※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

妹が、死んだ。母さんも、父さんも、俺を置いて3人で死んだ。
家を出て10分の所での、トラックとの衝突事故。
車に乗っていた3人は即死だったらしい。
俺は3人の遺体を見た。事故に遭ったとは思えないくらい安らいだ顔で、外傷もそんなになく眠っている。
瞬間、涙が溢れだした。
あぁ…これから、俺は一人なんだ………。


3人の遺骨を部屋に置き一人佇んでいるとノックの音。
返事をするのも億劫で黙っていると、ドアが開いた。
「キョン……。」
そこには、ハルヒが立っていた。
最初は何か言いたげな顔だった。それもそのはず、俺は学校に行かなくなり2週間がたっていた。
ドアを開けてしばらく俺の顔を見たハルヒは、無言で近付き、俺を抱き締めた。
「ごめんね?……何もしてあげられなくて、ごめんね?」
ハルヒは涙を流しながら、俺を抱き締めていた。
誰が悪いわけでもない、ただ、俺が現実から逃げているだけだ。
「もう、疲れたよ。俺には、何もなくなった。」
ハルヒにそう声をかける。
顔を鏡で見ることはなかったが、たぶん生気など一かけらもない顔をしていたのだろう。

ハルヒの顔は青ざめ、俺を抱き締める力は強くなっていた。
「そんなこと言っちゃダメ!あんたには、あたし達がいる。あたし達には、あんたが必要なの!!」
ハルヒの大声が、今はやけに邪魔くさい。頭では、うれしい言葉だと理解しても、心が人を、拒む。
「気持ちはうれしいが、帰ってくれ。俺は…疲れた。」
涙など流し尽くした。それでも、夜になるとまだ、出てくる涙。孤独感。
そんな様々な感情で、俺は生命力を無くしていく。
ハルヒは、俺からゆっくりと体を離し、口を開いた。
「あたし達、かわりばんこであんたを見張りに、泊まりに来るから。……絶対に、一人になんかしないんだからっ!!」
そう言うと、走って俺の部屋から去った。


「何故、3人が死んだんだ?何故、俺じゃなかった。俺は何故、生き残った。」
そんなことを考えてしまう。
寝てる時も、目が覚めた時も。
まだ、親には何一つ恩を返していない。妹なんて、これからが成長期だ。
何故、俺だけが残らなきゃならなかった。
いっその事、俺だけが死ねばよかったじゃないか。
「キョンくんっ!!」
朝比奈さんの声が俺の部屋に響く。
「だ、大丈夫。大丈夫ですから……お願いだからそんな思い詰めた顔、しないでぇ……。」
ハルヒ同様、俺を抱き締めながら泣いている。
掴まえてないと、俺が消えるとでも思っているのか。
……消える、か。それも構わないかもしれない。
俺は、抱き付かれながらも、何処か焦点の合わない目をしていたのだろう。
朝比奈さんに両頬を挟まれ、見つめ合わされた。
「わたしは此処にいます、からぁ……。」
それでも、俺は返事をせずにずっと考えていた。

『俺の代わりに3人を生き返らせる』、そんな事が出来るなら喜んで俺は受け入れよう。
俺にとっての家族3人は《命に代えても助けたい人》だ。今すぐにでも代わってやる……そんなことが可能なら、な。
「キョンくん。あなたまさか……後を追おうなんて考えてないですよね?」
今日は、古泉がいる。
さすがのこいつも、ニヤけ面を浮かべられないらしい。
深刻な表情をして、俺の横に座り、俺の顔を睨む。
「さぁ…な。」
それだけ伝えると、俺は目を逸らした。
古泉は、怒りを覚えたのか、俺の肩を掴み叫んだ。
「そんなこと言わないでください!あなたは…僕にとっての、かけがえの、ない………くっ…すみません。」
途中で、古泉は涙を流し始めた。
俺は、何も言わずに思案に耽ることを再開した。
順番的にいくと、明日来るのは長門だ。
あいつなら……。


「待ってたぞ、長門。」
俺は、ドアを開けた長門に声をかけた。
「俺の命の代わりに3人を……「出来る。だけど、推奨しない。」
全てがお見通しだったようだ。
「それは、わたしもシミュレートした。しかし、推奨出来ない。」

まるで、俺が言い出すのをわかっていたかの様に言葉を継いでいた。
しかし、決意は変わらない。変えない。
「お前の推奨なんて、関係ない。決めたんだ。」
そこで、長門は俺の考えもよらないことを言った。
「それで代わっても、あなたの家族には被害が出る。」
……なんだって?
じゃあ、俺以外に誰かが死ぬ事は規定事項だと言うのか?
俺がまた、考えていると長門が口を開いた。
「シミュレート結果をあなたの頭脳に映像として送る。これは、涼宮ハルヒの力を使い、あなたと家族の死を入れ替えたシミュレート映像。」
見る……しかない。少しでも、可能性があることにかけて俺は頷いた。

………此処は?
「あなたとわたしは、俯瞰視点で見れるように映像の中を動き回れる。」
辺りを見回す。
黒と白が基調となった服ばかりの世界。
俺の遺影、その下に佇む俺の体。
家族の姿を探す。
……居た。来てくれた人に、まともな挨拶も出来ずに泣いている両親。
SOS団に囲まれ、みんなで泣いている妹。

よかった……無事じゃねーか…。
みんなの姿を確認し、俺は涙を流した。
「長門、ありがとう。みんなが無事ならこれでいい。力を……「まだ。」
長門が、俺の言葉を遮る。
「何がまだなんだ。みんな、無事でいるだろうが。」
俺は怒気を含んだ声で口をだした。
「これからが、問題。」
すると、長門は映像を早送りのようにした。
「な、なんだよ…これ。」
俺が早送りされる映像で見たもの。
葬式の翌日から、食事をしなくなり、入院し、栄養失調で死んでいく妹の姿だった。
「長門!!これは…これはどうにかならないのか!?」
長門は、横に首を振った。
「不可能。……あらゆる可能性の亡くなり方で、あなたの死をシミュレートしても、あなたの妹は後を追う。」
突き付けられた残酷な真実。気がつくと、俺は現実世界に戻っていた。
深くうなだれるしかない俺に、長門が声をかけてきた。
「あなたは、生きるしかない。」
張り詰めていたものが切れた音がした。
「っ!!勝手な事言ってんじゃねぇよ!!俺が…俺がどんな苦し………。」
本能のままに掴みかかった長門の目には、無表情ながらも涙が流れていた。

「わたしも、どうにかしたかった。……だけど、有機生命体の死は、どうにもならない。」
その、悲しくて澄んだ涙で俺は正気に戻った。
「ごめん、長門。……ごめん。…わりぃ。」
気がつくと、流し尽くしたと思っていた涙が、再び流れていた。
止まらない程、止められない程流れる涙。
これまでで一番多い量の涙が頬を伝い、部屋の床に落ちて弾けて、消えていった。
すると、長門が天井を見上げた。
「……この部屋の情報量が、もの凄い勢いで増加している。まさか……情報統合思念体?」
言い終わるや否や、脳に直接声が聞こえてきた。
「キョンくん、聞こえる?」
まさか…妹の声だ。
「聞こえる、聞こえるぞ!!」
「よかった!あのね、情報なんとかって人が少しだけ話していいって。」
「そ、そうか。」
「でも、時間ないから言いたいことだけ言うね?」
「お、おう…。」
「キョンくんは、生きて。あたしとお母さんとお父さんは死んじゃったけど、キョンくんの中で生き続けるからねっ!!」
俺は、溢れる涙を止められなかった。
「最後に!SOS団のみんな泣かしちゃダメだよ?全部見てたんだから!!」
ただ、頷くしか出来ない。
「幸せになってね、キョンくんっ!!……大好きだよ、お兄ちゃん!」
そう言うと、俺達の回りを包んでいた違和感が消えた。
「膨大な情報量は、消失した。」
長門は、涙を流しながらも平坦な声で言った。
「な……なが、と……今の……は…?」
俺は同じように涙を流しながらも、途切れ途切れ、声を絞り出した。
「……わたしにも詳しくはわからない。おそらく、情報統合思念体の力であることは間違いないが意図は、不明。」
「そうか…。長門、悪い…けど、……一人にしてくれ。」
長門は、小さく頷き部屋の外に出ていった。


妹は言った。
俺の中で生き続けると。
全部見てると。
SOS団を泣かすなと。
幸せになれと。
……俺のことを、《大好きだ、お兄ちゃん》と。

生きよう。
生きて、約束を守って、天寿を全うして、胸を張って成長した妹に会おう。
そう決めたら、まずやる事は一つだ。
俺は、長門を部屋の中に呼び、手分けしてメンバーを家に呼び出した。

「すまない、みんな。もう大丈夫だ。心配かけたな。」
俺は心の底からのお詫びと感謝を伝えた。
「ぐすっ…ほんとに……心配しましたよぉ…。」
「ごめんなさい、朝比奈さん。」
「無事に元のキョンくんに戻ってくれて、僕もうれしいですよ。」
朝比奈さんは涙ながらに、古泉は元通りのにこやかな顔に戻って返事をくれた。
長門も、何も言わずに頷いてくれた。
みんなが今までと同じ対応をしてくれたことが、とてもうれしかった。
ただ、一人。ハルヒだけが俯いたまま、何の返事もくれなかった。
俺は、他のメンバーにしばらく二人きりにしてくれと頼んだ。

「さっきな、妹に会ったよ。」
ハルヒはこっちを不思議そうな顔で見てきた。
「説教されちまった。死ぬなって、みんなを泣かすなってさ。」
「そう……なんだ。」
ハルヒはまだ、涙目でこっちを見ていた。
「それでな、全部見てるからって、幸せに……なれって。」
俺の目から涙が溢れた。ハルヒも、目から頬に涙を伝わせていた。
「俺には……SOS団、みんながいなきゃ、ダメみたいだ。……見捨てないで、くれよな?」
涙でハルヒの顔が見えない。俺は、自分の袖で、自分の目を拭った。
「あ、あ……当たり前じゃないのよぉっ!!バカァッ!!」
ハルヒは俺の胸に飛び込んで、ワンワン泣き出した。……泣かすなって約束、破っちまった。
「……頼むから泣かないでくれ、ハルヒ。妹に叱られちまう。」
ハルヒは俺の苦笑いの表情を見上げると、少し頷いた。
「それにだ、約束を守るついでに…もう一つ、俺と……幸せになってくれ。」
何のことだというような顔をしているハルヒに、俺はキスをした。
「絶対に、一人になんてしないでくれよ?」
ハルヒは理解したように頷き、いつもの笑顔に戻った。
「あ、当たり前じゃないっ!これからは……ずっと、ずっと一緒なんだからっ!!」

俺はみんなを送るために、着替えている。
みんなには先に外に出てもらった。
ふと、カーテンを開けて、夜空を見上げる。
妹の笑顔が空に映った。
『おめでとう!よかったね、キョンくんっ!ハルにゃんとお幸せにっ!!』
………今のは?
あぁ、そうか。
今のは空耳なんかじゃない。今のは、俺の中で生きている妹の声なんだ………。
俺は自分の心の中の大事な人、家族達の姿に安堵しながら新しい、現実の大事な人、SOS団のみんなの所へと一歩ずつ歩きだした……。


|