錬金術。
それは科学の入り口たる魔術。
かつて魔術より生じた科学。
幻想と現実との橋渡しとして、その両極に立った術法である。
この世で最も価値ある物質たる、金。
それを無より生み出そうとしたのが、そもそもの錬金術の起こりであった。
あらゆる物質を精錬し、金へと至ろうとする過程で、様々な物質が解剖された。
分解された物質の、その構造が解明されて、世の理として知れ渡った。
望まれた成果は得られてはいない。賢者の石など存在しない。
されどその過程で得られた知識は、その後の世界の発展に、大きく貢献することになった。
常識を超えようという願いは、それとは別の扉を開き、新たな常識を世にもたらしたのだ。
それは今日まで息づく、金よりも価値のある知識であった。
さりとて、それは一面に過ぎない。
万象を理解するその技術体系の、ほんの一部の顔でしかない。
ある者は錬金術という技術に、それこそ金を求めただろう。
されどある者はその技術に、全く別のものを求めていた。
物質の解明というプロセスを、そのまま主目的として見なし、世界を分析し続けた者達もいたのだ。
物質を理解し続けることは、いずれ世界を理解することに繋がる。
世界の在り様を分析し、解明し続けることは、世界を理解するための、共通した尺度を作ることと同義だ。
それはかつて失われた、統一言語の具現であった。
言葉を分かたれる以前の人類が、互いに不自由なく意志疎通をしていた、神代の時代の言の葉だった。
錬金術。
それは世界を暴く技法。
世界の真理を詳らかにし、世界と分かり合うための言語。
これより語られるのは、その術に翻弄された者の物語。
科学と神秘の境界でこそ、語られるべき物語。
世界と分かり合うことを理解せず、それ故に優しい心を壊し、全てを喪った一人の少女の、その残り香を辿る物語である。
◆ ◇ ◆
苦く、えぐるような味だった。
それは青年が嗜んでいた、煙草だけが理由ではないだろう。
キャロル・マールス・ディーンハイムが、口づけによって得た想い出は、そうした味を伴うものだった。
「進捗の方はどうなっている」
ぶっきらぼうな青年の声が、彼女に向かって語りかける。
魔術師(キャスター)の名と共に復活を遂げ、奇跡の担い手となってしまった、サーヴァントへと問いかける。
生前理解の拒絶として受け止めた、奇跡の体現者となってしまった現状は、あまりにも皮肉なものだった。
もっとも、今の己の有り様を、生前と表することが的確なのかは、キャロル自身も自信がなかったが。
「モノがモノだ。相応に時間はかかるだろう。オレとてシャトーの準備の方にも、時間を割かねばならないのだからな」
無茶な要求をしたからには、相応に納期を遅らせてもらう。
キャロルは己がマスターへとそう応えた。
冗談のような話だが、彼女を召喚したマスターは、ロボット兵器のパイロットだった。
禍つ神の映し身、嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)。
彼と不可分の存在でありながら、この場へと持ち込むことが叶わなかった、空を震わす黒鉄の神。
キャロルの道具作成スキルを知った彼は、あろうことか、その神像を、錬金術にて模造しろと言い出したのだ。
「錬金術は奇跡ではない。理詰めの技術の結晶に、真なる神は宿らない。お前の想い出にあった力を、全て引き出すことはかなわないぞ」
「構わん。それはそれで面白いハンデだ」
にいと不敵に笑いながら、青年はそう言い放った。
力強さを感じさせながらも、どこか危うさの漂う表情だ。
あるいはかつてのキャロル自身も、こんな顔をしていたのだろうか。
「……お前が聖杯に望むのは、一人の人間と紡ぐ未来だったな」
故にキャロルはそう切り出した。
己の内に浮かんだ疑問を、正直に言葉にして尋ねた。
「それがどうした」
「重要な話だ。お前は己と同じ闇へと、その者を引きずり込むことで、共に生きることを望んでいたな」
「何が言いたい」
遠回しなキャロルの問いかけが、整った顔立ちを歪ませる。
笑みを浮かべていた青年の顔が、不満げなそれへと変化していく。
「だがお前の想い出は、こう望んでいた。そいつだけは日の当たる場所で、穏やかに生きていてほしいと」
それが嶽鑓御太刀神の想い出と共に、キャロルが受け取った感情だった。
細かな理由は定かではないが、青年は地獄の只中にいた。
路地裏で残飯を食う日々を過ごした。仲間と信じていた者には、背中から銃弾を浴びせられた。
生きるため、殺したいほど憎い相手に、這いつくばり命乞いをしたこともあった。
彼にはそれ以外、何もなかった。何も持つことができなかったが故に、何も望むことができなかった。
唯一願うことができたのは、自分ではなく大切な他者が、幸福に生きていくことだけだ。
こんなどん底の苦しみを、決して味わうことがないようにと、祈り続けることしかできなかった。
「その心は、恐らくは今も、お前の奥底に息づいている」
そして青年は、今になっても、恐らくはその想いを捨てきれていない。
いかな経緯かは不明だが、邪神に魅入られ穢された今でも、その心は残り続けている。
「その正と負の心の矛盾は、いつかお前を殺すことになる。本当に望むものは何か、一度考えておくことだ」
それは聖杯を望むことよりも、よほど重要な大前提だ。
オレはそれを拒んだせいでこのザマだと、キャロルはマスターに向かって言った。
ここに在るキャロル・マールス・ディーンハイムは、本人の魂そのものではない。
錬金術の対価として、捧げられ燃やされた想い出の、その情報の集合体だ。
喪った想い出を継ぎ合わせただけで、一つの人生を構築できた。
それほどに多くを投げうって、結果何も為すことができなかった。
目的を誤魔化し見失い、さまよい続けたその果てが、こんなものを吐き出した搾り滓だ。
同じ運命を辿ることは、たとえそれが他人であっても、快いとは思えなかった。
「何かと思えば、そんなことか」
されども男は、嘲笑する。
キャロルの数百年の後悔を、そんなものかと鼻で笑う。
「この胸に宿る白も黒も、いずれも俺の本心だ」
それに対して迷いはない。
どちらの結末を歩んだとしても、全く別の道に行き着いたとしても、後悔することは決してない。
どんな形であれ、己はあいつを、幸福へと導けるのならばそれでいい。
そこに自分という存在が、隣に立てるのであればなお素晴らしい。
「そんなことも受け入れられないから、お前はそうして破滅したのだ」
邪神オロチの八つが首の、その筆頭たる一の首。
嶽鑓御太刀神を担いし魔人――白き衣と剣のツバサは、迷うことなく言い放ったのだった。
【クラス】キャスター
【真名】キャロル・マールス・ディーンハイム
【出典】戦姫絶唱シンフォギアGX
【性別】女性
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:E 耐久:C 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:E 宝具:B
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
生前、聖遺物すら加工したそのスキルは、最高レベルにまで到達している。
自動人形・オートスコアラーの作成までは不可能だが、
アルカ・ノイズを生成し、下僕として使役することはできる。
【保有スキル】
錬金術:A
万象の構造を解明し、分解・再構成することを目的とする技術。
キャロルは数百年の研鑽により、この術を極めて高いレベルで修得している。
火・水・風・土の四大元素(アリストテレス)を始めとする、様々なエネルギーを行使することが可能。
絶唱:-(A)
本来はFG式回天特機装束・シンフォギアの決戦機能。
肉体の保護を度外視し、聖遺物の能力を限界まで引き出す滅びの歌である。
キャロルは宝具『終焉を爪弾く殲琴(ダウルダブラ・ファウストローブ)』発動時のみ、この歌を歌い上げることができる。
錬金術の力でバックファイアをねじ伏せ、永続的に歌うことが可能となった絶唱は、
理論上、地球人類70億のフォニックゲインに匹敵するほどの破壊係数を叩き出す。
高速神言:B
呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。
大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。
想い出の焼却:E
錬金術の戦闘エネルギーは、「想い出」と通称される、脳内の電気信号を対価に引き出されるものである。
普通に戦うだけならば、キャロル自身に影響が出ることはない。
しかし宝具の発動など、多大な「想い出」を要する戦術を取った場合には、彼女の脳や記憶に相応のダメージが及ぶことになる。
記憶の完全焼滅は、キャロルの魂の死を意味する。
このため、霊魂である現在のキャロルが、記憶を燃やし尽くすということは、そのまま死へと直結する。
【宝具】
『終焉を爪弾く殲琴(ダウルダブラ・ファウストローブ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1人
筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:A++ 幸運:E
ケルト神話の主神、ダグザが用いたとされる竪琴。
その破片を錬金術によって、プロテクターへと錬成した宝具である。
これを装着することによって、キャロルのパラメーターは、上記のように向上される。
音色によって増幅された錬金術と、鋼糸魔弦を用いたワイヤー戦法が基本戦術。
更に、上述した絶唱を歌い上げることによって、その破壊力は乗算的に上昇していく。
ただし、これほどの戦闘能力を発揮するには、相応の量の「想い出」が必要となっており、
長時間の戦闘は、装者に深刻な記憶障害のリスクをもたらすことになる。
『忌城は黙示の闇に聳える(チフォージュ・シャトー)』
ランク:C 種別:対界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
堕ちた英霊の居城の名を冠した、異端技術の結晶体。キャロルら一派の居城である。
物理的ダメージの一部を異空間へと転移・霧散させる、位相差障壁の技術を応用しており、その守りはまさに鉄壁。
内部にも敵の「想い出」を読み取り、忌むべき過去を具現化させるなど、様々な防衛システムが組み込まれている。
しかしその最大の真価は、錬金術の分解エネルギーを放出し、世界そのものを破界することにある。
宝具『終焉を爪弾く殲琴(ダウルダブラ・ファウストローブ)』の絶唱を受け、
滅びの歌を拡散する音叉と化したこの城は、世界の万象を分解し、現世に黙示録を再現する。
……とはいえ、この機能を使うためには、エネルギーを沿わせるための、
フィールドの龍脈の理解・解明が必要不可欠であり、すぐに使うことはできない。
『碧の獅子機(アポカリプティック・マスターテリオン)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:500人
混沌にて完全を犯し、万物を滅ぼす錬金術の極北。
宝具『終焉を爪弾く殲琴(ダウルダブラ・ファウストローブ)』を最大駆動させ、
鋼糸魔弦によって生成される、緑碧の光を放つ巨獣である。
攻防ともに破格のスペックを保有しており、その顎から放たれる太陽の炎は、立ちはだかる敵全てを焼き尽くす。
もっとも、この宝具が発動されることは、キャロルの「想い出」の完全焼滅とほぼイコールとなっており、
戦闘後の彼女の心身が、残り続けるという保障はできない。
【weapon】
アルカ・ノイズ
神話の時代に生み出された、生きた対人兵器・ノイズを、錬金術によってアレンジしたもの。
上述した位相差障壁に回されるリソースは、この過程で減少しており、銃撃でも怯むほどに弱体化している。
ただしその最大の真価は、触れただけで万物を分解する、圧倒的な攻撃力にある。
キャロルはこのアルカ・ノイズを、自らのスキルによって生成可能。
【人物背景】
魂と想い出をホムンクルスに転写し、数百年の長きを生きた錬金術師。
見た目は童女のそれだが、宝具『終焉を爪弾く殲琴(ダウルダブラ・ファウストローブ)』発動時には、成人女性の姿へと成長する。
父イザークを殺されたことをきっかけに、世界を完全解剖する「万象黙示録」の実現のため、長きに渡って暗躍し続けていた。
可愛らしい容姿に似合わず、一人称は「オレ」。
全てを見通す聡明さと、容赦を知らない苛烈さを持ち合わせている。
一方で、極限状態まで追い詰められた時には、外見年齢そのままの童女のように、必死に泣き喚く姿も見られていた。
かつては天真爛漫で、父親思いの優しい少女であったという。
イザークは世の中のために錬金術を使い、多くの人々を救ってきたが、
その技術は世間には神の奇跡と区別がつかず、故に神の座を穢す異端者として恐れられていた。
遂にイザークは火刑に処せられ、彼の「生きて世界を識るんだ」という遺言を受けたキャロルは、
父の遺志を継ぎたいという思いと、父の復讐を果たしたいという憎しみの、矛盾する二つの心に囚われるようになる。
そのため、世界を識る=世界を分解し分析するという論理から、万象黙示録という破滅を目指し、外道をひた走ることを選んだ。
しかしイザークが伝えきれなかった、最期の言葉の回答は、
世界を滅ぼすことではなく、世界を理解し許すことだと告げられ、彼女の論理は完全に破綻。
万象黙示録も頓挫し、世界との無理心中を図ったものの、最終的にはシンフォギア装者達によって阻止された。
今回召喚されたキャロルは、現世に生きた本人ではなく、
彼女によって焼却された、「想い出」が結晶化して意識化した存在である。
そのため、現世に生きたキャロルが失った、数百年分全ての記憶を有している。
キャロル本人の魂が、どのような顛末を辿ったのかは、未だ不明な点も多い。
【サーヴァントとしての願い】
今はまだ定まっていない
【基本戦術、方針、運用法】
本気を出すことが死に直結する、超短期決戦型サーヴァント。
一応魂喰いなどを駆使して、外部から魔力を得ることができれば、
その分だけ想い出の焼却量を減らすこともできるが、燃費が燃費なだけに相当な量が必要となってしまう。
このため序盤では防戦に徹し、宝具『忌城は黙示の闇に聳える(チフォージュ・シャトー)』の準備が整った瞬間に、一気に勝負を決するのが上策と言えよう。
アルカ・ノイズは神秘性に乏しいため、上級サーヴァントにはその分解能力を発揮できない可能性もあるが、
マスターを直接攻撃することにおいては、十分な戦力となり得る。
【マスター】
ツバサ@神無月の巫女(アニメ版)
【マスターとしての願い】
自分と大神ソウマにとって、最も幸福な未来を獲得する
【weapon】
嶽鑓御太刀神(タケノヤスクナズチ)
邪神・ヤマタノオロチの一部である、黒いボディを有した鋼の巨人。
背中には光の翼を背負っており、自在に空を飛ぶことが可能。
メイン武器は刀剣で、他にも両目からの光線や、胸からの熱線などの武器を保有する。
当然ながら本来は、聖杯戦争に持ち込めるような代物ではない。
しかし、一流の道具作成者であるキャロルの下、その力を擬似的に再現した機体が建造中である。
もちろんオロチの力は宿されていないため、本物に比べると、スペックはいくらか落ちる。
剣
両刃の刀剣。特筆すべき能力はないものと思われる
煙草
愛煙家であるらしく、日頃から煙草を持ち歩いている。
【能力・技能】
オロチの首
ヤマタノオロチの力を受けた、八人の眷属の一人。
ツバサはその筆頭たる一の首であり、目覚めた七人の中でも、最強クラスの実力を有している。
強い魔力による身体強化と、前述するオロチの分身を操ることが可能。
剣術
刀剣を操る戦闘技術。
【人物背景】
世界滅亡を目論む邪神・ヤマタノオロチに選ばれた、オロチ衆と呼ばれる軍団の一人。
一の首であるツバサの力は、他のメンバーの力を大きく凌駕しており、「世界を支配する器」であるとすらも評されている。
ただし当の本人は、世界を「地獄」と呼んで嫌悪しており、自ら支配しようとする気は全くない。
年齢と苗字は不明だが、飲酒(原作コミックにて嗜んでいる)や喫煙を行っていることから、成人している可能性はある。
余裕ぶった含みのある態度が特徴的だが、その内面には黒々とした欲望が渦巻いている。
自分の望むものを手に入れるためには、一切手段を選ばない。
実際には激情家としての側面も持ちあわせており、戦闘時には怒り狂う姿も見られる。
その正体は、主人公・来栖川姫子に想いを寄せる少年・大神ソウマの実の兄。
親から虐待を受けていたツバサは、ソウマを守るためにこれを殺害。自身は罪を一人で背負い、縁を切って姿を消した。
その後裏社会へ流れ着いてからは、地獄のような凄惨な日々を送っており、もはや弟の幸福のみが、彼の唯一の望みとなっていた。
しかし、共にオロチ衆に選ばれたはずのソウマは、姫子を守るためにオロチを裏切り、自らの敵となってしまう。
この残酷な運命を呪ったツバサは、もはやなりふり構うことをやめ、
無理やりオロチの力を目覚めさせてでも、彼を手に入れることを望むようになる。
しかしその心の根幹には、できることなら、幸せな人生を歩ませたかったという想いが、今でも残っているような節が見られる。
光を望む慈愛の心と、闇を望む心中願望――その矛盾する心の混沌が、ツバサという人間の有り様である。
今回は、ソウマとの再会を果たす前の時点から、聖杯戦争の舞台へと招かれている。
【方針】
まどろっこしいやり方は趣味ではない。宝具や嶽鑓御太刀神の準備中も、敵マスターを狩りに行く
最終更新:2015年12月08日 02:26