――Koizumi Itsuki


真っ白な天井を見上げ、僕は思い出します。
闇に消えていった荒川さんは今、どこにいるのでしょうか。
そして、僕が少女に会う前までの地獄を。

僕があの力に目覚めたのは中学一年の時です。

突然、僕の頭の中を膨大な数の映像が駆け回り、僕はそのまま気絶しました。
訳の分からぬまま学校に通っていました。
あの恐ろしいまでの映像が流れてくることがたびたび起こりました。
そのたび僕は失神して、余りの恐怖に失禁することもしばしばありました。
そんな狂った僕をクラスメイト達は明らかに避け始め、
僕はとうとうクラスの中で孤立していました。
僕は言われもないいじめを受け、気持ち悪がられ、そして殴られました。
もともと人当たりのよいほうでしたから、友達は多かったのです。
今までの日常とのギャップは僕の精神を蝕んでいきました。
それに加え、あの映像が流れる現象の頻度は増加していきました。
僕は恐怖の余り、泣き叫び、そして狂っていきました。
母親に助けを求めても、母はなにもできず、ただただ泣くばかりでした。
どうしたら元の自分に戻れるのか。
気がついたら僕は死ぬことだけを考えて生きていました。
学校にも行かず、部屋にこもり、なにをするでもなく、ただ死が訪れるのを待ちました。
しかし、死はいっこうに迎えにきませんでした。
当時、僕は中学一年生ですから、死ぬことに対する恐怖は想像を絶するものがありました。
どうしようもなくなって、僕は寝ることだけをすることにしました。
寝ているときも、あの奇妙な映像は流れ続けます。
僕は次第に睡眠不足となり、そして心が音を立てて崩れていきました。
奇声を上げ、部屋で暴れました。
父親が止めに入ると、僕は遠慮もなしに父親を殴りました。
それでも父親が止めるので、僕は寝ることにしました。
僕は気違いだと両親に思われ、そして精神病院に入院することになりました。
僕は突然夜にあの忌まわしい映像に襲われ、たびたび発狂していました。
あの映像にはこの世界に対する、
憎悪、哀愁など言葉には言い表せないほどの感情が渦巻いていました。
そして、一人で佇み、泣きながら歌い続ける少女が時折映像として混じっていました。
それ以外は負の感情を具現化したような気味の悪いものが僕を襲い続けました。
砂嵐のような耳鳴りが延々と続き、たまに少女の声が混濁して入ってきました。
「寂しい」
僕の知らない声でした。綺麗な、そして優しい声でした。
僕はその少女がとても気になりました。
僕はなんとなくですが、その少女のいる場所が分かる気がしました。
病院を深夜に抜け出すと、僕はその場所へと走っていきました。
その場所へとつき、僕はなぜかすべきことが分かっていました。
手をかざし、心を少女とつなぐことが条件でした。
僕には簡単でした。なぜなら、僕にはその少女しか心を許せる人はいなかったのです。
あの、優美な声で僕を慰めてくれた、少女。
少女以外の声は僕の耳へは届きませんでした。
全てが砂嵐のような雑音と、悪魔のささやきだけが聞こえました。
とても、暗く、陰湿で、僕を地獄へと連れて行く声でした。
僕は僕でなくなっていきました。僕は崩れていってしまったのです。
そんな中で、あの少女の声は僕の安らぎでした。
「寂しい」
そう、少女は素直だったのです。
僕はその言葉を忘れていました。僕はすでに一人だったのです。
僕は少女に慰めて欲しかったのです。
不思議な空間へと僕は迷い込みました。
灰色の、空虚な空間です。それは僕と少女の気持ちを代弁しているようでした。

そこからの話は簡単です。
僕はそこで、『機関』の人たちと出会いました。
そして僕は救われました。また、僕の苦しみを分かってくれていました。
そしてみんな、少女の声のおかげで、自殺せずに済んでいたのです。

何も無い天井を見上げ、僕は思います。

僕は今、その少女のことが好きなんです。
愛していると言っても言いすぎではないかもしれません。
でもそれは一方的なものです。
僕は今、自己矛盾を抱えています。
僕を救ってくれた少女を殺したいほど憎んでいます。
僕はあの地獄のような日々と同じように狂っているのでしょうか。
でも、好きなんです。
少女なんていなければ、僕達は誰も苦しまなかったし、誰も死ななかったはずです。
でも、好きなんです。
少女を殺して、僕も死ねば世界を救えるのでしょうか。
でも、好きなんです。
どうしたら、僕を好きになってくれますか?
彼を見つめる横顔を眺め、僕は嫉妬に狂います。
そう、僕は好きなんです。

心地良い風が抜けるこの病室で、僕は天井を見つめます。

荒川さんは特攻する前に僕に言いました。

「あなたはまだ死ぬには早すぎる」

僕はどうすればいいのでしょう?
僕は無力です。
荒川さんは言いました。

「あなたは私達の中で最も重要な人だ。死なないで帰ってくれ」

死だけは平等に与えられる、高名な人が言いました。
でも、僕は死を与えられませんでした。

僕は少女が歌っていた歌を口ずさみます。
あの日々が蘇ってきて、涙が流れました。
それに、少女への想いが僕の心を満たしました。
どうしたら、僕を好きになってくれますか?

僕は天井を睨みます。心地良い春風の吹きぬけるこの病室で。

どうしたら、僕を好きになってくれますか?
僕は少女の歌っていた希望の歌を口ずさみます。

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