するとこれから起きる可能性もあるわけですね」
「そうならないことを願うばかりだ」
「とりあえず我々も用心しますが、あなたも気をつけてください。
最終的なターゲットはあなたかもしれません」
「わかった」
 
 そう話した後、一通り公園内を探索してみたがやはり収穫は無かった。
日が落ち暗くなってきたので俺たちはそれぞれ家に帰る事にした。
 
 
 キョンたちが鶴屋家の近くから公園まで探索している間、全身を覆う
フードを着た男が遠くからその様子を観察していた。キョンたちが帰るの
を見届けると男は、
 
「やっと気がつき始めたか……でもまだだな」
 
そういうと男はやがてその場から姿を消した……
 
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 今日も収穫なし。悲嘆にくれながら俺は家に帰ってきた。家に帰ると
妹が出迎えてくれた。
 
「なんか元気ないねぇ、キョン君」
「いろいろあるのだよ、妹よ」
 
そんな会話をし、飯など一通りを済ませると俺は自分の部屋で色々と
考え込んでいた。ハルヒが消えたこと、朝比奈さんが消えたこと、そして
長門・古泉の話では俺たち全員がターゲットの可能性があるということ。
ではなぜこの時空に滞在していた未来人が全員姿を消したのか? 俺たち
だけがターゲットならそれは余計な行動なはずだ。
 
「うーん、わっかんねえな」
 
 俺はそういうと布団に入り眠りについた。午前0時の連絡が来ないこと
を祈りながら……しかし、その願いは虚しくも崩れ去った。午前0時を
若干過ぎた頃、寝ていたところに携帯電話の着信音が鳴り響いた。発信者
は古泉。と、いうことは……と思いつつ電話に出た。
 
「もしもし、古泉か」
『はい。やはり恐れていたことがおきました』
「お前が電話してきたってことは……長門になにかあったんだな!?」
『お察しの通りです。長門さんがこの地上から消えました』
「なんてことだ……」
『まだ正確な情報ではありませんが、他のTFEI端末、喜緑江美里なども
消えたと思われます』
「わかった……詳しいことは学校でまた話してくれ」
『わかりました。では失礼します』
 
 俺は失意のうちに電話を切った。ハルヒが望んだ者たちが1人ずつ
消えていく。これは俺の偽者の仕業なのか? それともハルヒが新しい
世界を望んでいるのか? そう考えると寝ようにも寝付けなかった……
 
 今度は誰が消えるんだ? 古泉かそれとも俺か……
 
 
───Missing Ring -失われる7日間- 第三話 終
 


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