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「ほんっとキョンってばかよね!」

ハルヒは怒った顔を見せながら、俺に数学を教えている。

「どうしてこんな簡単なことができないのよ!
こんなにできないとこっちも教える気を失くすわ!」

「そんなこといったってしょうがないだろ。俺は数学が苦手なんだ」

「そんなんだからだめなのよ!
自分で苦手意識を作って、勝手に潰れてくなんてバカとしか言いようがないわ」

今、俺とハルヒは俺の部屋で一緒に勉強をしている。
『団員がバカなんて団長であるあたしが恥だわ』
という信念のもと、休日になるとハルヒは俺の部屋に来て勉強を教えてくれていた。

受験期なのでSOS団による課外活動は行われていない。
その分暇を持て余したハルヒは俺の頭の悪さを嘲笑しにくるわけだ

「キョンくーん、カルピスもって来たよぉ」

妹がドアを開けて突然入ってきた。

「どうしたのけんかしてるの?」

「そんなことないわよ妹ちゃん。お兄ちゃんがちょっと頭悪いだけだから」

「いや、ハルヒがきついだけだ」

お兄ちゃんこと俺は反論した。
妹は不敵な笑みを浮かべると、

「あたしは遊びに行くから。ふたりでお勉強しててねぇー」

といって俺の部屋から飛び出していった。

「ねえキョン、あんた大学受かる気あんの?
もう9月なのよ? こんな基礎的なことできなくてどうやって受かるのよ」

「分からん」

「まったく。話にならないわ」

あまりのふがいなさと、ハルヒのお説教モードに俺は腹を立てた。

「しつこいな! 少しはこっちの身にもなれ!
俺はお前みたいに才能があるわけじゃないんだ!」

「キョンはいつもそう。
自分に才能がないって決め付けて、努力もしようともしない。
そんなんじゃ何も出来ないままよ?」

「分かってるよ! もういい! 今日は帰ってくれ。一人で勉強したいんだ!」

「分かってない。何も分かってない」

「出てけよ!」

俺はハルヒの腕をつかんで、強引に部屋から連れ出すと、
自分の部屋に鍵を閉めた。

「ちょっとキョン! いきなりなんなのよ!」

「早く帰れよ!」

「まったく。知らないからね!」

ドア越しのハルヒの怒鳴り声は嫌に胸に響いた。
ハルヒが階段を下りる音がする。
そのまま俺はベッドに横になり、勉強することはなかった。

一時間ばかりの睡眠の後、俺はトイレに行こうと部屋を出ようとした。
ドアの鍵を回し、ドアを開けると、足元に置き書きが落ちているのに気付いた。
俺はそれを拾って、トイレまで持っていった。

「なんだこれ?」

――さっきは怒鳴ってごめん。
 でも、ちゃんと勉強しないとだめでしょ。
 キョンには頑張って欲しいの。
 頑張って、私に似合う男になりなさい。
 分からないところがあったら言って?
 しっかり教えてあげるから。    ――

俺はトイレの中で、声を出さずに泣いてしまった。
自分のふがいなさと、ハルヒの真剣な気持ちを踏みにじったことが悔しかった。
ハルヒは俺を期待してくれていた。
それに俺は答えられるのだろうか?
答えられなかったら?
ハルヒは俺を嫌いになってしまうのか?

俺はトイレから飛び出し、自分の部屋に戻った。
参考書のハルヒに教えてもらっていたページを開き、
泣きながらシャーペンを動かした。

――でも、分からない。

今さらハルヒには聞けない。
必死になって考えたが、俺には全く理解できなかった。
やっぱりだめなのか?
やっぱり俺はハルヒとは釣り合わないのか?

そして、俺はまた泣いていた。
今度は声を出して。まるで、子供のように。

「ちくしょう! なんで俺はこんなバカなんだ!
不平等すぎるぞ! ハルヒには簡単に分かってるのになぜ?
どうしたらいい? なあ。 ハルヒ。
俺はお前に教えてもらいたいんだ。
ごめん、さっきは怒って。許してくれるかな?」

突然携帯が鳴った。
俺は涙を拭って、電話に出た。

『もしもしキョン? さっきはごめん。怒鳴ったりして悪かったわ。
でも、あんたがふがいないことばっかりいってるから悪いんだからね。
勉強は大丈夫? 分からないところがあったら言いなさいよ?』

「ハルヒ、ごめん。俺が悪いんだ。
今から来て、俺に教えてくれないか?」

『ちょっと、涙声でなに頼んでるのよ。
分かったわ今から行くから待ってなさい』

そこで通話は終わった。

ごめんハルヒ。俺にはお前が必要なんだ。
土下座したっていい。俺を、こんなダサい俺を許してくれ。

ハルヒは二十分ほどで俺の家に来た。
チャイムが鳴ると、俺は玄関に向かいハルヒを出迎えた。

「ハルヒ、さっきはごめん」

「そんなことはいいわ。早く部屋に行って勉強しましょ。時間がもったいないわ」

俺達は俺の部屋に入ると、すぐに勉強を始めた。
俺は泣きながら、ハルヒの熱心な教えに耳を傾けてた。

「まったく。泣いてたら勉強できないでしょ?」

ハルヒは俺の頭を優しく撫でた。

「すまん」

「もういいわ。今日はここまでね。区切りもいいし」

「すまん」

「もういいわよ。しつこいと嫌われるわよ!」

それからハルヒはぽつぽつと俺に話してくれた。

「さっき、手紙に『頑張って』って書いたでしょ?
あれは本当は言っちゃいけない言葉なのよね。
だって、本人は頑張ってるのに頑張っていうのは苦しいでしょ?
だから、私はキョンのこと信じて待つわ」

「ありがとう」

ハルヒは信じて待つといってくれた。
でも、俺は今までそれに答えてきていなかった。

「あ、それと。はい、これ。お守り。
前に大宰府に行った時に買ったものなのよ。
あたしとお揃いになっちゃうけどいい?」

「いい」

それだけ言うのが精一杯だった。

「じゃあ、あたしはもう帰るわね。そんなに落ち込んでないで。
また明日、教えに来てあげるわ」

ハルヒは去り際、

「信じてるからね。ちゃんと復習しなさいよ!」

といって俺の部屋から出て行った。

俺の部屋にはハルヒの甘い残り香だけが残っていた。

ごめんな。ハルヒ。

ありがとう。ハルヒ。

また明日。そんな、ある晴れた日のことだ。


おしまい。
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