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「じゃあ後よろしくね。」
「はい、明日の会議前には目に通せるようにしておきます。」

バタン

うちの会社では珍しい女の部長が急ぎ足でオフィスの扉を閉め帰っていく。
まったくなんで俺が残業なんか、というかここ1ヶ月はいつもこんな感じだ。

残業手当が弾むわけでもなしに俺は再び自分の椅子につき居残り組と共に―――
「まぁまぁそうふてくされないで…」
谷口か、こいつも居残り組かよ。

高校を卒業したあと俺はなんとかFランク大に入学し、
その後は今の会社に入社、そして谷口との偶然の再会を果たすわけだ。
とはいえこいつはそこそこの大学を出て俺より早く出世するのだろう。

嫌みっぽくないこいつの顔がむしろイラつく原因なんだと無駄な分析をしつつ
俺は明日の会議で使う資料をまとめ始めた。
俺が残業でまとめる資料も所詮谷口がプレゼンして
いいとこだけ持っていくのさ。

「そんなことないよ。」
いいやあるね。その謙遜ぶりがムカつくんだよ。
「キョン君の資料は無駄な部分がないし見やすいからね。」
当たり前だ、その無駄な部分とやらに時間を費やして残業を
長引かせるわけには行かないんだよ。

だいたいあの女部長、俺たち独身男にばかり残業を押しつけやがる。
そんな偏りっぷりはすぐバレるさ、なんせこの俺が身を持って感じているんだ。
そうして自分は女としての時間を謳歌するのさ。
ああいけ好かないね。
あの女部長のわがままっぷりと部下を振り回す態度はまるで――――

「―――涼宮ハルヒ」

「え?キョン君なんか言った?」
「ああ、いや何でもない!」

―――涼宮ハルヒ
高校を卒業したあと奴は理系の有名大に進学したと聞いたな。
卒業後少しは連絡をとっていたというかそもそも一方的に呼び出して、
受験を終えた俺はだらけたかったのだがまた例の駅前にノコノコ繰り出し、
不思議探しをやっていたわけだ。
その後いつからだろう。ハルヒからは連絡が来なくなった。
俺から連絡するなんてないしな、ああ、朝比奈さんの時はイタ電?をしたが…
朝比奈さんと言えば他の3人もハルヒと同様で今では疎遠だ。
まああらかたハルヒのことだ、何か新しいことを見つけて周りの奴をふりまわしてるんだろう。
俺といや今ではしがないサラリーマン。
それ以上でもそれ以下でもない。

しかし何だって今更ハルヒのことを思い出したのだろう…


―――ハルヒ、お前は今どうしてるんだ?


気付けば俺は同僚と共にビルの消灯時間に追い出されるように家路についていた。
このまま何でもない普通の時間を過ごすのだろうか。
再び脳裏に北高でのSOS団の記憶が蘇る。

「キョン、どうだ一杯!」
「行こうぜキョン!あの女部長のグチでも肴にしようぜ!」
同僚の誘いがその思い出に覆い被さる。

―――そうだな。

「ああ行こうぜ。独身男は友達だ。」
そうさ。

過去より今を生きる。

あいつもそう言うはずさ。
そうだろ?

「―――ハルヒ」

「あ~飲んだ飲んだ!明日も会社か!」
「明日こそは残業を断ってやる!あの女部長に言ってやるのさ!」
そして明日も残業を押し付けられるのさと思いながら
ほろ酔い気分でタクシーを捕まえる。
「どうぞどうぞ!」
「いえいえどうぞ!」
平社員同士が無駄な譲り合いをしても意味はないのさと思いながらさっさと
乗り込もうとする。
あきれた運転手が酔っ払いなど置いといて
先に別の客を乗せようとする。
カップルだろうか、男女の二人組だ。
「おい運ちゃんよお!そりゃないぜ!」
同僚が食い下がる。
「何よ!あんた達が遅いんでしょ!さっさと譲りなさいよこの酔っ払い!」

ん?

「まあまあ涼宮さん、あちらの方達が先だったし…」

おい…

「ハルヒ!」
ほろ酔い気分が一瞬で100億光年先へ飛んでいき
意志がクリアになる。
ハルヒだよな?いや見間違うはずはない。
そこにいたのは確かに涼宮ハルヒだった。
すっかり大人びたハルヒは黄色いリボンこそつけていないものの背中まで伸びた髪とその整った顔立ち…
入学当初、そうさ俺たちが出会った日、その面影のままだった。
だが何故こんな偶然が?いやいやこの連れの男は誰なんだハルヒ。
「何よあんた何で私の…え?…キョン?」
その言葉が一気に現実に引き戻す。
再会の衝撃で酔いが冷めたはずの思考は混乱へと引き込まれる。
「涼宮さん?知り合い?」
「キョン…」
「ハルヒ…」
「っこのバカキョン!何だって今更!」
混乱していた思考はその言葉と共に飛んできたハルヒの拳によって真っ白になる。
「私帰る!行きましょ!」
ああそうだ。元はといえばタクシーにどっちが乗るかだったな。
こういうパターンで勝つのはハルヒでへばるのは俺だったよな。
ん?おかしいな。
殴られた頬をさすりながら全く働かない脳で何がおかしいのか考える。
ああそうか…
俺がへばる隣にハルヒの笑顔がないじゃん…
「―――おいキョン?大丈夫か?」

「あの女知り合い?」
「キョン君今の…」
ああ谷口、お前もいたんだったな。
いや最近は飲みに行くにも最後までついてくるようにはなたんだな。

「涼宮さんだったよね?」
「…」
おっと長門ばりの3点リーダ。どうも考えないといけないな。

「悪い、一人で帰る。」

2時間後、俺はタクシーで帰る同僚達とは別に歩いて帰っていた。
とはいってもタクシーで帰る距離を歩くもんだから何時間も歩いている。
ようやくアパートについたが入る気にはなれず近くの公園のベンチでタバコに火を着けた。
「っこのバカキョン!何だって今更!」
ハルヒの言葉を思い出す。
「何だって今更!」
待て待て、あいつらこれじゃ何か勘違いしないか?
まるで昔ズラした女みたいじゃねえか。
しかも見た目だけならハルヒはなかなかいい感じだしって俺は何を考えてるんだ。
むしろあの男は一体誰なんだ?
ハルヒとはどういう関係なんだろうか。
なんだか無性にイラついた。
この頃は何にイラついていたのかわからなかったが
俺はきっとハルヒと二人きりでいた男に対してイラついていたんだな。
ん?
ああ、なるほど。
その気持ちを誤魔化そうとした俺自身にイラついていたのかもな。

タバコをふかして考えに浸る。
北高にいた頃のSOS団を思い出す。
宇宙人、未来人、超能力者…
「ふっ」
本当にあんなことがあったんだよな。
本当に信じられない経験だったなと言いそうになるのを抑えてまたイラつく。
これはすぐわかった。 バカ野郎、あんな最高の連中との最高の経験を信じられないなんて言いそうになるくらい俺は普通になってたのかよ。
自分にイラついていたのさ。

そうしてあの頃の感覚が鋭く蘇るのがわかった。
なぜわかるかって?そりゃああの頃の感覚が蘇らないで今のままの感覚だったらこいつのニヤケ顔にも気づかないさ。

「古泉、チェスは強くなったのかよ?」

「流石はあなたですね。」
こいつのニヤケ顔をまた見るくらいなら気づかない方がよかったかもな。
「それは不可能なことです。」
はいはい。全ては繋がってるってか?そういう含んだ言い方がムカつくんだよ。 「そういうことですね。いやあ、察しがいい。あの頃のあなたに戻ったと言うところですか。」
あの頃も何も俺は俺さ。お前こそそのニヤケ顔はいい加減直っててもいいと思うぞ、古泉。

「おや、おかしいですね。組織の報告では、ここ数年のあなたは味気ない生活にとても退屈しているようだと聞き及んでいたのですが。」
何が組織だ、人の営みを勝手に監視して報告しあってんじゃねえ。
何が言いてえのかハッキリしやがれと叫びそうになると古泉はそれをかわすように続けた。

「ほんの数時間前、とてつもなく巨大な閉鎖空間が発生しました。」

ああそうかよ。
んなもんハルヒがいるかぎり発生し続けるに決まってるだろ。
お前のアルバイトとやらも大層繁盛だな。
「いえ、ここ数年は閉鎖空間など発生していません。
正確には僕たちが北高を卒業した後は一切ありませんでした。
以前涼宮さんの力がなくなってきているといいましたが
卒業の瞬間、なにかに踏ん切りを着けたかのように
涼宮さんの精神は安定し閉鎖空間も生まなくなりました。」
はいはいじゃあなんで…そうかよ。
「お気づきになりましたね。あなたと涼宮さんが数時間前に接触した直後の出来事です。」
わかってるさ、お前はそうやってあなたがなんとかするしかありませんとかいうんだろ。
「そういうことです。では。」

ったくなんでまた、結局ハルヒに振り回されるのかよ。
当の本人は意味も分からず俺を殴った挙げ句知らず知らずに
俺を巻き込むのさ。いつも俺はこういう損な役回りかよ。
今ではそれを後押ししてくれる朝比奈さんのお茶もなしさ。
数年前と全く変わらないであろう思考を巡らせつつ
自分が古泉バリにニヤついてることに気づいた。
そうさ、楽しくない訳がないだろ?
再び脳裏に蘇るSOS団の記憶。
あのワクワクがまたくるのかと思うとニヤつくしかなかった。
いいさハルヒ。
今度はどんな厄介ごとに巻き込んでくれるんだ?
この頃俺はあのワクワクを期待していたが、
実際は全く予想外の出来事が待ち受けることを知る由もなかった。

アパートに戻りすぐ寝ることにする。とその前に風呂に入らねば。
あの女部長に何を言われるかわからんしな。
だが部長、あなたよりも恐ろしい女を俺は知ってますよ。
ハルヒと部長を無駄に比較しながら風呂場の扉をあける。

「え?あ、キョン君?」

すぐ扉を閉める。
なんだ?今のは、

―――朝比奈さん?
ふと目を横にやると女物の服と下着が几帳面に畳んでおいてあった。

まさか…
何を思ったか再び扉に手を掛けてしまった。

ガチャ―――

「キョン君!だ、だめえええ!」

その声で確信に至る。
朝比奈さん、あなたは一体何をしているんですか?
しかも人の家の風呂で。

「キョン君?ちょっとリビングで待ってて…」
朝比奈さんの弱々しい声で頼まれるとそうするしかないですよ。
などと思いながらリビングで待機する。
この際湯煙に浮かんだ朝比奈さんの殺人的な絵面については触れないであげよう。
それでなくても同僚達に借りるいかがわしいビデオ1億本分は得したからな。
いやいやあんな粗末な物ではいくつ積んでも計り知れない。
「あの…ごめんなさい。勝手にお風呂借りちゃった…」
借りちゃったなどと朝比奈さんに言われてしまえばもう何も責められまい。
それであなたはどんな要件ですか?
「あの…今涼宮さんが今どこで何してるか知ってますか?」
さあ、何か知ってたら俺はいきなり殴りつけられるはずもないだろうね。
いやそうじゃなくてもあいつなら殴りかねないが。
「今涼宮さんは今大学院で物理の研究をしているんです。」
そうですか。まああいつの頭なら考えられる。

あらかたおかしな実験でもして研究室を振り回してるんだろ。
「はい…ですが周りには理解できないだけで今涼宮さんが研究していることは
未来人にとってとても重要なんです。」
詳しくは禁則事項なので言えないのですがと朝比奈さんはつづけるのだろう。
「その研究は時空移動の根幹に関するものなんです。」
ん?禁則事項じゃなかったのかと思いながらそういえば今目の前にいるのは
朝比奈さん(大)ではないですか。そうか、今の俺にとってすれば
この朝比奈さん(大)はあの頃の朝比奈さん(小)と同じなのだ。
ならば権限も拡大しているのだろう。
「このままだと涼宮さんの研究は途中で終わっちゃうんです!
私達の未来での時空移動も不可能になって今まで時空移動でなしてきたことが全て無意味になるの!」
確かにそうなる。かつて北高にいた時に朝比奈さんと時空移動で行った全ては
存在しないことになる。というより朝比奈さんが来ない。それは俺たちSOS団の
思い出が消えるということだ。
ん?まてまて、なんでその研究が途中で終わるんだ?
「それは…涼宮さんが途中で大学院やめちゃうから…」
「何故ですか?」
「っ!」

「すっ、涼宮さんは結婚しちゃうの!」


そう言うと朝比奈さんは泣き出してしまった。

―――そうか、あの男と…

「朝比奈さん落ち着いてください。俺はどうすればいいんですか?」
「うわああああん…ぅうっ…ひくっ…け…結婚を止めて…」
―――無理だ、他人の結婚を阻止するなんてできない。
それをわかっているのだろう、俺が口に出す前に朝比奈さんはまた泣き叫んだ。
「うわああああん!無理だよお…ぅうっ」
だかやらねば未来、そして俺達の大事な思い出は無かったことになる。
困難と知っていても朝比奈さんは任務を断らなかったのだろう。


翌日、大した睡眠もとれず仕事へ向かう。朝比奈さんは家に置いてきたが昼頃に鶴屋邸へ帰るという。
あれから朝比奈さんをなだめるのは大変だったな…

「ちょっと!資料は出来たのかしら?ぼーっとしないで渡しなさいよ!」
「あ、すみません。」
ったく部長のやつ、昨日はどうせコンパでもあったんだろう。
部下に残業押し付けて行ったはいいが、挙げ句あんまりうまく行かなかったって面だな。
機嫌の悪さを押しつけるなよ。
そんな感じで会議もうまく回らなかったらしい。せっかく作ってやった資料が台無しだ。
「あんな資料じゃうまく行く分けないでしょ!」

おいおい資料のせいかよ。部下に残業させて自分はコンパ、それじゃあうまくプレゼンはできねえよ。
「いえ…資料に不備はないかと。」
「部下のクセに口答えしないでよ!女だからってなめてんじゃないわよ!」
「いえそんなことは…同じ資料を使った谷口はうまくいっていたみたいですが…使う人によるんですかね?」
「なっ!バカにしないでよ!」
「部長、お言葉ですが部長が出勤した時にはちゃんと仕上がってましたよ。
事前に目を通していただけましたか?」
「そ、それは…し、したわよ、い、一応…」
こいつ…あらかた谷口は俺らと別れた後も家でしっかり資料に目を通して
下準備していたんだろうな、こいつはさっさと遊びに行ったが。
そんな当たり前なこともしないで人のせいにするなよな。
「そうですか、ならなおさら使う人によるんですね。」
「な…」
「おっと昼休みだ、それでは。部長もたまには自分が使う資料を自分で作ればいいと思いますよ。」
周りの奴らがクスクス笑っていた。みんなこいつに仕事を押しつけられたことがある。
すまないな、生憎俺はお前より酷い女を知ってるんだ。
こんくらいなら返り討ちだぜ。
そうして昼飯を同僚と食いに行く。
「キョン~お前やるな!」

「あいつ会議で谷口にいいとこ持ってかれて機嫌悪かったんだな、いい気味だ!」
だがこのまま終わるわけはないだろうなと思いながら蕎麦をすすった。
終業と共に同僚と居酒屋へ行く。流石に今日は残業がなかった。ゆっくり飲めそうだ。
「昨日の店でいいだろ?」
昨日、同じ店の前でタクシーを拾うときにハルヒに会ったことを思い出す。
さてどうしたものか。
「結婚…」
同僚達が一斉に俺を見る。しまった、つい口に出た。
「キョン!今なんて言った?」
「結婚…あ、お前昨日の女はなんなんだよ!谷口が高校の同級生って言ってたぞ!」
「お前まさか…」
最悪の展開だぜ谷口…おい目をそらすなよ。
「キョン、お迎えだぞ。」
なんなんだよお迎えだぞ?意味が分からん。古泉だってもう少し匂わす話し方だぞ。
同僚が親指を指さした方を振り向く。
―――おいおいどんなお迎えだよ―――「―――ハルヒ」
ガッ
懐かしい痛みが耳にくる。
「おいハルヒ!耳を引っ張るな!」
いきなり耳を離される。
「一体お前は…」
「ここに来れば!」
「―――!?」
「ここに来ればあんたにまた会えると思って。」
俺達はバーにいた。
「あんた今まで何してたのよ?」

おいおいいきなりかよ。まず言うことはないのかね、涼宮ハルヒという女は。
「大学の後は今の仕事場で働いてたの?谷口君?も一緒みたいだったけど。」
別に俺の今までを聞いたところで何もないさ、特にこいつにとっちゃ
普通過ぎて眠たくなるはずさ。
「ふうん。やっぱりあんたもそうだったんだ。」
意外なリアクションだな、ハルヒよ。
「あたしもね、大学入ったらなんか普通過ぎてさ、骨抜きになっちゃった。
今までなんとなくやってきて…大学院に入ったら面白い研究室があったから
またやってやろう!って気になってたんだけどね…」
おーいハルヒ、あたしもっていうのはおかしいぞ。
俺はお前と違って元々普通なんだよ。お前みたいに元は暴れてて今は普通ってわけじゃないんだが。
「でね、あたし…」
やはりこいつには都合の悪いことが耳に入らないらしい。
「大学院やめて結婚することにしたわ。」
朝比奈さんに聞いてはいたが本人から聞くと実感が沸いてきた。同時にイライラしてきたのさ。
こいつ本当に骨抜きになってやがる。前言撤回、こいつより部長の方がたちが悪いぜ。
今のハルヒは本当にハルヒじゃなくなっちまった。

「おい涼宮、お前今大学院はやる気あるみたいに言ったじゃないか。
それなのに諦めて家庭に入るのか?」
俺がハルヒに説教か、言えた義理じゃないな。
ただ俺は…周りが、いや俺がどんなに普通であっても
お前だけは俺が知るあの涼宮ハルヒでいて欲しかったのかもな。
「諦めるわけじゃないわよ!」
いーやハルヒ、お前は周りの普通さに失望して自分もそうなることで誤魔化そうとしているのさ。
せっかくの大学院だって辞めて家庭に入りこんなもんだ、みんなそうなんだと思い込めば楽になると
思ってやがるのさ。そうなんだろ?ハルヒ!
挙げ句俺の平凡さに同調しやがって。あんたも?あたしもね?
バカやろう!お前はそこで俺を引っ張り出してよくわかんない不思議体験に巻き込むんだろうが!
「これがあたしの幸せなの!」
そう俺に言って、いや自分に言い聞かせてハルヒは出ていった。
「お客様、何かお飲み者は?」
雰囲気を読まずにバーテンが話しかける。ん?あんたどこかで…

「覚えておられましたか。森本です。」

組織の人間が何のようだ、見ただろ?俺にはどうにも出来ないのさ。
「今のようでは近いうちに閉鎖空間が生まれるでしょうね。」

知るか、その後はあんたらのアルバイトだろ。
「あなたもこのままの涼宮ハルヒでは納得がいかないでしょうね。」
ああ図星だったさ。俺は席を立った。
「期待しております、お代は結構です。」
イライラは消えなかった。だが少し嬉しかった。
諦めるという言葉にあいつはあんなにムキに反応しやがる。

―――なんだよ、お前少しはまだ俺達のハルヒじゃねえか。
行く場所は決まっていた。

俺は独りでにマンションへ向かっていた。そうさ、困ったときはいつもここに来ていた。
あいつには損な役回りをさせちまったな、まあそのせいで大変なクリスマスだったこともあったな。
あれから数年、人知れずここでじっとしてハルヒを監視してたんだろ?

―――なあ、
「長門」
「…」
「俺だ。」

ガチャ

オートロックが開く。その足で階段を上った。エレベーターを待たなかった。
だが流石に息が切れる。「遅いわよ!キョン!」なんて聞こえるはずもないか。
退屈な会社員生活は体を怠けさせていた。すまないな、ハルヒ。扉の前に立ち尽くす。無性に不安だった。数年経った今でも…
―――今でも俺は
ガチャ
俺が立ち尽くす間に扉は開いた。
「入って」
長門がいた。懐かしむような喜んでいるような表情をしていた。
―――余計な心配だったな…
数年経った俺はもうこいつの表情が読みとれないかもなんて心配は余計だったぜ、長門。
「飲んで」
長門の煎れたお茶をぐっと飲む。そしてすかさず
「長門、もういい。」
お茶は注がれなかった。
「長門、お前は知ってるんだろ。」
コクッ
「情報統合思念体は期待している。」
久しぶりに聞いたぜ。

その舌を噛みそうな名前。で、何に期待しているって?
「あなたと涼宮ハルヒの接触の瞬間、巨大な情報爆発が観測された。
涼宮ハルヒが大学生になって以来目立った情報爆発は観測されず情報統合思念体は失望していた。」
なるほどね、以前のように俺とハルヒが起こすいろんな事件を
情報統合思念体とやらはドキドキワクワクして待ってるわけか。
「…」
「包括的意思決定はそう。」
包括的?
「私個人としてはあなたと涼宮ハルヒは行動をともにした方がいい。」
何が言いたいんだ、長門。
「あなたには以前言ったはず。あなたのは未来のためでなく
あなたのためにあなたの責任で動けばいい。」
そんなこともあったな。ならお前は今も未来のお前
―――異時間同位体?だよな、と記憶を共有
―――同期?はしてないんだな…。
「…」
「でも未来を無視すると俺達の思い出が消えちまうんだ、長門。」
「そう思うならそう動けばいい。」
「でもあなたのために、あなたの責任で。
私個人的としては涼宮ハルヒはあなたと共に。」
わからん。長門、わからんぞ。
「…」
長門は俺を見続ける。
「うまく言語化できない。情報の伝達に誤りがあれば教えて欲しい。」

ああ、なんだってんだ。お前のわかりにくい日本語なら慣れっこだぜ、長門。
「…」
長門は1ミリほど下を向いた。 そして俺をその無機質な瞳でしっかりと見つめ捉えた。
「あなたは涼宮ハルヒを愛している」
―――ああ、気付いていたさ、長門。
あの男と二人でいたハルヒを見たときから感じていたイライラの正体。俺は妬いていたのさ。
―――俺はハルヒが好きだ。
「長門!ハルヒはどこだ!」
「ハワイ」
え?
「今から12時間後に涼宮ハルヒの結婚式が行われる。」
「まじかよ…長門!なんとかしてくれ!」
「断る」
!?
「私は私のため、あなたはあなたのために動けばいい。」
「長門!わかんねえぞ!」
「先ほどの言葉に誤りはある」
…こっちに聞いてるのか?
「いや、なかったよ。情報は正しく伝達された!」
「…」
長門は再びうつむく。そしてまた俺を見た。
「ならば私もあなたを…愛していることになる」
長門…?
「いい」
!?
「あなたは何も言わなくていい」
「長門…俺はハルヒのところへ行かなきゃならん!」
ダメだとわかっていた。長門は長門のために動くのだから。
バババババババッ!
なんだ?

「朝比奈みくるに協力を要請した」
「長門…お前…」
「キョン君!乗るにょろ!ハワイまでヘリでぶっ飛ばすよー!」
そっか…朝比奈さんが鶴屋さんを…

「私は私のために動く、直接的協力はしたくない」

したくない、長門がそんな言い方をするのは始めてだった。
俺に対して本気でいてくれたってことだよな。
だが…
「すまん長門、俺はハルヒが好きだ!」
「いい」
「私個人としてはあなたは涼宮ハルヒと共に」
「キョン君めがっさ似合うよー!」
「え?」
気付けば俺はタキシード姿になっていた。
「これだけはサービス」

そうかよ長門、お前の気持ちは受け取ったぜ!

ドアが閉まる。
ヘリは飛び立った。
「ヘリなら12時間でギリギリ間に合うっさ!」
「お願いします!鶴屋さん!」
朝比奈さんは隅で「キョン君大胆…男と女の…きゃっ禁則事項っ」とぼやいて赤面している。
そしてこいつは…
「長門さんも不器用ですね。」
古泉、お前のニヤケ顔はいつも水を差すな。
「長門さんはあなたが好き故に涼宮さんとの仲を応援するわけですね。」
わかっているさ。お前に言われるとムカつくがな。

「ですが直接協力することはプライドが許しません。
朝比奈さんが鶴屋さんに協力を仰ぐことを予想して間接的に協力したのですね。」
古泉のムカつく思考実験とやらを延々と聞かされながらハワイ上空へと至った。
「みくるー!会場はどこっさ!」
「えっと…確かワイキキビーチの…あ!あのフェリーです!」
海上で挙式とはあの男は金持ちだったのか?
「ええ、組織の報告によればなんでもどこかの御曹司だとか。」
どこかってどこだよ古泉、お前の組織は意外と適当なんだな。
「キョン君!めがっさ突っ込むよー!」
ヴァージンロードを歩く二人が見える。
そこへスレスレに降下してドアが開く。
会場は騒然だ。

「キョン!?」
「涼宮ー!」
「このバカキョン!結婚式がめちゃくちゃよ!」
「バカやろう!」
「え!?」
「そんな普通のやつと結婚式かよ!
俺とお前ならSOS団と一緒に全宇宙の不思議を味あわせてやる!」
「あ、あんた何言って…」
「それになあ!ハルヒ!お前に久しぶり会ったらよ、髪が長くなってた!」
「はあ!?何が言いたいのよ!」

知らん、ここまで来たら言ってやるさ。

「今だったらお前ポニーテールが反則的に似合うじゃねえか!」
「あ…え…」

「俺は今でもポニーテール萌えなんだ!
だからハルヒ!」


「キョン…?」


「ハルヒ、俺と結婚して毎日お前のポニーテールを拝ませてくれ!」


言っちまった。我ながらなんてプロポーズだよ。
朝比奈さんが赤面してて、鶴屋さんが爆笑してて、古泉のニヤケ顔が見える。
「…ふんっ」

「こんなやつただの金蔓よ!SOS団が世界に羽ばたくための…ぅぅ…ぇぐっ
…バカキョンっ…」



「一生幸せにしないと死刑だからね!」
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