…━━━いやいや、今日も冷えますねぇ。
ところで、最近どうです?
こちらは…まあ、ボチボチですよ。
今年はサンマが豊漁だったから、トナカイの餌には困りませんけどね。
えっ?アンタは誰かって?見て判りませんか?
いゃだなあ、サンタクロースですよ!
今年も無事にクリスマスを迎え、いよいよ私共の出番がやって参りました。
何?「丁度良いから何かオモチャをくれ」?
いや、あの…誤解されてる様だから敢えて言ておきますけど、私共は何もオモチャを配って回ってる訳ではありません!
私共がプレゼントして回るのは基本的に「素敵な時間」です。
まあ、中にはオモチャを配る事で、そこに素敵な時間が生まれる…なんて屁理屈を言う邪道もいますが…
サンタが金で買えるモノを配ってどうするんだっ!…ていうのが私の持論でして。
そうそう!ついでに言わせてもらいますけど、私共は何も子供達だけにプレゼントをする訳でもないんですよ?
時と場合によっては、大人にだってプレゼントする事もあります!
え?どんな場合かって?
そうですねぇ…例えば、こんな二人の様な━━━━…


【HOME…SWEET HOMEのChristmas】
特別編・「約束を守らない男は最低っ!」

━ハルヒ AM9:23━

「ハルヒ!起きてっ!時間だよっ!」
「んんっ…煩いなぁ…もう少し寝かせなさいよ…バカキョン……」
「もうっ!何寝惚けてんのよ!ハ・ル・ヒ・お・き・て・よ・っ!」
耳元で叫ばれて、アタシはハッと目を開いた。
いつもと違う天井を背景に、ミズキさんの呆れた顔が視界に飛込んでくる。
そして、それと同時に今自分が居る場所が勤め先のオフィスで、今まで来客用の長椅子で仮眠をとっていた事をボンヤリと思い出した。
とりあえず起き上がろうと背中を浮かせる。

「痛っ…」

頭が…痛い。
それと腰も。
完璧に睡眠不足と…
この慣れない寝床の所為だ。

「あらあら、大丈夫?」
「うん…ごめんね?先に眠らせてもらって…」
「ううん、いいのよ。とりあえず残りは4曲ね?」
「ええ…?アタシが寝てる間に、もうそんなに仕上げたの?」
「まぁ…ね。以外とシンプルなのばかりだったから…でも、もう限界。眠たくて、ピアノの音がスティールドラムの音に聴こえるわ…」
「あ…後はアタシがやるから大丈夫!ミズキさんも少し寝たら?」
「そう?じゃあ…3時間位寝かせて貰おうかな」
「3時間でいいの?」


「ええ。出来るだけ早く終らせて、今日こそ家に帰りましょう?クリスマスマスイブだし…シャワーも浴びたいし…ね?」
「ええ…そうね。分かった、じゃあ3時間後に起こすわよ?」
「そうして?じゃ…おやすみ…」

そう言うとミズキさんは、それまでアタシが仮眠をとっていた長椅子に倒れこみ、ものの数秒も経たないうちに寝息をたて始めた。

忙しい年末…
それはアタシのカラオケ制作の仕事にとっても例外ではない。
特に今年は、元請けの配信会社が早々と冬休みをとる事になったとかで、納期が通常より前倒しになってしまい、オフィスに泊まりこみで仕事をする羽目になってしまった。
ちなみに、泊まりこみを始めてから今日で3日目だ。

アタシは、寝息をたてているミズキさんに毛布代わりのコートをかけてあげると、自分のデスクの引き出しから栄養ドリンクの小瓶を取り出した。
そして、まだ頭の中にへばりついている眠気を取り去る為に、オフィスのベランダへと出ながら小瓶に挿した細いストローを「チューッ」とやる。
睡眠不足と業務用の暖房でほてった体には、外の冷えきった空気が丁度気持良い。
手すりにもたれて街を見下ろすと、あちらこちらにキラキラ光るモノが見える。
おそらくクリスマスツリーや、その類だ…

『今日は俺が晩飯作る日だからさ?もし、今日帰って来れるなら何か…そうだな、ビーフシチューなんかどうだ?』

不意に、今朝電話した時のキョンの声を思い出した。

今日は…帰らなくちゃね…

アタシは「空きカン、空きビン」と右上がりな文字で書かれたゴミ箱に空っぽになった小瓶を放りこむと、掌で頬を2回程パンパンとやりながらデスクへと戻った。


━キョン AM11:04━

「毎度ありがとうございます、中央ベル販売でごさいます。……え?いや…予定通り発送されている筈なんですが……ええ、申し訳ありません。確認出来次第、折り返しご連絡致します…」

つい先程から営業所中の電話が止まずに鳴り続けている。
本当に、つい先程からだ。
どちらかといえば、今日は暇だった。
各メーカーが凌ぎを削った毎年恒例の年末商戦も、クリスマスイブ前日である昨日には一旦は終焉を迎え、今日はやり残した出荷の手配や伝票の整理をしながら比較的ノンビリと過ごせる筈だった…のだが。
数分前にかかってきた一本の電話…
そして、それに釣られる様に次々と営業所中の電話が鳴り出して今に至る。
電話はどれも得意先の小売店からで、かかってきた電話の全てが「客注品(※お客様から小売店を通してメーカーに直接注文された品物)が昼近くになっても届かない」といった内容だった。
クリスマスイブの日の客注品は、その全てが「子供へのクリスマスプレゼント」と言っても過言では無い。
ましてや、今日はクリスマスイブ当日…
って、おい…どうするよ。

「ねぇ、キョン!何?この騒ぎは!」

出先から戻ったばかりの課長が、受話器を握り締めて頭を下げる俺に声を掛ける。
てゆうか…なんで電話中の俺に訊くんだよ。
全く…例のマッガーレの一件以来、何かにつけては「キョン!キョン!」って…
俺は受話器を置くと、振り返りながら素っ気無く答えた。

「つい、5分程前からですよ。小売店から客注品が届かないって問合せが殺到して…」
「何よ、それ!…物流に問合せは?」
「これからってところです。今までは電話を受けるので手一杯で…」
「わかった!物流にはアタシが電話する。キョンは課のみんなに、客注が未着になっている店舗をリストアップさせるのよ?解ったわねっ!」

課長はそう言うや否や、自分のデスクへ向かうと凄まじい勢いで電話を始めた。


「もしもしっ?中央のスズミヤですけど…ああ、その節はどうも…って、それどころじゃないのよっ!
ちょっと!ウチのエリアの小売店宛の客注が全然届いてないじゃない!
どうなってんのよ!
はぁ?出荷ミス?今対応してる?
寝言は寝て言えってんだ、このスカポンタン!」

どうやら、そのスカポンタンのミスで客注の出荷に何らかの手違いがあったらしい。

「マジかよ…」

課長のマジギレ電話を、俺の隣のデスクで聞いていた谷口が頭を抱えている。
勿論、俺も同じ気分だ。
とりあえず、店には何て言って謝ろう…
ああ…怒られるだろうな…
そんな事を考え始めた瞬間、突然立ち上がった課長が声を張り上げた!


「ちょっと!ヘタレてんじゃないわよ!
急いで未着分の商品をウチの倉庫の在庫で対応出来るか確認して!
足りないモノはアタシがなんとかするわっ!」

本気か…?

課長の突然の「とんでも発言」にオフィス中が静まりかえる。
鳴り止まなかった電話すら止んでしまった様だ…

「ち…ちょっと、待って下さいよ!
商品を準備出来たとして、配送はどうするんです?今からじゃ業者の手配だって…」

慌てて止めにはいった俺を撥ね飛ばしながら、課長の発言は突っ走る。

「馬鹿ねっ!何の為の営業車よっ!『アタシ達』で運ぶのよっ!」
「でえっ?本気ですか?」
「当たり前でしょ?ほらっ、さっさと準備しなさいっ!」
「しかし…」
「しかしもかかしもないのっ!今日、新しい自転車に乗るのを楽しみにしている子供達…いいえ、お客様が待っているのよ!
アンタ達も営業マンのはしくれなら何とかするのよっ?全力で!解ったわねっ?」

やれやれ…とんでもない事になっちまった…
俺は溜め息をつきながら引き出しの中の在庫票に手を延ばした。

━ハルヒ PM14:19━

「終わった~っ!ハルヒ~終わったよぉ~っ?」
「アタシも終わった~っ!なんとかなっちゃったねぇ…」
「うんうん!なんとか…さあ、片付けて帰ろう!」

3日前には山積みになっていた仕事が、たった今キレイに片付いた!
言うまでもなく、アタシ達の連日の泊まりこみの成果だ。
なんとも言えない壮快感の中、機材の電源を落としながらミズキさんが思い出した様に言う。
「そういえば…ハルヒは今夜は予定あるの?」
「んー?何で?」
「私さ、帰ってからケーキ焼くのよ。それで…帰ってからもし一人なんだったら、ウチで夕食でもどうかと思ってさ?まあ、煩いチビも居るけどね」
「ええっ?これから焼くの?」
「うん、帰りに材料買って帰る」

まったく、泊まりこみで相当疲れている筈なのに…母は強し!だ。
「ありがとう…でも、今夜は旦那が何か作るらしいんだ。
…ウチの旦那、クリスマス過ぎると暇でさ?
年末でもワリと帰りが早いのよ」
「あー!羨ましいんだっ?」
「えへへ…そうでもないわよ」


「さてと…こっちは片付いたけど、ハルヒの方は?」
「うんっ、大丈夫」
「じゃあ、帰ろう!」
「ええ、また明日ね!本当に…お疲れ様!」

オフィスを出て車に乗り込んだアタシは、ふと「帰りにケーキでも買って帰ろうかな…」と思い付く。
でも…それと同時に、ここ数日間お風呂に入れなかった事を思い出して、やっぱりやめる事にした。
とりあえず家に帰ってお風呂!
それからじゃないと何も出来ない。
3日間もお風呂に入れないなんて、健全な成人女性にあるまじき事だわっ!

アタシは帰宅ラッシュ前の空いている大通りを、少し急ぎがちに我が家へと走らせる。
そして家にたどり着くと、早速バスタブにお湯を溜める準備を始めた。
給湯機のディスプレイが『あと10分でお風呂が沸きます』と告げている。

10分か…。

とりあえずソファーに体を沈ませて、久しぶりのお風呂が沸くのを待つ。

しかし…本当に疲れたわね。

体の底からとめどなく沸き上がる疲労感に、アタシは思わず目を閉じた。


━キョン PM15:30━

俺はハンドルを握りながら、先程までの営業所での出来事を思い出していた。
未着分の客注品のリストアップ…
在庫と届け先の確認…
そして…
ウチで対応しきれない商品の手配…
その全てを、あの課長は1時間余りの間に全てやってのけた。
まあ、お店に届けてからでは配達が間に合わない商品に関しては、こうして直接お客さんのもとまで運ぶ事になってしまった訳だが。
それでも、課長の采配は紛れもなく神業だ。
流石にあの若さで…しかも女性でありながら、本社で管理職を任されているだけの事はあるな。


ナビの画面を横目で見ながら、あと配達先まで何分かかるかを考える。
ふと、大学の頃にやっていた配達のバイトを思い出して、思わず懐かしい気持ちになってみたり…
そんな感じでしばらく走っていると、突然ダッシュボードに釣りかけてあった携帯のディスプレイが鈍く光った。

『音声着信・谷口』

同時に左耳に着けっぱなしにしてあったイヤホンから「よお!順調かっ?」と声がする。
まったく…これだから自動着信モードって奴は…


「ああ…お疲れ。まあ順調だ…と思う。
こんなのは初めてだからな。正直なところ、順調かどうかも判らん」
「まあな…だがよ、俺等が大学の頃にやってたバイトのさ?あんな感じで良いんじゃねぇか?俺なんか懐かしさすら感じたぜ」

谷口も同じ事を考えて居たとは…
ちっ、微妙な気分だぜ。
俺は「ああ、そうだな」と応えながら、ナビの音声の通りに交差点を左に曲がった。
谷口は続ける。

「しかし…あれだな!あの課長、サスガは物流部上がりだぜ?前に居た課長じゃ、あの采配は絶対無理だ」
「な…物流部!?」
「あれ?俺、話さなかったっけ?」
「聞いてないな」
「あの課長な、新卒で本社に入社したは良いが、新人研修の時に教務官だった人事部の部長を怒らせて…物流部に飛ばされたらしいんだわ」
「大卒で…しかも女で物流部か?新手のイジメかよ!」
「ああ。しかし、凄いのはそれからでな?
あの女は入社して1年も経たないうちに、出入りの運送業者の連中から一目置かれる存在になっちまったらしい。
中には『姐さん』って呼んで慕う連中も…」


谷口が社内の事情に恐ろしく詳しいのは周知の事実だが、今は谷口が毎度毎度何処で情報を得てくるのかよりも、課長の型破りなプロフィールが気になる。
そんな俺の心の内を、まるで判っているかの如く谷口は更に続けた。

「しかし…当時の物流の上役連中はそんな課長の事を快く思わなかったらしいんだ。
そりゃあそうだろう?普段は自分達の言うことになんざロクに耳を貸さない運送屋の連中が、あの女の言うことはスンナリ受け入れるんだからな」
「で、どうなったんだ」
「物流の上役連中が裏で手を回してな、課長は完全に畑違いの営業部へ飛ばされたって訳さ」
「なるほど…な」
「で、そこから先がまた凄くて…」

いよいよ話が面白くなって来たその時、谷口の声を遮る様にナビの音声案内が『目的地100メートル手前です』と告げた。

「悪いな谷口、配達先に着いちまう」
「ああ…じゃあ、また後でな」

俺は携帯のディスプレイに『通話終了』と映るのを横目で見届けながら、耳からイヤホンを外す。
そして、ハザードを点灯させながら車を停めると、鞄から取り出した伝票を片手に車から降りた。


伝票の宛て先の住所は、車を停めた場所のすぐ傍の家だった。

大きな家だな…

急いで後ろのハッチを開けて荷台から商品である子供用の自転車を取り出す。
そのまま家の玄関までそれを運び、少し咳払いをしてからインターホンを鳴らした。

「どちらさまですか」


幼い女の子の声だ…

俺は「中央ベル販売と申します。自転車をお届けに上がりましたが…家の人はいるかな?」とおもいっきり声を丸くして話かけた。

「いません」

マジかよ…
しかし、持ち帰る訳にもいかんしな…

「あの…お嬢ちゃん、サインとか出来るかな?」

マズイかな…とは思いつつも、とりあえず訊いてみる。
この場合、不可抗力だ…

「できるよっ!いまドアをあけるから、ちょろっとまつにょろ」

にょろ…?どこかで聴いた言葉使いだな…
まあ、いい!助かった!
コレで次の配達先に行けるぜ!

「おまたせっ!」

中から出てきたのは、髪の長い5、6歳くらいの女の子だ。
俺の足元にある自転車をみつけて、目を輝かせている。

「こちらの品物でよろしいでしょうか?」
「うん!もちろんさっ!
わたしがサンタにたのんだのはこれ!」
「じゃあ、ここにサインしてくれる?」


「はいよっ」

女の子はニッコリ笑うと、俺からペンを受け取ってサイン欄に文字か絵の様な何かを書いて見せた。

「これでいいっかな?」
「結構ですよ。品物はどちらに運びますか?」
「うーん、おにわにおねがいするさっ」
「はい、承知しました」

自転車を持ち上げ、その家の庭へと運ぶ。
そして、女の子は俺が庭に置いた自転車に嬉しそうに跨って俺に微笑みかける。

「どうだい?これ!
めがっさにあってるとおもわないっかなぁ?
どうにょろ?」
「ええ…素敵ですよ」
「ありがと。ところで、おじさんはサンタさんかい?」

お…おじさんて言われた…
思わず、地面に片膝を着いてしまいそうになりながらも笑顔で答えてやる。

「ん?なんでかな?」
「だって…クリスマスのひにプレゼントをもってきてくれたじゃないか」

瞳を輝かせながら問掛ける女の子の姿を目の前にしながら、俺は不意に今朝の課長のセリフを思い出した。

『新しい自転車に乗るのを楽しみにしている子供達…いいえ、お客様が待っているのよ!』


そうなんだよな…
俺達はなにも、店の人間や注文書や在庫票を相手に仕事をしてる訳じゃないんだ。
いつだって、その先にはお客さんが居る…

俺は「そうだね、そうかもしれないね」と答えると「では、ありがとうございました」と丁寧に頭を下げた。


━ハルヒ PM20:02━

「あれ…今何時?」

目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった。
キッチンの横の壁に、青白く光る給湯器のディスプレイが見える。

『お風呂が湧いています・保温中』

そうだ…アタシは、お風呂が沸くのを待ってたんだっけ…

慌てて部屋の明かりをつけると、壁に掛けられた時計はもう8時を回っていた。
完璧に寝過ごした…
ケーキ屋は8時までだから、もう間に合わない。
アタシはうなだれながら、ふとキョンがまだ帰っていない事に気が付く。

(今電話すれば、帰りに買って来てくれるかな…)

とにかく電話をしてみる事にする。
どうせ、いつもの通りに中々出ないんだろうけど…

「もしもし?ハルヒか?」

出た!しかもワンコールも鳴らないうちに!
ちょっとビックリしながらも、アタシは不機嫌な声で応えてみる。


「ハルヒか…じゃないわよっ!遅いじゃない!何やってんのよっ!」
「いや、あのな…おっと、配達先に着いちまった!後でかけなおすから…」

電話は突然切れた…。ていうか…配達先って何?
ウチの旦那は、いつから宅急便屋さんになったのよっ!?
訳が解らない…
ただ、帰って来れない事は良く解ったけどさ。

まあ、いいか…
アタシも寝過ごした訳だし。
とりあえず、お風呂でも入ろう…

立ち上がって服を脱ごうとすると、お腹が「ぐう」と鳴った。
そういえば、今日はお昼はおろか朝ご飯も食べてないんだった。
だいたい、キョンが夕飯は何か旨いモノを作るとか言って期待させるから…

そうだっ!ビーフシチュー!
ビーフシチューはどうなったの!?

もう一回電話を鳴らしてみる!




出ない。

バカ。キョンのバカ…
今、何処に居るのよっ!


電話くらい出なさいよっ!
お腹が空いたよ!


…つまんない…よ


一人でぼやいていてもしょうがない。
今はお風呂に入るんだ。
そして夕飯は…仕方がないから、後でコンビニでも行こうか。
こんな事ならミズキさんの家に呼ばれておけば良かったとつくづく思う。

「まったく、最悪のクリスマスイブだわね…」

一人っきりの部屋で、アタシは静かに呟いてみた。




━キョン PM22:10━

営業所に近付くと、俺の営業車以外の全ての営業車が駐車場に停まっているのが見えた。
どうやら、俺が一番最後らしい。
まあ、最後の配達を終えたのが九時近かったから仕方がないか。
車を駐車場に収めて、鞄と上着を片手に持ちながら車から降りる。
そして車に鍵をかけながら、配達中にハルヒから電話を貰った事を思い出した。
ポケットから携帯を取り出しながら、一体何の用事だったのか少し考えてみる。

…っ、そうだ!

晩飯、作ってやる約束してたんだっ!
忙しくて、すっかり忘れてたぜっ!
今、電話したら怒られるだろうな…やっぱり。
どうしよう…
ひたすら謝って許してもらうか?
いや、駄目だ!クリスマスイブだぜ?簡単に許してはくれないだろうな…。


ここはひとつ、早く帰って何かプレゼントでも渡しながら……

………駄目だ、この時間じゃ店なんざやってねぇよ…

途方に暮れながら営業所への中へ入ると、既にみんな帰ったらしく誰も居なくなっていた。
俺はデスクの上にカバンの中身を広げて、帰る支度を始める。
すると、机の右端にメモが貼りつけてある事に気が付いた。

『駅前の居酒屋に来いよ!課長のオゴリだぜ!』

ああ、谷口の字だ…。しかし谷口よ、俺はそれどころじゃないんだ。
本当にヤバい…
何か、約束していたビーフシチューの代わりになる様なモノを考えなくちゃ…
何か…


ああ…駄目だ。
何も思いつかない。
とりあえず、コンビニでケーキでも買って帰るか…

俺は憂鬱な気持ちのまま、営業所を後にした。





━サンタクロース PM23:00━

さてさて、いよいよ私の出番です!
いやぁ、今回は苦労しました。
旦那さんがスーパーに寄ると特上の松坂牛が100グラム198円で買える細工に、奥さんがケーキを買いに行くとクリスマスキャンドルをたくさん貰える細工…
うまく行っていれば今頃、美味しいビーフシチューを食べながら、キャンドルライトでムード満点…

…の筈が、旦那さんは仕事に夢中で約束忘れちゃうし、奥さんは寝ちゃって起きないし。

ぜーんぶ無駄になっちゃいましたよ!
最後に二人がバッタリと出会う様にセッティングしたのは、殆んどサービスみたいなもんです!
この時間じゃ、コンビニくらいしかありませんけどね。
まあ、素敵な時間なんてものは結局二人次第って事で…
何?それじゃあ、アンタが居る意味ないだろ?
…ほらそこ!静かにっ!
そろそろ、二人がやって来ますよ…

二人の家の一番近くのコンビニに…



「あれ…キョン?」
「あ…ハルヒ…」
「あ…じゃないわよっ!後でかけなおすから…なんて言っておいて全然電話くれないし!
それに、何でこんなに帰りが遅いのよっ!
ビーフシチューは?お腹空いたわよっ!」
「いやあの…すまない…」


「だいたい『配達』って何よっ!
なんかあったら、すぐに電話する約束でしょ?約束破る男は最低よっ!あ~もうっ最低最低最低最低最低っ!」
「………おい、そりゃ言い過ぎだ」
「言い過ぎな訳無いわよっ!アタシが『お腹が空いてる』のと『つまらなかった』のと『キョンが心配だった』のに比べれは全然っ言い過ぎなんかじゃないっ!」

あーあ、こりゃ駄目だ…
しょうがない、もうチョットだけサービスしますか…

よいしょっと…


「………なあ、ハルヒ」
「何よっ!とぼけて誤魔化そうったって無駄だからねっ!」
「…違う。空…見てみろ」
「もうっ、何なのよっ…


…あ…雪だ…」
「ああ………ホワイトクリスマス…だな。何年ぶりだろ……」
「どうりで寒いと思った………でも…綺麗ね」
「ああ。…………なあ、ハルヒ…」
「何よ………」
「……本当に……ごめんな?」
「べ…別に…


……アタシも言い過ぎたわよ…… ゴメン」
「なあ、何でも好きなも買ってやるから許せ。………コンビニだけど」
「……ふん、300円のアイスを全種類買うわよ?」


「うん」
「おでんも…全種類買うわよ?」
「いいぞ」
「肉まんもピザまんもあんまんも全部買うわよっ?」
「…いいけど…食べきれるのか?」
「う…………まあ、良いわ!許してあげる!それと…ケーキとワインも買うからねっ!」
「勿論さ!」


やれやれ…

まったく、手間のかかる二人だこと…

さて、お二人さんが仲良く買い物を始めたところで、私も次の仕事に向かうとしましょう。
こう見えても今夜は忙しいんですよ?

それではお二人さん、メリークリスマス!

そして…

このお話を最後まで読んでくれた皆様にも…
…メリークリスマス!


おしまい

|