もう………

俺には生きてる意味なんてない………

病院の決して寝心地がいいとは言えないベッドから上半身を起こす……。

医学的に言えば俺は生きているんだろう……

医者たちは俺を生かすために手を尽した。だから今こうしてイキテイル……。


でも……
もし………
この世で一番大切な……

何よりも大切な人を失ってしまったら……

あなたは………
そんな世の中で……
大切な人のいなくなった世界で………

イキテイタイと思うだろうか………。



俺はハルヒを失った……



あの日俺とハルヒはデートをしていた……

高校卒業してからしばらくたった時期であった。

いつもと変わりないデート。

「遅い!罰金!」

ハルヒのいつもの台詞で始まった。
他人から見たら変わっているかも知れないが、俺とハルヒにとっては『普通』のデート。

俺はそんな普通がなにより幸せだった。

ハルヒといられることが……。


「早く渡りましょ」
ハルヒは俺の前を行く。

「あぁ、そうだ…」
言いかけた。言えなかった。

車が見えた。ハルヒのすぐ近くに。
車は止まってなかった。
おかしいだろ?赤信号なんだぜ?

「ハルヒッ!」
俺は飛込んだ。ハルヒを守るために。

ドン

鈍い音がした。
でも安心した。痛みはちゃんと俺にあったから。

“やったぜ。ハルヒを守れた”
それだけが頭に浮かんだ。

なんだよ…。
俺だってやれば漫画の主人公みたいなことができるじゃないか…。
大切な人を守れたじゃないか……。

キャ―!!
遠くから悲鳴が聞こえた。

どうやらハルヒの声じゃなさそうだ。

救急車呼べ!!
男の人の声もした。

誰だか知らんがハルヒを頼むぜ………

これはひどい……

なんだよ……
そんなに俺はヒドイ有り様のか?
ハルヒに見せられない様な姿になっちまったのか?


どいてください!
担架だせ!揺らすなよ!

あれ?救急車きたのか?
迅速な対応ごくろうさまです……

女の子の方もヤバいぞ!

……女の子?
……ハルヒじゃないよな?

あれ………意識が………

次に俺が気付いたのは病院のベッドの上だった。

包帯でも巻かれているのだろう。
頭にはなにやら圧迫感がある。

「き、気付いたのねキョン!」
母さんの声だ。泣きそうな声……。

母さんを泣かせるなんて俺はとんだ親不孝者だ…。

とりあえず現状の確認をしよう。

母さんがいるんだからあの世ではないらしい。

「俺……生きてる…?」

長いこと寝てたんだろう。うまく喋れなかった。

「えぇ、あなたは生きてるわよ」
母さんの声ってこんなに優しかったんだ……

「キョンが事故にあったときは心臓止まるかと思ったわよ……。
意識もなかなか回復しないし…」

あぁ……
そういや俺事故ったんだよな……
ハルヒをかばって……

ハルヒ?

そうだハルヒはどうなった?

「母さん!ハルヒはどうなった!?」

ズキッ
頭に激痛が走った

畜生、頭に響きやがる……

だがそんなんはどうだっていい!
ハルヒは?俺のハルヒはどうなったんだ!?

「………」

おい、なんで無言なんだよ?
知ってるだろ?ハルヒだぞ?
何回か会ったことあるだろ?


「……あんたはまだ疲れてるだろうから寝なさい…」

母さんが俺をなだめるように言った。

疲れてなんかない!俺はハルヒについて知りたい!

だけど母さんの辛そうな顔見たら強くは言えなかった。
ずっと俺の側にいてくれたんだろう……。

「あぁ……そうだな…」

「そう。じゃあ母さんは夕飯の支度しに帰るからね」

「あぁ」

バタン

母さんが出て行った。


その瞬間俺の目から涙が流れだした。

なんでだよ、クソ!!

なんでハルヒが!

俺だってバカじゃない。
母さんの反応を見ればわかる。

ハルヒは………




俺は泣いた…。

泣き続けた…。


声を殺して…。

目を閉じて…。


自分の心臓の鼓動が奏でる不愉快なほどの一定のリズムが聞こえた……


そこに生まれた暗闇に引き込まれるように俺は……。

 眠りに落ちてしまった……

次の朝、目覚めると周りには父さんと母さんと妹がいた。

「お!起きたな」
なんて父さんが話しかけてくる。

妹は妹で
「心配したよぉ」
なんて言って泣いていた。

「ごめんなさい。心配かけて」

俺が謝ると父さんが
「気にするな。生きてるんだから、もういい」
と言ってくれた。

父さんはあんまり感情を表に出さない人だけど心配してくれたんだろうな…。

妹はもう中学生にもなるのにまだまだ子どもっぽいんだな…。

泣かせたのは俺だけど。

それからしばらくして、俺が事故ってからの話になった。

最初は会社に電話があって驚いたとかそんな感じだったと思う。

妹はその時友達の家にいたらしい。

懐かしい家族の感覚を堪能していると……


今まで黙ってた母さんが話し出した

「……あんたに話があるの……」

場が一瞬固まった。

俺は止まった時間を再び動かすため母さんに返事をした。

「な、なんだ?」
なぜかどもってしまう。

「実はね……」

『やめろ……。』
ん?なんだこれ?頭の中で……

「ハルヒちゃんのことなんだけど……」

『やめろ………。』
頭の中で聞こえた声が大きくなる……。

「ハルヒちゃんね………」

「やめろ!!」
母さんが次の言葉言おうとした瞬間俺は叫んでた。


聞きたくない!

そんな事実認めない!!

絶対だ!

そんなことあるわけないんだからな!!

「キョ、キョン君!?」
妹は脅えている……。

ごめん。許してくれ。止められないんだ。

「出てけ!早く!」

俺は気でも狂ったかのように身近にあったものを投げつけた。

ハサミとかもあったと思う。
妹に当たったらどうするんだよ?
顔に傷なんかつけたらどうするつもりだ?

頭ではどこか冷静な俺がいた……。

だが俺は止まらなかった。

バタン
母さんたちは逃げるように部屋から出て行ってくれた。

ありがとう……。

もし俺を静めようとしてたら、
俺は自分でもなにをしたか分からない。

本当にごめんな………。

でも……

聞きたくないんだ……。

他の人の口から聞きたくないんだよ……。

他人に「受け入れろ」なんて言われたくない。

わかってるんだよ。
昨日泣いてるときに考えてた。

でも、ハルヒのいない世界を受け入れるなんて俺にはできそうにないんだ……

父さんや母さんや妹には悪いけど、
もう前を向いて生きていくなんてことは絶対できない……。

ハルヒのいない世界なんて……

俺はまた泣いた。

泣けばなんとかなるわけじゃない……。

でも泣かずにはいられないんだ……。

ハルヒ………お前………なんで独りで………

俺はどうすればいいんだよ……。

お前のいない世の中なんて………


……………俺はこの日以来完全に他者との関係を拒んだ。


このままだと人にあたることしかできないから……。

傷付けるくらいなら……。

俺は心の暗闇へと逃げ込んだ。

それ以来俺は起きて泣いて寝ての繰り返しだった。


母さんたちはたまに部屋に来てくれる。

なにか話しかけてくれているけど、耳には届かない。

食事は時間になると看護婦さんが持ってきてくれる。
喉を通しているが味なんかさっぱりしない。

なにも感じない。

なにも考えられない。


俺は………

イキテいるのかな……

ハルヒ………


数週間がたっただろうか…。
具体的な数字はわからん。考える意味もない。

「体の方はもう大丈夫みたいだ。まぁもともと体は奇跡的に数箇所骨が折れただけだったからね」
医者が言った。
なんでも有名な医者らしい。

じゃあなんでハルヒは助からなかったんだよ……

なんてな…。わかってる。この医者に怒りをぶつけてもなにも変わらないからな……。


「…そうですか」

俺は聞こえるかどうか際どいくらいの声量で返事をした。


……おい、ハルヒ。俺治ったってさ。

おかしいよな?全然元気じゃないのにな。

怪我が治っても意味ないのにな………


俺は一晩中泣いた。寝ることすら忘れて……。

怪我だけが治ってしまったことに……

俺の心は一生このままなのに……

窓の外を見てみた。

朝日が皮肉にも姿を現していた……。

なんだよ、太陽?
お前じゃ俺を変えられないんだぜ?

お前だけじゃない。
 誰も俺を治せない。

そう、ハルヒ以外は……。
あれ?なんで気付かなかったんだろう……

そうだよ………

ハルヒに治してもらいに行けばいいんじゃないか……


今行くぞハルヒ………

俺は置いてあった果物ナイフの刃先を手首につける。

痛かったよな、ハルヒ……
こんなナイフじゃ比べ物にならないほど……

俺があの時もっと早く飛込んでれば……

許してくれるか……?

許してくれるまでお前に謝るからさ………


待っててくれ……

今……お前のところへ……

俺はハルヒのところへ行くためのチケットを握る手に力を込める。

なに。お前のところに行けるとしたら格安のチケットだったさ…。

少し痛いだけだからな。

俺を支えてくれた人たち……。

さよなら……

ありがとう……

少しどころか全く痛くなかった……理由は……

「何やってんの、やめなさい!」

母さんだった。

いつの間に入ってきたんだ?
まぁいい……
それより邪魔しないでくれないか?
俺は行かなきゃいけないんだよ………

「離してくれ!俺はハルヒのとこにいくんだ!」

「バカなこと言うんじゃないの!」

バカなことだと…?
ハルヒに会うことがバカなこと?
母さん………いくら母さんでも許せないな……

「ふざけるな!邪魔するなら母さんのこと刺し…」

パンッ

言いかけた俺の頬は大きな手に叩かれた。

「ふざけてるのはお前だ!母さんをなんだと思ってるんだ!!」
父さんだった。こんなに怒った父さんは初めてだったな。
だが俺もひくわけにはいかない。


「俺はハルヒに会うんだ!もう覚悟は出来たんだよ!」

俺が言うと父さんの眉が少し動いた。

「覚悟だと?彼女に会う覚悟ができたんだな?」

俺は黙って頷いた。

 しばらく沈黙が続く。

父さんがいきなり話し出した。

「ついてこい」

「ど、どこに…」

「黙れ!」

父さんは俺を一喝すると俺の手を引いて歩き出した。

なに考えてんだよ、父さん……

俺は車に乗せられて病院を出発した。

外出許可はとったのかよ?

なんて俺の疑問は一切聞き入れない父さん。

わけもわからず揺られていると景色が急に田舎っぽくなってきた。

山、畑、牛!?

おいおいこんなとこに連れてきてどうすんだよ…。

まさか樹海で死ねってことか?

それならそれでいいんだがな……。

父さんと心中は嫌だからな……。

「着いたぞ。降りろ」

父さんはある建て物の前で車を停めた。

………ここは?

「ついてこい」
父さんはそれだけ言うとスタスタ歩いていってしまう。


俺は仕方なくついていく。

長い廊下。………病院?

周りを見回しながら歩いていると父さんがいきなり立ち止まる。

ドン

俺はボーッとしていたせいもあって父さんの背中にぶつかってしまった。

「いきなりとま…」
俺が言いかけるのを遮って父さんが言う

「このドアの中だ」

父さんの有無を言わせない雰囲気に圧倒された。
恐らく開けろという意味なんだろう……

俺は父さんの指差した扉を開ける。

中を見て俺は驚いた……。

長門………?
朝比奈さん………?
それに古泉………?

高校卒業以来久しく会っていなかったSOS団のメンバーだった……


「あ、キョン君…」
朝比奈さんが俺に気付いて言った。

同時に長門と古泉も俺を見てきた。

「よ、よう」

俺は驚いていたためなんて言ったかはわからないが、たぶんこんな感じのことを言っていたと思う。


古泉が俺のほうに歩いてくる。

「落ち着いたんですか?
僕たちがお見舞いに行った時は面会もできない程精神が不安定だったみたいですけど…」

来てくれてたのか?

誰の話も聞いてなかったからわからなかったな。

母さんはコイツラが来たことも言ってたのかも知れない……。

スマン。母さん。

「あぁ、一応な…」
これは嘘だ。

ついさっきまで自殺しようとしてたからな……。
こんな俺を正常と言える奴はいないだろう……。

ていうかここはなんなんだ?
なんでコイツらが集まってんだ?

「それはよかったです。
さぁ、こちらへ…」
相変わらずのスマイルで、出入り口にいた俺を長門と朝比奈さんのいる奥の方へ案内した。

俺は久しぶりに会う長門と朝比奈さんに少し感動した。
もちろん古泉にもな。

今だけだがあのことを忘れられそうな気分だ…。


「久しぶりです。朝比奈さん。それに長門も…?!」
言おうとしていた俺はとんでもないものを目のあたりにした。




息が詰まった


 心臓が止まりかけた


  目頭が熱くなる。




………ハルヒがベッドで眠っていた………



「ハ、ハルヒ!!」
俺は病院だというのも忘れて大声を出した。

「まだ寝てるんで起こさないであげて」
朝比奈さんがいう。

「どうして!?なんでハルヒがいるんだ!?」
俺は朝比奈さんに詰め寄った。

俺は今相当動揺している。
心臓がヤバいことになってる

「わたしが説明する…」
焦る朝比奈さんの代役を長門がかって出た。

今の俺には誰だっていい!
一番詳しく知ってるってんなら谷口の奴でも構わない!
今の状況を説明して欲しくてたまらなかった。

「あなたは…」
長門が話し始める。

「あなたは涼宮ハルヒが死んでしまったと思い込んだ」

……?なんだって?

「死んだのではなく、涼宮ハルヒはあなたに会うことを拒んだ。医者やあなたの親族にそう頼んだ」

「ど、どういうことだよ!?」
思わず声を荒げてしまう。

「つまり……」
長門が説明しようとした瞬間………

「ん……」
ハルヒが俺の大声で目覚めた……。

動いてる…。  ハルヒが喋ってる…。

俺はこの事実がうれしくて、ハルヒが俺に会うのを拒んだ理由も気にせず、

「ハルヒ!」
声をかけた……

が、「!?」
ハルヒは一瞬体を震わせて布団の中に隠れてしまった…。

「な、なんだよ?」
意味がわからない……。

「どうしたんだよハルヒ!?」
俺は奇怪なハルヒの行動に疑問を抱き立て続けに言葉をかける。

「じゃあ僕たちは席を外します…」
そんな俺を置いて他の3人は部屋から出て行ってしまった。

なんなんだよ?
ほんとに意味がわからない。

死んだと思ってたハルヒは生きてて、
俺に会うのを拒んでた?

ダメだ!元々容量の少ない俺の頭じゃこんなたくさんの情報は整理できない!

訊くしかない……

ここでベッドに潜ってるハルヒ本人に………

「なぁ、ハルヒ……」
俺は焦る気持ちを押さえて、声のトーンを落として話しかける。

「………」
ハルヒは無言で……

だがかまわず話しかけた。

「とりあえずハルヒが生きててうれしい」

俺は自分のわかってる範囲で自分の気持ちを言った。

「………うん」
小さいけどハルヒは返事をしてくれた。

久しぶりに聞いたハルヒの声に感動してしまった…。

「俺はハルヒが死んでしまったと思ってたんだ。
ついさっきまでな」

「だがお前は生きていた。本当にうれしい」

「…………ごめん」

さっきより更に小さい声で言うハルヒ。

お前らしくないぞ?
それともこんなだっけか?

「別に怒っちゃいない。でも俺に会うのを拒んだ理由を教えてくれないか?」
今更怒ったりはしないさ。
ハルヒが生きていてくれたんだ。

だが、拒む理由は気になる。気になって仕方がない。

「…………」
ハルヒはまた黙ってしまった。


「話しづらいなら、あとでもいい。
その代わり顔を見せてくれないか?」

久しぶりにハルヒの顔がみたくなったんだが……

ハルヒは返事をしてくれない。

さっき寝てるとき顔を見たが顔に傷があるとかではなさそうだし……

「頼むよ、ハルヒの顔がみたいんだ」
俺はもう一度頼んだ。


「………わかった」

ハルヒはそういうと被ってた布団から顔を出してくれた。

そこには前とかわらない俺の大好きなハルヒがいた。
うれしくなるね。あんなに切望していたハルヒが目の前に変わらぬ姿で居てくれるんだから……

「かわってないな、ハルヒ」
俺は思ったことを素直に口に出した。

しかしどうしたことだろう?
ハルヒの顔は浮かない……

どころではなかった…。


ハルヒの目からは涙が流れていた……。


「な、なに泣いてんだハルヒ?」

ハルヒの目からは涙がポロポロと……

「…グスッ…ごめん……ごめんなさい……」

ハルヒは泣きながらも俺に謝ってくる……

俺はなにも言えずに立ったままで……

「…キョン……ごめ……」
ただ謝り続けるハルヒを見ていた………

「…グスッ……あたし……怖かったの………」


拒んだ理由を話そうとしてくれてるのか?

「あたしのせいで……あんたも事故にあって……」

「…ハルヒのせいじゃないだろ」

あれは俺自身でやったことなんだから。
あのときは自分を褒めてやりたいくらいだった…。

「……あたしはキョンより先に目が覚めたの……。
医者に話を聞いたらキョンも助かるって聞いて……。
あたしは逃げたの……」


「なんでだよ?逃げる必要なんて……」
話が繋がらないぞ?

「……怖かったの。
あんたに嫌われるのが。
あんたに見捨てられるのが怖かった…」

見捨てる?誰が?俺が?
誰を?ハルヒを?

バカな……。そんなことあるわけないじゃないか。

「そんなことあるわけないだろ。事故のことなら気にするなよ。
こうして今二人で生きてるんだからさ」


これは本音だ。嘘偽りは一つもない。
純度100%の俺の気持ちだ。

「違うの!
確かにそれもあった……。
あたしのせいで事故にあって、キョンも巻き込んじゃった……。
でも……。甘えかも知れないけど、あんたは許してくれると思ってた……」

あぁ、さっきも言った通り、
俺はあの行動を褒めてやりたいくらいだからな。

じゃあ何が不満なんだ?
何からハルヒは逃げたっていうんだ?

「じゃあなんで?」
俺はハルヒに尋ねた。

訊かないと分からないのは俺がバカだからなのか…?






「………あたしね……」
長い沈黙を破りハルヒが語りだした。







「……目が見えないの…」


え?なんだって?


「……もう治らないんだってさ………」


「ふふ……あんたがこの話を聞いてどんな顔してるかも見えないのよ……」


ハルヒの目からは涙が絶えることなく流れだしていた……。




「……病院で目覚めると真っ暗だった……。
そのあと医者から聞かされたの……。もう目が見えることはないんだって」


「あたしは泣いたわ…。
目が見えないからじゃないの。
あんたに見捨てられると思ったから……」

「見捨てるわけないだろ!!」
とっさ俺は思わず叫んだ。

しかしハルヒは続けた…。

「ほらね?あんたは優しいからそう言ってくれる…。
ほんとに甘えだけど、あたしもキョンならそう言ってくれると思ってた……。
でもね……?」

ハルヒは一度言葉を止めた。



「でもね、キョン?
あたしは耐えられなかった……。
なにも見えなくて真っ暗で。
一人じゃ満足に普通の生活もできなくて……。
あんたはそんなあたしに優しくしてくれて。
でもあんたの顔も見えなくて……」


「キョンは優しいからあたしに優しい言葉をかけてくれる……。
あたしのために色々やってくれる……。
でもあんたが本当は嫌だと思ってても、あたしにはわからないの……。
なにも見えないから。
キョンがどんな顔してるかもわからないから」


「暗闇の中であんたの声だけが聞こえて……。
あんたがどこかへ行くだけで、不安になって……。
あんたに依存しちゃう自分がいて……」


「それでも優しくしてくれるあんたの優しさが怖かった……。
あんたの優しさを信じる自信がなかったのよ……」


………ハルヒ…


「だからね……。こんなあたしのことは忘れて新しい人を……」

言いかけたハルヒの言葉は強制的に止められた。

俺がハルヒを抱き締めたから……。
「バカなこと言うな」

「え、キョ、キョン?」
ハルヒは突然の事態に焦っているようだ。

だが俺は構わず語った。
俺の想いを……。

「こんなあたしとか言うんじゃない……。
目が見えなくたってハルヒはハルヒなんだよ」

そうだろ……?


「え?」

「俺はなハルヒ……。お前が死んだと思ったとき、この世界になんの価値も見い出せなかったんだ……。
絶望して、泣いて、親にまで暴力を振るおうとした…」

病院のあの部屋での自分を思い返す……。



「俺はずっと自分の殻に閉じ籠ってた。
他人と絶対的な壁を造って、一人の世界に入ってた……」

ハルヒは黙って聞いている。

「俺の創った世界ってのは、なにもなくて真っ暗だったんだ……」

そう……。

「お前と同じだ」

ハルヒは驚きの表情を隠せないみたいだ……。

「ずっと暗闇だった……。
でも一つの光が見えたんだ……」

それは新しい恋人でもなく、新たななにかじゃなくて………

「ハルヒが生きてた」



「………ほんとに?」
ハルヒは壊れたんじゃないかと思うほど涙を流し続ける……。

「本当だ。俺を暗闇から救えるのはハルヒだけなんだ。
ハルヒだけが俺の光なんだ!」

「ほんとにほんとなの…」

しつこいぞハルヒ。
何度訊かれようが俺の決意はゆらめくことはない…。

「当たり前だ。ハルヒは俺に光をくれた……。
だから……」


だから……。今度は……。

「俺がハルヒの光になってやる」



「そ、それって……」

あぁ、すまん回りくどかったな…

「俺がハルヒを一生支えてやるから」

あの時は死ぬ覚悟だった。でも今は違う。

ハルヒを……
大好きなハルヒを支えていく覚悟だ。

俺が言い終わるとハルヒが、

「うわあぁあぁん」

院内に響き渡るくらいの声で泣き出した。
相変わらず声がでかいな。

「ずっと側にいるからな…」
俺はハルヒを抱き締めた…。
強く強く。壊れる程強く。
もう離したりしない。

もう俺は光を見失ったりはしない。

そして俺はハルヒの光で在り続ける……。



……キョン!キョンってば!!

んん……
ハルヒの声がする……
重い瞼を開けるとハルヒがいた。

「あんたどんな夢見てんのよ!?」

は?

「あんたが寝ながら泣いてるからあたしが起こしてあげたの!」

あぁ……夢だったのか……。そんなベタなオチがよ……

てか、なんか体がスースーするな……。

あら?俺、裸だ。

あ、そうか。昨日俺はハルヒと………

段々記憶が鮮明になっていく…。

「な、なに顔赤くしてんのよ!変態!!」

はぁ…まったく人間てのは嫌になるね…。
あんなに幸せな夜だったのにあんな夢みるなんて…。

「だいたい泣きたいのはあたしなのよ!
腰が痛くてしかたないわ!」

あんな夢…か……
俺はあの夢を思い出して言ってやる。

「なぁ、ハルヒ」
「なによ」
少し不機嫌そうに言う。
そんなに痛いのか?悪かったよ……。

でも安心してくれ。
もし年をとって足腰が立たなくなっても……
俺が……

「ずっとお前を支えていくからな」

「………当然よ」

顔を反らしたハルヒの目にわずかに涙が見えた………

もしかしたらハルヒも同じ夢を見たのか…?

まぁ、そんなことはどうでもいい。

夢だろうが現実だろうが、関係ないからな。


俺はハルヒと……

「ずっと一緒だからな…」


終わり

|