(英エコノミスト誌 2012年4月28日号)

次期フランス大統領の座を射止めそうな社会党候補は、フランスにも欧州にも悪影響を及ぼすだろう。


次期フランス大統領の座が見えてきた社会党のフランソワ・オランド氏〔AFPBB News〕

フランスは、欧州連合(EU)を動かす独仏エンジンの片割れだ。ユーロ危機では、節約的な北部諸国と浪費的な南部諸国の間、債権国と債務国の間に立ち、キャスティングボートを握ってきた。しかも、大国でもある。

 仮にフランスがユーロ圏内で次のトラブルに見舞われる国になるなら、単一通貨ユーロの存続そのものが疑わしくなるだろう。

 フランス大統領選で、社会党候補のフランソワ・オランド氏が勝利を収めそうなことが大問題となる理由は、そこにある。4月22日の第1回投票では、オランド氏は現職のニコラ・サルコジ氏を僅差で上回るにとどまった。

 だが、オランド氏は5月6日の第2回投票で勝利を収めるだろう。というのも、ジャン・リュック・メランション氏らに投じられた極左票をすべて吸い上げるのに加えて、右派の国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン氏や中道派候補フランソワ・バイル氏の支持者のかなりの部分も取り込むことが予想されるからだ。

投票権があったらサルコジ氏に1票

 サルコジ氏の前には山が立ちはだかっている。フランスの有権者の多くは、本能的にサルコジ氏を嫌っているようだ。ルペン氏(憂慮すべきほど善戦した)とバイル氏(残念なことに振るわなかった)は、サルコジ氏が負ける方が自派に都合がいいため、どちらもサルコジ氏を支持しないだろう。

 従って、5月初めのテレビ討論で自爆的な発言をするなどの突発事故がない限り、5月にオランド氏が勝利を収め、6月の議会選挙でも社会党が勝利を収める可能性が高い。

 本誌(英エコノミスト)は、2007年の前回選挙でサルコジ氏を支持した。サルコジ氏は当時、フランスの有権者に向けて、変革以外に選択肢はないと勇ましく訴えていた。その1年後に世界的な経済危機に襲われたのは不運だった。サルコジ氏は、いくつかの業績も残している。社会党政権が定めた週35時間労働制の緩和や、大学の自由化、年金支給年齢の引き上げなどだ。

 だが、サルコジ氏の政策は、本人と同じく予測不能で頼りにならなかった。サルコジ氏は最近になって、保護貿易主義的で移民排斥的な態度を見せ、反欧州的な色合いを強めている。それは国民戦線の支持者向けのポーズかもしれないが、こうした政策を信じすぎているように見える。

 だがそれでも、本誌に5月6日の選挙権があったなら、サルコジ氏に1票を投じる。その理由は、サルコジ氏への評価というよりも、オランド氏を勝たせないためだ。

 社会党候補が大統領になれば、フランスは大きな問題を1つ正すことになるだろう。オランド氏は、ユーロ圏の回復の機会を狭めているドイツ主導の厳しい財政引き締めに反対している。だが、それは誤った理由からだ。そのうえ、オランド氏はほかの多くのことを読み違え、フランスの(そしてユーロ圏の)繁栄を危うくする可能性が高い。

生粋の社会党員

 候補者たちが選挙戦で訴えてきた政策からは決して窺い知ることはできないかもしれないが、フランスは今、極めて切実に改革を必要としている。

 公的債務は多額で、現在も増加している。政府は35年以上もの間、黒字を出したことがない。銀行は資本不足だ。失業率は高い状態が続き、雇用が蝕まれている。歳出はGDP比56%に上り、フランス政府はユーロ圏で最も大きな政府となっている。

 オランド氏の政策は、そうしたすべての問題に対応するには、あまりにもお粗末に見える。フランスの近隣諸国が本格的な改革に取り組んでいることを考えれば、なおさらだ。

 オランド氏は社会的公正をしきりに訴えているが、富の創出の必要性についてはほとんど語らない。財政赤字の削減を公約に掲げてはいるものの、歳出削減ではなく、増税で実現しようという考えだ。

 オランド氏は、教員6万人を新たに雇用すると約束している。オランド氏自身の計算によれば、その提案を実現するには、5年間でさらに200億ユーロが費やされることになる。政府は一段と大きくなるわけだ。

 状況を楽観する人々は、オランド氏は社会党の中でも穏健派だと反論する。オランド氏は、第5共和制で唯一の社会党の大統領だったフランソワ・ミッテラン氏と、ミッテラン政権で財務相を務めた後に欧州委員会委員長となったジャック・ドロール氏の下で働いた経験を持つ。

 1997年から2002年までのリオネル・ジョスパン氏の首相時代には、オランド氏は社会党のトップの座についていた。ジョスパン氏は、ドゴール主義者の当時の大統領ジャック・シラク氏よりも改革主義的な姿勢を見せることが多かった人物だ。

 楽観論者たちは、所得税の最高税率を75%とし、サルコジ氏が62歳に引き上げた年金受給開始年齢を60歳に戻すというオランド氏の派手な公約を、象徴的なものだとして片付けている。75%の税率が適用される人はほとんどおらず、年金受給年齢の引き下げの恩恵を受ける者はごくわずかだというのが、その理由だ。

 彼らに言わせれば、現実主義者のオランド氏は、フランスの信用力を気に掛けるドイツや投資家の圧力により、正しい行動を取らざるを得なくなるという。

 もしそうなら、本誌以上に喜ぶ人はいないだろう。だが、オランド氏がこれまでの発言にもかかわらず、さらには自身の意図にもかかわらず、最終的に正しい行動を取ると考えるのは、あまりにも楽観的すぎるように思える。

 オランド氏は根深い反企業的な態度を露にしている。そのうえ、改革されていない自らの社会党に縛られ、改革が必要である論拠を、特にオランド氏自身の口からいまだ聞かされていない有権者に操られることになる。

 オランド氏がマニフェストを破棄してフランスを変革するだけの大胆さを持ちあわせているとする根拠は、過去数カ月の経緯にも、党のフィクサーとしての長い経歴の中にも一切見あたらない。しかもフランスは今、ミッテラン氏が社会主義的な実験を行った1981~83年よりも、ずっと脆い状態にある。

 今回の市場の反応は、容赦のないものになるかもしれない。それはフランスの近隣諸国をも傷つける恐れがある。

さらば、ベルリン

 他の欧州諸国はどうなのだろうか? ここでは、どんな形の歳出削減も支持できないというオランド氏の姿勢が、短期的には1つの幸運な結果を生んでいる。というのも、オランド氏は賢明にも、ユーロ圏の「財政協定」を見直し、財政赤字と公的債務を抑制するだけでなく、成長も後押しするものにしたいと考えているからだ。

 この主張は、アイルランドからオランダ、イタリア、スペインに至る欧州全土で高まっている、ドイツ主導の緊縮財政に対する不満の声に同調するものだ。

 問題は、オランド氏の財政協定に対する批判が、例えばイタリアのマリオ・モンティ首相とは違い、財政引き締めのペースといった精妙なマクロ経済的考えに基づいたものではないというところにある。その批判の根底にあるのは、変革に対する抵抗と、フランスの社会モデルをいかなる犠牲を払ってでも守るという決意だ。

 オランド氏の主張は、改革の道筋をなだらかにするために、財政調整のペースを落とすべきだというものではない。全く改革しないことを主張しているのだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が、オランド氏に反対する運動をすると述べたのも無理はない。

 ドイツの首相は誰しも、やがては隣国の大統領を手なずけることを覚える。それに、オランド氏はサルコジ氏ほど移り気なパートナーにはならないだろう。だが、あらゆる形の構造改革を支持しないという態度を示している限り、オランド氏が、さらなるインフレを容認したり、なんらかの形での債務の相互化を検討するようメルケル首相を説得するのは間違いなく難しくなるだろう。

 フランスの有権者が拒んでいるのに、どうしてドイツの有権者が苦い薬を受け入れるだろうか?

 フランスとドイツの亀裂は、危険な時期に生じることになる。ユーロ圏の有権者は最近まで、緊縮財政と改革という考え方を受け入れる姿勢を見せていた。ギリシャとイタリアの実務家首相の支持率は高かった。スペイン、ポルトガル、アイルランドの有権者は、改革派の政権を選択した。

変革を嫌うフランス大統領は欧州の意志を損なう

 だが、フランスの有権者の3分の1近くは、第1回投票で、反ユーロ、反グローバリゼーションを政策要綱に掲げるルペン氏とメランション氏に票を投じた。そしてオランダでは最近、極右のポピュリストであるヘルト・ウィルダース氏が、歳出削減を巡る対立で連立政権を崩壊させた。

 オランダは基本方針としてはまだ緊縮財政を支持してはいるが、その方法について合意が得られていないのが実情だ。さらに、スペインとイタリアでも同様の反乱が起こり始めている。

 オランド大統領が形勢を変化させ、緊縮財政の緩和に有利に働くことは考えられる。一方、オランド氏がドイツを警戒させ、反対方向へ進ませる可能性も、同じくらいある。

 どちらにしても、1つだけはっきりしていることがある。これほど強硬に変革を嫌うフランス大統領は、ユーロ存続のためにいずれは受け入れなければならない痛みを伴う改革を実行しようという欧州の意志を損なうということだ。だからこそ、オランド氏はかなり危険な人物なのだ。

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最終更新:2012年05月01日 13:53