俺はその他連中の適当な自己紹介を適当に聞きながら、携帯を開いた。……これはキレイに戻ってらっしゃっるな。
 否が応でも信じなければならなくなってしまった……奇しくも綺麗に去年の入学式当日だ。
 ……どうなってんだ? これはタイムリープ? いやこの場合ループか? しかし全くの状況下が違うじゃないか。パラレルワールドとやらか? なんなんだこの状況。全く掴めない。
 正直、もうこんな事に関わりたくなかったのになぁ。なんだってこんなことに……

 さて、この教室には、俺を含むSOS団関係者が既に五人居るわけだ。
 ハルヒに長門に朝比奈さんについでに鶴屋さんも朝比奈さんにセットでもれなくついてくる。これはお得なセットだな。
 ……こんな状況にまだ慌てふためき狂っていない俺はだいぶ成長したんだろうな……いやぁ嬉しいこった……くそ忌々しい。
 だがまぁ……どこかの変態がなんかしらで世界を改編……または時間をループさせたとして、せめてもの思いとしてコイツとは一緒にはなりたく無いんだがな……
 正直、トラウマ級に恐ろしい相手だ。
「じゃあ、このクラスの委員長は後藤と朝倉でいいな」
「まだまだ至らない所もあるけどもみんな仲良くしてね」
 俺はここで口に出す言葉は決まっている。
 ――やれやれ……――
「今年からもまたよろしくねキョン」
 はぁ……とりあえずの救いが国木田が変わっていない様子でこのクラスにいるってことか……
「へぇ~あんたキョンって名前なのね。変な名前ね。まぁいいわ。よろしくねキョン♪」
「おい、それは本名じゃなくてあだ名で――」
 ――振り向くと、今回の元凶と思われるソイツだった。――
 オイちょっと待てよ。展開が早い以前に初期のイメージと大分かけ離れてるぞ。
 今(って言っても俺が言っている今はまた違う今で……あぁもうややこしい!)や笑って話すような奴だったが、最初の頃は何事にも突っ張って返すような奴だったし、こんな気さくに話しかけてくるようなガラじゃなかった。
「いいじゃない。あたしはいい名前だと思うわよ? キョンって名前は」
 ……これはタイムループっていう線は薄そうだ。ここまで不気味に変わっていたらそういう知識に乏しい俺でもわかる。
「俺はそのあだ名はあまり気に入っていないのだが」
「いいじゃない。あだ名あった方が気さくな感じ出て人気も上がるんじゃない? 少なくともあたしは気に入ったわ!」
 相変わらず変態という面では変わっていなそうで安心した。まぁ変態と言っても意味合いが違うことをわかってほしい。
「……まぁいい。好きにしてくれ涼宮ハルヒさん」
「堅っくるしいわねぇ! もっとあるでしょ! 普通に名前呼べばいいのよ!」
「……じゃあハルヒと呼べば満足か?」
「え……え、えぇ! いいわ! あたしはハルヒだものね!」
 当たり前かつ訳の分からんことを言い出した。あたしはハルヒだなんて、下手すると世界中の人や、はたまた宇宙人だって常識として知ってる事なのに。
「フフン、よろしくねっキョンっ!」
 彼女は100Wの笑顔でそう言った。

 さて、こういう件に関して一番信用出来るのが同じクラスに居ることについては、
ハルヒには感謝せねばならんだろう。……胸一杯の皮肉を込めた感謝をお前にやろう。
「長門有希……でいいんだよな?」
 ――しかし、俺はすぐにハルヒに対する思いを、仮にも感謝の気持ちから、明らかなる怨念の感情に変えた……
 あの天下の感情を忘れた少女、長門有希が微笑んで肯定するんだぜ? これを見て恨み以外の感情をどう持とうか。
 いや、まだ諦めてはいけない。俺の助け舟はこの長門しか居ないのだから。
「お前は俺を知っているか?」
 そして長門は顔を赤らめ、首を縦に振り肯定する。そして初めて口を開いた。
「ずっと……探していた」
「何故だ?」
「あなたはわたしに……親切にしてくれた人。ずっと……探していた」
 はてさて、こっちの俺は長門に一体なにをしたんだろうね? 親切? 長門にとっての親切なんて申し訳ないのだが思いつかない。
「もしかしたらお前は宇宙人か?」
 ……ここで一切わかりません的な顔で顔を傾げられてはもう既に絶望的だ。
 いや、普通ならばこの反応で正しいんだ。そう願ったこともなくは無いが……いざなってみると困る事が俺にはありすぎるような気がする……
 ……これは絶望的なのか? おい、答えやがれどっかのにやけ面。

 長門の反応に軽く絶望を覚えつつも、この流れで朝比奈さんにも確認をとっておこうと思った。
 ついでってのも失礼だが、名誉顧問であらせられる鶴屋さんにも挨拶程度にもしといた方がいいだろう。
「こんにちわ。朝比奈さんと鶴屋さんですよね?」
「ふぇ? えっ……あの……その……」
「あっはっは! みくる照れすぎだよ! コンチワ! そうだよ! あたしが鶴にゃんで、この顔真っ赤にしている子がみくる!
これから仲良くしてくれよっ!えぇっとぉ~キミ! 名前はなんていうだっけ?」
「あ、あぁ……名前は」
「あの~、キョンくん……ですよね?」
「いえ、だからそれはあだ名……」
「キョンくんっていうのかい? あっはっは! 面白い名前だねぇ! 鶴にゃんは気に入ったにょろ!
よろしくねっキョンくん! あたしのことは鶴にゃんって呼んでくれてかまわないからねっ!」
「いや……鶴にゃんはちょっと……」
 実際年上だからとか関係なしに、俺が鶴にゃんってのはガラス並みの抵抗がある。ていうか鶴にゃんって……
「むぅ~お姉さん、わがままな子はきらいだよ~?」
 いや、今は同い年じゃないかとかいう無粋なツッコミは辞めておいた。とてもツッコミが通用する人間じゃないのは重々承知しているし、このツッコミはこの世界では意味を為さない。
「で、朝比奈さん」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「おっ、なんだい!? キョンくんもうみくるを落としにかかってるのかい!?」
「ち、違いますよ!」
「つつつるやしゃん!?」
「あっはっはっはっ! 冗談だよ冗談!」
 鶴屋さんが大声で言うからあらゆる方面からな視線と密談の声が痛い。特にあの独特の鋭い眼光を持つ変態からがダメージ量が凄い。
「あ、朝比奈さん、少しお耳をお貸しいただいても……」
「え? あぁはい、わかりましたぁ」
おずおずと小動物のように震えながらも耳をこちらへと向けた。
「答えるときはイエスなら首を縦に、ノーなら横に振ってください。あなたは未来人ですか?」
 ……ノーですか……完全に希望を絶たれた感じだな。今回での最大の報酬は小動物の如く小首を傾げてから必死に首を横に振る朝比奈さんを見れたことだけだ……
 そんな余裕ないんだがな……あれだ、空元気? いや苦し紛れの強がりだな。
これでも冷静に考えてるようだが、脳の奥深くでは不安で堪らなかった。
 ……ダメだ、まだ手がかりは有るはずだ。まだ始まったばかりなのに簡単に手がかりなんか見つかるものか。
 ……少し眠ろう。脳を休ませればなにか手がかりに繋がることがわかるかも知れない。

「キョンくん? キョンくん?」
 誰かに呼ばれる声で目が覚めた。俺はどの位寝ていたのだろうか……いや、待て。さっきの声。戦慄を奏でるように響く綺麗な声。背筋が凍り付いた。
「キョンくん大丈夫? 気分悪そうだけど……」
 その声の持ち主は紛れもなく朝倉涼子そのものの声であった。
 数ある懸案事項のうちの一つが朝倉涼子の存在。そして、こいつも普通の人間であるのかどうかだ。
 誰かの手によって改変されたであろうこの世界で、長門が普通の女子高生となり、
朝比奈さんも同じようになっており、且つ何故か俺らと同じクラスになっている。
 そうなると、この朝倉も長門同様、普通でしがない女子高生となっているのだろうか。
 だがそうでなかったらどうする?二度あることは三度あるのか? もしそうだとひたらこの法則を見つけた奴を叩きにいかないとならない。
 ……いやその前に俺は死んでるか。なにせ頼りの長門が一般人だ。襲われたら俺は素直にその運命を受け入れるしかなくなるのだから。
「キョンくん? 本当に大丈夫?」
 まずは様子見だ。全ての現状がわかっていない以上、なんの対策をとることもできない。
 少なくとも、今の俺は落ち着いている。判断を間違うようなことはしない筈だ。……そう願わんと。
「あ、あぁ。大丈夫だ。それでなんの用だ?」
「あっ、あのね? 今日の放課後に色々掲示物みたいのを作らなきゃならないんだけど……キョンくんにお手伝い頼もうかと思って……」

 ……いきなり呼び出しって……初っぱなからターニングポイントかよ……初日からそれはないぜ。
「あー……どうして俺なんかに?」
「あっ、でも迷惑かな? いきなりこんな事頼んじゃ迷惑だよね……」
「いや迷惑とかそういうんじゃ……」
「じゃお願いねっ!♪」
 さようなら皆さん、俺はどうやら地獄行きの切符を自分から手にしてみればしまったようです……
 だがこの話を真後ろにいる奴が聞き逃すわけもなく。
「それじゃああたしも手伝うわよ! どうせあんたみたいのがいると終わるものも終わらなそうだしね!」
 これは天の声か! 今度ばかりはハルヒに感謝してもいいような気がしてきた。
「それじゃああたしも手伝おうかねっ!」
「……手伝う」
「わ、わたしも~」
 何故かどこからともなく三者三様にヘルプのお声がかかった。なんという地獄耳だ。
 まぁ五人の真意は確認できないが、朝倉と俺二人だけのシチュエーションにならなくて、正直ほっとした。色々な意味で。
 何より、仮に朝倉がまだなんたらインターフェースの急進派だとしても、いくらなんでもハルヒがいる前では迂闊に行動を取れないだろう。
 しかし、それはハルヒがまだ神やら、自立進化の可能性やらだとしたらの話だが。というか、そうでなかったら、俺を殺す必要なんて無いか。
「そ、そうよね……沢山いた方が早く終わるものね」
 朝倉がなにかしょんぼりとした感じで言うと、ハルヒはしてやったりの顔から、俺へ顔を向けての笑顔、そして朝倉を睨み付けた。
 ころころ表情が変わるが真意を表す表情もしてほしいところだ。朝倉を焼けるまでの熱視線で睨んで何になる。
 なにがしたいんだろうなぁコイツはよぉ……
 今日は入学式だけあって俺の頭をさらに悩ませる授業も無く、無事放課後になった。
 現在ハルヒ、長門、朝比奈さん、鶴屋さん、朝倉となんともいえない空気の中掲示物作成の仕事をこなしている。
 皆無言で作業をこなしているのだが、ハルヒは朝倉を時折睨みつけるようにしているせいで作業が怠り気味である。
 一方朝倉は、ハルヒの素敵な熱視線になにか申し訳なさそうな顔を浮かべながら着々と時間割の枠のようなものを作っている。
 長門は長門で視線を漂わせている俺と目が合うと微笑みかけ、朝比奈さんは俺の方にたまに顔を向けては赤らんで、
鶴屋さんに至っては俺の方をずっと向きながら作業をしている。……鶴屋さんあなた器用な人ですね。
「えぇっと? どうしてハルヒとか長門だとか朝比奈さんや鶴屋さんはどうして手伝ってくれているんですか?」
 思わず敬語になってしまうこの空気。というか、後から気づいた事なのだがこの空気でこの質問は地雷な気がする……
「それりゃねぇ? あんたなんか不器用そうじゃない? だからよ! ねぇみくるちゃん?」
「ふぇ!? あっ……そう、ですねぇ……ねぇ鶴屋さん?」
「みくる~それはちょびっと無茶ブリってやつだよ……ねぇ、有希っこ!?」
「……そう。……涼子も……ね?」
「……キョンくんはそんなことないと思うんだけど……」

 そう言って俺に微笑みかける朝倉は、悔しいが朝比奈さんに匹敵、いや、上回るかもしれない美しさだった。
 これを直で見れば、俺が思わず頬も緩んでしまうのも頷けるさ。だがすぐにその頬の緩みを引き締めた。どこからか凶々しい殺気を感じたからである。
「へぇ~? 朝倉とキョンって仲いいんだぁ~?」
 殺気の発信源はコイツなのはわかっていたさ……この殺気の鋭さは幾度となく体験してきているからな。
「……今日初めて会った人に仲いいなんてないだろう」
「そ、そうよ涼宮さん? まだ知り合ったばっかりだしまだ……その……」
「"まだ"なんだぁ? そのうち、見ているだけでベタベッタでアッツイ関係になるんだぁ?」
「ち、違うってば! そんなつもりじゃ……」
「おいハルヒ、何が言いたい」
「べっつにぃー? ただそう見えたまでよ?」
「はいはいっ! 三人さんや? 痴話喧嘩はほどほどにして、ちゃっちゃと仕事片づけないとねっ!」
 あなたが女神か鶴屋さん。今度改めてお礼を言おう。
 ハルヒはブスッとした態度で応え、朝倉は申し訳なさがさらに増しながらも仕事の手は止めていなかった。
 と、いうか。先程とは違うような二つの視線を感じるのはどうした事だろう……ちょっとした恐怖だ。ゴーゴンに睨まれるよりも鋭いものだろう。
 あえて誰からのものなのかは気にも留めないように必死で現実逃避のための名簿作り作業を再開した。
 やれやれ、願わくば、無事生きて元の世界に帰れる事を……

 

 

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最終更新:2007年05月03日 02:15