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「キョン!あたしのジュースどこやったのよ!?」
「あぁ、すまん。もういらないのかと思って飲んじまった」
部室でいつもの痴話げんか。俺達は付き合って二週間になる。
まぁなんだ、いい感じの雰囲気が一週間くらい続いてもどちらからも言い出さなかったから、しょうがなく俺から告白した。
付き合ってから少しは大人しくなるかと思ったら、逆にパワーアップしやがった。
普通はもっとこう……甘えたり、おしとやかになったりするもんだろう?俺の勝手な理想だが。
「楽しみに残しといたのに!バカ!アホキョン!」
やれやれ……弁償するからいいだろう?
「そんな問題じゃない!少しは反省しなさいよっ!」
わかったわかった、わるうござんした。
「……っ!あんたねっ!もう少しあたしを優しく扱いなさい!こ、恋人でしょっ!」
ハルヒの顔が赤い。他の連中もハルヒからそんな言葉がでるとは思わなかったのか、驚いた表情を浮かべた。
やれやれ、ここらで納めないとまた閉鎖空間か?パターン化してやがるな。
「オッケー、わかった。優しくするからお前も長門を見習ってもう少し静かに……おしとやかになれよな。そしたらもっと愛してやるぜ」

明らかに不機嫌そうな顔が俺を睨んでくる。しょうがない、機嫌取りにさっき飲んだジュースでも奢るか。
俺は不機嫌な顔から考え込むような顔になったハルヒの肩を抱き、売店へと向かい部室を出た。
……まさか、俺のあんなセリフが妙な状況を生み出すなんて思いもしなかったぜ。


朝から妹のボディプレスで起こされ、いろいろを経て駅近辺の駐輪場へと急いで向かった。
ハルヒとはいつもこの場所で待ち合わせをして、一緒に学校に行っているからな。
急いで自転車を止めて辺りを見回すと、見慣れた場所に俺の彼女がポツンと立っていた。……なんか、雰囲気が違わないか?
気のせいだろうと思い、俺はハルヒのもとへと駆け寄って行った。
「悪い、待たせちまったな。……あ~、おはよう」
そう、こいつは『おはよう』と言わないと何故か怒るのだ。
「おはよう、キョン」
多少の遅刻をしたのに何故かおとがめなし。しかも、いつもより静かな声だ。何か元気を無くすようなことでもあったのだろうか?
「元気ないな?特に声とか」
「あたし?いつも通りじゃないかな……元気だよ?」
……はぁ?
なんだこの喋り方は。声が優しすぎるし、何よりハルヒの喋り方ではない。
俺はハルヒを少しその場に待たせて、距離を置いて古泉に電話をした。
『なんでしょうか?こんな学校直前の朝に……』
一つ聞く。ここは普段通りの俺達の世界か?
『……もちろんですよ。閉鎖空間なんかケンカした後の昨日の夜にも出ませんでしたよ、奇跡ですね』
わかった、サンキュー。
一方的に電話を切った後、すぐさま長門に電話をした。
『……なに』
ハルヒの力の発動はあったか?あいつの様子が……性格が変わったのか、とりあえずおかしいんだ。

しばらくの沈黙の後、平坦な口調で返事がきた。
『それは見られない。彼女の様子がおかしいなら……それは、彼女自身の態度』
礼を言う暇もなく、向こうから電話が切れた。
不安そうな表情で俺に近付いてきたハルヒが口を開いた。
「どうしたの?何かあった?大丈夫?」
お前は誰だ!……と口をついて出そうになったのを押さえ、「あぁ、大丈夫だ」と答えてハルヒと学校への道を歩きだした。
とりあえず古泉に直接相談するまではいつも通りに対応しておこう。
「ね、手繋がない?」
……違和感を感じるな。
俺は恥ずかしさもあったので、黙ってハルヒに手を差し出した。
その手にゆっくりと手を重ねられ、いわゆる《恋人繋ぎ》の形になった。
道行く人達が見てるな、朝からバカップル認定か。
「ふふふ、あったかい……。ねぇ、キョン。あたし幸せだなぁ……」
昨日までのハルヒには見られなかった柔らかい微笑み。
……たまにはこんなハルヒもいいかもな。


「たぶん、昨日のあなたのセリフに影響されたと思いますがね」
昼休みに古泉と話をすることにした俺は、開口一番そんなことを言われた。
「俺が何を言ったってんだよ」

「ほんとに覚えてないのですか?『もう少し静かに……おしとやかになればもっと愛してやる』みたいなことを言っていたではないですか」
あ~、そういえばそんなことを口走った気が。
「涼宮さんはもっとあなたに愛して欲しいからそのように性格を変える努力をしている。閉鎖空間を生み出して神人を暴れさせるよりもわかりやすいもんじゃないですか」
サラッと言いやがって。あんなに違和感ありまくりなハルヒなんか……いや、意外にいいと思うが何かが違うんだ。
とりあえず……どうしたもんだ。
「簡単なことですよ。あなたが元の涼宮さんに戻っても、もっと愛してあげることを伝えればよろしいのですよ。おしとやかな涼宮さんを諦めて……ね」
そうか……。見当してみるよ、ありがとな。
「自分に正直になればいいと思いますよ」
古泉はそう言うと自分の教室に帰って行った。
おしとやかなハルヒに、明るいハルヒ。どっちもハルヒなんだよな……。
当たり前だ。
俺は自分に毒づいて教室へと戻った。
「……あっ!キョン……どこ行ってたの?黙って行っちゃったから寂しかったんだよ?」
これが俺がハルヒに求めた姿……か。確かに俺の理想の性格だ。もういっそのこと、このままでもいいか。
……なんてな。
「悪い。古泉に急ぎの用があったんだ」
ハルヒは別段疑うこともなく信じて、予鈴がなったために授業の準備を始めた。
授業中のハルヒのシャーペン攻撃はなく、用があるときのみ指でつついてくる以外は、何故か真面目に授業を聞いているじゃないか。
本当に能力無しでこの態度かよ。……まぁ、いいか。しばらくこの調子ならすぐに友達もたくさん出来て、素晴らしい高校生活が送れることだろう。

変わったハルヒに喜びと、何かの引っ掛かりを覚えたまま放課後を迎えた。
「あたし、先に行ってるから。掃除頑張ってね」
背を向けて歩きだすハルヒを見ると、歩き方も微妙に落ち着いてやがる。
昨日までのハルヒが全然見えない完璧な擬態だ。いや、すでに擬態が擬態じゃない可能性だってある。
古泉から聞いた話だと、俺がこのハルヒを受け入れたらこの状態がベースになるらしいからな。
俺にもっと好かれたい為、か。気持ちはメチャクチャ伝わってるんだが……。
とりあえずさっさと掃除を終わらせて部室に行くとするか。


部室前、俺はノックをしようとして止めた。何故なら、ハルヒに対する態度を決めかねていたからな。
今までのハルヒか……今日からのハルヒか……。わかんねぇ、どっちを俺は必要としているんだ?
そのとき、薄いドアの向こうから話し声が聞こえてきた。
「みくるちゃん……あたし、頑張っておしとやかになってみるから」
……頑張ってだと?やっぱり少し無理してるのか。
「え……でも、涼宮さんは明るいから涼宮さんで……。キョンくんも本当は明るい涼宮さんが好きなんだと思いますよ?昨日のは、勢い余ってみたいな……」
「ううん。いいのよ、キョンにもっと愛されるために、おしとやかな涼宮ハルヒを頑張ります!」
なんてわざとらしい喋り言葉だ。おしとやかを通り越して大根役者だぜ、ハルヒ。
しかし、俺の気持ちはきっちり固まったぜ。
ドアをノックして返事を待つ。二人の柔らかい声での返事が俺を受け入れてくれた。
「遅いよ、キョン。待ってたのよ?一緒にみくるちゃんの淹れたお茶を……」

ハルヒの頬に手を添えてみた。朝比奈さんがいる?……知るか。
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいよ……」
「あ、あわわわ……わ、わたし少し出て来ますっ!」
朝比奈さんは顔を真っ赤にして出て行った。これで部室には俺とハルヒ二人だけだ。……だからって何するわけでもないんだがな。
「ね、ねぇ。どうしたの?恥ずかしいよ……」
もう、いいんだ。
「え?」
もう、おしとやかに演じる必要なんてないんだ。
「な、なんで!?あたしはあんたのために……ま、まさか、別れるなんて言わないでよ?や、やだからね!?」
動揺が目に見えるハルヒ。俺はそんな姿に堪えられずに抱き締めた。
「キョ、キョン?離してよ、誰か来ちゃうって……」
お前が元通りの『涼宮ハルヒ』に戻ってくれたらな。
「……あ~、もう!わかった、わかったから離しなさいっ!」
俺はハルヒをゆっくりと離した。顔を窺うと、怒ったような涙目で俺を睨んでいた。
「バカっ!バカキョンっ!少しはあたしの気持ち考えなさいよぉっ!どんな気持ちであたしがおしとやかになるように努力してたと思ってんの!?」

「すまん。……でもな、これ以上俺のために我慢を続けるお前を見てられなかったんだ」
「もう!……せっかく、もっとキョンに愛されることが出来ると思ったのに……台無しじゃない」
大丈夫だ。もうお前の気持ちはよくわかった。今までよりずっと、ずっと好きになったぜ、ハルヒ。
「うん……。また、ケンカしても愛してよ?」
上目遣いで涙目は反則だぜ、たまらなく愛しくなるじゃねーか。
先程と同じように頬に手を添えた。ハルヒはゆっくりと目を瞑り、俺を待つ。
誰か来るかも?来ればいいさ。俺は今ほどハルヒを愛しく思ったことはないからな。
誰か来たくらいじゃ、もう止まりやしないぜ。
ゆっくりと顔と顔を近付けて、唇を合わせた。
俺からの愛をすべて伝えるように、長く、長いキスをした。
……これからもよろしくな。俺だけの、太陽のような存在の彼女さんよ。


おわり
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