ある日の昼休み、委員会で遅れた昼食を食べようとしたとき、
みくるがいないことに気がついた。その辺の女の子に聞いてみると、
不良達に連れ去られたとのこと。早速探しにいった。
…………十五分後、学校中を駆けずり回ってもみくるは見つからず、
肩を落としていた。ちょうどチャイムも鳴り、
みくるが戻っているかもしれないので、一度教室に戻る。
しかし、みくるはいなかった。先生に訊ねると、保健室にいるらしい。
おそらく不良達にいじめられたのだろう。
真っ先に飛んでいきたかったが、みくるには気持ちの整理が必要だから、
後で行ってみよう。
放課後。逸る気持ちを抑えて保健室へ向かう。
みくるはやはり最後まで授業に出なかった。傷は深いのだろう。
保健室のドアを開け、担当教諭にみくるがいるか訊く。
「昼休みからずっと横になってるわよ」
「そうですか……」
「それと……あの子には気づかないフリをしていたんだけど、
どうも彼女、吐いちゃったみたいなのよ。何かのヒステリーじゃなきゃいいんだけど……」
「…………」
先生の「お願いね」という言葉に首肯して、ベッドを仕切るカーテンの中に入る。
みくるは気づいたのか、こちらを見た。軽く緩めた制服からのぞく素肌の、生々しい傷跡。
あたしは涙が溢れてきた。一体みくるが何をしたというのだ。何故あたしの親友が、こんな理不尽な暴力を受けねばならないのか。
「みくるっ、ごめんよ。止められなくて。あの時その場にいれば止められたのにね」
肩が震える。目から涙が零れ落ちる。
「いいんです。あたしがいけないんだから……」
そういってみくるはあたしの手を優しく握った。何で? みくるは何も悪くない。どうしてそんな風に……。優しすぎるよみくるは。
「みくるは何も悪くないよっ!」
つい力んで、強く握り返してしまう。
「今度ひどい目に遭わされたら、ちゃんと言うんだよっ!」
みくるはほのかに笑った。

あたしは保健室を出て、不良グループを探した。
彼女達は近所のコンビニの前で集まっていた。
「ねえ!」
強い語調で話しかける。全員がだるそうな目であたしを見て、一人が
「何?」
と反応した。あたしはそのままの語調で、
「みくるをいじめるなっ!」
と言ってやった。するとリーダー格の女子が不機嫌そうに言った。
「何? あいつが何か言ったの?」
「違うけど、そうでしょ!?」
女子は肩をすくめ、
「証拠もないのにあたしらを犯人扱いしないでよね。……いこ」
鶴の一声で全員はぞろぞろと移動を始めた。あたしはそれ以上言えることは無いので、それを傍観していた。


翌日からは、みくるは呼び出されなくなった。それどころか彼女達は近寄ろうともしなかった。
「昨日のあれが効いたのかな?」と思ったが、その後のみくるの様子が妙に引っかかる。
毎日カーディガンを羽織っているし、毎朝震える手で靴箱を開けている。
それに体育の時間は、誰よりも早く来て着替えている。
そして最も引っかかるのが――部活に参加しないことだ。
これは気まぐれで部室に訪れたときに、キョン君に聞いた。

「みくるっ、部活に行かなくていいにょろか?」
あれから数日たったある日の帰り道、思い切って訊いてみた。
するとみくるは顔を曇らせた。
「うん。最近調子悪いから……」
あたしの脳裏を嫌な予感が過った。
「! やっぱりまだ……!?」
あたしがそういうと慌てて首を振り、
「ううん、違うの。ただ、何となく」
釈然としないけど、とりあえず安堵した。
「ならいいにょろ。でもめっがさ心配だよっ!」
「ふふふ。ありがとう」
みくるが久しぶりに笑顔を見せたので、これ以上の詮索は止めた。
でもやっぱり、確かめる必要はある――

以前いた場所に、彼女達はいった。あたしに気づいた一人が、
リーダーに「また来たよ」と告げた。リーダーは振り返るなり、
「今度は何?」
うざったそうに訊いた。
「本当にみくるに暴力とか振るってないんだよね!?」
「だから言ったじゃん」
「本当だね!? もしそんなことしてたら、許さないから!!」
それだけ言って、走って帰る。これでもダメだったら、
また次の手を考えよう。

家に帰って、しばらく呆けていると、電話が鳴った。受話器を取り、
耳に当てる。
『朝比奈が町外れの廃工場で暴力を受けている。早めに行ったほうが良い』
それだけ言って電話は切れた。あたしは制服のまま、自転車でそこへ向かった。

町外れの廃工場。そこには一度、小学生のとき肝試しに来たことがあった。
ここは最近では、性質(たち)の悪い不良や暴走族のたまり場になっているらしい。
しかしそんなことはどうでもよかった。そこには乱暴されているみくるがいて、それを何とか止める。あたしの頭の中にはそれしか無かった。
廃工場についた。自転車から降り、中に入る。誰もいない。
みくるどころか、不良も暴走族もいない。怪訝に思い、
辺りを見回そうとすると――
「んむっ!?」
後ろからいきなり鼻と口に湿ったハンカチを押し付けられ、
押さえつけられた。呼吸を続ける内に、段々意識が朦朧としてきた。
体が思うように動かない。腕から解放されたとき、倒れこんでしまう。
「最高だ……こんな上玉、めったにお目にかかれねえ……」
ニット帽を被った男が恍惚とした様子で言う。
男は無遠慮にあたしに覆いかぶさってきた。
「いや!」
何とか動く体を駆使して、抵抗する。
すると偶然、ひじが男のあごをとらえた。男が仰け反る。
「このアマ!」
両腕を片手で押さえつけ、残った片手であたしの顔を何度も殴る。
口の端から出血し、顔のあちこちに痣ができる。鼻からも血が出た。
「痛い……もうやめて……」
そう懇願すると、男は殴る手を止め、
「へへへ。最初からそうしてりゃいいんだよ」


男はナイフを取り出し、あたしの制服や下着をズタズタに裂いていく。
月光の中、浮かび上がるあたしの素肌。男はそれをなめるように見ている。
「やっぱいいな、若い女は」
乳房に顔を埋め、下腹部に手を這わせる。
自分でも全然触っていない聖域に指を這わせていく。
「んっ……」
「ククク。何だかんだ言っても、やっぱり女の性だな」
ズボンを下ろし、男は自身の分身を取り出した。
「ホラ、咥えな!」
口に突っ込まれ、吐き出そうとするたびに殴られた。
だから嫌々咥え、舌を這わせる。しばらくすると男は呻いて、体液を放出した。出す瞬間、あたしの口から取り出して、あたしの体にかけた。
「やっぱいいねえ。うん、絵になる」
男はにんまりとして言う。あたしは早くこれが終わることをいのった。
「さて、じゃあクライマックスだ」
男はあたしの花園に狙いを定め、突き刺した。身を裂かれるような痛み。
あたしは絶叫した。
「いいなあ。その声興奮するよ!」
律動がより活発になる。


男はロープの輪をあたしの首に引っ掛けた。
「これでも十分きついけど、こっちの方がよくしまるんだぜ?」
男はリモコンのスイッチを押した。
それに呼応したクレーンがあたしの首に掛かっているロープを引き上げようとする。
あたしは宙に浮いた。首が絞まり、息苦しい。
頭に霧が掛かったようにぼうっとしてくる。男はそれを嬉々として眺め、
「うう……キツイ。最高だ!」
そのまま中に欲望を吐き出して男はあたしから離れ、
懐からカメラを取り出した。
「ホラ、笑って笑って! 記念撮影だ」
カメラのフラッシュが眩しい。もう目の前があまり見えない。
頭が働かない。手足が痺れる。

――みくる、ゴメンね。助けてあげられなくて――

一人の勇敢な少女は糞尿を撒き散らして絶命した。後に残るのは男の哄笑と、一枚の写真だけだった。
その後、それを知った親友は発狂する。生死問わず、二人に未来は無い。

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