終章
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…ここまでを、ようやっと書き終えて、石野雫はふうと凝った肩をほぐすように頭を回した。
長いようで、案外、まとめてみると短かったようにも思える。
「やっとここまで、たどりついたんだなあ……」
もう、残された部分は、ラストだけである。
それは祈りをこめた、ほんの数行のフィクションだ。
石野は、これまで冒険してきたデータのすべてが消え、かわりにそこには新世界が生まれるのだという話を聞いた時、最初に考えた事を、もう一度思い出す。
…世界は情報で出来ている。
いつかすべての歴史が思い出だけになり、物語になったとしても、これを読むものが誰か一人でもいる限り、それは心が認めた一つの真実となる。
私達は忘れない。
私達が出会ったあの日の事を。そして私達が過ごしたあの日々を。
たとえ公にされる事のない、ただの物語だとしても、
これを書く事で私は今をつなげたい。
指は物語の最後の文字を打ち出していく。
かつてあったすべては到底伝えきる事が出来ず、文族でもない、つたない私の言葉だけれど、
魔術が人の想いなら、
かつての想いを確かめて、今に贈り続ける事で、
出来る何かがあるのではないかと、
私はそう、信じたい。
私達の、過ごした証が世界のどこかに残っていると、信じたい。
――――タン!
キーボードが、変換の最後のエンターキーを押した。そして物語が完成する。
だから今はここで筆を置こう。
―その後再び始まった、同じ名前を冠するゲームとは、これはまた、別の物語なのだから……
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漆黒の空間に浮かぶ青い船。
その船上に広がるのは、とても宇宙にあるとは思えない、肥沃な文化の街並み達。
「次の構図はどうしようかな…」
「学校行けよ? さぼんじゃねーぞ? ん?」
物語の、中から消えた二つの影が、
今日も、世界のどこかで踊っている。
―了―
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※この物語はフィクションです。実在するプレイヤー・アイドレス・儀式魔術とはいっさい関係ありません。
The undersigned:Joker as a liar:城 華一郎(じょう かいちろう)
最終更新:2008年01月29日 00:33